どうも、魔法使い(仮)です!
冒険者ギルドの仕事は、他の冒険者パーティーと共同で仕事をこなす事がある。
これがキッカケで印象が良ければパーティーの数が足りない時は呼んでもらえたりする。
また、ここで印象が悪ければ次回声は掛けてもらえない。
「オーガだ!」
「こんなのが奥にいるなんて聞いてないぞ!」
前衛の冒険者たちは、慌てふためいている。
この辺りでオーガが出るのは珍しい。
後退してくる前衛が私たち後衛に指示する。
「魔法で援護してくれ!」
「ひるんだ所を俺たちがやる!」
出番だ。この出番こそが…。
いわゆる次回のお仕事に繋がるオーディションなのだ!
私は魔法使いでギルド登録されている。
自分のポジションの役割をシッカリ果たさないといけない。
前衛の何人かが後衛の後ろに退避していく。
私は杖を振り上げて攻撃魔法の名前を叫ぶ。
「ファイヤーボール」
-----ドォスッ!!
鈍い音が響き渡ると同時に目の前でオーガが倒れた。
「おおっ!」
「ひるませるどころか倒したぞ!」
「お前凄いな」
オーディション合格。これは間違いなく合格だ。
求められた内容以上の働きをする。
OL時代に学んだ事だ。
そうする事で次の仕事がもらえる!
「でも……焼け跡がなくない?」
「どっちかってーと撲殺された感じだ……」
ええ、撲殺したんです……(白目)
「まぁ、いいか! 倒した事には変わりないし」
「それにしても、お前凄い魔法使いだな!」
「また、一緒に仕事しような!」
私は魔法使い。魔法は得意ではない。
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RPGゲーム。子供の頃に夢中になって冒険した。
なんちゃらクエストや、なんちゃらファンタジー。
学校から帰ったらゲームを即起動。
現実とは違う冒険の世界へ旅立った。
よく自分の職業を魔法使いにしてゲームをプレイしていた。
杖から炎を出し、地面を凍らせ、雷を降らせる。
現実では出来ない事が出来る。
そんな職業がたまらなくカッコイイと思ったんだ……。
私がこの世界に来たのは2年前。
何もかも失ってこの世界に来た。
この世界に転生した時、神様から自分の生き方を選ばせてもらえた。
私は勿論魔法使いを選んだ。
しかし、伸びたのは物理火力だった。
私のステータスはこんな感じだ。
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チカゲ
Lv41
職業 魔法使い
HP 410
MP 60
力 120
速 100
物防 50
魔力 30
魔防 10
スキル ファイヤーボール、物理無効(短)、身体加速(短)
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完全に前衛アタッカー向きである。
このファイヤーボールは、ゴミの様な威力だ。
焚火の火を起こすには便利だが魔物と戦えるだけの威力は無い。
冒険者ギルドに登録する際に身分証を発行するのだが、その発行手続きは簡単なものでマジックアイテムの石に手をかざすだけの作業なのだ。
職業やステータスは、その人の得意不得意に合ったものが表記されると言う設定。
魔法使いと表記されていた時は天にも昇る気持ちだった。
ただ育った結果がコレだ。
私は自分の寝床としている宿屋へ帰った。
部屋のドアを開ける。
「チカ、おかえり」
「ただいま」
私の夫で、名前はジェイク。
見た目はパッと見、某新宿の掃除屋に出てくる猫の名前の喫茶店マスターのような風貌。
サングラスをキラリと光らせてこっちを見ている。
「どうだった?」
「共同のパーティーは苦手です……」
「俺が代わってやれれば良かったんだが、ご指名だったからな」
ベットに倒れ込んで、足をパタパタさせる。
「うーー」
大きな手で、頭をガシガシ撫でられる。
「もぉいっそのこと、前衛だって言えばいいんだ」
「前の街……それでハミ子にされたじゃないですかっ……ううっ」
「無理して仕事取ろうとか思わないでいい。俺も稼いでるわけだし」
「家計の足しにしたいのです……足手まといは嫌です……」
身分証に魔法使いと表記されているのに前衛はオカシイ。
前にいた街でハミ子にされたのがトラウマで、この街では大人しくやっている。
ギルドの依頼の他に冒険者仲間に誘われて同行するのも金策手段なのだ。
生きていくためにはどの世界でもお金は必要なのだ。
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翌日、ジェイクとギルドに行くと受付に知った顔があった。
「あら?チカゲちゃんじゃなーい!」
「えっ……ヤザワさん?!」
私がこの世界に来て右も左も分からない時に辿り着いた街で世話を焼いてくれた人だ。
寺島進に似ているダンディーなおじ様なのだが、オネエ系だ。
「拠点変えるって消えてから全然噂を聞かないから心配してたのよぉっ?」
「2回拠点を変えて、やっとここで落ち着きそうで……」
「ふーん……」
察してくれたのかヤザワさんはそう言って言葉の間を空ける。
「ところで、そちらのイカツイ人は?」
「ウチの旦那です」
「え! 結婚したの?」
「はい……シムべリンの時に知り合って」
ヤザワさんは微笑んで軽く会釈をする。
「ジェイクです」
「よろしく。ヤザワよ……。そんな噂聞かなかったけど?」
「街を出た後追っかけ回されて……」
「まぁ!」
「最後に負けました……」
「あはははっ!」
爆笑された。
私の説明が悪かったのだろうか? ジェイクはこっ恥ずかしそうに顔を赤くしている。
笑いがおさまってヤザワさんが話し出す。
「今日から、ここの受付する事になったから二人ともヨロシクね!」
「え?」
「実力は分かってるから、それに応じた仕事を渡すようにするわっ」
それを聞いたジェイクは丁度イイと言わんばかりに話を切り出した。
「早速なんだが、何か仕事はないか?できれば二人だけでできる仕事がいい」
「うーん、そぉねぇ」
ヤザワさんは一瞬何かを考え込んだような顔をした。
「要望とは異なるんだけど、アンタたち新米磨きってやつ、やってみない?」
新米磨き。
冒険者になりたての頃は知識が浅いゆえにトラブルや事故などが多い。
そこで組合ギルドはベテラン冒険者のパーティーに新米冒険者を入れてノウハウを教えるという取り組みを行っている。
「もちろん、新米さんを入れる時は仕事のランクは軽めのモノを提示するわっ。それに……」
「……」
「アナタに今必要な事かもしれないわよ?」
「やっ……やります!」
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ギルドから出た私たちは歩きながら会話をする。
「チカ、いいのか?」
「ヤザワさんが言うなら、やってみたいです」
「……どういう関係なんだ?」
「私がこの世界に来た時から、ずっと世話を焼いてくれてた恩人なんです」
この世界に来て初めて身分証を作ってくれたのがヤザワさんだ。
お金が無かった私に部屋を貸してくれたりもした。
魔法職なのに魔法が苦手な事も知っている。
なにより、私の黒歴史を隣で見て来た人物なのだ。
ただ……その度に励ましてくれたりアドバイスをくれたりした。
だからかもしれない。この仕事には意味があるんじゃないか? そう勝手に思ってしまったのだ。
「見つかるといいな」
「はい!」
こうして私たちは新米磨きの仕事を受ける事にしたのだった。
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冒険者ギルドの受付カウンター。
ギルド社員がヤザワに声を掛けてくる。
「ヤザワさーん! あの件どうなりました?」
「もぉ受諾してもらったわよっ」
そう言って契約用紙を社員に差し出す。
「ブロンズランク。チカゲ、ジェイク……低ランクっすね!」
「アンタ、見る目は養った方がいいわよ?」
「ええ~、すみません……勉強し直します」
(まぁ……シルベリンの悪魔が堂々と魔法使いやってんだから誰も分からないわよね……)




