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春から夏に移り変わるくらいの、心地良い風が吹いている晴天のある日。ついにこの日が来てしまった。両親とともに王宮に行き、国王夫妻と、噂の婚約者候補、王太子様に会うのだ。
自分も相手もまだ5歳とはいえ、身構えてしまう。ゲームの終盤では、ベアトリス(私)に興味が持てず結婚という制度については諦めて生きてきただの、ヒロインに出会って恋を知っただの、この先も邪魔をするなら手段は選ばないだの、なかなかにこっぴどく振られていた。今現在、王太子のことは好きでも嫌いでも無いのだが、どうしてもマイナスなイメージが先行してしまう。
知り合いもいないアウェーな地で、若干蚊帳の外になり暇を持て余し始めた頃、すっかり打ち解けている国王夫妻と両親が仲良く談笑しているところに、剣術の訓練が長引いていたらしい王太子が遅れてやってきた。
「遅くなり申し訳ございません。」
透き通る様な金色の髪は緩くパーマがかかった様にふわふわしており、深い海の様な碧い瞳、陶器の様な肌で、ほっぺたがぽよぽよしているところが唯一子供らしい。ファッションに疎い私でも一目で上質と分かる王族の正装に身を包んでいる。ゲームの補正があれば頭上に輪っかが出ているはずだ。何というか……
「て……っ!」
「て……?」
天使や!!天使がいらっしゃる!!!!何て可愛いの!!!!!!
そういえば、ラファエルの幼少期のスチルはゲームに無かったから、何となく15歳の彼がそのまま出てくるイメージだったんだよなぁ。まさかこんなエンジェルが出てくるとは。
あまりの衝撃にしばらく頭が真っ白になってしまった。いかんいかん。
「初めまして、ベアトリス・ネージュと申します。お会いできて嬉しいです。」
必死に練習したカーテシーでご挨拶。
「こちらこそ。ラファエル・ルーヴェンです。今日はありがとうございます。」
にっこり微笑む顔はやっぱり天使だ。可愛すぎるしほっぺたぷにぷにさせて欲しい。気を抜くと変な扉を開いてしまいそうだわ。
妄想が膨らみ口数が少なくニヨニヨしている私と、時々トリップしている相手にどうしたらいいか困惑している王太子。初々しい様子だと勘違いし、生暖かい目で見守っていた両親達が、要らぬ気を利かせてくれて、王太子と2人きりで、王宮の庭園を案内してもらうことになった。
さすがは国のトップが住まうお家のお庭である。豪奢な造りで様々な花や作り物が並べられつつも、品があり圧倒される。我が家(公爵家)もなかなかのものだと思っていたし、実際に王都の中ではトップクラスなのだが、王宮は桁違いだ。気を抜くと迷子になりそうである。
身構えていた割に、王太子とはすぐに打ち解け、お互いをラファエル、ベアトリスと名前で呼び合うようになった。素敵な庭園を散歩しながら、色々な話をした。特に盛り上がったのが、ラファエルが勉強している他国の話。地形も言語も全く異なるのだが、熱帯らしい気候や衣装の特徴、特産物のスパイスなど、どう考えても前世でいうインドなのだ。インドと言えば、
「カレーですよね!」
「かれー……?ですか?」ラファエルがきょとんとしている。
しまった!声に出ちゃってた。
「スパイスをブレンドして野菜や肉を煮込んだ料理です。とっても美味しいんですよ~!もしかそたらその国の一般家庭では普及しているかも知れません。」インドならね。
「ベアトリスは物知りなんですね!カレー、ぜひ食べてみたいです。」
ラファエルの瞳がキラキラしている。可愛い。
この国は、全ての面で西洋に近い感じがする。街並みも、料理も、人種も。主食はパンが多いし、米やパスタもあるが、食卓に上がることはあまりない。そしてパンはハード系ばかりだ。
考え出したらカレー食べたくなってきた。もちろん米で。カレールウはこの世界には無さそうだが、スパイスがあれば問題無い。前世ではソロキャンプでスパイスカレーを極めていたのだから!
「今から作りましょう!勉強の為に取り寄せてあるスパイスがあるんですよね!とっても食べたくなりました!」
「ベアトリスが料理を……?」またもやきょとん顔のラファエル。今日この顔多いな。
しまった!公爵令嬢は料理しないじゃん!そもそも5歳のちびっこがいっちょ前に料理出来たら変じゃん!いつも専属の料理人達に作ってもらってるじゃん!
でもカレーが食べたい…。考え出したらよだれ出そう…。
どうしてもカレーが食べたい私は、ままごと程度で料理をかじっていること、大したことはできないことをアピールしつつ、ラファエルに頼み込んで、危険だと思ったら王宮の料理人に手伝ってもらうことを条件に、王宮の調理場を借りて、必要な食材を揃えてもらった。スパイスはこの世界での名前が分からないし、どう特徴を述べれば伝わるのかも分からず、一通り出してもらって、見た目や香りで選ぶことにした。




