《6》キサラと捕縛陣
早速他の結界柱の社に向かおうかと思ったリルだったが、何かを思い出したように言った。
「そういえば、他の社に行く前にこの捕縛陣は……」
そもそも捕縛陣の話をしていたはずなのにだいぶ脱線してしまっていた。
「術者らしき小柄な人はここにはいないみたいだし、壊してみる?」
「いや、もし陣が壊れたことを察知できるような術を仕込まれていたら厄介だ。見た目だけではわからないからな……」
リルの提案にリュウキがそう返した。他にも何か罠があったら危険でもある。
捕縛陣の中の人たちの方をリルは申し訳なさそうな顔で見た。
「ううーん、もう少し辛抱してくださいね……怪我してる人もいるし急いで何とかしますから」
「いやいや、こっちは気にしなくていい! 他のところも同じことになってるならそっちの方へいってやってくれ!」
「俺たちはこいつら倒してくれただけで十分だしな!」
「気をつけてください」
「がんばって!」
門番兵をはじめ、中の人たちが口々にリルたちを後押しするように言葉をかけた。
「あの、私も何か手伝いましょうか?」
「いえ、一般の人はここで待って……ん!?」
なぜか女性が一人だけ外に出ているのでリルは目を瞠った。
「な、なんで捕縛陣から出られたんですか!?」
「え、そこの人たちに引っ張り出されて……」
「あ」
そういえばこの女性は、乗り込んだときにならず者が人質にしていたのを思い出したリルである。
「こいつらなら中の人出せるってこと……? でも寝てるし……」
まさか起こすわけにもいかない。すると、捕縛陣を見て思案顔だったキサラが顔を上げた。
「そうか、この陣は……」
何やら思い至った様子のキサラはならず者の方に歩いていき、彼らの傍にしゃがみ込んだ。
寝こけている彼らの頭の上からつま先まで見渡すと、今度は服を探り始めた。
「ちょ、ちょっと何やってるの?」
リルたちは面食らいながらキサラの謎の行動を見つめた。まさか追い剥ぎでもする気なのか……
キサラは答えず、ならず者の上着をめくったり、額を見たり、ポケットに手を突っ込んだりしている。
ならず者たちは寝ているものの時々くすぐったそうに身じろぎした。もちろんこの程度で起きるわけはないので誰も止めなかったが。
やがて、ならず者の袖をめくったところでキサラは言った。
「これか」
何を探していたのだろうとリルたちが覗き込むと、ならず者の手首に赤い石のついた金色の腕輪がはまっていた。
キサラはそれを遠慮なく抜き取る。
「これを着ければ中の人たちを出せるはずだ」
自分の腕に腕輪をはめるとキサラはすたすたと捕縛陣に向かう。そしてそのまま難なく陣を超えた。
「おお、入れた!」
「キサラすごい!」
ノイエスとリルは嬉しそうに声を上げた。リュウキは口には出さなかったもののやや目を見開いている。
キサラは捕縛陣の中にいる人の腕をつかんで二人ずつ外に出していく。怪我をしている若い門番兵が出てくるとノイエスは駆け寄った。
「お兄さん、今治療するね!」
「おう、助かる」
「ワタ坊、お願いね」
ノイエスがそう言うと、ワタ坊たちは若い門番兵の周りに集まる。そして黄色い光を放つと傷口の周囲が光を帯びた。数秒後その光が弾けた時には傷口が塞がっていた。
「ありがとな。痛くなくなったぜ」
「どういたしまして!」
ノイエスが若い門番兵の治療を終えたのを見てリルが口を開いた。
「よし、じゃあ他の社に乗り込む?」
「いや、その前にいくつか確認してからだ」
早速向かおうとしたリルをリュウキが引き止める。
「他の部屋や場所にならず者や残っている人がいないか念のため見回る」
主な目的は前者だ。隠れているならず者がいた場合仲間に知らされたりなど後々厄介なことになりかねない。
後者はその人を少しでも安心させるためである。
「あ、それなら僕のワタ坊たちに見てきてもらうよー」
ノイエスの頭や衣服などからわらわらと白い物体が顔を出し何体かは彼の周りを飛ぶ。
「あと、お前にはやってもらいたいことがある」
「ん?」
そう言ってリュウキはノイエスを見た。ワタ坊たちを行かせようとしていた彼は首を傾げる。
「結界柱に詳しかったよな」
「うん? それなりには? 点検とかしてるし」
「なら結界柱に異常がないか確認してくれないか。その気になれば結界柱を破壊すると言っているくらいだからな。結界柱に何か仕掛けている可能性もある」
「たしかに、遠隔操作できるようなのだと危険よね……」
ううむとリルは唸る。侵入者の男たちをやっつけて神殿に乗り込んでも、それでは変わらずこちらの動きが封じられてしまう。
「わかったよー。もしあったらできるだけなんとかしてみるね」
「ああ、頼む。解除が困難のようなら教えてくれ」
他にも詳しそうな人物がいるのでもしかしたら助けになるかもしれない。キサラの方をちらりと見ながらリュウキは言った。




