第112話 弱点
2030年9月2日 放課後
俺たちSクラスとライナー、ブラムの2人は冒険者ギルドに来ていた。クラン申請とライナーとブラムの冒険者の再登録の為にだ。もちろん事前にライナーとブラムの事はリーガン公爵に根回しをしてもらっている。
「はい。これでクラン【暁】の登録が終わりました。親パーティとして【黎明】、子パーティとして【創成】【剛毅】の登録を致しました。またライナー様とブラム様の冒険者登録をし、Bランクパーティ【剛毅】の結成を致しました」
クランにはランクは無いらしい。そもそもクランで動くようなクエストもあまりないとの事だ。魔物達の行進や迷宮飽和が起きた場合はクランに依頼することが多いらしいが、それくらいしかないらしい。
「俺たちはともかくまさかライナー先生たちまで【暁】に参加するとは思いませんでした。これからもよろしくお願いします」
バロンがライナーに向かってそう言うとライナーが
「ああ。こちらこそよろしく」
手を差し出してバロンと握手をした。場所をレストランの個室に移して俺はみんなに言った。
「今日は【暁】結成のお祝いだ。楽しくご飯を食べよう。乾杯!」
そう言って宴が始まると、ずっと気になっていた事をミネルバに言った。
「ミネルバちょっといいか? ミネルバはみんなにない才能がある」
「何々? 5人目の才能とか?」
揶揄うような笑みを浮かべながら俺とクラリスの間にミネルバが来ると、クラリスからくすぐり攻撃を受けて悶絶している。
そしてスカートがはだけて俺の前に白いものがさらけ出される。
なんか最近俺の運の効果が分かってきた気がするぞ。俺は見ないふりをしながら
「ミネルバは鎖術という才能がある。魔法の才能もあるが、これから鎖使いとしても頑張らないか? それに俺も鎖術というのは覚えたいから一緒にやろう」
俺がそう言うとミネルバが
「ちょっと……変な事言わないでよ……鎖って……一緒にやるって……お互いがお互いを鎖で縛るプレイ? 鎖で縛ると絶対に痛いよ? せめて縄とかがいいって」
ミネルバは顔を赤く染めて俺の膝を叩く。あ、そっち? カレンの鞭術の時とほぼ同じリアクションって……
「い、いやそっちじゃなくて……」
俺が言うとミネルバが更に顔を赤くして
「ご、ごめん。【黎明】部屋で4人の話を聞いていると絶対にそっち系の話かなと思ってしまって……」
するとクラリスがくすぐり攻撃をさらに強めて
「何を言っているのよミネルバ! マルスには内緒って言ったじゃない!」
もうミネルバの白いものは俺だけではなくみんなに見えている。みんなの視線が一点に集中するとミネルバも気づいたようで
「もう。クラリス。みんなに見られちゃったじゃない! マルス君。私お嫁にいけないから責任取ってくれる?」
上目遣いで俺を見るとクラリスが
「あんたにはバロンがいるでしょ。揶揄わないの」
と言ってミネルバを自分の席に強制的に戻した。それにしても女子部屋でどういう会話をしているんだろうか? 後でこっそりミネルバに聞いてみよう。
交流会と言う宴は大盛り上がりし、その日は終わった。
2030年9月3日 午後
今俺は体育館でクラリスと秘密特訓をしている。
昨日のAクラスの女子との戦いで結局俺は女子に対して殺気も放つことが出来なかった。今その練習をしているのだが……
「マルス……本気でやってるよね? なんかマルスからは……その……好意以外の感情が伝わってこなくて……」
「うん。大真面目に殺気を出しているつもりなんだけど……この前ずっと正座させられていた事とかを思い出しながらやってるんだけど……」
俺は本当一生懸命殺気を出そうとしている。だが俺の気をクラリスに当てるとクラリスの顔がどんどん赤くなっていく。
「マルス……もう無理ね。別の方法を考えましょう。このまま好き好きオーラを受け続けると……ね?」
クラリスが目を潤ませながら俺の方に近づいてくると俺の胸に飛び込んできて上目遣いで目を閉じた。最近の俺のリア充っぷりが半端じゃない。そのまま唇を重ねてからクラリスに
「明日エリーとも訓練してみるよ。エリーはキザールに殺気を当てているから、何かコツとかもあるかもしれないし」
「そうね。では明日私がミーシャと一緒に自習するわね」
俺の言葉にクラリスも納得してくれた。
俺たちはそのまま手を恋人つなぎで教室に戻ると、リーガン公爵が居てイザーク辺境伯領へは明後日出発するようにと言われた。
2030年9月4日 午後
「エリー、俺に殺気を向けてくれないか?」
昨日と同じようにエリーと一緒に体育館にいる。
「……無理……出来ない……」
やっぱりそうだよな……
「どうしても無理か?」
「……試す?……」
「頼む!」
俺はそう言ってエリーの殺気の出し方を感じようとしたのだが……
「……これ殺気?」
エリーから感じたのは愛情というか信頼というかとにかく殺気とは一番かけ離れたものだった。
「……だから無理……マルスにだけは……殺気……出せない」
エリーが涙をためながら俺に言った。
「……命の恩人……私の全てに……殺気は……」
ついにエリーは泣き出してしまった。
「ごめん。エリー。女の子に攻撃できないからどうしたらいいか考えていて」
俺はそう言ってエリーの肩に手をかけるとエリーが
「……武神祭?……」
俺の胸に顔を埋めながら聞いてくる。
「うん。そうだね。この前Aクラスの女子に攻撃できなくて」
エリーは俺の目をしっかり見て
「……武神祭は……風魔法で……包み込むように場外」
あ、それだったら出来るかもしれない。
「実戦は……私たちが戦う」
そうだな……無理に俺が戦わなくてもいいのかもしれない。
「ありがとう。エリーの言う通りだ。来年の武神祭は風魔法で戦うよ。そして実戦の場合はエリー達に任せると思うけど、多分エリー達が傷ついたら俺も参戦できると思う。好きな人が傷つけられてまで攻撃できないなんて事はないと思うから」
俺はそう言ってエリーを抱きしめた。
エリーと一緒にSクラスに戻ろうとしたが、その前にさっきまでいた体育館とは違う体育館が目に入り、そこにサーシャが居たので、俺たちもそこに行くことにした。
俺たちが体育館に入ると担任の先生もビックリしていたが
「リーガン公爵からは聞いております。授業をご覧になってください」
と言ってくれたので、俺たちはサーシャの隣に向かう。それにしても俺に対しても敬語を使うのか? ご覧になるって……
「明日出発のようね。ミーシャをよろしくね」
サーシャが笑顔でそう言うが、視線は1人の女子生徒に向かっている。
「もちろんです。あの子ですか?」
俺がそう聞くとサーシャは静かにうなずいた。エリーは何の話をしているのかなんとなく気づいているかもしれない。
【名前】リリアン
【称号】-
【身分】人族・平民
【状態】良好
【年齢】10歳
【レベル】15
【HP】24/24
【MP】25/25
【筋力】17
【敏捷】19
【魔力】15
【器用】14
【耐久】14
【運】1
【特殊能力】鞭術(Lv2/E)
【特殊能力】土魔法(Lv2/E)
【特殊能力】神聖魔法(Lv1/G)
神聖魔法使いは成長が早いとリーガン公爵から聞いていたが……リリアンは一部分の成長が凄かった。エリーと同じくらい大きかった。あれ? 待てよ? クラリスってリーガン公爵からどう見られているのだろうか? どう考えてももう大人のような体つきをしていると思うが……
「サーシャ先生、質問してもよろしいですか?」
俺がサーシャの方を向いて聞くとサーシャはそのままの姿勢で
「ええ。いいわよ。でも視線はそっちを向けない。分かっているわよね?」
「はい。あの子はどうやって育てるのですか?」
「まずは少ない最大MPをとにかく上げることが最優先ね。MPを上げるためにレベルを上げるようなものね。魔力も高いほうが良いのかもしれないけどあの魔法を使える子は基本迷宮に潜ったり、戦闘に参加したりはしないから無理に上げる必要はないのよね」
え?神聖魔法使いって迷宮に潜らないの?
「なんで迷宮に潜らないのですか?」
「そんなの当り前じゃない。死んでしまったらどうするのよ? A級冒険者は代わりはいるけどあの子たちの代わりは居ないのよ?」
そこまで神聖魔法使いは優遇されるのか……
「でもそうしたらいざという時に回復できなくないですか?」
「でも毎日のように高難易度ダンジョンにアタックは出来るでしょ? 迷宮でダメージをもらって帰ってきてポーションで回復しようとしてもすぐには回復しないわ。何日かかかって傷が癒えるくらいね。でもあの子たちがいれば翌日にすぐに行けるようになるでしょ? これだけで大きな差よ。レベル上げの効率も変わってくるしね」
まぁ言っている事は確かに分かるが、一緒に行けばパーティの安全度は高くなると思うのだが……・
「そういうものなんですね……僕たちも仲間に出来たら考えます。ありがとうございました」
俺がそう言って立ち去ろうとすると神聖魔法使いのリリアンが俺の所にやってきて
「もしかして私を見に来ました? 付き合ってくれたらパーティに入ってもいいですよ?」
完全に神聖魔法使えるから上から目線だな。
「あ、ありがとう。でも俺はサーシャ先生に出立の挨拶をしに来ただけなんだ。あとパーティメンバーは間に合っているから大丈夫だよ」
俺はそう言ってサーシャとリリアンに頭を下げてエリーの手を握って体育館から立ち去った。エリーからは殺気のようなものがリリアンに対して向けられている。まぁキザールの時ほどの殺気ではないがリリアンは相当ビビっているようだ。こうやって殺気を出すのか……ここにきて大正解だったな。
教室に帰っている最中にエリーが
「……あれ……いらない……マルスとクラリスがいる……」
どうやら完全に神聖魔法使いと分かったようだ。
「当然。【黎明】の雰囲気を壊すような人は誰であっても御免だね」
エリーはほっとしたようで俺の方に身を寄せる。俺たちは教室に戻ってから明日からの遠征の準備を整えるのであった。
運の使い所間違ってますね。










