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《3》聖女の回想

 礼拝堂でラナイは整然と並べられた長椅子の一つに腰かけ、静かに目を閉じ胸の前で両手を組んでいた。

 数分その姿勢で祈りを捧げた後、ゆっくりと目を開ける。前方にある祭壇や色鮮やかなステンドグラスを眺めながら、ラナイは今回の任務(祭器追跡任務)の話を聞かされた日の事を思い返していた。


 灰色の雲が空を覆っていた曇りの日だった。ラナイは午前中は聖気を込めた護符の作成、昼からは他の聖職者たちと聖堂内の清掃をしていた。

 それも日が暮れる前には終わり、厨房で夕食の準備を手伝っていると突然呼び出しを受けたのだ。


 ()()が何者かに盗まれ、聖域から持ち出された――


 そう告げられた時は頭の中が真っ白になった。それだけでも十分に衝撃を受けたのに、この任務にはリュウキまで加わるという。

 やっと少しは落ち着いてきていた彼が、こんなことを知ってしまったら……

 咄嗟に自分は反対の意を示したが、いつの間にか後ろにリュウキが立っていたのに気づいて言葉を失った。最初はいなかったはずなのだ。

 陽の傾き始めた部屋の中、リュウキは硬い表情を浮かべていたのを覚えている。どうやら彼はすでに話を聞いていたらしかった。


 それでも重ねて反対したが、あちらには聞く耳を持ってもらえなかった。本人が望んでいるのだから、と。

 聖域側はこのことを知ったら自分が反対する事も、リュウキが大人しく待っていないであろう事もわかっていたのかもしれない。

 始めはやり切れなさを感じていたが、幾分冷静になり悪いことばかりではないかもしれないと思った。


 三年……いや二年前からリュウキは。ほぼ変わりのない、それも軟禁状態のような日々を送って。

 立場上仕方のない事だとはわかっていた。わかっていたけれど。

 このままではいつまでも立ち直れないような気がしていたのだ。


 二人が身を置いていた聖堂ではラナイが傍にいることが多かったが、自分が近くにいるとやはりリュウキは三年前の事をどうしても思い出してしまうだろう。

 そんな自分が彼の傍にいるのを躊躇ったりもした。しかし、どこか危うくも見える彼を放っておけなかった。それに。


(私自身が離れたくはないと思ってしまうなんて。聖女として人々に寄り添い、思いやりの心を持たなければならないというのに……未熟ですね)


 小さくため息をつきラナイは項垂れる。

 せめて自分以外の誰かと交流を持てればまだ気が紛れるのではと考えたものの、あそこの人たちは必要以上に関わってくる人がいなかった。

 

 そんな時にこの任務の話が来たのだ。聞けば、自分たちだけではなく聖域騎士団からも二人任務に加わるという。

 どのくらいの期間かはわからないが、しばらく行動を共にするということだ。

 リュウキが自分以外の人と関わりと持ついい機会になるのではないかと思ったのである。


(お二人を待たずに強引に出発した時はどうなることかと思いましたが……)


 ラナイは苦笑いを浮かべた。とはいえ、無理もない事だったかもしれない。()()が関係していては。

 気が気でなかったリュウキは待つ時間も惜しいと思ったのだろう。勿論そんなことは表立って言えないのであんな伝言になっていたが。


 でも、なんとかうまく合流できて。しかもその二人……リルとオウルもいい人たちで。

 リュウキも少しずつではあるが、彼女たちに気を許し始めているように思える。


 その時、時を告げる鐘楼の鐘の音が聞こえてきた。


(……もうこんな時間。そろそろ行かないと)


 そう思いラナイは席を立つ。リュウキとの待ち合わせがあるのだ。礼拝堂の重厚な扉を押し開き外へ出た。

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