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二頁目①

【二頁目】


 ここの食事は元の世界と変わり無い感じで普通。謎の食材もあるけれど、とりあえずちゃんと食べられるものみたいで安心だ。

 広すぎてまだ施設の全容が掴めないけれど、あの屋上は静かで結構いいかもしれない。他の場所はできれば休日に探索していきたい。


 『シノブ』とすれ違ったけど、やはり顔を合わせづらい。接触回数が増えていけば変わるだろうか。


 お仕事は早速明日から。アルバイトもしたことがないので、少しだけ、わくわくしている。頑張ろう。





 眩しい光とともに、クリーム色の天井が目に入る。寝心地の違うベッドに見知らぬ壁紙。そうだ、家じゃなかったんだな。


 時計を見ると、約束した時間まではまだ余裕があり胸を撫で下ろす。昨日あんなに色々あったのに、案外眠れるものだなと自身に感心した。

 どうやらカーテンを閉め忘れたから、部屋の位置的に朝日がしっかりと入ってくるようだ。防犯のためか窓は嵌め殺し。開かなくても空気は管理されているのか快適だ。

 身支度をして部屋を出ると、クロエさんと合流した。昨日と同じくブラウスとタイトスカートに白衣を羽織って、ヒールをはいている。改めて、身近にはいなかった大人の女性という感じがして眩しい。


「おはよう。眠れたかい?」

「おはようございます。はい」

「それはよかった」


 少し足の速いクロエさんに連れられて女子棟の食堂へ向かった。時間は少し遅めだからか混んではいなかった。貼られているメニューの写真を見ると、パンやスープなど見覚えのある洋食だ。栄養補助食品の類いもある。

 ちなみに文字は日本語だ。そのあたりはもう、何故か考えてもきりがないのでやめた。なんとなくパラレルな世界だと思っておけばいいだろう。

 軽く食事を済ませると、フェリシテさんとの待ち合わせた共通部の扉へ向かう。フェリシテさんは既に待っていてこちらに手を振った。


「クロエにイオリちゃん、おはよう」

「おはよう」

「おはようございます」


 イオリちゃん、と呼ばれるのが慣れなくて、少しくすぐったい気持ちになる。クロエさんは医務室に向かうのでここで解散だ。フェリシテさんと2、3話したあと思い出したようにこちらに向き直った。


「シノブは、私の助手で医師見習いだ。医務室にはあいつもいつもいるから、そのつもりで」


 昨日の話を一緒に聞いていたから、わざわざ教えてくれたんだろう。医者を目指していた兄は、この世界でも自分の志す方向に関わることが出来ているんだな。

 クロエさんと別れて、今度はフェリシテさんと一緒に歩く。まずは昨日言っていた生体認証用の指紋と虹彩の登録をした。


「さて、それじゃあまずはオフィスエリアの案内ね」

「お願いします。

 ……あの、お仕事はすぐにでもできたらと思うんですけど」

「そう? 私たちは人手が足りないから明日からでも嬉しいくらいだけど……」


 こちらの申し出に、フェリシテさんは少し心配そうに言った。でも、何もしないでいるのは気疲れしそうで嫌なのだ。


「是非それで、お願いします」

「ありがとう、助かるわ!

 じゃあ今日は、案内がてら見学してみましょうか」


 頷いて、フェリシテさんの後について説明を受ける。

 仕事は事務と受付両方を担っており、どちらの担当かはシフト制になっている。交代で休日当番はあるけれど、どの部署も土日とその他指定日休み。各種有給休暇、通常のボーナス以外にイベント参加で特別賞与も出たりするらしい。


「イベント参加とは……?」

「全体交流会みたいなものね。結構頻繁にあるのよ」


 強制では無いみたいだけど、結束を強めるためなんだろうか。全部署基本土日休みということは、平日だけ傭兵業なのか。『戦争屋』というわりにとてもホワイトな匂いがする。


「イオリちゃんは、しばらく私と一緒のシフトになるわ」

「心強いです」

「ふふ、そう? ありがとう」


 オフィスエリアの資材置き場に資料室、いくつもある会議室など軽く見て回る。

 このオフィスエリアと居住区以外に、島の中にはショッピングモールとかスポーツ施設などの商業エリアもあるらしい。島全体でひとつの大きな街になっているみたいだ。


 本部の入り口……最初の入り口までたどり着いた。外にはガードマンらしき屈強な男の人たちが立っている。フェリシテさんが近付くと皆胸に手をあてるようなポーズをとった。たぶん敬礼、かな?


「おつかれさま。

 今度からうちの部署に入るイオリちゃん。シノブ君の妹さんよ」

「狭山伊織です、よろしくお願いします」


 頭を下げて挨拶をすると、なるほどシノブさんの……という呟きとともにしゅっと佇まいを正されてしまった。これはもしかしなくても、『シノブ』が隊長の恋人だからなんだろうか。


「入り口にはこの人たちがいるから安心よ」

「やだなぁ、フェリシテさんがいるから俺たちここでどしっと構えていられるんですよ」

「あらありがとう」


 頬に手をあてて照れたように笑うけれど、先ほどの敬礼も上官にするような印象だった。これはもしかして、フェリシテさんはただの可愛いお姉さんではなく、かなりお強い感じなんだろうか。


「ここが受付で……」


 入り口を入ってすぐ左にあるカウンターのような場所はオフィスビルの受付みたいだ。来客は基本ほぼ無いから結局ここで事務仕事をしていたりするらしい。今日の受付担当の人も連れてすぐ後ろにある扉を開けて中の部屋に入った。オフィス机が突き合わせるように並んでいてちょっと職員室みたいだ。


「こっちは私たちの部署のオフィスよ」


 先ほどと同じように、フェリシテさんが紹介してくれる。『シノブ』の妹、というところで確かにと納得するような声がもれる。


「……そんなに似ていますかね」

「貴女の瞳と髪の色が珍しいのもあるかもね」


 確かに、ここの部署の方々を見回しても、一言で表すと配色がファンタジー寄り。今まで見て近いなと思ったのは黒紫のリュウエンさんくらいだろうか。

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