第119話 光るマルス
俺はウピアルの猛攻を何とか凌ぎきり、仕切り直しとなった時に火精霊の剣を鞘にしまった。右手は雷鳴剣で左手には何も装備をしていない状態だ。
それを見たウピアルはフレアを2発撃ってきた。
ウィンドインパルスでフレア2発を弾くと、フレアに隠れてウピアルが突っ込んでくる。
これはいくら未来視で見えたとしても俺のステータスでは躱せない。すぐに神威で離脱するが、ウピアルはそれを読んでいたようでさらに俺に追撃をかけてきた。
ハイヒールをかけるか、神威で離脱するか一瞬迷ったが神威を使い、そしてミーシャのように自分にウィンドをぶつけながらなんとかウピアルの攻撃を躱したが、それすら読んでいたかのようにウピアルは攻撃の手を緩めない。
ただ今回は自分を吹っ飛ばしている最中にハイヒールをかける時間が出来た。
なんとかハイヒールで神威を使った際のダメージを回復すると
「纏雷!」
久しぶりの纏雷だ。雷魔法のレベルも昔と違ってかなり上がっているので威力は申し分ないはずだ。
ウピアルの爪が1mの距離まで近づいてくるが、金色の雷がウピアルの右腕に対して放たれ、纏雷が直撃した勢いでウピアルを吹っ飛ばすことが出来た。
ウピアルのHPを見ると200を切っておりウピアルの状態も感電(小)となっている。俺の魔力よりもウピアルの魔力と耐久の方が高いから感電(大)にはならず感電(小)に収まったのだ。
それでもこのチャンスを逃すわけにはいかない。雷鳴剣でウピアルに斬りかかるとウピアルは無数の蝙蝠になって緊急回避をしようとしたらしいが、感電(小)のせいかウピアルの右上半身は蝙蝠になれなかったようだ。
俺はその部分を雷鳴剣で斬るとウピアルの右腕を斬り落とすことが出来た。
すると無数の蝙蝠になっていたウピアルが右腕が斬り落とされた状態でヴァンパイアの姿に戻った。
「くっ……貴様……何をした!? 再生が……出来ない?」
感電状態でなければ再生もできたのか……これはHP回復促進の効果ではなく、ヴァンパイアの種族の固有能力だろう。
ウピアルのHPが半分の120以下になっていた。ここで悠長に会話をしてチャンスを逃すわけにはいかない。今止めを刺さないと次にやるときは負けるかもしれない。
俺は右腕を失っているウピアルに猛ラッシュをかける。ウピアルがまた無数の蝙蝠になって緊急回避をするが、俺はその蝙蝠の一匹ずつを確実に仕留めていった。するとウピアルは蝙蝠になって逃げることを諦めたのか、またヴァンパイアの姿に戻った。
あの無数の蝙蝠1体1体がウピアルだったっぽいな。HPは残り100を切っている。早く決着をつけなければHP回復促進でHPが戻ってしまう。
ウピアルは俺に近づこうとはしなかった。近づけば纏雷の餌食になると思っているのであろう。逆に言えば近づきさえしなければなんとかなると思っているのかもしれない。
今度はヴァンパイアの姿で逃げながら俺に対してフレアを放ってくる。ウピアルは完全に撤退をしようとしているのかもしれない。敏捷値は圧倒的にウピアルの方が高くもし逃げに徹しられたら逃げられてしまう。
風魔法でなんとかウピアルのフレアの発現の妨害をしようとしているのだが、相手の魔力の方が高いので威力を弱める程度しか出来なかった。ウィンドインパルスでフレアを弾くことは出来ても発現の妨害は出来ないようだ。
だが威力を弱めるだけでも十分だった。俺は神威を纏いフレアを雷鳴剣で斬りながら最短距離でウピアルの元に近づく。
そしてハイヒールを自分にかけると
「ライトニング!」
俺の体が金色に光り、その光がウピアルを穿つ。俺の体が金色に光った瞬間にウピアルの顔が絶望の表情に染まった。今まで顔が赤かったが、青白くなったのだ。俺が思い描く本来のヴァンパイアの顔色だと思うのだが……
ライトニングは先ほどの纏雷とは段違いの威力だ。その分消費MPも半端じゃない。金色の光がウピアルを包むとついにウピアルのHPが1桁となり、状態が感電(極大)となっていた。
雷魔法恐るべし……しっかり制御できればいくら格上の相手だろうと一発で形勢逆転が出来る。
ライトニングを食らったウピアルの体の自由は奪われていた。
俺は倒れているウピアルの首に雷鳴剣を突きつけると
「ここで何をしていた?なぜ魔物を召喚していた?」
ウピアルは何も言わなかった。ただウピアルの表情が絶望と恐怖で覆われている事が分かる。
「最後だ。もう一度聞く、ここで何をしていた」
俺が再度聞くと目で何かを訴えているのは分かるが何も話さない。あっ……感電(極大)だった……何も言えないし、何か反応が出来る訳ないよな……
俺は【黎明】と【創成】のメンバーたちに
「みんな! 警戒しながらこっちに来てくれ! 周辺をサーチし、見当たらないが、最大限の警戒で頼む!」
俺はウピアルから目を逸らすことはしなかった。もし感電(極大)から感電(大)になったら止めを刺そうと思っていた。
魔族も人といえば人だ。今年のリスター帝国学校のSクラスにも2名魔族が入る予定だったからな……それでも俺は止めを刺すつもりでいた。
こいつを生かせば絶対に後で後悔することになると思う。
【黎明】と【創成】のメンバーが注意深く警戒しながら俺の所まで来た。
そして俺はカレンに尋ねた。
「もし俺がこいつに止めを刺したら俺は何かの罪に問われるか? こいつは魔族の伯爵家当主らしい。国と国との問題にならないか?」
「いいえ。明らかにこいつがリスター連合国に対して不利益を与えていたのは確かよ。表彰されることはあっても断罪されることは絶対に無いわ! そしてこんな事を黙って見過ごすリスター連合国ではない! もしも問題になってもそれはマルスのせいではなく、こいつのせいよ!」
まずは第一関門突破。
「俺はこいつに止めを刺そうと思う。今こいつは麻痺しているがそのうち麻痺が解けてしまう。そしてこいつのステータスは俺を含めたここに居る誰よりも高い。
もしも俺がこいつよりも強ければこのまま捕縛したかったのだが、俺は1発勝負には強いがもしも対策とかされてしまうと、今回のようにこいつを倒せるか分からない。
反対の者がいたら手を挙げてくれ。手を挙げた者を責めるつもりはない。もしかしたら俺は今興奮状態で正常な判断が出来ていない可能性がある。それをみんなに問いたい。
もう一度聞く。こいつに止めを刺すのに反対の者がいたら手を挙げてくれ」
【黎明】と【創成】のメンバーは誰も手を挙げなかった。
「ヴァンパイアは絶対に止めを刺すべきだ。デアドア神聖王国ではヴァンパイアによる被害が特に多い。まさかこいつらが魔物を召喚していたなんて……」
ドミニクが強い口調で言うとバロンも
「魔族の中でもヴァンパイアは人間に対して非友好的だ。非友好的どころか敵対行動をとってくる。友好的な者など過去に1人もいないはずだ。俺はマルスを支持する」
「リスター連合国の為にも……人族の為にも止めを刺すべきだわ」
カレンもそう言った。クラリスは何も言わなかった……とても沈痛な顔をしている。恐らく俺の心境を察してくれているのであろう……
「分かった。みんなありがとう。女子たちは下がってくれないか? 止めを刺すところを見られたくないから……バロンとドミニクは悪いが止めを見ていてくれ。ヴァンパイアは止めを刺したと思っても死んでいないケースもあるかもしれない」
女子たちは後ろに下がり、バロンとドミニクはその場に残り、俺はウピアルに対して止めを刺した。
そして俺のレベルが上がった……
女の子は殴る事は出来ないがヴァンパイアには止めを刺せるマルスでした。