第134話 聖女隊と2つ名
2030年11月4日
昨日初めてリスター帝国学校に来たけど流石大陸ナンバー1の学校と呼ばれるだけはあるわね……進学先を間違えたかしら……私は来年もう4年生だけどアリスは来年入学だ……アリスはデアドア神聖王国の学校よりもこっちに来た方がいいかもしれない。
「ねぇねぇお姉ちゃん! 今日も凄い並んでるよ!」
「そうね。あれは何かしら?」
私が言うと列の最後尾付近にいた職員が大声で
「1年Sクラスの握手会もうそろそろ締め切ります! 握手は1人10秒間で握手代は銀貨1枚です!」
は……? 握手するのに銀貨1枚取られるの? 本来であれば私がお金を取る方だというのに……よし! このデアドア神聖王国の名花と呼ばれる私が見極めてやろうじゃないの! 私は妹のアリスと一緒に女子が並んでいる列に並ぶとアリスの後ろに先ほどの職員が立つと
「これでSクラスの握手会は締め切ります!」
13時にして締め切りとなる握手会とはいったいどれほどのものか……反対側に列を作っている男子たちの列に私たち姉妹のグループの傘下である【聖女の盾】のメンバー5人を並ばせるとこちらも締め切られた。
ちなみに名花のソフィアと呼ばれる私と閃光のアリスと呼ばれている妹で【聖女隊】と名乗っている。名乗っているというのはまだ15歳ではないからパーティを作れないのだ。もちろん【聖女の盾】の5人もそう名乗っているだけだ。並んでいる最中に前にいた3人組のかなりかわいい女子たちがこんな会話をしていた。
「やっぱりマルス様かっこよすぎるわ。昨日は1回しか握手できなかったけど今日はこれで2回目……私の事覚えてくれるかなぁ……」
これだけ可愛いのだからまぁ目には留まっているだろう……私の魔眼(審美眼)でもBクラスの容姿だ。間違いなくクラスで1番可愛いレベルであろう。
「多分覚えてくれていないわよ。だって何百人、いや何千人って握手しているんだよ? 昨日私たちの前の女の子見たでしょ? おっぱい触らせていたのよ!? 覚えてもらうんだったらあれくらいしなきゃ! 私も今日やろうと思ったんだけどもうマルス様のとなりでリーガン公爵がずっと見張っているから出来なかったわ……」
なんと破廉恥な! こんな会話をアリスに聞かせるわけにはいかない。だが私たち姉妹は前の3人の女子たちの会話に耳がダンボだ。そして3人目の女の子がこう言った。
「それにさ。【黎明】の女性陣の顔見た? 流石にあれは反則でしょ? 私は子供のころから結構可愛いと言われ続けていたから自信あったんだけど【黎明】の女性陣見たら私ってそんなにイケてないんだなぁって……」
そんなことはない! この3人はB以上の美少女、美女だ! 私の【聖女隊】に入る資格は十分ある……マルスという奴も興味あるが【黎明】の女性陣というのにも興味がわいた。もし本当に可愛ければ【聖女隊】に勧誘してみよう。
ようやく私たちの握手の番となった。今14時50分だ。2時間近く並んだというのか……最初に握手をする相手は……机からデアドア神聖王国の剣聖と垂れ幕が掛かっている……そう呼ばれていた男は1人しか知らないが……その男の前に立ち差し出された手に握手をしてから顔を見ると……
「ドミニク! 久しぶりじゃない!」
私の手を握っていたのは昔よく遊んでいたドミニクだった。昔からドミニクはいつも剣を握りながら走り回っていた。
ドミニクは昔と少し印象が変わっていた。昔は線が細くて華奢という感じだったが今のドミニクは逞しく見える。そして握手している手に剣だこが出来ているのが分かる。
「ソフィアじゃないか! 来てくれたのか!?」
私の初恋の相手は私の事を覚えてくれていた。まぁ私の事を忘れる男なんていないと思うけど。
「ええ。まさかドミニクがいるとは思わなかったわ」
ここまで言うと見たこともない美しい人が私に
「もう時間です。進んでください」
と事務的に声をかけてきた。なんだこの女の人……Aって初めて見た……最高でも私とアリスのA-だったのに……私は力なく「はい」と答えるとドミニクが
「サーシャ先生。ソフィアがマルスまで握手し終わったらソフィアと話をしていてもいいですか? 久しぶりに会った幼馴染なんです」
え!? この美しい人先生なの!?
「そうね……この子たちが最後だし……許可しましょう」
ドミニクと握手が終わると次の人の所に行った。やはり次の人の机にも垂れ幕が掛かっていた。北の勇者……聞いたことがある。確かリスター連合国の有望株だった気がする。
「ドミニクの幼馴染か。バロンです。よろしく」
私とドミニクの話を聞いていたのであろう。さわやかイケメンが私に手を差し出す。ドミニクといいバロン君といい、このクラス最高だわ。見惚れているとまた先ほどの先生が「時間よ」と言ってきた。
次の人が最後か……恐らくマルスだな……マルスの机の垂れ幕は色々書かれていた。
剣聖、武聖、最強アイクの弟、1年Sクラス序列1位、史上最年少冒険者登録3歳、史上最年少B級冒険者……
これが全て本当なわけがない……3歳で冒険者? 鼻水垂らして木の棒振り回しているのが関の山だろう。B級冒険者も金か別の力でなったのだろう……なんか顔を見る前に萎えてしまった。胡散臭すぎる……
そう思いながら視線を上げると……完全に心臓を撃ち抜かれた……審美眼でSとなっている……い、息ができない……
「ドミニクの知り合いなんですね。マルスです。よろしくお願いします」
そう言って金髪のイケメンが私の手を握る。まず最初に思ったのは剣だこが無い……それに綺麗な手だ。さっきの剣聖、武聖というのはこれで嘘というのが証明された。どう考えたってドミニクやバロンの手の方がごつごつしている。
もしかしたら全てこの顔でなんとかしているのかもしれない……いや、きっとそうだ! かっこいいからギルド職員を垂らしこみ、先生たちも篭絡して1年Sクラス主席となっているのだ!
そう思うと先ほど息ができなくなるほどの衝撃を受けた自分が恥ずかしい。男は顔ではない……いや顔が良いほうがいいが……いや顔だ……だがこの男だけは認めてはダメな気がする
私は何も言わずにマルスとの握手を解くと次はアリスがマルスと握手をする番となる。アリスがマルスと握手をすると完全にアリスが恋する目になっていた。
アリスの綺麗な顔から涎が垂れている。妹のこんな姿初めて見た。こ、これはまずい……男は顔だが中身も大事! アリスがこんな嘘で塗り固められた男に惚れるなんて絶対にダメ!
アリスが握手を終えると私はすぐにアリスの手を引きこの会場から離れた。本当はドミニクと話をしたかったのだがアリスの為を思って……
☆☆☆
ようやく握手会が終わった。最後の2人はドミニクの知り合いだったらしいが急いで帰ってしまった。何か用事を思い出したのだろうか?
「ドミニク、あの2人とはどんな関係?」
俺がドミニクに聞くと
「最初に握手したほうが俺の初恋の相手だ。名前はソフィア。かなり可愛かっただろう? そして最後に握手したのがその妹今9歳で来年入学じゃないか?」
するとミーシャが
「あれで9歳なの? どう考えても私より年上な感じがしたけど?」
「ああ。昔からあの美人姉妹は有名でな。姉が名花のソフィアと呼ばれていて、妹が閃光のアリスと呼ばれているんだ」
ドミニクが嬉しそうに答える。ミーシャが
「名花に閃光……かっこいいなぁ……私にも2つ名欲しいな……」
【暴走エルフ】という立派な2つ名があるじゃないかとは言わなかった。
「それにしてもソフィアには後で話そうって言っていたのに……」
ドミニクがブツブツと呟いていると、会話を聞いていたカレンが
「マルスもしかして5人目どころか6人目までGETだぜとか思ってないでしょうね?」
そんなポケモンみたいに気軽にGET出来るわけがない。
「そんなことないよ……ただ……」
俺のただという言葉を聞いたクラリスとエリーが冷たい視線で俺の事を見つめる。これ以上何を言っても藪蛇になるだけだから言うのをやめた。
「ねぇマルス私にかっこいい2つ名をつけてよ」
ミーシャが言ってきたのでみんなで全員の2つ名を決めることにした。いざ2つ名を考えるとなるとなかなか決まらない。そもそも自分たちで考えるというのもおかしい……
すぐさま俺がミーシャの事を「暴走エルフ」と言うと何故かミーシャはまんざらでもない様子だ……え? どこかに褒めている要素ある?
結局色々議論を重ねた結果
マルス 剣聖
バロン 北の勇者
ドミニク ブラックナイト(仮)
クラリス 暁の女神
エリー インペリアルガード
カレン 真紅の女王(様)
ミーシャ 暴走エルフ
ミネルバ 向日葵
俺は今まで通り剣聖にしてもらった。
別に魔法を使えることをあえて周囲に宣伝する必要もないだろう。女性陣からはちょっと酷い2つ名を言われたけど、流石にみんなに言えるような内容ではないからここでは省こう。
バロンも今まで通りの北の勇者。
これはすでに定着してしまっているから仕方ない。
ドミニクはブラックナイト(仮)
かなりカッコいいのだが、結局今装備しているのが黒鉄シリーズでもっといい装備に変える予定だから(仮)となった。
クラリスは暁の女神
本当は黎明の女神にしようとしたのだがこっちの方がなぜかしっくりきた。何年か前は聖女だったがまさか本当に聖女の称号を取ってしまうと名乗るに名乗れない……それに暁の女神ってしっくりくるだろう? この2つ名に関してはくれぐれも余計な詮索はしないように……
クラリス自身は女神という言葉に違和感を覚えているようだが、カレンとミーシャがもはやクラリスが人だと比較される方が迷惑だと言わんばかりに強引に決まった。
エリーはインペリアルガード
いつも俺の近くにいるし、俺以外興味が無さそうという事でこれになった。だが実際エリーはクラリスの事を凄く気にかけており、みんなは気づかないかもしれないがクラリスの事も凄く慕っている。また戦闘中も常に周囲の気配を探っていて安全を確保してくれている。まぁ俺が分かってあげればエリーは問題ないだろうからあえて言っていないが。
カレンは真紅の女王(様)
様を付けるかつけないかは呼ぶ人次第。俺は絶対につけるべきだと思うが……カレンもかなり気に入っている様子だった。
ミーシャは暴走エルフ
先ほども言ったがなぜか気に入っている……やはりこの子は残念な子なのだろうか?
そして最後にミネルバは向日葵
正直ミネルバが一番悩んだ。候補が一番上がったのもミネルバだった。緊縛令嬢、小悪魔令嬢、亀甲娘などのそっち系や元気印、弾丸娘、猪突猛進とか意気軒昂とか……ミネルバは俺から見ると落ち込まずに一途、そして頑張り屋というイメージだ。なんとなく向日葵って感じがしたので向日葵にしたらみんな納得してくれた。
まぁ勝手に俺たちが決めても無駄なのだが……こうして新たに2つ名も決まって? 明日からのメイド喫茶に向けて準備をし始めた。
ソフィアの審美眼はステータス等一切見れません。
ただ人や物の美しさだけが分かります。
ちなみにCが普通でCより下はありません。
あくまでも美しいものだけを見極める能力です。
誰かを貶める能力ではないのでご注意を。
ただある物に関してだけはGという鑑定結果が出ますがそれはおいおい。