表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/75

《3》聖女の焦り

 ラナイはうっすらと目を開けた。頬や背中にふわふわしたものが当たっていて温かいことに首を傾げる。


「気がついたようだな」


 声のした方に視線を上げると、近くにキサラが立っていてこちらを見ていた。

 少し体を起こしたラナイは、どうやら自分は黒い大きな鳥――おそらくキサラの魔鳥――に寄りかかっていたようだと理解した。


「キサラさん……私は……っ!!」


 起きたところでまだ頭がぼんやりしていたラナイだったが、意識を失う直前の出来事を思い出し思わず飛び起きた。

 だが、自分やキサラの今の状況から考えてすぐに答えが出てしまう。


「……いえ、なんでもないです」


 ラナイは自分が気絶させられた後、リュウキが<力>を使ったであろうことは予想がついたのであえて確認はしなかった。

 リュウキ自身もあの力が危険なことはよくわかっている。もし使うことになっても細心の注意を払うだろう。ラナイはあの力を使うことは反対であるが。


 キサラはそんなラナイを瞬きして見ていたが、やがて口を開いた。


「体は大丈夫か?」

「はい。すみません」

「それなら移動していいだろうか。ラナイが起きたら連れてきてほしいとオウルに頼まれている」

「…………?」


 そこでラナイはこの場にキサラしか見当たらないことにようやく気づいた。


「そう遠くはない。あそこだ」


 目の前に立ったキサラが真横の方を指さす。ラナイもつられてキサラの示す方向に首を巡らせた。  

 そこには、かがんだオウルの後姿と翼がやや乱れたヴァレルと―――聖騎士の服を赤く染めているリル。

 彼女が座り込んでいる地面の周囲に見える赤い転々とした大小の染みは、血だろうか。


「リルさん!?」


 ラナイは血相を変えて駆け出した。確かに今いる場所から数十歩しか離れておらずラナイはすぐにリルの傍にたどり着いた。

 そこでは腕や肩にかけて傷を負ったリルがオウルに治癒を受けていた。


「あ、ラナイ起きたのね……ってあいたた」


 ラナイが近くにやってきたのを見たリルは少し動いてしまい傷に響いたようだ。


『まったく、あの怪我だったのよ。大人しくしときなさいよ!』


 ヴァレルがリルに向かって怒ったように言う。リルの意識はあるようなのでラナイはほっとした。

 しかし、リルの周囲の血の量は、当初はそれなりの出血だったことを物語っている。


「私のことよりその怪我は……!? あ、オウルさん私も手伝います」

「ありがとう。助かるよ」


 ラナイはオウルの隣で薄緑色の石がついた杖をリルに向けてかざした。程なくして淡い光がリルの傷を中心に包み込み始める。

 治癒術をリルに掛けながらオウルはたまに他に意識を向けているようだった。


「えっとこの怪我は、リュウキがあの死神を倒してくれた後魔族が襲ってきて……あ、でもなんか単独行動らしくて……組織だっての襲撃じゃないみたいで」


 リルはどう説明したものかと考えながら喋っていると、ラナイが顔を青ざめさせて自分を見ていることに気づき、慌てて話を変えた。


「大丈夫大丈夫。オウルがいつの間にか私たちに簡単な防御系の聖術かけてたみたいで、直撃……はしたんだけど、そんなに酷い怪我だったわけじゃないから!」


 ウルガのあの斬撃を食らう直前、リルは目の前に空色の聖方陣が一瞬展開したのを目撃していた。ほんの僅かの間のことだったので、遠くにいたリュウキ達には見えていなかっただろうが。


『何が大丈夫よ! あれだけ出血しておいてこっちは心臓が止まりそうになったのよ!!』


 リルの言葉にラナイではなくヴァレルが言い返す。


「そりゃ、かばった腕と肩から腰に掛けて怪我すればそれなりに血は出……」

『あの魔族の攻撃半端じゃなかったでしょ!? オウルの補助聖術がなかったらどうなってたか……!』


 ラナイはリルとヴァレルの会話をまだ心配そうな様子で聞いていたが、


「……っ!」


 突然びくりと肩を揺らすと目を見開く。この、感じは……


「……リュウキ?」


 ぽつりと呟き、ラナイはリュウキの姿を探す。そういえば近くにいない。


「リュウキはまだその魔族と交戦中で……あ」


 ラナイは気絶していたのでリュウキとウルガが戦っていることを知らないことにリルは気づく。とりあえずその辺の経緯を説明することにした。


「もともとリュウキに襲い掛かってきたのよ、その魔族。ウルガとかいうらしいんだけど……。私はその援護してたらこうなって……って、ちょっと!?」

『ラナイ!?』


 リルとヴァレルが驚いて声を上げた。辺りを見回していたラナイがいきなり立ち上がって走り出したのだ。しかもリュウキとウルガが戦っている方へ向かってである。

 リルは引き止めたかったがさすがに動けない。ヴァレルが飛んでラナイの前に回り込もうとしたが、


「待て。あっちは危ない」


 キサラが素早くラナイの腕をつかんだ。


「リュウキを止めないと……!」


 ラナイは焦りの表情を浮かべてそう言った。

 封印の力がまだ発動してるのが感じられる。発動しているということはまだ<力>を抑え込めきれていない証拠だ。

 このままではリュウキが<力>に呑み込まれてしまう。

 ラナイがあまりにも必死なので、何かあるのかとリルとヴァレルも二人が戦っている姿を見る。


「…………」


 オウルも僅かに眉をひそめてリュウキとウルガの方に視線を向けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ