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04話 ジュン・ホワイト

お読みいただきありがとうございます。

──しかし、あの娘。何者であったのだろう。


 光に溶け、心も身体も洗われていくような心地を噛みしめつつ、純はしばらく思考に耽っていた。

 妖艶とは言わぬまでも艶な振る舞い、挙動、そして魔法。

 全てに謎に包まれていた。


──まあ、よい。


 つい今しがたまで暗闇を駆け巡っていたとは思えないほど、視界は光明に満ち満ちていた。

 今受けているこれもとかいうものなのであろうか。


──ふふ。血沸く、血沸く。


 齢九二となった身ですら未知なものに出会う、これほど幸運なものはない。

 自然と笑みが零れる。

 この光の先にある、未だ見ぬ世界を想像し純は歳甲斐もなく心震わせた。

 そして、遠足を楽しみに夜眠れなかった童心を思い出し、純は一つ苦笑いして平静を取り戻す。

 このままでは詮無いと思い直し、純は目を瞑り、精神を鎮め、意識を光の中に放り投げることにしたのであった。







 ごおん。ごおん。釣り鐘の重い音が鳴り、純はその音の振動に撫ぜられ目を見開いた。

 目に鮮明な光が入り込み、純は目を顰めた。

 視界に入ってきたのは巨大な天井。

 純の生きた世界でもあった教会によく似た造りの建物。

 ステンドグラスから差し込んでいる光と高い天井が、この建物の荘厳さをより一層なものにしている。


 どうやら仰向けで寝ているらしい。


 辺りを見渡そうと首に力を込めようとしても、どうしても力が入らない。

 純は困惑した。


「あ、だぁ」


 舌が回らない。

 一体全体どういうことか。

 自分の身体全てが思う通りに動かせない。

 そして、声の高さに違和感を拭いきれない。

 純は内心歯噛みした。


 もがこうと腕を振り回そうとすると、視界に小さな手が移った。

 か弱い、まるで赤子のような手。


──赤子……。赤子…………?


 純は固まった。

 まるで夢でも見ているかのような気分になり、純は思考に耽ることを選んだ。


──転生。


 そんな言葉が脳裏を過ぎり、純は昨夜のことを、そして生まれ変わったことを思い出すことに成功した。

 視界に映し出された華奢な手は彼を生まれ変わらせたことを確信させることを容易にさせたのであった。

 そして辺りを見渡すことができないのは、自身の首がまだ座っていないということに気付くのもほとんど同時であった。


「神父様、私たちの子に名を授けてやってはくださいませんか。」


 若く、細い女の声が教会に響き渡った。

 おそらく母となる者の声。

 残念ながらその女の姿形を捉えることは出来なかったが、純は自身の名が決まるその瞬間を目の当たりにすることが出来、内心歓喜し、そして焦燥に駆られる。


「そうさな。しからば聖水に聞いてみることとしましょう」


 新たにしわがれた男の声が教会に響き渡る。

 初老を迎えたくらいの歳か。

 神父と思われる男がそう言うと、瓶子から盃にとくとく水を注いでいき、念を込め始めた。

 夢で出会った少女が扱った、魔法を受けたような感覚が辺りを支配する。


「我らが神に問う。この未来ある子に明るき名を与えたもう。エタニモン」


 神父がそう言うと、純の身体と盃がほうっと淡く光を帯びた。

 視界に鮮明な光が舞う。

 生前の頃の眼ではどうしてもこんなに美麗には映らなかったろう。

 純は感動していた。


 そのようなことを関せず、女と神父は盃に目を釘付けにされているようであった。


「ジュ……ン…………?」

「神父様、私たちの子の名前はジュンというのですか?」


 母は神父に語り掛ける。

 心配、期待、希望、不安、その他諸々の感情が織り込まれたその声にはどこか力が込められていた。


「ええ、この子は神に選ばれた子です。今日からこの子はジュン・ホワイトです」


──ジュン・ホワイト。ふむ。いい名だこと。


 九二年もの間使ってきた名がまた与えられるとは、運が良い。

 ひょっとしたら、あの少女のきまぐれか。

 さすがに苗字までは生前のものとまではいかなかったが、そのようなものはすぐ慣れることだろう。


「ああ、ジュン。これからよろしくね」

「だあ」


 精一杯の力を振り絞って純は母に向かって声を上げた。


「まあ、返事をしたわ」

「この子も名を貰い、喜んでいるのでしょう」

「神父様、本当にありがとうございます」

「いえいえ、それが私の務めですから」


 母はそういうと純を抱きかかえた。

 ようやく視界に母を捉えることが出来た。

 小奇麗な街娘の衣服を纏った、端正な顔立ち。

 肩位まで伸びた赤みがかった栗色の髪が鎖骨辺りで揺れ、純はそれに目を奪われた。

 至る所から伝わる母の温かみと、落ち着く匂いに包まれ、急に眠気に襲われた。


──これから、宜しくな。御母さん。


 そんなことを心の中で呟きながら、純は目を瞑り、再び意識を闇の中へと放り投げたのであった。






 ジュンとその母が去った後、神父である老人は執務室にて一つ溜め息を吐いて、木の椅子に腰を掛けて呟いた。


「それにしてもあの嬰児やや、底が見えぬ」


 神父であるが為幾度となく赤子を見、ジュンにやった、同じことを繰り返してきた。

 この老人も年を重ねた分も鑑み、赤子を見た回数はそこらの人よりは自信を持っていた。

 親がいた手前、取り繕うように言葉を掛けたが、大抵の赤子が見せる表情とは違い、落胆、不安、歓喜と言ったような表情を見せたことも老人は気にかかったが、その他にも決定的に違うものを感じ取っていた。


「魔力を感じないかわりに、何か、別の力を感じた?」


──いや違う……。


 老人は呟き、そしてすぐさまその言葉を否定する。

 前例がないというだけのこと。

 老人は必死に自分に言い聞かせた。


「いやはや、長生きはするもんだのう。あの子の進んだ行く末に幸があらんことを」


 老人は手を合わせ、本日最後の職務おいのりを遂行した後、ふん、と鼻を鳴らし、執務についたのであった。

真城純…。ましろじゅん…真っ白純……。

ホワイトジュン……。ジュン・ホワイト……?

純白やんけ……。


今更ですがこんな感じで名前が決められております。


どうでもいいですが、神父が使った魔法の名前のエタニモンは「nominateノミネート」を逆から読んだアナグラムから来ています。


……こんな感じで名前が決められております。


忘れた頃にちょろっと更新する予定ですので、ちょろっと見てくださると幸いです。

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