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07話 ジュン・ホワイト

|д゜)お読みいただきありがとうございます。

 家族が寝静まった後、のそのそとベッドから這い出てジュンは家族を起こさないようそろり外へ出た。

 肩を回し、そして身体を起こすためゆっくり伸びをする。


──好し。


 手をぷらぷら振りながらのための準備運動がてら走り始める。

 向かうはさほど遠くない家の裏にある林。

 木々が茂っていて人気のないこの場所はジュンにとって好都合であった。

 親との寝室が分離された時から始まった日課で、夜な夜な林へと赴き、武術の鍛錬をしていた。

 これが日課となってから早一年経つ。


 腰を深く落とし、突きを放つ。

 右、左と交互に熟していく。

 普段は無心にやっているものだが、今宵のジュンは違い、物思いに更けていた。


 昨晩の父の言葉をどうしてもジュンは賛同できないでいた。

 魔物に対して不安の言葉を漏らす父に対し、それを対策しないことをどうしても許せなかったのだ。


──魔物の存在、恐るるに足りず。


 きたる危険に備えて対策するのが二流であるならば、一流は何なのか。

 その答えは至極単純で、危険が危険でなくなればいい。

 人間にとって、今日食べた猪が肉として捉えているように、魔物も同様に考えられるほど強ければ猪と同様な扱いとなる。

 しかし、人間にはどうしても限界がある。

 種としての身体能力、才能、そして与えられた時間、どれも魔物と面と向かって対峙するには余りにも足りなさすぎる。


──己は武の神に挑まんとした人間ぞ。


 実際は武の神でない者にすら相手にならなかったことを棚に上げ、そんなことを思いながら只管に突きを繰り返す。

 今思うと思い上がりもいいところ。

 全てを助ける存在になると意気込み転生したは良いものの、家族一つ守れぬやも知れないことに歯噛みする。

 実際に魔物と遭遇したこともないため当然と言えば当然と言える。

 未だ魔物を知らないジュンにとって未知なる存在は畏怖に値する。

 息を肺に送り込み、気を練る。

 突きの鍛錬を締めくくる際に、いつも行っている所作である。

 肺に空気を取り込み、丹田に気血を送り、ゆっくり、ゆっくり全てを吐き出す。

 これを三度繰り返し、最後の一回で全てを押し出すように突きを出す。


「破ァ!」


 ぱしぃ。と、突きと共に乾いた音が林に響く。

 音を置き去りにした証であり、また、それだけの技を積み重ねた証。

 未成熟な身体でも、身に染みた技術は多少のなまりはあったものの生前のそれであった。

 九二歳分積み重ねた武技に終止符は打たれておらず、九三、九四と続いていた。

 そして今年で九七年目となったのであった。


 じんわり掻いた汗を拭い、歩法の鍛錬を行う。

 腕を使い木々の枝を流し、受けつつ趟泥歩しょうでいほで大きく円を描きながら摺り足をする。

 これがまた膝に大きな負荷がかかる。

 心技については据え置きとはいえ、体ばかりは作り直さないと如何ともしがたい。

 増してやこの身体はまだまだ太くなるよりも高く、伸びることを望んでいた。

 それを慮ると、じっくり念入りに痛めつける必要があった。


──仕方ねぇ。帰りは鶏行歩だな。いや、その前に……。


 ジュンは今一度深く腰を落とし、馬歩站椿まほたんとうを始める。

 突きの最後に見せたときと同様に、大きく息を吸い、気を練り上げる。

 気血を丹田に、そして全身へと巡らす。

 気が充満していくのを全身で感じつつ、意識を深層に落としていく。

 想像するは、かの夢の中の少女の魔法。

 念動力なんて出来た試しなどなかったが、今のジュンにはする時間とする時間だけは腐るほどあった。

 一刻ばかりその姿勢を維持し、やがて目を見開き、


「喝ァ!」


 しばらく静まり返っていた林に子供特有の甲高い声が響く。

 言った側から静まり返る景色を見てジュンは落胆した。


──未だ実力足らず、か。


 ジュンの武術、そして魔道の道はまだまだ先の様であった。

 不甲斐ない自分に焦りと憤りが込み上げてくる。


──畜生ッ!


 ジュンと同じくらいの太さの木に向かって全身全霊の海老蹴りを放つ。

 今のジュンにとって最も間合いがあり、そして幼い肉体にとって最も力が出る攻撃の一つ。

 突きのように、極限まで無駄を削いだそれはかくも簡単に音を置き去りにする。


 バリィッ。


 そんな鈍く高い音を立てた後に次いで、めりめり音を立てて倒れ行く木を見てジュンは我に返る。

 脚は木に穴を穿ち、そしてそのまま何もなかったようにその部分をえぐり取ってしまったのであった。


「あーあ、やっちまったぁ」


 鳥達が吃驚びっくりしてしばしの喧騒が巻き起こった後、いつも通りの静けさを取り戻すと共にジュンの頭に上った滾った血も冷え始める。

 一年にしてそれなりの木を倒してしまう我が身が、よもや魔法など要らないのではないかとさえ思えてしまう。

 それと同時にジュン・ホワイトとしての成長ぶりに喜びを噛みしめる。


「……今日からは行き来は鶏行歩だな」


 ジュンはぽつり独り呟いて、鶏行歩で以って帰路に着いたのであった。

参考武術:空手。八卦掌。心意六合拳。躰道。八極拳。


特に詳しいわけではないのに記憶を頼りに碌に調べもせずに書きなぐってしまったので、誤り等あれば指摘してくださると幸いです。

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