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一頁目②

 色々と考えてしまって、結局眠らないまま窓からの陽が傾いていった。夜に差し掛かる頃、隊長ともう一人、青緑のふわふわとした髪の女性が医務室を訪れた。


「イオリ。少しだけ話を聞いてもいいか?」


 相変わらずのにこやかな笑みの隊長に恐々頷くと、少し困ったような顔になった。


「ああ、さっきは悪かったな。シノブのことになると見境ないとよく言われるんだ。

 お前たちには、並々ならぬ事情がありそうだ」


 目の前に座った隊長を見ていると何故か色々と話したくなってしまって、聞かれるままに両親のことや兄の失踪後『忍』として扱われてきたことを話した。一切合切を口から出すと、思いの外すっきりした。そういえば、他人に全てをちゃんと話したのは初めてだ。


「兄……は、好きだったんです。でも、今は目の前にすると心の整理がつきそうにない、です」

「……そうか。

 シノブは鈍いくせに、時々とても聡いやつだ。お前の気持ちもきっと汲んでくれるだろう」


 そう言うと、戦艦の中のときと同じように優しくくしゃくしゃと頭を撫でた。大変だったなとか、そういう感想がないのが有り難かった。記憶にある兄のものとは違うけれど、大きな手の感触が温かくて心地よい。

 やはり、この人の雰囲気は警戒心を解くようで恐ろしい。その親身な表情や声音が本物かどうかわからないのに、そのことをどうでもいいと思わせるカリスマ、とでもいうのか。不思議な人だ。


「さっきは怖がらせて本当に悪かったな。イオリ、お前がシノブの妹なら、お前を傷つけることはない」


 妹だと、信じてくれるということか。とりあえず安心しておいて良い……のかな?

 でもきっと、もし『シノブ』に危害を加えるなら、たとえ妹でも斬って棄てるんだろうな。そんな予感を本物にしないために頑張ろう。


「さて、これからのことなんだが……」


 隊長は私の頭から手をおろすと、どこから話をするかと思案するように言葉を切る。先ほど仕事について考えていたのでちょうどよい。


「あの、ここに来る前していた仕事をもらえるって話、よければ何か仕事をください」


 できれば戦う以外がいいけれど、まずは働く意志があるところを示しておかねば。ただで置いてもらうわけにはいかない。


「わかった。

 ちょうど事務と受付をする部署に欠員があるんだが、どうだろう?」

「ありがとうございます、是非お願いします」


 事務と受付。人を相手に戦うのはやはり厳しいから、普通の仕事で安心した。

 受付は……まあ、笑うのは苦手だがなんとかなるだろう。『忍』だったときはそれらしく笑ったり怒ったり表情を作っていたけれど、やめてからは表情筋が大分固い。顔のストレッチでもしておこうかな。


「まあ、少し落ち着いてからで構わない。

 ──フェリシテ」

「ええ」


 隊長の後ろに控えていた青緑の髪の女性が頷き前に出てくる。


「初めまして、私はフェリシテよ。

 その欠員の出た部署で仕事をしているの」


 なるほど、だからこの人を連れてきたのか。ゆるいウェーブをハーフアップにして、可愛らしい雰囲気の女の人だ。


「狭山伊織、です。よろしくお願いします」

「イオリちゃん、よろしくね」


 そう笑うフェリシテさんはとても優しそうでほっとする。


「何かわからないことがあれば、彼女に聞いてくれ。あとは……」


 医務室の机で足を組んで座っているクロエさんの方に視線を投げる。


「部屋は、クロエの隣が空いていたのでそうした。この後フェリシテとクロエとで案内してやってくれ」

「任された」


 クロエさんの返事に満足そうに頷くと、またな、と言って隊長は医務室を出ていった。


「じゃあ、私たちもいきましょうか」

「お願いします」


 フェリシテさんとクロエさんについて長い廊下を進む。今現在いるところはオフィスエリア。向かっているのは居住区になっているエリアだ。


「ここはかなり広い。今日は最低限だけにして、また明日案内する」

「ありがとうございます」


 きょろきょろと周りを確認しながら歩いていたけれど、既にあの医務室にも戻れそうにない。館内マップとかないんだろうか。


「ここからが居住区だ」


 扉の横にある機械にクロエさんが手をかざすと、自動ドアが開く。


「指紋と虹彩認証なの。貴女のものは明日登録するわ」


 おお、ハイテクだ。つまり今二人とはぐれるとどこにもいけなくなってしまうということだ。そのまま進んで、共通の食堂や施設を少し見て、奥の女子棟に入るときももう一度認証の扉をくぐった。


「窓をぶち破ってくるやつには無意味だけどな」

「それはそうだけど、防弾だから滅多に起きないわよ」


 クロエさんの言葉にフェリシテさんが苦笑いする。二人はあまり似てないけれど仲がよさそうだな。

 女子棟の他に男子棟と家族のいる人向けのファミリー棟があり、さらにそれぞれ別で食堂やジムなども有るらしい。


「私は夫と子供達がいるからファミリー棟に住んでいるわ」


 そう教えてくれたフェリシテさんが既婚者で子持ちだったことにかなりびっくりした。見た目からはお子さんがいらっしゃるようにはとても見えない。


 たどり着いたのは、ホテルのようなワンルーム。ベッドに机に、クローゼットにはシンプルな服も入っている。


「部屋にあるものは貴女のものだから、好きに使って。とりあえず一通り物はあるけど、他に必要なものは追々揃えましょう」

「こっちが私の部屋だ。

 何かあったら遠慮せず来て構わないよ」

「何から何まで……ありがとうございます」


 二人は顔を見合わせて、それから優しく笑ってくれた。また明日、と挨拶して別れた。


 改めて部屋を見回す。お風呂とトイレが別。ミニキッチンに冷蔵庫。ロフトまである。一人には十分すぎる広さだ

 机にはノートや筆記用具が納められていた。そうだ、せっかくだから、日記とかつけておこうか。鉛筆を手に何を書こうかと悩む。


 そういえば、こちらに来てから世界の色が霞むことがない。髪色や服も鮮やかだったりするし、目がチカチカするぐらいだ。

 今日だけでも色々な人に会った。皆わりと親切で、『戦争屋』というもののあまり怖くないのかもしれない。できればそうあって欲しいなと、思った。

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