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08話 ジュン・ホワイト

|д゜)初の戦闘回です。

 魔物出没の噂を聞いてより一年ほど経った。

 当初しばらくは魔物の襲来に怯えて過ごしてはいたが、音も沙汰もちっともないことにじれったさを覚えたのか、ぴりついた日々から脱却し、平穏な日常を取り戻していた。

 人の集中力はそう長くは続くものではない。

 また、集中しすぎると精神に悪い。

 目の上のたんこぶは杞憂として片付けるのが得策であった。

 今日も今日とて、ジュンは日課をするために林へ向かうのであった。


──そろそろ頃合いか。


 鶏行歩の成果を試す時が来たようだ。

 基礎作りの一環で自分に課した鶏行歩。

 重心をそのままに腰を落とし、一歩、二歩、と足を出して前へと進むこの歩法。

 当初は苦痛から家から林まで二刻はかかっていたものが、今は半刻ですむまでになっていた。

 生前の頃の感覚とさして変わらないと感じるということは身体造りは佳境を迎えたことを意味していた。


 木の前に立ち、馬歩站椿を行い、気を練り始める。

 二年もの間この身体を痛めつけ、この身体のことは誰よりも理解したつもりである。

 やはり未だ魔法を使えないことは納得がいかないが、その代わり気功で以ってそれを代用する。


 呼吸と共に、深く、深く、意識を落とし込む。

 今回試すは昨年やった海老蹴りなんて可愛く思えるほどのものであった。

 その名も暗勁。寸勁などとも言われる武の神が生み出したとも言われる神の御業である。

 他にも試したい技があったが、今回は功夫クンフーを確かめるためのものであるためこれで十分に感じた。

 

──何しろ木が可愛そうだ、しな。


 そっと右の掌を木肌に添えて全身の気を掌へと集中、そして全てを爆発させる。

 掛け声なぞ要らない。

 全身の経絡を通る血が沸くほどの衝撃が全身を駆け巡る。

 鍛え上げた足腰、そして腕が悲鳴を上げる。

 だけど壊れない。

 そうやわに痛め続けたつもりはない。

 勁に耐えるだけの鍛錬は十二分に積んだ。

 だから、壊れない。

 結果は、いつの世も後からついてくるものだ。


 しん。依然として静寂は続いていた。

 ジュンは一息吐いて、その場へへたり込んだ。

 直後。


 バサバサバサ────ッ


 ジュンが暗勁を打った木の葉が一斉に落ち、座り込んだジュンの頭上へと舞い、そして落ちる。

 木の葉が頸が成ったことを告げる。

 そしてジュンは時間差で成功を確信した。


 暗勁は間合いなしに発勁のみで以って攻撃する技であった。

 相手に掌を添えて勁を打つ。

 勁を打たれたものは大砲を食らったかのような衝撃に見舞われる。

 言うは易し。しかし行うは難し。

 おいそれと人間ひとには打てないだろうが、魔物とあらば別である。

 村の連中は来なかった災いに安堵し、腑抜けを見せたが、ジュン一人だけは別であった。

 歩みを止めたものは三流にすら及ばないことと同義だからだ。


──徒花が積んで重ねた幾星霜。か。


 そんなうたを思い出す。

 続きがあった気がしたが、遠い昔に知ったため、続きを思い出せないでいたが、生前は自分ぴったりな詩だと思ったものだ。

 時間をかけても実をつけることが出来なければ、心を動かすほど美麗な花を付ければ良い。

 そのような意味合いの詩であった気がする。

 思い出せない以上、仕方のないことなので、ジュンは思考するのを諦め、一先ず自身の成功を喜ぶことに徹するのであった。





 身体中に被さった木の葉を払うこともせず、しばしの休息を取った後、帰路につく。

 軽く震脚をし、衣服に纏わり付いていた木の葉を振り落とす。

 さて帰ろう。そう思った直後、気配に気付く。

 背を向けた、林側から禍々しい気を感じる。

 魔力。

 夢の中の少女が魔法を使ったときに感じとったものに酷似している。

 今回のそれは殺気を込められている分それ以上か。


──来るなら来い。今宵の俺は違うぞ。


 気が全身の経絡を通り、全身が活性化されている。

 今宵の自分は肉体までも生前の自分に追いついた気持ちでいた。

 今なら魔物にさえも引けを取らぬ。

 相手は鬼か、蛇か。

 目を凝らして林の奥底、禍々しい気を放つその先を見据える。


 一瞬の静寂の後、ジュンの構えるやや斜から首元目掛けて影が飛びかかってくる。

 意表を突かれたジュンであったが、それを右の腕で受け払うことで軌道を逸らし、大勢を整える。


「犬……。いや、狼か」


 影の正体は狼の魔物。

 その爪は鋭く、その牙は大きく、獲物の命を狩ることに適した形状。

 獲物を追い詰め、屠るために発達した四肢は羨ましくなるほど逞しく、そしてしなやかであった。

 そして大きい。野鹿と比べても大差ない。

 何より特筆すべきはその禍々しい魔力は一見するまでもなく、それを魔物足らしめる証明となった。


「へっ、一匹狼か」


 他に魔力を感じないところを見るに、幸い、この狼の魔物は一匹であった。

 弱いから群れから外されたか、強いからこそ群れから離れたか、この個体に関しては後者であろう。

 独りで生きていけるだけの強さがあった。

 強者に立ち向かうために群れを作ることは、弱者の常套手段。

 この狼にはそんなもの必要ないのだ。

 むしろこんなのが群れで行動し、村が襲われていたら一溜まりもなかっただろう。

 皆、為すすべもなくこの狼の腹に収まっていることは想像に難くない。


「さあ、どっちが強いか比ぶろうじゃないか」


 そんな言葉が狼に届いているかは全く分からない。

 しかしジュンのその言葉を口切りに狼は再び動き出した。

 真っ直ぐに飛びかかれば交わされることを学習したのか、ジュンの周りを円を描くように走り、隙を探る。

 ジュンは体を捌くことで相手を捉え続け、相手の動向を覗うことに徹する。

 しかし、ここは敢えて隙を作る。

 命の駆け引きにおいて禁物であることをわかりつつ、死角に相手を忍ばせる。

 相手は死角に入るや否やジュンの頭目掛けて飛びかかる。


──後ろに目がねぇとでも?


 その狼の発する魔力は身体で十分に感じ取ることが出来た。

 ジュンは振り向き様、飛びかかってきた狼をぎらり睨み付け、重力に身を任せ元々低い位置にある重心を更に沈ませ、地から上方向に全霊の海老蹴りを放つ。

 その威力は折り紙付き。

 ジュンの脚によって倒された木のように狼の命を狩り取らんと、その無防備な腹に向けて放つ。

 直線に飛びかかってきた狼を、ほぼ直角に、天目掛けて突き刺し跳ね飛ばす。


 渾身の一撃は見事に見舞ってやった自覚はあった。

 しかし、手ごたえは微塵も感じなかった。

 毛皮を隔てた先にあった感触は『岩石』そのものであったためだ。


「あー、まっずいなー、こりゃ」


 数秒経って、落ちてきた狼に損傷ダメージは大して見られない。

 少々驚いた程度か。

 狼は身体を震わせ、再び警戒の眼をこちらへ向けている。

 きっと、長い闘いになる。

 それを無意識に暗示させる強者がそこにあった。


「血ぃ湧くねぇ」


 自身の全身全霊を受けてなお立つ強者と対峙する。

 なんと幸せなことか。

 ジュンは挑戦者として相手の前に立つことは久方ぶりであった。

 一撃必死なこの闘いに心が昂るのを抑えられなかった。


「まだまだ行くぞ、犬っころ!」


 一発で駄目なら百発見舞えばいい。

 百発で駄目なら万発に増やすだけ。

 ここで退けば村が、そして家族が終わる。

 ジュンは大きく一呼吸吐くことで奮起し、再び仕切り直したのであった。

気が赴くままに書いていたら戦闘狂になってしまいました笑

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