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【初期版】三界の書 ―銀閃の聖騎士と緋剣使いの少年―  作者: 阿季
第3話 ソーラス遺跡・後編
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《2》ラナイの特技?

「ソーラス遺跡だ」


 そう言ったのは魔族の女ではなく、意外にもリュウキだ。


「だね。蔓だか根だかの隙間から見える壁や床は変わってないよ」


 オウルも魔族に注意しつつ、周囲を確認して同意した。


「おい、どうして俺たちを中に入れた?」


 リュウキは魔族にたずねた。

 こっちは魔結界を壊そうとしていたのだから邪魔するはずだ。ところがこの魔族は邪魔するどころか中に入れてくれるとは解せない。

 この魔結界を張ったのはこの魔族ではないということか?


「魔結界を壊されると再構築が面倒だからだ。中に入れた方が手間が省ける」


 リュウキの予想は外れた。この結界を張っているのはこの女らしい。


「ということは遺跡を襲撃したのはあなた!?」


 聖契剣を向けながらリルは問いただす。


「違う」

「でも、この魔結界作ってるのはあなたなんでしょ?」

「そうだ。これを作ったのは私だが、遺跡の襲撃者ではない。証拠はないから信じるかどうかはそちら次第だが」


 リルは少し考えてから言った。


「うーん、中に入れてくれたから信じる」

「おい……」


 切っ先を下げて剣を消したリルにリュウキはいかにも反対だという目を向ける。


「だって、他にもハリト君無事に連れ出してくれたし、敵意もないみたいだし?」


 魔族の女は少し目を見開く。驚いたらしかった。


「……変わっているな」

「え、そう? 魔族だからって全員が全員悪者じゃないでしょ」


 それはリルの本心らしい。真顔で彼女はそう言った。


「なるほど、だから一緒にいるのか」


 魔族の女は一人で何やら納得した様子だ。リルは意味が分からず首を傾げる。


「え、何?」


 ふと、ラナイは人の声が聞こえた気がしてあたりを見回した。そして、少し首を上げた先に人が蔓に捕まっているのを見つけた。


「! あそこに人が!!」


 話していたリルたちもラナイの向いている方向を見る。ラナイは助けようと真っ先に駆けだした。

 そこにいたのはリルたちとそう変わらない年齢の少年だ。


「大丈夫ですか!?」


 ラナイが心配そうに声をかけると、少年は弱々しくラナイを見た。何とか意識はあるようだが、魔気に当てられ衰弱している。

 人間や神人にとって大量の魔気は毒になるのだ。


「あっちにも二人いる」


 魔族の女は別方向に視線を向ける。


「見てくるよ」


 そう言ってオウルがリル達から離れていった。

 リルとラナイが少年を拘束している蔓を引き剥がそうとするが動かない。リュウキも加わってみるがやはりびくともしなかった。


「なんだこれ……? ただの蔓じゃないのか」

「そうみたいですね……取れません」

「で、なんでラナイだけ巻き付いてるの?」

「自分でもよくわからないうちに……」

「「…………」」

(またか……)


 内心頭を抱えるリュウキである。そんなリュウキを他所に、前にも似たようなやりとりあったねーと呑気な二人であった。


「……おい」


 魔族の女までも何か言おうとする。


「あ、気にしないで、なんかもうラナイの特技みたいなもので」

「いや、そうじゃなく」

「?」


 魔族の女は続けて何かを言おうとするが、


「……を…けて……」


 蔓に拘束された少年が何かを弱々しく呟く。何かを伝えようとしているようなのでリルたちは少年を見た。


「気を…つけ…て……これ…うご…く……」

「え? これ……?」

「!!」


 言葉の意味を理解したリュウキが、ラナイに巻き付いてる蔓を今度は剣で斬ろうとするが、それよりも早く蔓が動く。


「きゃっ!」

「ラナイ!」


 ラナイの華奢な体は軽々と宙に浮いていた。彼女を助けようとリュウキが一歩踏み出すとその後ろ足に蔓が巻き付く。


「……っ」


 動きを阻まれたリュウキに今度はリルの警戒した声が飛んだ。


「リュウキ! 蔓が……!!」


 それまで微動だにしなかった蔓が一斉に動き、リルたちも捕らえようと襲い掛かってきた。

 自分まで足に巻き付かれたら面倒なので、聖契剣を召喚しながらリルは跳躍する。そして十分な高さまで飛ぶと聖気を込めた剣を上段に構えた。


「≪烈風刃(ルイクト)≫!!」


 叫ぶと共に地面に向かって銀色の剣を振り下ろす。

 すると剣を中心に風が巻き起こり、無数の刃となって周囲の蔓を切り裂いていく。リュウキの足に巻き付いていた蔓も切り裂かれ、拘束力を失くした。


「足場確保よし」


 リルは着地し、満足そうに言った。


「しっかし、こんなのが奥にいたなんて……これを閉じ込めるために魔結界張ってたのね」

「ああ」


 魔族の女は頷いた。

 この間にラナイの方は蔓の異変を察知して戻って来ていたらしいオウルによって助け出されていた。

 お礼を言っている様子のラナイを確認し、リュウキは改めて蔓を見やる。


(魔植物か……)


 魔植物とは魔術がかけられた植物のことだ。魔力を供給している核があるはずなのでそれを探し、破壊しなければならない。

 リルたちの周囲の蔓は払ったが、すぐに奥の方から再び蔓が伸びてくる。


「また来た! ……!?」


 蔓の先端が鈍く光ったのでリルは驚く。さっきはそんなことなかったのだ。

 リルがその場を飛び退くと蔓が床に突き刺さった。

 どうやら先端が刃物のように硬質化して鋭くなっているようだ。立て続けに刃となった蔓が2~3本襲い掛かってくる。

 すべて避けたところでリルの肩が誰かとぶつかった。


「「!」」


 リュウキだった。彼の方も刃となった蔓が襲い掛かっていたのだ。


「こっちはすでに蔓が突き刺さってるけど」

「こっちもだ」


 そろそろ蔓と相対しないといけなさそうだ。床の蔓を取り除いた面積はそう広くはない。

 少し離れた場所ではオウルがラナイを守りながら投具で攻撃しているのが見えた。光の刃でできた複数の投具が一直線に飛び、蔓を引き裂いていく。

 オウルたちと合流したいが、あっちも蔓に襲われていてすぐには難しそうである。


「オウルたちとはぐれないように、したい、ところ、ね!」


 リルは喋りながら次々と襲い掛かってくる先端が刃状になった蔓を剣で弾き返していく。

 いくつか蔓を対処したところでリルはある事に気づいた。後ろに立ったリュウキはこちらの動きに合わせて剣を振るっているようなのだ。

 リルが左に動くと背中のリュウキは右へ、彼女の死角になっている刃状の蔓は彼が弾いているらしく不意打ちも食らわない。


「あんた意外とやるじゃない!」


 素直に感心したリルが背後に向かってそう声をかけると、


「まあ、お前みたいな何も考えずに突っ込んでいくやつの動きはわかりやすいからな」


 褒めたにもかかわらずリュウキからはそんな言葉が返された。


「なんですって!?」

「前ちゃんと見てろ。右斜め下から来る」


 こちらを振り向きそうになるリルにリュウキが素っ気なく言う。慌てて見ると言葉通り右方向から蔓が迫っていた。

 後ろで怒りを蔓に発散させるリルを感じながらリュウキは僅かに目を伏せる。


(……こうやって立ち回るのは久しぶりか。覚えてるものだな)


 リルの動きを捉えつつ周囲の蔓を捌くリュウキの頭の片隅を、悪戯っぽい笑顔を浮かべた栗色の髪の青年が掠めていく。

 早くあいつに追いつきたくて懸命に修業した日々。

 やっと一緒に戦っていいと言われたのは五年くらい前だったか。それからは戦いの最中でもあいつの動きを読もうとしているうちにいつの間にか連携ができるようになっていた。


 もう二度と、こんなことをする日は来ないと思っていたが――――


 そこでリュウキは唐突に頭上で気配が膨れ上がった事に気付いた。同時に周囲が急に暗くなる。


「!?」

「上だ!!」


 突然の事にリルが動きを止める一方、リュウキが見上げて声を上げる。

 背中合わせに立った二人の頭上にいつの間にか幹ほどはあろうかという太い蔓が迫っていた。何十本という蔓が束になったような外見で、ぶつかったらひとたまりもない重量級の蔓だ。

 恐らくこちらに直前まで気配を悟らせないように、他の蔓に紛れてばらばらに接近していたのだろう。

 リルとリュウキは間一髪で左右に飛び退き、巨大な蔓は二人が立っていた床に轟音を上げて勢いよく衝突した。

 蔓はそれで床にめり込み止まったが、今度は床の方に大きく亀裂が走りあっという間に崩れ始める。

 しかもどうやら下にはまだ空間があるらしく、壊れた床はその中へと吸い込まれるように落ちていく。

 近くに着地した二人も足元の床が崩壊し巻き込まれてしまった。

ラナイに巻き付いた蔓の半分くらいは特技?によるものでしょう。

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