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【初期版】三界の書 ―銀閃の聖騎士と緋剣使いの少年―  作者: 阿季
第2話 ソーラス遺跡・前編
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《3》なくなった剣

「ハリト……? ここにもいないのね」


 そこへ辺りを見回しながらイルミナがやってくる。


「あの子どこに行ったのかしら……」


 首を傾げる彼女はどこか落ち着かなさげだった。そういえば、とリルは思い出しながら口を開いた。


「ちょっと前にハリト君、リュウキの剣をじーっと見てましたね。その時の表情がすごく真面目な顔だったんで記憶に残ってるんですが」


 ちょうどリュウキがイルミナから借りた服に着替えに部屋に入っていた間のことだ。

 リルがどうしたのかたずねると、彼は何でもないと首を振ってその場から離れて行ったのだ。


「……俺の剣を?」


 リルの言葉にリュウキは眉をひそめる。


「リュウキの剣って、対<虚獣>用に聖術が刻まれてるけど、元々なんか名剣だったり特別な力があったりするの?」

「いや、普通の剣だな」


 リュウキは答えながら考える。天導協会からの支給品なのでその認識でいいだろう。刻印で強化した武器という点も今のご時世珍しくはない。

 ふぅんとリルは相槌を打った後、続けて軽口を叩いた。


「なんだ、聖女様の護衛だからなんかすごい剣かと思ったのに」

「…………」


 リュウキの視線が再び物騒になりかけたのでラナイは慌てて話題を変える。


「リュウキは剣の手入れでもしてきてください。水に濡れたままだと錆びちゃいますよ。ハリト君は私たちで探してきますから」


 そう言いながらラナイはリルの腕を引っ張る。確かに錆びたら厄介なのでリュウキは剣の手入れをすることにした。

 が、リュウキはあることに気が付いた。数分前に壁に立てかけておいたはずなのだが。


「……剣がない」





 消えた剣と少年。

 一見何の関係もなさそうだが、リュウキの剣をなぜかじっと見つめていたという目撃情報もある。

 その上、イルミナによるとハリトが剣を持ち出す可能性があるというのだ。


「私の主人は学者で、西の森にあるソーラス遺跡の調査をしているんです。マイスも助手として手伝っているんですが、数時間前複数の乱入者が現れて遺跡が占拠されてしまったそうなんです」


 イルミナは不安そうな様子で話した。


「主人は怪我をしながらも無事だったんですが、マイスを含めた数人がまだ中に……」


 ハリトが帰宅した時にイルミナがやけに心配していたのは、長男が行方不明の上にハリトまで何かあったらと気が気ではなかったのだ。


「占拠された後、遺跡の奥には魔気の壁ができていて入ることができないそうです。ハリトは天導協会の方の剣なら壊せると思って持ち出したのかもしれません……」


 その後、自分も行くというイルミナを説得して家に残し、リルたちは村の近くにあるソーラス遺跡に向かった。

 剣を持ち出されてしまったリュウキだったが、他に短剣を持っていたので完全に丸腰になったわけではなかった。

 戦闘になる可能性が高いので、乾いていなかったが元の服に着替えようとしたが、イルミナは構わないと言ったのでそのままだ。イルミナにはハリトがリュウキの剣を勝手に持ち出したという引け目もあったのでそう言ったようだ。

 いくら了承してくれたとはいえ、借り物というのはやりにくいとリュウキは密かにため息をついた。

 まあ、実際戦闘になったらそんなこと考えている暇はなくなるが。


「しっかし、みすみす剣を持ち出されちゃうなんてリュウキも間抜けね」

「…………」


 リルに言われると気に障るが、一理あるので聞き流すことにした。

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