第133話 握手会
2030年11月3日
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
今俺は何をしているかと言うと握手をしている。なぜなら握手会を開催しているからだ。俺たち1年Sクラスのリスター祭の出し物はメイド喫茶になった。
リーガン公爵も許可してくれたのだが最初の二日間は握手会をしろとの事だった。
リーガン公爵曰く
まさか俺が女性陣を他の人に触れ合わせるような事はしないと思ったとの事。だったら握手会してもよいか?絶対に需要はある。警備はリスター帝国学校の総力を挙げてする。そしてなんと俺たちと握手するのに銀貨1枚(日本円にして1万円)とるとの事だった。
絶対に握手をするのに1万円とか払う人なんかいないと思ったからあっさり了承したらこの状況だ。
アイドルと握手するためだったら1万円払う気持ちも分からなくはない……が、俺たちはアイドルではないし、なんといっても同性同士でも握手をする……俺は知らない男の手を握るのはとても抵抗がある……だから男たちもそうだろうと思ったのだが……現実は違った。
俺たちSクラスのメンバーと握手するのに長蛇の列を作っている。最後方は相当遠くの方にあるようだ。
握手の時間は1人10秒。Sクラスの教室に出入り口を作り、入口ではライナーとブラムが、不審者がいないかチェックをしており、握手の前には必ず手を洗うように徹底している。
俺たちの近くではサーシャとローレンスが警備をしており、出口付近にはリーガン公爵がいる。
握手会の並び順は入口の方から序列の降順で
ミネルバ、ドミニク、バロン、ミーシャ、
カレン、エリー、クラリス、俺となっている。
やはり一番受けがいいのはクラリスだった。美女ぞろいのSクラスの中でも際立って美しく愛想もよい。しかしほかのメンバーも人気がある。
エリーは獣人から人気……というか神格化されているようで、片膝をつきながら握手する獣人が多い。
カレンは男女問わず貴族たちに握手の際に挨拶をされており、ミーシャは希少なエルフという事でこれまた人気だ。ミネルバも持ち前の明るさと愛嬌で人気がある。
そして俺たち男子はと言うと……ドミニクも人気があったがバロンの人気が予想以上に凄かった。やはり北の勇者としての知名度は高いようだ。
しかしそれ以上に俺は凄かった……と思う。ドミニクとバロンは時間いっぱいまで握手をしている女の人はあまりいなかったが、俺の場合はもう終わりとリーガン公爵に言われても、まだ俺の手を握っている子が多数いた。
自分で言うのもあれだが俺ってこんなにモテるのかと思った。
中には上目遣い(マルスの背が高いから当然そうなる)で、俺が差し出した手を両手で握り、俺の手を自分の胸にあてる子までいた。そして今夜どこどこで待っていますとか小声で言ってくる始末だ。
俺はそんなことされたら困るという顔を必死に作ろうとするが、どうしても頬が緩んでしまう……そのような行為のたびに隣のクラリスの顔に青筋が走る。
ようやく昼の12時になり休憩となるとクラリスがリーガン公爵に
「ちょっとマルスと握手する女の子どうにかなりませんか? 流石に自分のおっ……胸を触らせるのはやり過ぎだと思います!」
抗議をするとエリーが
「……そんな奴!? ……絶対に許さない! もし今度来たら……教えて……そいつの胸……私が斬り落とす!」
殺気を放って豪語した。エリーは絶対に本気だ。それを見たリーガン公爵が2人に対して
「わ、分かったから……2人とも落ち着いて……昼以降は私が隣で見張っているから……ね……?」
と必死になって2人を宥めた。
その後も昼ご飯を食べながら不満を言い合う。俺は隣のクラリスしか見えなかったがクラリスもかなりの被害を受けていた。握手会に来た男子たちがクラリスの手を必要以上に舐めるように手をこねくり回すのだ。
そして決まってそう言う男たちは俺の手を潰そうと思いっきり握ってくる。いや筋力値が一桁前後の人に思いっきり握られたところで痛くはないのだがいい気はしない。思いっきり睨んでくるし。絶対になんでお前がクラリスの隣に立っているんだと思っているのだろう。
俺がこのことを言うとドミニクもバロンも同じ被害を受けており、クラリスも女性と握手をするとき爪を立てられるとか言っていた。やはり同性の握手は問題がある。
結局午後から男女で分かれて握手会をすることになった。男子はクラリスたちとだけ握手して、女子は俺たちとだけ握手する形だ。そして値段は据え置き……
出入口には他の職員を配置して、リーガン公爵とサーシャが俺たち男子の方の握手を監視して、ライナーとブラムがクラリスたちの方を監視する事となった。
結果午前中の4時間で銀貨1400枚ちょいの売り上げで午後の売り上げが2時間で銀貨1400枚……合計6時間握手しただけで日本円にして2800万円の売り上げだった……これにはリーガン公爵もウハウハだった。
リスター帝国学校の入場料も銀貨1枚、まぁこれは普段上級貴族でも入れないような場所だからあまり高くもないのかもしれない。テーマパークと考えてくれれば……いや高いか……
リーガン公爵が1年Sクラスだけで明日は銀貨4000枚を目指すと張り切っている。もうリーガン公爵の目がドルマークとなっていた……あと明後日からメイド喫茶にすると言われたので少しほっとした。
15時に握手会は終わりなのだが15時の時点でも長蛇の列が出来ていた。俺たちの労働時間はきっちり守られて並んでいた何百人かはまた明日来てくださいとの事だった。また明日って気軽に言うけど入場料だけでも銀貨1枚……完全にぼったくりだと思うのだが……
一般人たちは16時までにリスター帝国学校の敷地から出ないといけない事になっている。
リスター帝国学校の学生は一般人が外に出るまで教室や定められた場所から出ることを禁止されている。そしてリスター祭中はなるべく外出しないようにとお達しを受けている。特に俺ら1年Sクラスは外に出るなときつく言われている。
取り敢えず16時までは教室に居ないといけないので、Sクラスのメンバーと雑談をしていた。
「それにしてもマルスの人気凄かったね。なぜか私も嬉しくなったよ」
ミーシャが笑顔で言うとミネルバも
「本当ね。マルスとクラリスのリスター連合国内での知名度はかなり高いのね。びっくりしちゃった。もしかしてバロンの知名度を超えたかもしれないね」
そうやはりバロンの知名度は凄かった。
なんせ幼いころから北の勇者として名を馳せていたから今回バロンを目当てに来る人も多かった。それは女子だけではなく男子もだった。
「間違いなくマルスはあと一か月もしないうちに俺よりも有名になるだろうな。今日だって俺に会いたくて来た子達はもうみんなマルスに夢中だろうしな」
「北の勇者に剣聖2人か……なんかバロンが主役だよな……」
俺の言葉にドミニクが
「俺が剣聖と呼ばれていたのはデアドア神聖王国にマルスが居なかったからだしな。デアドア神聖王国は色々と大げさな2つ名をつけるんだよ。剣聖、聖女、貴公子……なかには鬼神や種馬とかいうあまりありがたくない2つ名もあるくらいだ」
「その種馬と呼ばれていた人はデアドア神聖王国にマルスが居なかったからね。マルスが居れば変態止まりで済んでいたのではないかしら?」
カレンの強烈な言葉が俺に突き刺さる……カレンも今日の握手会での出来事に腹を立てているようだ……それにしても俺の相棒は前世も含めて30年間出番がないんだけど種馬って……俺がしゅんとしているとクラリスが気を使ってくれて
「まぁあれは女子からやってきたことだからね……お金を貰っている以上なんか色々断りづらい雰囲気はあるわよね……」
この一言で流れが変わった。
「うーん……確かにそうかもしれないわね……リスター祭での出来によって受験生の人数に関わってくるからリーガン公爵からすればそのくらいは目を瞑れと言いたいわよね……」
カレンが少し考えを改めてくれたようだ。流石【黎明】のサブリーダーだけはある。
「でもマルスはもう私たちの中では剣聖ってイメージではないよね。どう考えても魔法使いだし……まぁ世間は種馬ってイメージもないのかな? まぁ何年か後には【黎明の種馬】っていう2つ名になっていると思うけど」
暴走エルフが流れをまた悪い方に持って行った。それに何が黎明の種馬だ! XYZって書かれても俺は依頼を受けに行かないぞ!
16時になり俺たちは学校の食堂に向かった。普段は昼しか営業していないがリスター祭の間は夜まで営業しているとの事だ。
学生寮の食堂で食べても良かったのだがSクラスみんなで食べようとの事だったので学校の食堂で食べることにした。
俺たちが食堂でご飯を食べていると【紅蓮】のメンバーもやってきた。
「マルス、握手会凄かったそうじゃないか。さっきリーガン公爵とあったけど過去最高収益って言っていたぞ」
やはりリスター祭は日本の文化祭とは違うらしくかなり商業目的のイベントのようだ。
「明日で握手会から解放されると思うと……もう来年はやりたくないですね……ところでアイク兄たちはどうだったんですか?」
「ああ。こっちもかなり実入りが良かった。バルクス王国やザルカム王国も5年制の学校が増えてきたみたいで他の学校の同学年との戦いとか見ていてかなり楽しかったよ」
あれ? アイクは戦っていないのか?
「アイク兄は戦っていないんですか?」
俺が聞くとガルが
「いきなり大将と戦えるわけがなかろう。まずは儂たちや5年生と戦って勝ち進んだものだけが、アイクと戦えるのじゃ。まぁそんな学生は……あまりおらんじゃろうな」
うん。少しは謙虚になったな。するとクラリスが
「もしかしてお義姉さんリスター祭中に時間がありますか? 良かったら明後日からメイド喫茶やるんですが私たちと一緒にメイドやってくれませんか? 5人だと少ないと思うので……」
提案すると眼鏡っ子先輩が
「いいわよ。クラリスたちとやるのも面白そうだしね。私が戦わない時はそっちでマルス君専用のメイドになるわね」
上目づかいで揶揄ってきた。もうクラリスも慣れたもので「ではよろしくお願いします」と言ってあっさり眼鏡っ子先輩の言葉を流した。
でもクラリスの提案はナイスだな。やはり1人は眼鏡メイドがいないとね。明後日が楽しみだ。
後楽園球場で僕と握手。