友だち ━不用意なささやき━
3.中村さんとメガネ
毎週土曜日の朝がくると僕はワクワクした。父のただ一人の部下である中村さんとバトミントンをするのだ。
後から聞いた話だと、赴任当時父もまだ司法試験に受かっておらず、立場的には中村さんと同じ事務官だったらしい。父はいつも筆記試験はトップに近い成績で通るのだが、口頭試問で落ちてしまう。きっと内弁慶で人前に出ると緊張してしまう性格のせいだろう。(僕もその性格を大いに引き継いでいる)
父が自ら伊豆仲島に志望してきたのは、“島は事件がほとんどないので試験勉強に専念できる”と考えたらしい。
◇
午前中の授業が終わり家に帰ってくると、ランドセルを脱ぎ捨てバトミントンの道具を持って事務室に声をかけた。
中村さんはいつもニコニコして庭に出てくる。
官舎の南側にはテニスコート半分ほどの芝生の庭が広がり、いつもそこがバトミントン場となった。
芝生に2本棒を立て、ネット代わりに黄色いひもを結んで渡す。そしてプレイが始まるのだ。
最初は高い球で打ち合いをして練習をしたあと試合を始める。
そして“10点勝負で試合を始める。中村さんが僕に速い球で打ち込みをすると、必ずメガネがずり落ちた。鼻眼鏡になったのを片手で引き上げる姿が、軟膏のCMをやっている喜劇役者とそっくりになる。
━頑張れ昆さん━
夜ねる時、いつも布団の中で思い出してはクスクス笑ってしまう。