二頁目②
「じゃああとは、必要なものを渡すわね」
まずは制服。これは受付に立つのもあり部署で統一されている。たくさん予備があるので、サイズが合ったのをいくつか持って帰って自分で管理する。下はスカートとパンツどちらも用意されているので、各自好きな方で良いそうだ。スカートは慣れないというのもあるけれど、寒いのが嫌なのでパンツの方を選んだ。
そして、腕輪の形の専用端末。この組織に所属する人間は全員持っていて、連絡をとったり、色々なデータベースにアクセスできる。スマホみたいなものかな。これは操作に声を使うけれど、意志を持って話し掛けないと動かないので、日常会話での誤作動はしないらしい。ものすごく未来感があるアイテムだ。手渡された腕輪を左腕にはめた。
「とりあえず私とクロエとレックス……それに、シノブ君も入ってるわ」
「はい。ありがとうございます」
フェリシテさんはこれから事務の業務に戻るので、この後は一人でオフィスエリアを見て回ることにした。
端末は施設マップと現在地も出るとのことで、早速腕輪に向かって【現在地】と控えめに呟いてみる。すると、小さなホログラム画面のようなものが現れてマップが映し出された。このぴかぴかと点滅しているところが今自分のいるところなんだろう。完全にSFの世界だ。これは、かなり胸が踊る。
「明日は今日と同じで、女子棟の入り口まで迎えに行くわね」
「わかりました」
「それじゃあ、気をつけていってらっしゃい」
何かあったら連絡してね、と言うフェリシテさんにお辞儀をして、うろうろとあてもなく歩き回る。
受付近くには小さなお店があって、元の世界でいうコンビニみたいな品揃え。明日からのために、小さな持ち運びできるメモ帳を手にいれた。基本買い物も全て端末か生体認証でできるので便利だ。残高が結構な金額だったような気がするけれど……とりあえず見なかったことにした。
ここは朝通ったので見覚えがある。右に曲がってずっと行くと医務室か。クロエさんと、『シノブ』がいるだろうか。
マップと見比べて歩いているけれど、それでも迷ってしまいそうだ。ここを真っ直ぐいくと──中庭。あとは、屋上にも庭園がある。中庭も気になるけれど、屋上ということは空が見られるかな。
屋上へと続く階段を上る。外に出る扉にはその他出入口と同じく生体認証が必要になっていた。手をかざしてみると、無事開いて安心する。
屋上は外そのままではなく、透明なガラスでドーム状に覆われていた。まあ窓も嵌め殺しなくらいだから当たり前か。自然の風は感じられないけれど、雨の日も屋上に出られるのはいいかもしれない。
整えられた庭園には様々な花があったり、一角に畑も設けられていて野菜や果物も育てられているようだ。ベンチが点在しているけれどまだ業務時間帯だからか人の姿はほぼ見えない。
ドームの端、フェンスに近寄ってみると片側は海で、もう片側は島の中の緑が見える。ショッピングモールとかスポーツエリアがあると言っていたけれど、一面大自然にしか見えない。もっと島の奥の方にあるんだろうか。
ふと、海側から見覚えのある飛行戦艦が戻ってくるのが見えた。戦闘員の人は仕事の性質上遠征で泊まりもあったりするようだけど、基本は日帰りらしい。
戦艦から話ながら降りてくる色とりどりの頭が見える。きっとあの4人だ。あの戦艦はレックス隊の専用なのかな。他のものより機体が大きいけれど、あの人数には広すぎる気がする。
……制服も試しに着てみたいし、そろそろ戻ろう。
そう思い部屋へと向かう途中の談話スペースで、先ほど帰ってきたレックス隊の面々と……『シノブ』が話していた。
「あ、イオリ」
赤い髪のルチオがこちらに気がつくと、にっこりと笑ってひらひら手を振る。声をかけられなかったらそのままさっと通り過ぎていけたのに。
『シノブ』は足を止めた私を見ると、少し遠慮がちに微笑んだ。──ああ、懐かしい、兄の笑いかただな。
胸がざわざわとして、会釈だけ返して早足でその場をあとにした。
◇
部屋に戻って、さっそく制服に袖を通してみる。シャツは普通の白だけど、ベストは落ち着いた色のチェックの生地。ネクタイは高校の制服がそうだったのでしめるのには慣れている。サイズは問題がなさそうだ。
改めて元の服に着替えていると、腕の端末が目に入る。とても軽くフィットしているのであまり装着感がない。自分の意志で着けたり外したりはできるけれど、要するにこれは手枷だな。
どこまでの情報が蓄積されて、送られているのだろう。この『戦争屋』の雰囲気だとプライベートには配慮されていそうだけど、例えばいざとなったら遠隔で爆発させたりできるのではと想像して……というところで端末のランプが青く点滅しだしたので一瞬心臓が凍る心地になった。
自動で表示されたホログラム画面が、フェリシテさんからのメッセージ到着の通知と直ぐに確認するかどうか示してくれる。どうやらメール機能もあるらしい。【はい】をタッチして開くと、今日教わったことや簡単なスケジュールなどが書いてあった。文字で残るのは何度も確認できてありがたい。
メール……か……。
やっぱり、直接会話するのはまだ心理的なハードルが高い。あのレックス隊長が空いているときはずっと『シノブ』の側に居そうなのも、理由のひとつではあるけれど。文章でならと思ったけれど、それもまだもう少し、時間が必要そうだ。
とりあえず、お仕事はさっそく明日からだ。まずはここの生活に慣れていかなければ。