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転生し、ポジティブシンキン。

天蓋の中でくるくる回るモビール。

うさぎ、ぶた、ぞう。…なのか?

かわいらしくデフォルメされた人形には知っている動物と若干違う点がある。

うさぎは頭頂部に角が一本あり、ぶたには巨大な牙が生えている。

ぞうに至っては眉間に目がもう一個あるぞ。なにこれこわい。魔物っぽい。

いいのかこれが赤子の上でくるくる回るの。

もうずっとそんな光景しか見ていないが、あまり眺めるとすぐに眠くなるので見るのをやめた。

私はやはり、生きていた世界とは違う世界に産まれたのだろう。

あの父親の言葉ではっきりとした記憶…この場合もう前世の記憶というべきものが、

頭の中にフラッシュバックされた。

私は前世で、一般的な大きくも小さくもない会社の会社員で、

ちょっとゲームに興味の強い普通の28歳の女だった。

会社から帰るとすぐに風呂に入って夜な夜なハマった乙女ゲームをやり倒す日々。

自分の働いたお金で推しへの出費は惜しまない。私の世界は労働とゲームで出来ていた。

…改めて振り返るとなかなか自分の人生には、クルものがあるが、別にそこまで悪かったとも思っていない。

あの日、恋もせずに死んでしまうまでは。

もう少し。もう少し頑張って外に出ていれば。

もう少しだけ勇気を出すのが早ければ。

私だって一人の女として、誰かに愛されたかもしれなかった。

人間後悔先に立たずとはよく言ったものだ。いくら悔やんでも悔やみきれない。


――――――普通に死んでしまったならば。


そう。私は転生した。幸か不幸か、過去の記憶を持ったまま、再び生を得た。

これは神の啓示だ。無念を残して死んだ私に、前世の雪辱を晴らして見せよというのだ。

命短し、恋せよ乙女。

命あるなら、恋して見せようほととぎすッ!!

と、いうわけで、今世ではきっとこの世界で真実の恋愛をしてみせると誓った私。

だが、これにも神は試練を与えたもう。

今世での私の名はエリザベス。

前世でドはまりしてしゃぶりつくした乙女ゲーム、

「天使のパラヴィエル~戦乙女の聖なる祈り~」のバッドエンドの帝王!稀代の悪女!超・悪!

災厄の悪役令嬢!エリザベス・アル・ルガリオンなのだ。

やばい、盛り上がってきた。思い出したらすごく楽しくなってきた。本当に好きだったんだもん。この乙女ゲーム。だが、冷静に考えねばならない。

問題はこの悪役令嬢、イロコイには全く関わらない。

ゲームに出てきたシナリオでは、ヒロインと出会う16歳からのエリザベスしか出てこない。

公爵家ルガリオンの一人娘で、第一王子の婚約者として現れ、事あるごとに黒幕として立ちはだかる。

どの攻略対象のルートを選んでも、裏で糸を引いているのはエリザベスだった。

「天使のパラヴィエル」、愛称『天パラ』の大まかなストーリーはこうだ。

田舎町で天真爛漫に育った主人公のエアリスは、16歳の誕生日に突然自分の親が本当の親ではなく、

王家の血を引いていることを知らされる。彼女は本当の親に一目会いたさに、魔術試験を受けて

王立魔術学院に入学し、寮生という形で王都に上る。

そこで出会った婚約者たちとめくるめく恋模様を繰り広げながら、戦火に巻き込まれていく。

うん。戦火に。

そう、このゲームの特異なところは、学院の卒業とか、主人公が誰かと結婚してめでたしとかじゃない。それぞれルートがあって最終的に結ばれるハッピーエンドはあるが、必ずどのルートでも必須で17歳、二年生の夏に戦争が起こる。隣国が突如パラヴィエルに攻め入ってくる。

そしてこの時までに一定条件のステータスを満たしていれば、エアリスはサブタイトルの通り、「戦乙女」として覚醒イベントに突入するのだ。このステータスを満たすのは普通にレベル上げしていれば、そう難しいことではない。『天パラ』にはバトル要素も結構あって、攻略対象によってはえげつないレベル上げも要求された。カンストすれば裏ボスならぬ隠しキャラも攻略可能だったはずだ。

あれ。何だか断片的に曖昧だな。私がこのゲームのことを忘れる筈はないのに。

赤ちゃんだから脳のキャパが追い付いていないのだろうか。

それとも転生で記憶がバグっているのだろうか。まずいな、これからの重要なファクターなのに。

とにかく、思い出せる範囲だけでも思い出しておこう。そしてしっかり記憶にとどめないと。


どのルートも確か最終的には、『神の怒り』イベントが起こる。この不可避のイベントの黒幕が、エリザベスなのだ。戦争の原因の張本人はエリザベスで、パラヴィエルを滅ぼしてルガリオンを再興しようとする。その為に邪魔な主人公と攻略者を殺そうと、邪悪な魔術で黒竜に姿を変えて立ちはだかるが、エリアスの聖なる祈りにより『神の怒り』が発動し、百年前にルガリオンを滅ぼした古代竜を召喚してエリザベスを倒すのだ。

乙女ゲームにしては何気に結構壮大な設定と、アクの強すぎる個性的なキャラででコアなファン層を獲得した、ひっそり人気のゲームだった。


話を戻すが、イロコイ全く興味なしのこの悪役令嬢。

最終的には滅ぼされちゃうor竜になって世界を滅ぼしちゃう。超悪い奴なのに竜にまでなっちゃったら、誰が「お前を守りたい」とか言ってくれるっつーんだ。前世の私が恋するよりムリゲーじゃねぇか。

だが待てよ。そもそも私自身はただの会社員28歳。果たして今赤子とはいえ、成長してそんなに悪い奴になれるだろうか。体も心も一度は治安ナンバーワンな日本社会で育った身。良識的なやつとか、モラルとか、あんまり自信はないけど結構そこまでひどく無いとも思うんだ。私という魂がこのエリザベスに転生した時点で、このゲームシナリオは既に破綻しているのでは。

そう考えたら少し気分が楽になってきた。うん、そうだ、悪役令嬢なんてヤメよう!エリザベスは普通に公爵令嬢として生きて、普通に恋をするのだ。そうすれば戦争も起こらないし竜になることもない。

幸い、16歳になればヒロインと攻略者たちとが通う魔術学院に一緒に通うのだし、ヒロインが選ばなかったイケメン攻略者とならイロコイに発展できるかもしれない!

この時の私は、好きな乙女ゲームの世界に生まれ変わって舞い上がっていたのかもしれない。

どう転んでもポジティブシンキン、ヒャウィゴー!になっていた。

もちろん、この世界を、エリザベスの闇を、甘く見ていたのだ。


おっしゃあああああッ!第二の人生キタコレ!今度こそ真実の恋をこの手に!


うぎゃぁぁぁあん。雄たけびは赤子の泣き声となって響き、まもなくイリザの授乳の刑に処された。

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