シムベリンの悪魔③
【あらすじ】
チカゲの過去編。ジェイクの熱心なストーキングの末、一緒にパーティーを組むことになる。
東に向かい始め、最初の村に着いたのは日が落ちて辺りが真っ暗になった頃だった。
村には古びれた木造の宿が一件あった。
宿のドアを開けると少し広い部屋の作りになっていた。
右手にカウンターがあり奥に暖炉がある。
暖炉には火が灯しており、手前に大きな木のテーブルが置いてある。
そこに一人のお爺さんが腰かけていて温めた葡萄酒を飲んでいた。
暖炉以外の明かりはなくクラシックな雰囲気で逆にそれが洒落ている。
「冒険者かい?」
腰かけたまま店主のお爺さんが話しかけてくる。
ニット帽を被り横からは白髪の毛が覗いている。
「あぁ、部屋を借りたい。できれば食事もだ」
ジェイクはこういう事に慣れている風でタンタンと話を進めていく。
「余ったシチューとライ麦のパンくらいならある」
「2人だ」
「部屋は自由に使ってくれ。これがカギだ」
「いくらだ?」
「二人で銀貨3枚でいい」
無一文の私の代りに代金をジェイクが払ってくれた。
「食事はここのテーブルで。飲み物は村の安い葡萄酒がある。これはタダでつけておくよ」
私たちは部屋へ行き荷物を下ろす。
こういう雰囲気の場所で寝泊まりするのはワクワクする。
一度こういう所に泊まって見たかったのだ
「ちょ、ちょっとまて」
ジェイクは扉の前で立ったまま小刻みに震えている。
「ど、どうしたんですか?」
「鍵を一つしかくれないから妙だと思ったんだ。お前と一緒なのか?」
部屋の中にベットは二つある。
「なにか問題でもありますか?」
「あるに決まっているだろうッ!」
また急に怒り出した。だんだんジェイクの情緒不安定に慣れてきた。
「そ、その、なんだ。若い男女が一つの部屋を使うのは、ど、どうかと」
(学生か!)
私は早々とローブをハンガーに掛けて話を切り替える。
「お腹空いたのでシチュー食べに行きますよ!」
「……」
宿屋のロビー。テーブルに温められた野菜シチューが出てくる。
ライ麦のパンも暖炉の火で表面が焼かれてイイ匂いがする。
食事をしながら店主に今回の事件の事を聞いてみる事にした。
「店主。人攫いが頻発しているって聞いたんですが、この村はどうですか?」
「……3、4人やられたよ」
店主の話によると、初めは山で行方不明になったのだと思っていたそうだ。
しかしグループで山に行った一人が血相を変えて帰って来て、黒いマントを着た奴に仲間が攫われたと報告したそうだ。
そこから立て続けに村人が消えて行ったらしい。
ギルドの情報網でも、村人を攫い生贄にして呪術の実験をしているくらいしか掴めていない。
明日から情報収集をして行くしかないようだ。
食事が終わり部屋に戻って早速ジェイクに質問をする。
「私が魔法の対応、苦手だと分かりますか?」
「わかるな」
「お前は転生者だと言った。転生者は魔法を知らない奴が多い」
「……」
「魔法は分からないと対応ができない」
この世界には転生して来た人がポツポツいるようだ。
ジェイクは転生者の話は人伝手に聞いたらしく遭遇したのは私が初めてだそうだ。
「物理攻撃には反応できるクセに、魔法になると反応がてんで遅れている」
「魔法って、どうやって反応すればいいんですか?」
「匂いだ」
「に……におい」
感覚なのだろうか? 私にはその感覚が分からない。
「ち、チカは自分の持ってるスキルを最大限に活用するべきだ」
「ファイヤーボールは機能しません……(白目)」
「ちがう。他のスキルがあるはずだ。そのスキルを上手く使った戦闘が自分のスタイルになる」
「私に合った戦闘スタイル?」
私は自分のステータスウィンドウを開く。
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チカゲ
Lv28
職業 魔法使い
HP 310
MP 30
力 90
速 85
物防 30
魔力 10
魔防 5
スキル ファイヤーボール、物理無効(短)、身体加速(短)
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ベットに腰掛けボーッと、ステータスウィンドウを眺める。
ジェイクは私の隣に座って一緒にウィンドウを覗き込んだ。
「魔法使いと考えると酷いステータスだ」
「あははは……ですよね……」
「物理無効? タンクのスキルだな」
タンクとはパーティーのメイン盾となるパラディン等の事を指している。
「一瞬、敵の攻撃を無効化する事が出来るスキルだ」
「なるほど」
私は物理無効と書いている表示を指で押さえて見た。
すると詳細のウィンドウが開かれる。
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・物理無効(短)
全ての物理法則、原則を無効化する事ができる。
リキャストタイムなし、効果時間1秒
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「なんだコレ……」
「これ、どういうことですか?」
「俺が知ってる物理無効の効果じゃないな」
「どうやって使うんでしょうか……」
「さぁな。こういうのは試してみるのが一番早い」
なるほど。おっしゃる通りだ。
私は部屋に立てかけていた杖を持ち宿屋を出た。
そのままスタスタと歩いて森の中へ入る。
この辺りなら人目に付かないハズだ。
失敗しても笑われずに済む。
私はとりあえず適当にスキルを使ってみる事にした。
「物理無効(短)」
自分にバフを付与し杖を振り上げた。
----------ドガアアン! ドガガン! ドガ、ドガンッ!
「……」
私は宿屋へ戻り自分の部屋のドアを開ける。
「速かったな。地鳴りがしたが大丈夫か?」
「ダイジョウブデス」
「そうか。ならいい」
そのままベットへ潜り今日は寝る事にした。
「ジェイクサン、オヤスミナサイ」
「ああ」
翌日、朝食を食べ宿屋を出ると村人たちが騒いでいる。
また人攫いが出たのだろうか? 情報収取のためその場所に駆け寄る。
「何があった?」
「冒険者か? それが見てけろ」
「……」
状況は一本の巨木が50mほど一直線に地面を転がっていた。
転がって通過したであろう進路の跡には、木々が薙ぎ倒されていた。
「こりゃあ、熊神様でも出たんかねぇ?」
「ちがいねぇ! 熊神様の怒りじゃ」
「昨日の夜中すんげぇ音がしたんよ!」
ジェイクが私の方を無言で見ている。
私は目線を反らす。
「おい」
「ゴメンナサイ」
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この村の村長を訪ねる事にした。
何から手を付ければいいか分からないので、手当たり次第情報を集める事にしたのだ。
「ギルドの協力は助かるよ。ワシらも困り果てていたんだ」
「この地域周辺にどんな施設があるか知りたい」
そう言ってジェイクは地図を広げた。
「何でもいい。思い当たるだけ教えてくれ」
村長は村周辺の地理を詳しく話してくれた。
村の西に行った所には隣村。
村と村を繋ぐ山道の間にはランス法国へ行ける道が北へ伸びているそうだ。
その先にはシムベリンとランスを分ける国境のランス要塞がある。
また隣村へ行く途中の山道から南へ行けば小高い山の上に教会もある。
この周辺で建物と言えばこれくらいらしい。
「助かった。これだけ分かれば十分だ」
この辺りの施設や位置を聞いただけで、ジェイクは村長の家を出てしまった。
「俺が誘拐犯だったらって考えてみたんだが、大勢を攫ってその人間はどこに隠す?」
「広い場所ですか?」
「この地図で立地がイイのは教会だ。ダメならまた情報を聞いて一からだ」
ジェイクは仕事と判断が早い。
私一人だったらまだ、この村をブラブラしていた所だ。
私たちは村から出て南の山道を登る。
太陽が真上に来た頃にやっと山頂の教会へ到着した。
ジェイクが一瞬立ち止まる。
「……」
すぐに何事も無かったかの様に歩き出し教会のドアを開けた。
「?」
教会の規模は少し大きな一軒家くらい。
ドアを開けると教会の中はステンドグラスから漏れる太陽の光でカラフルに室内を彩っている。
私はその神秘的な光景に目を奪われていた。
「うわぁ」
奥の部屋から神父が出て来くる。
「おや、旅の方ですか?」
テレビで見たことのある服装と同じだ。
黒い法衣を着て首に十字架を下げている。
黒淵メガネをかけた白髪のオールバック。
歳は30前半くらいだろうか? 手には聖書的なモノを持っている。
「迷える子羊に神のご加護を……」
「ふん! 何が迷える子羊だ」
ジェイクがイキナリ悪態をつき出す。
「お前さんは、ゴミを漁る野良犬の匂いがするぜ? ロウリィドッグ」
「……誰かと思えば」
神父さんは眼鏡をグイグイと手で直しながらタメ息をついた。
「仕事ですか?リーパー」
「あぁ。人攫いの事で調べている」
「……何も聞いてないのですか?」
「どういうことだ?」
「人を攫ってアンデットにする。それを兵としてシムベリンに流す」
「なるほど、他国の民に他国を襲わせるって算段か?」
神父は手をパンと慣らし片方の口元を上げて笑う
「正解」
「どこを叩けば人攫いが治まるとか、までは教えてくれねぇよな?」
「敵に回るのならばね」
---------ドフッ
ジェイクの拳が神父の顔面に放たれていた。
神父は綺麗な姿勢で立ったまま片手でジェイクの拳を止め片方の手は後ろに組んでいる。
ジェイクの攻撃に微動だにしていない。
「チカ! 仕事の時間だ」
「え、どうすれば?」
「その杖で殴り倒せ!」
(簡単な事だった)
戦闘態勢を取り自信にバフを掛ける。
「身体加速(短)」
思いっきり踏み込み一気に神父の懐に入る。
空いている左脇腹を狙い杖を振り抜いた。
----------ガシャーン
突っ込んで行ったはずの私の体は吹き飛ばされ教会の椅子に突っ込んで倒れた。
同じくらいの速度でカウンターを打たれていた。
スキルを使えば技は使わないでイイと思っていた。
なぜならスキルが技に近いからだ。
しかしそれは間違いだった。
こういう手の奴らはスキルと技を組み合わせているのだ。
「なるほど参考になる……」
私は再度、自信にバフを掛ける。
「身体加速(短)」
同じように踏み込み神父の懐に入り左薙ぎで左脇腹を狙う。
神父は、それを払おうとする。
そこで杖を返し神父の腕を叩いた。鈍い音が響いた。
「!」
神父は驚いた顔をしている。
スキル発動しながら古武術の技を使う事ができた。
古武術の影縫いという技だ。
この技は受ける方がとても不思議な感覚になる。
横薙ぎの攻撃を受けに行くと、急に上から振り下ろす攻撃に変わっている。
相手の体感は自分の防御をすり抜けて攻撃された様に感じるのだ。
ジェイクは神父に掴まれた手を振り払い後方へ飛んで間合いを取った。
「グッジョブだ!」
背にしていた入口から黒いローブを着た奴らが入ってくる。
10人以上はいる。どうやら神父さんの仲間のようだ。
急に肌がピり付き出し空気が揺れるのを感じた。
「魔法が来るぞ」
ジェイクが注意を促してくれた。
昨夜、宿屋で魔法は匂いで分かると言っていたのはコレの事なのだろうか?
ピリピリした感覚は足元から来ている。
その瞬間地面から複数の壁が突き出す。
ストーンウォールという妨害の魔法だ。
妨害魔法とはいえ、これを真下から喰らえばタダじゃ済まなさそうだ。
多勢に無勢では分が悪い。
折角なので昨日、試した事をやってみよう。
突き出た岩の壁の前に立ち杖を振り被る。
「物理無効(短)」
バフを付与し杖で岩の壁を殴りつけた。
鈍く砕ける音がし岩の壁は粉々に砕る。
その破片は散弾銃の様に黒いローブを着た奴らに直撃した。
標的をすり抜けた岩は教会の壁などを貫通し壁の向こうの景色が見える。
ジェイクは神父に近づいていく
「風通しが良くなったな」
神父は顔色を変えず綺麗な姿勢で立っている。
「ロウリィドッグ、人攫いは何処を叩けば止まる?」
「もぉ一通りは済んだ」
「?」
「私の役目も終わったと言う事だ」
この二人の会話から推測すると、人攫いはアンデットを作るために行われていた。
そのアンデットはシルベリンに進行させる兵力として使う。
そして既に人攫いは終了している。
「ジェイクさん。それって」
「……」
「これまで村人で、あらかじめ実験はできたし。そろそろ切り上げ時さ」
「他の村人はどうしたの?」
「あまった実験材料のことかな? もぉこの場所にはいない」
ジェイクの読み通りだった。
昨日までは、この場所に攫って来た人達が収容されていたのだ。
「ところで相方を変えたのか? リーパー」
「……」
「お前の相棒は、そんな鈍器使いではなかったはずだが」
(ど、鈍器使い……だと……)
「生憎、前の職場は辞めたんだ」
「それは、残念だ」
神父が拳を上にかざした。
「鋼の裁きだ」
空気がピり付いている。魔法の匂いだ。
天井がキラキラ光って、まるで室内に夜空があるかの様な光景が広がる。
「チカ、外へ走れ!」
「え」
キラキラ光っていた星の様なものが落ちてくる。
何千何百本という無数の剣が降り注いできたのである。
「うぁあああああッ」
全力で教会の外へ走った。
入口を出た瞬間、後ろで金属が地面を殴りつける音が始まる。
どれだけの数の剣を降らせているのだ? と思うほど長い時間、金属の雨の音は続いた。
振り返ると神父の姿はない。
地面に落ちた剣は薄く光り弾けるように地面から次々と消えていく。
「逃げられたな」
「今のも魔法なんですか?」
「あぁ、アイツの魔法は特殊でな。指で数える程しか使い手がいない鋼の属性だ」
あんな魔法どうやって回避すればいいのだろうか?
とても辛辣な思いだ。
「心当たりがある」
「?」
「国境に建っている、ランスの要塞へ行って見ないか?」
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あの神父はランスの人間だとジェイクは話してくれた。
だからこのランス要塞が怪しいのでは? と睨んだと言うのだ。
神父とジェイクは顔馴染みのようだったが、どんな関係なのだろう?
そんな事を考えながら教会から徒歩でランス要塞まで移動した。
日も落ち、すっかり夜になっている。
この手の話なら転移魔法などの便利手段があってもイイはずなのだ。
しかし残念な事に、この世界に転移魔法は存在しない。
要塞へ続く道は山を切り開いて作られている。
道の左右は切り開いた山の地層が向き出している。
広さは馬車2台が行き交えるくらい広い幅に舗装されている。
私たちは道の横の山を茂みに隠れながら進んだ。
要塞の明かりが見えてくる。石造りの屈強な作りをした要塞だ。
要塞正面門の前は開けており門前には3、4人のランス兵が警備していた。
「攫われた人間はおそらくだが、ここに収容されているんじゃないか?」
この地域ではランスとシムベリンを繋ぐ道は山を開いているここだけである。
茂みから要塞門を観察していると何やら兵士の動きが慌ただしい。
「ジェイクさん、これ中に入れないんですかね?」
「中に入るには通行書が必要だ」
商人などが他国に商売に入る際に必要とされている手形の事だ。
通行書無しで国境を越えようとすると処罰されてしまう。
いわゆる私たちの世界でいうパスポートの様なモノが必要という事だ。
「ジェイクさん。アレ貸してくれませんか?」
「ん」
ジェイクが先日使っていた魔法弾である。
「これ、要塞の壁が吹き飛ぶ威力のモノってありますか?」
「……お前、バカなのか?」
伊達に小学生の頃から脳筋だの東方不敗だのと言われていない。
要塞の壁を吹き飛ばし騒ぎに紛れて策をろうじるとか、そんな作戦なんて無い!
強行突破あるのみ!
「一番強い威力の弾はこれだな。中にオメガ・エクスプロ―ジョンが入っている」
オメガ・エクスプロージョン。マップ兵器だ。
マップ兵器とは1対1で戦う戦闘ではなく、キロメートル単位で被害を与える事を想定して作られたモノの事を指す。
「この小さな弾に込めてるから、威力は10分の1くらいに縮小してるがな」
「おおっ」
「あの壁を吹き飛ばすなら、これぐらいの威力は必要だ」
私は魔法弾のピンを抜いた。それを要塞門の横の壁に向かって投げる。
卵くらいの大きさの魔法弾がゆっくり空に円を描きながら飛んで行き要塞の壁に当った。
---------カァッ
---------ゴォオオオオオオオオオオオッ
「……」
「……」
2名ドン引きである。
魔法弾が着弾したポイントに小さな太陽が出現した様な光景が広がっていた。
辺りは昼間の様に明るくなっている。
私たちの背中から突風が吹いてくる。
光の球体が空気を吸い込んでいるのだ。
突風に煽られた木々たちが、ゴォゴォと音を立てて騒ぎ立っている。
ゆっくり光の球体は消えてゆき辺りは、また夜の色を取り戻していく。
「……10分の1の威力?」
「う、うむ」
着弾した場所が溶けて崩壊している。
城壁の石はまだ赤く熱を帯びている様だ。
「よし、乗り込みますよ!」
「……」
私はそのまま崩壊した要塞の壁から中へ侵入した。
中ではランスの兵士達が慌てふためいている。
「チカ、こりゃあ……違うぜ」
「え?」
ランス兵が慌てふためいていた理由が分かった。
アンデットだ。骨が服を着た様相をしている。
50体以上のアンデットがランス兵と交戦していたのだ。
「これ、もしかして村人?」
「おそらくな」
アンデットが、こちらに気づき襲って来る。
私は持っていた杖で、思いっきりアンデットの頭を殴りつけた。
「お前、意外と容赦がないな……」
(襲ってくるモノは敵だ)
殴ったアンデットは地面に倒れたが、また体を起こし襲い掛かって来た。
「ジェイクさん、これ何ですか?」
「こういうものだ!」
ある程度のダメージを与えると土に返るらしいが、程度というのが分からない。
「物理無効(短)」
自分にバフを付与し、アンデットの頭を杖で殴った。
-------パシュッ
アンデットの頭が吹き飛ぶ。
頭を無くしたアンデットは膝から崩れ落ち動かなくなった。
「おお、これだ!」
「……ざ、斬新な倒し方だ」
「ジェイクさん、私処理してきますね!」
「……お、おう」
要塞の中を走り回り、見つけたアンデットを一体ずつ叩いて行く。
「た、たすかった……のか……」
「おい、生きてたのかダニアン」
「おおっジョシュ! 助けられたんだよ」
「どんな奴?」
「鈍器持った、お姉ちゃんだよ」
「お、俺もだ。アンデットの頭、一撃で吹き飛ばしたんだ」
ある程度アンデットを倒して回っていたら騒ぎの声も収まりつつあった。
夢中で走り回っていたので、ジェイクとはハグれていた。
目の前の通路を会話をしながら誰かが歩いて来る。
「アンデットは兵士が処理したのか?」
「手間が省けましたね」
銀の鎧に赤いマントを身にまとった騎士風の中年男と、黒いローブを着た青い髪の男の子だ。
「今回のアレは失敗だった」
「まさかコントロールできないアンデットができるとは思いませんでしたので、申し訳ない限りです」
私に気づいて、その二人は足を止めた。
「おや? 兵士ではないね」
「村人をアンデットにしたのか?」
「あー。鼠だな」
そう言うと騎士風の男が剣を抜いた。
「いくよ? お嬢さん」
騎士風の男は踏み込んで私の胴を左から薙いでくる。
私は男の方へ前進しながら近づき体を右に返す。
一瞬で入り身して相手の懐に入り剣をかわした。
「物理無効(短)」
そのままの体勢から男の鎧の上に掌底を入れる。
----------パスンッ
掌底を打った男の背中から衝撃波が出る。
スキル入りの鎧通しだ。
技を入れると男の体から力が抜け白目をムイて倒れた。
もぉ少し派手に吹き飛ぶのかと予想していたが地味だった。
衝撃がどのように通ったのか体験してないので分からないが、鎧の上からでも人間が気絶するダメージが出るという事は分かった。
「あー、思い出したー」
黒いローブの少年が前に出てくる。
「お姉ちゃん、国境戦の時にいた人じゃん」
「……?」
「黒い覆面してたから分からないかな?」
(あの時の、忍者か)
この少年は、きっと魔法を使う。
もぉ既に空気がピリピリしているのが分かる。
少年が手を上にあげると風の流れが一気に変わった。
「エクスプロージョン」
「!」
--------ドカァアアアン
物凄い爆風が迸る。
私は身体加速で後ろに飛んで回避していた。
前よりは全然対応できるようになっている。
「避けれたの? 凄い! そうか前もそうやって回避したんだね?」
(いや……前回は直撃しました)
魔法の爆発音で要塞内の兵士が集まってくる。
とても、ややこしくなって来た。
少年が兵士たちに叫ぶ。
「この女は僕らの敵だよー。侵入者なので排除してねー」
この状況は正に袋のネズミである。
兵士たちはザワついている。
「おい、あれ鈍器のお姉ちゃんじゃないか?」
「侵入者ったって、俺助けられたぞ」
「どうすれば、いいんだよ」
(逆に混乱を招いていた……白目)
こういう場合、賢いと言われる戦法がある。
逃げるしかない! そのためには魔法使いの少年を何とかしなければ。
「身体加速(短)」
まずは、あの魔法使いを黙らせよう。
思いっきり地面を蹴って少年の前へ移動した。
「物理無効(短)」
おそらく少年はスキルで私の攻撃を防いで来るはずだ。
念には念を入れてスキルを重ね掛けする。
そのまま少年のお腹を杖で払い倒した。
------ドフッ
「え」
直撃である。
少年は殴られた勢いで吹き飛び気を失う。
「魔法使いっていうのは、普通ああいうもんだ」
「じぇ、ジェイクさん」
「前衛戦ができるお前が特殊なんだ」
魔法使いは後衛である。
前衛にカバーしてもらいながら後ろで詠唱し魔法を使う。
基本、接近戦は得意としていないのだ。
昼間戦った神父は、おそらく中衛職だろう。
盗賊やアサシン、レンジャー等がその類である。
魔法も使えるが接近戦もできるというポジションが中衛職なのだ。
周りの兵士が、どよめいている。
判断をし兼ねているのだろう。
そこにジェイクが大声で叫ぶ。
「お前ら、よく聞いておけ! この女はシルベリンの悪魔だ!」
兵士のどよめきが、より大きくなる。
「シルベリンの悪魔ってあの女がか?」
「見ただろ? アンデット一撃だぞ?」
「あれがブラッディ―ナイトメアか。可愛い……」
「でも助けてくれたよな?」
混乱した兵士に重ねてジェイクは言った。
「もし今後シルベリン領内に手を出した時は、真っ先に悪魔が牙をむくだろう。
ただ何もして来なければ悪魔は手を出さない。指揮官に伝令しておけ!」
ジェイクは私の肩をポンと叩いた。
「よし、逃げるぞ」
「は?」
とりあえず言葉に従う事にした。
私は自信にバフを掛ける。
「物理無効(短)」
杖を振り上げ、力いっぱい地面を殴った。
すると大地震の様な振動が起こり地面はヒビ割れる。
兵士たちは両手を地面について倒れないような体勢を取っている。
私たちはその間に要塞から抜け出した。
高い丘まで逃げて来た頃だった。
後ろで大きな音がしたので振り返ると
要塞がゆっくりと陥落して行った。
「……」
「……」
やりすぎたッ!
「耐震補強とかないですよね?(白目)」
「……なんだそれは?」
この噂は一日で尾びれ背びれが付き国中に広がった。
鈍器を持ったシルベリンの悪魔が一人で乗り込んで来て一夜で強固なランスの要塞を陥落させたと。
この事件の後、ランスからシムベリンへの侵略は途絶える事となった。
もちろん誘拐事件はその後、起こる事はなかった。
ギルドの依頼のオーダーであった呪術者の討伐だが、ジェイクの入知恵を使った。
教会で私が倒した黒マントの呪術者たちを冒険者ギルドに引き渡したのだ。
あくまでギルドの依頼は呪術者の討伐と誘拐の阻止。
両方達成でき、めでたしめでたしなのである。
冒険者ギルド受付では報酬の金貨2枚をもらえた。
今回かかった労働力を差し引いても割りに合わない気がしたがアバウトに行こうと気持ちを切り替え考えないようにした。
「チカゲちゃん。初仕事お疲れ様」
「ヤザワさん。ありがとうございます」
「そういえば、あの地方で騒ぎがあったけど大丈夫だった?」
「ナニガデスカ?」
「シムベリンの悪魔が出たそうじゃない?」
私は全力でハグらかした。
ギルドを出て私は待ち合わせ場所に向かった。
ジェイクと待ち合わせをしていたのだ。
シムベリンの街、中央広場の噴水の前にスキンヘッドの大男が風景に溶け込めず立っていた。
「お待たせしました」
「お、おう……」
また、いつものジェイクに戻ってしまった。
顔を茹でダコの様に赤くして顔を合わせようとしない。
「これ」
そう言って私は金貨を1枚差し出した。
「ジェイクさんがいなければ、この仕事無理だったと思います」
「……」
ジェイクは金貨を大きな手で受け取る
「お前さんが使った魔法弾だが」
「?」
「あれ、金貨50枚の代物だ」
「……」
(なんだとッ!)
「だ、だから。お前が受ける仕事は必ず俺が付いて行く」
「は、はい。わかりました」
「うむ」
この流れで私の仕事のパートナーが今後、自動的にジェイクになっていくのでした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私の話が一通り終わると。
アルベルトは涙を浮かべて笑っていた。
「そ、そんな面白かったか?」
「ジェイクもジェイクだけど、お姉ちゃんも」
「ええっ?!」
カフェのテラスで沢山笑った。
「おい、お前ら。人を肴に何してるんだ?」
「あ、ジェイク」
「昔話です」
ジェイクは私たちが座っている席に腰掛ける。
「コーヒーだ! ブラックで頼む」
「はい」
ふと思い立ったようにアルベルトはジェイクに質問をする。
「そう言えば、ジェイクって職業なんなの?」
「ん? あぁ言ってなかったか?」
「ずっと前衛で殴り合ってるから武道家?」
確かに、装備はメリケンサックを使っている。
はたから見たら武道家と思わるだろう。
「ジェイク、なんなの? 教えてよ」
「俺は、神官だ」
「……」
「……」
「……」
この時、人生で一番静かな時間が流れたと後日アルベルトは語ったのだった。




