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「おまけ」普通な対応。いわゆる普通な普通って?

今回はニャルさんの一人称


「何だあの服? ……あっ顔は超ーいいじゃん。おいおま――ちっ、行っちまったか」


「コスプレかしら? クスクス」


「うお、なんでこんなところに神父が。……おぉ…………はっ!? いかんいかん、妻に怒られてしまう」


「……え!? すっげぇ美人。――白髪……外国人かな?」



 ――――ふふ。やはり――この外見は、目立ってしまうか。


 まあ、いい。たまにはこういうのも――悪くないだろう。

 今回は人混みの中で哲学を始めたらどうなるのかを見てみるのが目的だからね。


「そこのスーツを着た賢そうな君」


 何人かが歩を止める。

 ――自分が呼ばれたかと思った者。または、私のように観察が好きな者。あるいは――ただの野次馬。

 ふふ。やはり――――人間は、興味深い。


 ――そんな歩を止めたうちの一人が、口を開いた。


「誰か、私を呼んだかね?」


「いえ、自尊心の高い貴方は違います」


「っはあ!?なに!? 失礼なや――」


「だから、細身の――そこの君」


「っっああ”^^^~ぁ頭にきた! ッ知らん!」


 無視され余計にキレたみたいだね。

 ――ふふ、元から賢く無いことがより際立つことに気づかないのだろうか。



 だが――――直ぐに立ち去った点は賢さを評価できる。



 そんなことを考えていると、


「?……?……あ、えっと、細身……僕……でしょうか? えっと? その?」


 今度はなよなよした地味な者が、自身の顔を指さしながらそわそわ体を動かしながら反応を待っていた。


 …………。


 ふぅ、確かにスーツを着ていて細いが、君じゃない。典型的な一部の単語だけしか見ない傾聴力のない人間なのだろう。


「違う、君のような指示待ち人間は賢いとは言えない。単語だけでなく、文章全体を通して視るように」


「え!?あっ、ひっ、ししししゅれいしましたあ”!!」


 ? この男は、怯えるように何を謝っているのだろうか。


 ――――何も非はないではないか。


 〝私じゃなかったんですねで済む話〟じゃぁないかな?


「君は、何を謝っているんだい?」


「ひい!! ごめんなさい!本当にごめんなさい!」


 ――ああ。――――〝そういう環境〟で、上司から人権を取り上げられているのだろう。


「……私は何も怒っていないよ。勘違いは誰にでもあるでしょう? だから――大丈夫だよ。

 会社に遅れないように、先のことは忘れ――もう、行くと良い」


「えっ、えっと、あっ、はい!失礼します!!」


 気弱そうな男は、思い出したかのように走り出す。

 ――ふふふ、この人込みを駆けていくのは――――少し危ないんじゃないかな。

 面白い子も、いたものだ。


 …………


 ……さて、と。


「先ほどからこの場を伺っている、君。賢くはないと謙遜な姿勢を取りつつ、万が一自分が呼ばれていたらとこの場に留まる判断をした君。……そう、眼鏡をかけた――」


 …………。


 おや、お前だったのか。


 ふふ、こんな場で出会うとは、ね。

 より楽しむ為に、大半の感覚を抑えているのが――逆にあだとなっただろうか。

 ……いや、この奇妙な出会い方へとつながったと捉え、喜ぶべ――


「はて、どなた様でしょうか? わたくし、良く、見間違われるような髪型でして」


 …………。


 …………?


 なんだ、こいつ。しらじらしい。

 生体反応を見なくても分かる。いつものお前じゃないか。


 …………。


 ――こいつ! なるほど、そういうことか!

 いつの間にか野次馬が増えているではないか。「この人とは知り合いじゃありません」と、周りに対して言いたい訳か! 〝私『は』普通の人ですよ〟、と。

 ――それでいて――――呼びかけを無視するような〝無礼な人ではない〟、と。


「……ふふ、本当に――――――君は、賢いようだね」


 ――だが、他の者が返答している間に無視して行った方が"印象に残りにくい"のではないかな? ここで私と会話を継続する方が"変な目で見られる"のでは、ないかな?


 …………ふふ。相変わらず――君は、抜けているね。


 ……いや、もしや私が街中で瞬間移動をして肩を掴んできたら、とでも想定した上での判断なのだろうか? 呪文で躓かせ無様に転ばせるとでも思ったのだろうか?



 ――〝最初から普通に会話した方が自然〟と?



 ――――ッふふ。仮にそうだとしたら――――やはり、興味深い。


「? 私のことかはわかりませんが、お褒めに与り光栄です。

 そろそろ、行ってもよろしいでしょうか?」


 なるほど。普段『俺は普通じゃない』と言いつつも、社会では『私は世間の普通を心がけている』という訳か。

 ――ふふ。私が言うのもあれだが――とんだ、ペテン師ではないか。


 …………。



 ――――面白い。この状態でなら、また別の反応が――見られるのではないだろうか?



 ――――このまま行かせてしまうなど勿体ない。


 ――――逃がさないよ。



 ――私は



 ――――――這い寄る混沌なのだから。



「――いえ、お時間は取りません。一つだけ。


 ――――〝普通とは、何か〟


 貴方の考えを――軽く教えて頂ければ」


 …………♪


 さあ――どう出る。


 いつものように冷たい発言を叩きつけるか? それとも判断を放棄して逃げ去るか?

 ――ふふ。後者はないだろうね、お前なら。


「普通、ですか。……そうですね、『共通認識』、あるいは、『無難で変で無い』、これらを、普通と称しているのではないでしょうか。と、私は思います」


「――へえ。――――なるほど」



 …………。



 ……予想以上に、彼にしては普通な回答だ。

 共通認識に、無難で変でない、か。


 …………。


 確かに、以前に返ってきた感染者の脳死、自己判断の放棄、という表現より大分マイルドではないか。

 結論で出した不変や終点と言う分かりにくい表現も今回は避けているようだね。


 ……そもそも、この解は彼にとっての普通であって、普通な表現だとそれは普通ではなく『普遍』と呼ばれるものだしね。

 普通は普遍であるべきという認識は評価できるけど。


 ……喋り方が変なのも――――相変わらずだね。ふふ。


 そんなことを考えていると、


「それでは、失礼しますね」


 男は、一礼をして――踵を返す。

 

 ――本当に、彼は律義な奴だ。……――だが。


「お前……。――――ふふ、後で覚えていることだ」


「……失礼。……あ、今ならちょうどいいんじゃないかな? では」


 男は再び一礼をし、この場から立ち去った。


 ……行ったか。

 まさか――初対面を装われるとは、ね。

 

 ――ふふ、まあ、私を認識した上で私と再会を果たせる者の方が少ないのは確かといえるかな。

 軽い憤りを感じそうにはなったが、っふふ、こういう初めての体験は、やはり――面白い。


 …………。


 さすがに、野次馬が増え過ぎたか。

 服だけでなく、顔も目立つみたいだからね。


 …………。


 …………。


 ――――あいつ! 最後に言い放った今ならちょうどいいってそういう意味か!!


 ッハハハ! いいだろう。立つ鳥跡を濁さずとは言ったものだ。もし最初から目撃者の処理まで見越して留まったのなら感服していたのだが……。

 あの反応だと、今思いついたんだろうね。


 ――ふふ。――ふふふふ。――――やはり、抜けているよ――お前。



 ……いろんなシャッター音が――いい加減、うるさいな。


「私は見世物じゃないのだけどね。――ああそうだ。カルナマゴスの書に興味がある人は――この場にいるかな?」


「あ!喋った! キャアアア^^^~~良く分からないけどこっち向いてー!」


「あら! リアルなマネキンかと思ったら生きていたのね~~ホホホ!」


「こっち! ほらこっち見て!」


「……あれ? ここどこ?」


「ぼっぼく! ぼぼぼくのほぅお!」


「ねえ、君?女?ラインやってる?ウチこない?来るよね?」


「てめーーぬけがけしてんじゃあねえぞ!」


「あ? だれてめ?」


「どうも初めまして、自分、こういうものです。突然ですがアイドルに興味はございませんか? 素晴らしいプロポーションかと!」


「おぃぃぃ割り込んでんじゃねぇ~~ぞがきがぁ」


「そりゃおめだろ?」


「あああ?」


「お、落ち着いて、お二人とも。あ、名刺がまだでしたね、どうも、自分――」


「キャハハ! おじさん3人ナンパ失敗して喧嘩してる~動画動画~~」


 まったく、人間とは騒がしいものだ。

 ――ふふ。それがまた――――愛おしいんだけどね。


 さて、興味深いものが大好きな君たち。是非、楽しんで逝ってね。

 写真映えする見慣れない生き者たちが……――――君たちを歓迎してくれるだろう。


 せいぜい……――ふふ。



 ――――楽しい反応を見せてくれると、嬉しいな。


普遍、ノーマル、無難。この辺が多くの場で通じる普通でしょうか

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