第124話 死の森の蟻
「死の森ではどのような魔物が出るのですか?」
今俺たちは死の森に向かって進軍している。
レッカの天幕を出た後すぐに死の森に向かう事になったのだ。烈火騎士団は200名くらいいる。そのうち20名ほど残して死の森に向かうようだ。20名のうちの約半分はダメージを負って休む騎士団員であり、残りの10名は伝令として残しておくらしい。先ほどの俺の問いにレッカが答える。
「蟲系の魔物しか相手にしない。流石に森の中に入ってしまうと全滅の可能性があるからな。よくあらわれるのがアント系とビー系あとはスネーク辺りとよく戦う」
「アントってキラーアントやマザーアント、クイーンアントとかですか?」
俺が聞くと
「良く知っているな? 戦ったことあるのか?」
やばい、この話はしなければ良かった……
「ええ。少しなら……」
というとエリーが
「……クイーンアント……名前付き……パパとマルスで倒した」
エリーが悲しそうな顔をして言う。極力アント系の事は話さないようにしていたのだがつい話してしまった……
「エリー。すまない……」
俺が言うとエリーが
「……マルス……悪くない……マルスのおかげで今の私いる……」
それを聞いたレッカが
「クイーンアントの名前付きを倒しただと!? まさか……しかしセレアンス卿であれば……もしかしたらクイーンアントと戦う機会もあるかもしれない。何しろあいつらは死の森にはいないからな」
「なぜ森にいないのですか?」
「ああ。あいつらアント系は死の森のヒエラルキーの一番下にも入れないレベルだ。だから森の外で地面に巣を作ってなんとか森の中に入ろうとしているようだが、死の森はアント系の魔物が入れるほど生易しいものではない。何せビー系の魔物でさえ死の森の外周で生き残るのが精一杯だからな」
魔物同士が縄張り争いをしているのか……
「あと1つ警告しておく。死の森には凄い霧が立ち込めているが、あまり風魔法で霧散させないほうがいい。こちらから見えるようになるという事は魔物からも見えるという事だからな」
考えて風魔法を使わないと逆にピンチになるという事か……風魔法はウィンドカッターだけにしてなるべく接近戦で倒すようにしよう。
1時間ほど歩くと目の前に砦のような建物が見えてきた。あんなに立派なものがあるのであれば後方の陣など敷かないでずっと砦で戦えばいいのに……
そう思っていたがなぜ後方に陣を敷いていたのか近くになって分かった。砦が襲われているのだ。先ほど言っていたキラーアントたちに。これだけ襲われていたら普通であれば気が休まらないから後方に下がるな……
「レッカ様! 砦が襲われているようです! 早く助けに参りましょう!」
そう言うとレッカは笑って
「それはいつもの事なのだ。少しでもピンチになると上空に魔法を放つからまだ大丈夫という事だ。それにしてもよくこの暗闇で分かるな……私にはここからだと砦すらまだ見えないのに……」
こんな状況がずっと続くのであれば気が休まらないな……
「少し砦を増築してもよろしいでしょうか? そのためにも周囲の魔物を殲滅したいのですがよろしいですか?」
俺が聞くとまたレッカは笑って
「ああ。いいとも。リスター帝国学校の1年Sクラスのレベルというのを見てみたいしな」
そう言われると【創成】を出すわけにはいかないな……
「クラリス、エリー、ミーシャ! 俺とキラーアントたちを殲滅しに行くぞ!」
「まさか4人であの群れに突っ込むつもりではないよな?」
レッカが少しまさかというような表情で聞いてくるが、その質問にカレンが答える。
「そのまさかよ。クラリスとエリーもB級冒険者クラスの強さがあるし、ミーシャはとにかく気配を消すのが上手いから絶対に大丈夫よ」
俺の言葉にクラリスとエリー、ミーシャが頷き俺の後を追ってくる。
「なるべく止めは刺さないで一か所に集めるようにしてくれ。キラーアントくらいだと俺たちのレベルは上がらないと思うから後でまとめてミネルバに焼き殺してもらおう」
かなりのキラーアントの数だったがアルメリア迷宮の迷宮飽和に比べればだいぶ少ない。10分くらいで100匹程度を一か所に纏めるとミネルバに全て焼き殺してもらった。
俺の戦闘を見たレッカが
「マルス君は魔法使いではなかったのかい? あれはどう考えても前衛の動きなんだが……?」
「基本的に僕は後衛ですが、ライナー先生たちの教えにより剣術も少しは出来ます。それでは砦の増築をさせて頂きますね。僕たち【暁】の専用の部屋を作らせて頂きます。バロンも手伝ってくれ。土魔法はバロンの方が得意だろうから」
俺は信じられないというレッカを後にして砦の増築を始めた。本来であれば陣で作った家を建てるつもりだったのだが、砦と同化させた方が安全性は高まると判断したのだ。
砦は3階建てだったのでこちらも3階建ての建物を作る必要があった。端の建物だけ平屋とかだとそこだけ集中攻撃されそうだからね。流石に3階建ての建物を1回のMPで作る事は出来ない。強度も求められるからなおさらだ。
俺とバロンで一応は3階建ての砦の増築は完成したのだが、2階と3階はほぼ張りぼてのようなものだ。もう0時近くなり女性陣と俺とバロンが先に寝ることになった。
1階だけは丈夫に作ったので今日は1階で寝て、ライナー、ブラム、ドミニクの3人は6時まで頑張って起きてもらう事にした。こういう時男がいると助かる。女性に対して夜更かししろなんて言えないからね。
本当はイザーク辺境伯に挨拶したかったのだが今は出来そうにないので、またお昼にでも挨拶をすることにして俺もMPを使って眠りについた。
2030年9月15日 3時
俺が起きると外ではすでに戦闘が行われていた。
事前にレッカに寝ることを伝えていたので、レッカ自ら俺たちの張りぼての砦を守ってくれている。ここにカレンが居るから烈火騎士団の守るべき場所はここで、この砦の中で一番安全なのだ。
まぁそれにライナーとブラムもいるからキラーアントごときに後れを取るわけがない。ただドミニクはかなりダメージを受けており、疲弊していた。やはりドミニクとミネルバは最優先で鍛えないとな……
ドミニクにヒールをかけてから俺は増築部分をより強固なものに仕上げていく。3階部分から屋上に出られるようにして屋上は見張りが出来るように、そして3階部分は寝室にして、2階にリビングダイニングと浴槽を6桶。1階は誰かが来た時の為の大きい応接室にした。土魔法で壁石を思いっきり圧縮しておりその壁が1mの厚みもあるから、恐らくちょっとやそっとの襲撃では壊されることはないだろう。
もうMPが枯渇寸前だったが、少し外の戦闘に加わり殲滅したところでMPを枯渇させてから寝た。
2030年9月15日 7時
俺が起きるとすでにライナーとブラム、ドミニクは寝ており、女性陣達とバロンがご飯を食べていた。バロンとミネルバの距離が気持ち遠い気がする。まだあのことを引きずっているのだろう……
「おはよう。魔物はもういないの?」
俺が聞くとみんな「おはよう」と返してきて
「ライナー先生からの報告だと夜中もずっと魔物が襲ってきていたみたい。だから私たちも起きてすぐに参戦して、今落ち着いたところなの。私とカレンでお風呂の用意をしてお風呂に入ったら3人ともすぐに寝ちゃった」
「これだけ多いって言うのは魔物達の行進が起きているのかな?」
俺がそう聞くとカレンが
「これは魔物達の行進ではないのよ。どこかに何十匹もクイーンアントが巣を作っているのだと思うわ。恐らくここと死の森の間の地中にだと思うけど……」
「じゃあ取り敢えずアント系の敵から倒しに行くか。俺に少し考えがあるからご飯を食べたらアント狩りに行くからそのつもりで」
俺も急いでご飯を食べて身支度を整えた。まずはレッカの所に行って増築した砦の警護をお願いした。アントを狩りに行ってその間に拠点が潰されていたら意味がないからね。レッカは快く引き受けてくれた。というか当然だと言ってくれた。
ただ1つだけお願いされたことがあり魔石を必ず回収しろとの事だ。どうやらフレスバルド公爵家の大きな収入源として死の森を活用しているらしい。だからクイーンアントもあまり倒さないようにしているという事だ。
だが別に倒してしまっても構わないとの事だ。時間が経てばいくらでもクイーンアントは復活するらしい。迷宮でもないのにどうして復活するのだろう……
アント殲滅の許可が出たので俺たちはキラーアントを倒しながら、砦から少し死の森方面に向かって歩きやたらキラーアントが出てくる地点まで行った。
「これどうするの? いくら倒してもクイーンアント倒さなきゃ無駄な気がするけど?」
クラリスがキラーアントを屠りながら聞いていた。
「分かっている。だからちょっと考えがあるんだ。地下に潜んでいる蟻たちを地上に出す作戦が」
俺はそう言って雷鳴剣を地面に突き刺した。
「みんな少し下がっていてくれ。今から地面に雷魔法を使う。かなり威力を低くして放つけどそこまで制御できないから何が起こるか分からない。気を付けていてくれ」
全員後ろに下がるのを確認した後、徐々に雷鳴剣に雷魔法をエンチャントしていくと、雷鳴剣から地面に徐々に雷が伝わっていくのが分かる。
すると10mくらい先の地面がボコボコ動いているのが見えた。そして大量のキラーアントと共にクイーンアントも地面から出てきた。あれ? クイーンアントってこんなにデカかったっけ……?
【名前】-
【称号】-
【種族】クイーンアント
【脅威】B-
【状態】感電(微)
【年齢】20歳
【レベル】40
【HP】178/180
【MP】3/3
【筋力】55
【敏捷】50
【魔力】1
【器用】12
【耐久】70
【運】1
二十歳のピチピチアントか! レベルも40もある! まぁ40でも所詮アント系だからステータスは低いが……
「カレン! バロン! ミネルバ! こいつらが出てきた穴に火魔法を放ち続けてくれ! 巣穴を大火事にして一気に殲滅するぞ!」
アント惨殺ショーの始まりであった。










