シカタナイの方程式⑤
【あらすじ】
お母ちゃんの貫禄!
朝日が昇り暗闇だった景色に色が戻る。
ランス側の鉱山道入口に馬車が11台待機しており朝っぱらからアルベルトの大きな声が聞こえ私は目を覚ました。
「つまり陣形は、2パターンで行うから覚えておくように!」
「指揮官殿。サーッ!」
「ほんじゃ、よろしく!」
「イエッサーッ!」
黒装束を着た屈強な男たちが、アルベルトの前に整列してレクチャーを受けている。
「アル君、おはよー」
「あっ。お姉ちゃん! 体平気?」
「え? うん。大丈夫だけど? この人たち何?」
「え?」
「え?」
私は昨夜の事を覚えていなかった。覚えているのはマルタからウィスキーを手渡され飲んだくらいまでだ。お酒のせいか今朝は頭がガンガンしている。
「お、おはようございます……」
「ひぃッ……姐さん、おはよう御座いますッ!」
屈強な男たちに挨拶をすると全員が後ずさりして脅えている様な素振りを見せる。
「お姉ちゃん、今ジェイクが朝ご飯作ってるからそっちで待機しててよ」
「わかった」
ジェイクがキャンプファイヤーの火でご飯を作っている。
周りを見渡すが昨日まで居た馬車を引く人がいなくなっていた。
昨夜のうちに一体何があったのだろうか?
「ジェイク。おはよう御座います」
「あぁ。起きたか?」
「馬車引く人たちは何処へ行ったんですか?」
「もぉ、アイツらは帰しのさ」
話によると、屈強な男たちを20人ばっかり揃えたので民間人はそのままランス首都へ帰らせたと言うのだ。
「あの、男の人たち誰ですか?」
「……なんだ、お前覚えてないのか?」
「はい?」
「昨日山賊が出たんだよ。それでシメて仲間に引き入れたのさ」
「へぇ~」
目の前にはデカい肉の塊があり、それを切り分けて焚火で焼いている。
おそらく私はウイスキーを飲んでそのまま寝てしまったのだろう。
その間に山賊退治や食料調達までしてもらっていた事に申し訳ない気持ちになっていた。
「君たち、仕事の前にご飯だよ!」
「指揮官殿イエッサーッ!」
ゾロゾロと屈強な男たちがやってくる。その男たちに私は肉を手渡しで配る。
「ね、姐さん有難う御座います!」
「手伝って頂けるんですね?」
「も! もちろんです!」
「助かります。沢山食べて下さいね!」
そう言って男たちにOL時代覚えた社交辞令スマイルを送る。
引っ越し屋でもそうだが仕事始めが大事なのだ! ここで印象を良くしていれば働き方も変わると言うものだ。
「それにしても、なんで山賊さん達が協力してくれる事になったんですか?」
「……」
「……」
(なんで、静かになるんや!……白目)
アルベルトは白目をムイいた表情で昨夜の事を話し出した。
「いや……なんていうか、昨日……」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アルベルトの話によると、私とマルタが血祭に上げた山賊をジェイクが治療して動けるようにしたそうだ。山賊は全員縄で縛られた状態で地ベタに座っていた。
そこにアルベルトが交渉を持ち掛けたそうだ。
「この中で親分はどいつかな?」
「俺だ!」
オレンジ色の髪の色をした20歳くらいの男が名乗り出た。
頭にバンダナを巻いていて髪は逆立っている。
髭も手入れが丁寧でないのかポツポツと剃り残された髭が目立っていた。
「名前は?」
「マーカス盗賊団の頭のマーカスだ!」
「早速なんだけど、仕事を頼めないかな? 輸送と戦闘をしてもらいたいんだ」
「ふん。嫌だね!俺たちは……」
-------------------ドゴォオオオオッ!
マルタの拳がマーカスの顔面にめり込んだ。
ロープで縛られているマーカスはエビの様に地面に打ち付けられながら跳ねて転がる。
「勘違いすんじゃねーぞ? 交渉してんじゃねぇ。選択肢はYESかYESだ。分かってんのかハゲ……ペッ!」
酒瓶を片手に煙草を吹かしながら頬に入れ墨の入ったガラの悪いシスターが転がったマーカスに近づいて行き髪を掴み持ち上げた。
「あたしゃ、シスターだからよぉ。なんならここで懺悔すっか? ただ……楽に死ねると思うなよ? ああぁッ?!」
もはや極道である。こんな血も涙もないシスターは聞いた事がない。
他の山賊たちは震え上がっている。
「マルタさん! 暴力は、ダメですゅ!」
「サウザンド邪魔すんな!」
私はマーカスのロープを斬って拘束を解いた。そして彼の両手をそっと掴んで最高の微笑みを見せる。
「人は、話し合えば分かり合えるものですっ」
「あ、あんた……」
「マーカスさん。頼み事、聞いてくれますよね?」
「す、すまねぇ。俺たちは人から仕事は受けない主義な……」
-------------------ボキッ
私は握力でマーカスの腕を折っていた。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッ!」
「おかしらああああああああ!」
「腕が曲がっちゃイケナイ方向にッ!」
「おかしら!もぉ意地張るの止めましょぉおおおお!」
マーカスは正座してシクシク泣いていた。
子分たちから背中をさすられながら慰められている。
きっと腕の骨と共に大事なプライドも折れちゃったのだろう。
「俺、何でも言う事聞くぅっ……しくしく……何でもするぅ……しくしく」
子分たちがマーカスを慰めていると暗闇の中で急に大きな地鳴りが聞こえた。
-------------------ドドンドドン!ドドンドドン!
アルベルトは全員に緊急対応する指示を飛ばす。
「森の方角から1体。おそらくモンスターの類! お姉ちゃん達!」
「あいあ~い!」
すると山賊の子分がアルベルトに話しかけて来る。
「ダメだ! コイツはこの森で一番ヤバイ奴だ! 逃げた方が良い!」
「説明できるかな?」
「巨大なイノシシなんだ! 俺たちの仲間が何人もソイツに食われた!」
「イノシシ?」
「お頭たちと討伐に出たこともあるが、全然歯が立たたなかった!」
森の中から凄い速度で走って来ている気配を捉えた。
「お姉ちゃんたち! この速さだと逃げるのは無理だ。迎え撃とう!」
アルベルトは呪文を詠唱しジェイクも戦闘態勢に身構える。
マルタは焚火の方へ行きウィスキーの蓋を一生懸命開けようとしている。
「なんで、これだけ蓋固いんだ?」
勢いよく大イノシシが森から飛び出して来た。2メートルくらいの大きさで口元から生えている角で私を突き刺そうとしている。
私は大きく腕を振り被った。
「お疲れ様です!」
私の拳が大イノシシの眉間に直撃する。そのままイノシシの顔面を力一杯、地面に叩きつけた。
-------------------グシャ
「……」
「……」
「……」
「おっ! 蓋空いたぜぇ~。サウザンド! 飲むぞー来いよっ」
「は~い」
大イノシシの顔面は潰れ完全に息の根は止まっていた。
そこからジワジワと地面に血がしみ出してスプラッタのような光景だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アルベルトは昨夜の経緯を話し終わると焼かれている肉を指さす。
「そのイノシシが、コレね」
(そんなバカなッ……白目)
その後、私とマルタは酔いつぶれて寝たらしい。
山賊達は、仲間を何人も殺した大イノシシを倒してもらったと言う事もあり快く仕事を引き受けてくれたそうだ。
「おーい! サウザンドッ!」
「あ、マルタさんおはよう御座います」
「はよぉ! なんかさぁ。服血生臭ぇんだよ!」
(それな……白目)
私たちの服は山賊と大イノシシの返り血でベタベタになっていたのだ。
「でよぉ。そこに川があるんだよ。一緒に行かねぇ?」
「あっ! 行きたいです! アル君いいかな?」
「いいよ。昨日仕事したのは二人だし。帰って来たら出発しよう」
「ありがとう」
マルタが見つけたという川に森の中を通り案内してもらう。
ある程度歩くと上流の綺麗な水が流れる川があった。横幅の広い川で大きな岩もあり物陰になる場所もある。水浴びには最適な場所である。
マルタは修道服を脱いで川で洗濯を始めた。
私も同じように服を脱いで下着だけになりマントやシャツを洗う。
冒険用グッツの固形状石鹸をガシガシ服に擦り付けて洗うのだが、その画は桃太郎に出て来るお婆ちゃんである。
石鹸をタオルで泡立てて体や髪も洗った。
「なぁ。サウザンド……」
「はい」
「なんで結婚したんだ?」
思わぬ人からの思わぬ問いに一瞬脳みそが止まった。
マルタがこんな話題をするなんて意外である。
「一緒にいれると思ったからですかね?」
「……ふ~ん」
返答を聞いたマルタはジャバジャバと服を洗いながら大人しくなる。
「ぶっちゃけ、結婚しないでもヤるこたぁヤレるし。一緒にいたら面倒臭い事もあるし……会いたい時に会ってとかじゃダメなの?」
「神様に二人で手を繋いで死ぬまで歩いて行くって決意をカタチにするって言い方の方が正しいのかなぁ……。多分結婚しなくっても思い合ってれば気持ちは繋がってると思いますが、腹の据え方? 構え方というのかな? が変わるのだと思うんです」
「そんなことしたら、他のヤリたい奴とヤレなくなるぜ?」
「それはお互い様なんで、痛み分けってヤツですよ。というか……私以外にヤリタイとか思ってたら殺しますが……」
「あははッ! お前意外と怖い女だな?」
「それはお互い様と言うことで」
人付き合いとは不思議だ。マルタと女子トークをしている。
こういう一面っていうのは向き合って見ないと分からないものだ。
「マルタさんは? 結婚願望ない?」
「だぁ~っ。それ聞く?」
「はい」
「面倒くせぇから、ヤダなぁ……。アタシみてぇなのは、ヤルだけヤッて捨てられるのがオチさ」
一瞬マルタに影が落ちた様に見えた。
「まぁ。捨てるのはアタシだがな! ざまーみろッ! だぁっはっはっは!」
(前言撤回する……白目)
水浴びが終った私たちはローブ一枚を羽織り絞った服を抱えてキャンプへ戻る。
既に出発の準備ができていて。私たちも急いで洗った服を馬車の中に干し移動を開始した。
隊列は一つの馬車に2人が乗り込んで隊列を組む。
先頭の馬車にはアルベルトとジェイク。最後尾には私とマルタが乗り臨時の時に対応できるようにした。
搭乗員にはトランシーブの魔法を掛け全員に情報伝達が行き届くようにしている。備えは完璧である。
鉱山道は馬車1台と半分くらいの広さがあり荷馬車が通過するには十分な幅が確保されていた。
各馬車にはマジックアイテムのライトが灯され洞窟内を照らしながら走る。
寝ずに1日走り続けたくらいだろうか。馬車は広い空間に抜け出た。
「すごい。天然の空洞ですよ!」
「しかも、湧き水もあるな」
そこは鍾乳洞になっており高い天井から岩のツララが垂れ下がっている。
そして脇には鍾乳池がありこの場所だけなぜか薄明るいのだ。
私たちは馬車を止めてこの場所で休憩する事にした。
「こりゃライトクォーツの鍾乳洞だぜ」
「ライトクォーツ?」
「あぁ。暗い所で発光する石なんだよ。珍しい石なんだが使い道がねぇから市場では価値の無い石なんだ」
「へぇ~」
鍾乳池はエメラルドグリーン色で明るくキラキラ輝いている。
まるで池の中に蛍光灯でも入れているかのような光を放っている。
景色に見入っていると号令が掛かる。全員が同じ場所に集まるとアルベルトが話し出す。
「この先200メートルくらい先が出口になってる。なので馬車はココに止めて行くことにしよう」
「メンツはどうするの?」
「ジェイクに19人預けるから、ここで馬車を守って欲しい」
「わかった」
「お姉ちゃん、マルタ、マーカスは僕に付いて来て」
「了解!」
作戦会議が終わると各々の馬車で仮眠を取る事になった。一日中寝ずに走っていたので気の張った糸が切れ泥の様に眠った。
それから幾時か眠った頃にポツポツと外から話声が聞こえ出し目が覚めた。
馬車の外に出ると大イノシシの肉の残りをマーカスが調理している。
「姐さん。早いっすね!」
「今、朝なのか夜なのか分からないですね」
「さっき偵察に外の様子を見に行ったんすけど、今どうやら朝方みたいですね」
私は焚火の近くに座り調理している工程を見学する。
山賊たちは、まだ寝ていたり起きて武器の手入れをしている人等まちまちである。人相は悪い連中だが諸悪の根源には見えない。
私はふと疑問に思った事をマーカスに問う。
「なんで、山賊やってるんですか?」
「それ聞いちゃいます?」
苦笑いをマーカスは浮かべている。
「俺のいた孤児院が経営難で潰れちゃいましてね。10歳の頃に外に放り出されたわけです。その時一緒にいた仲間達と生きていくために山賊始めたのが事の始まりですわ」
「働こうとは?」
「冒険者になろうとも考えたんですが戦えない奴らもいるんでね。頭張ってる俺がこいつら見捨てるわけにもいかねぇですし」
「それで山賊ですか?」
「貴族からしか盗まないってルールを決めて、やり始めたわけです」
どこの世界も不器用な人間はいるものである。こういうのを世間ではシカタナイという言葉で括るのだ。
考えれば、やり方など幾つもあって身分に関係なく要領が良い奴は頭だけで金を稼ぐし世渡りも上手い。しかし世の中にはそれが出来ない人もいる。
努力が足りないとか死ぬ気でやれば出来るとか言う人もいるが、それでも出来ない物は出来ないのだ。私はこれをよく知っている。
「姐さん、山賊は嫌いですかい?」
「人の物を取るのは良くありません。と綺麗ごとを抜かそうとしたんですが……。じゃあ貴方方に山賊を辞めさせて人生の保証ができるのかと考えたら私には出来そうにありません。だから無責任だなと思ったので飲み込みました。私に貴方方の生き方を取り上げる権利は無いので……」
「……」
「でも、悪い事したらきっと罰は当たります」
マーカスは黙り込んでしまった。声が消えたせいかグツグツと鍋が煮える音がフォーカスされる。
山賊が悪い事だとは自覚があるようだ。自覚はあるが生きるためにはシカタナイと言う所だろう。気持ちと行動が矛盾すると心は痛くなる。
「……俺、罰当たるんっすかね?」
「きっと……」
「……」
「でも、その分良い事をすれば良い事しただけ。良い事が返って来ます。これだけは私が保証します」
「俺みたいな奴でもっすか?」
私はしょげてしまったマーカスの目を真っすぐ見て微笑みながら答える。
「間違いなく」
人生において過ちや失敗は無駄ではない。誤った道を歩いている事に気づく力があれば元の道に歩いて戻る事もできる。人間とは考え方と心一つで右にも左にも行けるのだ。20歳くらいの子なら、まだまだこれからじゃないか。
-------------ぐすっ
急にマーカスの目から大粒の涙が零れ出す。きっと、この子なりに今まで色んな思いをしながら皆を引っ張り頑張って来たのだろう。
私は笑顔でマーカスのボサボサの髪をガシガシと撫でた。
「よしよし……いい子じゃないかっ」
大の男が泣いてる様は心に来るものがある。もし私に弟がいたらこんな感じの気持ちになるのだろうか? 可愛い奴である。
-------------しくしく。しくしく。
「……?」
何かがオカシイ。泣く声がステレオで聞こえて来るのだ。
異変に気付き辺りを見回したら武器を手入れしている男や寝ている男が泣き出しているのだ。
何事が起きているのだろうか?
「あ~。お姉ちゃんゴメン……無線繋いだままだ」
(駄々洩れじゃねーかッ!……白目)
「おかぁちゃーん!」
「お前ら、泣くなぁあああああ!」
この後、私は小っ恥ずかしくなり全員にゲンコツを入れって回ったのであった。




