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00話 プロローグ

ノリで書いてしまった転生物です。

「半端では死なさない。末代まで祟ってやる──」





 まだ真っ暗闇の部屋で布団の中で蠢く男が一人。夢にうなされているのか、じっとりした汗が額を伝っている。


 男の名は真城ましろ (じゅん)と言った。

 齢九二。

 高名な武術家で、数々の武術における大会を総なめにし、歴代最強の称号をほしいままにした。

 一代にして武術を修め、そして極めた、いわゆる天才であった。


 しかし、そんな天才にも弱いものがあった。

 それが心であった。

 彼は何より死が怖かった。

 彼は武術の大会で人を殺めたことがあった。

 単なる事故。殺意など欠片もない。しかし、彼の強さこそが人を死に至らしめてしまった。


 相手には妻子があった。

 子に言われた言葉が夜な夜な純を苦しめることとなり、今日も今日とて純は魘されていた。


「半端では死なさない。末代まで祟ってやる──」


 彼は、この言葉を境に目を覚まし、布団を蹴って寝床から這い出た。

 胸が、鼓動が、昂り、治まらない。

 いつものことでありながら、一日とて慣れることのなかった日常。


──そろそろ潮時か。


 早くなった鼓動を鎮めようと胸に手を当て、深く呼吸をする。


 彼には妻子がなかった。

 血に(まみ)れたこの手が幸福を掴み取ることができないと本能的に悟っていた。

 その上、末代まで祟られるということを俄かに信じることは出来なくても、万が一を考えたらとても所帯を持つ気にもなれなかった。

 だからこそ、俗世から離れた。

 日々鍛錬に励んでいる間だけは殺めた者のことを忘れることができた。


──末代が自分でよかったなぁ。


 今では武の神にも挑むことができる程の鍛錬を積んだ純であったが、寄る年波には勝てなかった。

 椀と箸を持つ手に重さを感じるようになった頃、彼の自信は筋肉と共に萎んでいった。


──半端者(はんぱもん)で悪かったなぁ……。


 彼は苦笑いして、やがて自身を鼻で嗤った。

 名も知らぬ童子の言葉が今でも心を揺さぶり、締め付ける。


──もし生まれ変われるようなことがあったら、(みな)を幸せにしたいものよ。


 彼は一縷の涙を流し、再び床へ就いた。

 目を瞑り、朝が来るのをじっと待つ。

 夜が来れば必ず朝が来る。

 朝が来れば悪夢のことは忘れられる。

 そう信じて彼は再び意識を暗闇の中へ放り投げた。


 これが最後の就寝になるとはつゆも知らずに。

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