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《5》空色一閃

「そういうこった。妙な気は起こさない方が身のためだぜ」

「でないとみーんな海の藻屑だ」


 暇を持て余しているならず者たちが、捕縛陣の向こうからラナイたちの会話に割り込んできた。


「みんな……ね。確かにここにいる全員溺れちゃうねぇ」


 オウルがならず者たちの方に視線をやりながらそう言う。男たちは自分たちも含まれているような言い方をするオウルをおかしそうに見た。


「あん? 俺たちはもちろん溺れるわけないだろ」

「当ったり前だ」


 うんうんと頷く男たちにオウルはたずねる。


「へぇ、どんな方法で?」

「……何?」

「溺れない方法があるんでしょ? どんな方法なのかって聞いてるんだけど」

「………………」


 ならず者たちが沈黙する。誰も即座に答えないことから、自分たちの誰もその方法を知らないらしいと男たちは気づいた。

 それはもちろんオウルやラナイたちも。


「ふ、ふん。別に今聞けばいいだけだろ……脅かしやがって」

「俺たちが気づいてなかったことに気づかせてもらって感謝だぜ……な、なあ?」

「そ、そうだな。むしろここは余計なことを言ったって後悔するところだな、にーちゃん」


 男たちは口々に言った。それはオウルに向かってというよりも自身に言い聞かせているようだった。


()()()……ね。やっぱり他の場所にも仲間がいるか。……でも)


 床の捕縛陣を一瞥した後、オウルは再び口を開く。


「”その人たち”は本当に君たちを溺れさせないつもりだったのかな?」


 ――術式封じが込められたあの陣。


「……なんだと?」


 ――中途半端ではあるけども、あの子の聖力と合わせれば、おそらく。


 オウルは僅かに右手を動かす。


「だって、そのつもりなら最初にその方法を話してそうじゃない? 君たち金で雇われたって感じだよね。所詮は使い捨てって思われてるのかもよ?」


 口ではそう言いながら、頭の中で素早く思考を巡らせていく。


 ――陣には四つの術要石(ヴィカ)。術式を視たところ、異常があった場合何者かに知らせるようなものは仕組まれていなかった。


 それから、とオウルは周囲を探るように見る。


 ――目の前の彼ら以外に何者かの気配を感じることもない。


「う、うるせぇ!!」


 ラナイとオウルを連れてきた大柄の男が怒鳴った。一方、その周りの男たちは困惑気味に顔を見合わせ始める。


「……そうなのか……?」

「ま、まさか……」

「んなわけねぇ……よな……?」


 オウルに言い返していた男が動揺している仲間を振り返った。


「確認すれば済む話だろうが! お前らも落ち着け!!」


 だが、一度疑念を持った男たちはそう簡単に気を落ち着かせそうにない。

 見張りたちが混乱し、こちらへの注意が散漫になったのをオウルは見逃さなかった。


「……ティスファー」


 オウルがそう小さく名を呼ぶ。すると、ならず者たちが立っている床を中心に水の波紋のようなものが広がった。


「『水檻(アクエド)』」


 言葉が紡がれると同時、ならず者たちの足元に一つの大きな聖方陣が姿を現す。

 突然のことに男たちが驚く暇もあればこそ、その空色の聖方陣から大量の水が湧き上がり、瞬く間に彼らをその中に閉じ込めてしまった。ゆるく渦を巻く水の幕の中を一匹の魚の影が泳いでいく。


 それを確認しながらオウルは立ち上がる。右腕を軽く振ると、袖の下から空色の石のついた細長い飾りが滑り落ちてきた。

 青い腰帯の近くで揺れているものとほぼ同じだが、こちらは光刃の大部分に術式紋が浮かび上がっている。

 投具でもあるそれをぱしりと手の平で掴み、オウルは素早く逆袈裟に振るった。直後、床に描かれた捕縛陣が乾いた音を立てて砕け散る。


「!?」

「捕縛陣が!」

「すごい……」


 オウルの突然の行動にラナイをはじめ皆驚愕の表情を浮かべていた。


「いやいや、術式封じ等こちらが不利になるようなことをされる恐れがあると思ってたんでね。いろいろ想定して事前に対策しておいただけです。流石にそれなしでは俺もこんなことできませんから」


 にこりと微笑んでオウルはそう言う。


「オウルさん、いつの間に聖獣を……!?」

「ああ、あの子は回廊を歩いてる間に召喚しておいたんだよ。まあ誰か――たぶんそこ(大柄)の男の視線を感じてたから表立って行動できなくて、ちょっと時間かかったけどね」


 ラナイが驚いてたずねるとオウルは事もなげに説明した。

 術式封じは術の行使を妨げるものなので、すでに召喚されていた聖獣までは影響はないのだ。


「さ、出ましょうか。いつまでもこんなところにいるわけにはいかないでしょう?」

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