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どうも、魔法使い(仮)です!  作者: 道路公団松崎
本編
18/21

シカタナイの方程式②

【あらすじ】

アルベルトのお見合い潰し大作戦。デバフを喰らう!

 私たち3人は、アルベルトの生まれ故郷であるランス法国へ長距離馬車で向かっていた。国境を越え何日も馬車を走らせて現在ランス法国の領内へ入っていたのだ。

 剣の名門貴族ソテリキャリ家があるのは法国首都である。目的地まではクレムストックの街から馬車で15日と長い距離の旅だ。

 馬車の中でジェイクが思いにふけった様にぼやく。

 

「世間も変わっちまったもんだ。ほんの数年前まではランスとクレムストックは戦争していたのにな。国を自由に行き来できるなんて世も末だ……」

「私たちが、シムベリンに居た頃はまだ戦争してましたもんね」


 私が転生して来た2年前が戦争の真っ只中だった。

 国境付近は戦禍が渦巻いており度々激しい戦争が起こっていたのだ。

 終戦のキッカケとなったのはクレムストック魔導王国で起きたシムベリンの悪魔事件である。

 わずか一人の女剣士にランス法国の軍隊2000人が壊滅したという事件と、国境にあるランス南要塞が一人の女鈍器使いに一夜で陥落させられたという事件だ。

 クレムストック魔導王国はブラッククラスの戦力を保持しているという噂が駆け巡りランス法国から協和条約を提示され戦争は集結した。


(そう、知らんうちに私が終戦のキッカケを作っていたのだ……白目)


 魔法国家と法力国家には互いに理念戦争というシコリもあり協定を結んだ後も微妙な関係で均衡を保っている。

 とくにランス圏内では魔法協会や魔法使いを嫌う人間が多くその風習は今も尚差別と言う形で残っている。アルベルトが国を追い出される形でクレムストックに留学させられたのも魔法協会権力の強い国というが理由にあるのではないだろうか。


「チカ、格好はそれでいいのか?」

「えっ?」

「完全に格好が魔法使いだが……」

「大丈夫です。だってもぉ戦争は終わっています!」

「……」


 ジェイクが心配しているのも無理はない。魔法使いにとって法国はアウェイ中のアウェイなのだ。しかし私が法国内で魔法使いである事を隠すわけにはいかない。

 それをしたらアルベルトを否定する事になる……。


 -------------ガラガラガラガラ

 いつもの旅の道中では大ハシャギし口数の多いアルベルトも今回ばかりは静かだった。考え込んだ様な表情で口を閉ざしている。

 車輪が転がる音だけが響いて騒々しいのに静かという矛盾に包まれている。


「お客さん!首都見えてきましたぜ!」


 馬車を引くオジサンが声を掛けてくれた。私たちは馬車から身を乗り出し街を眺めた。

 建物は白ベースのカラーで統一されていてクレムストックとは建築方式が違い瓦の三角の屋根は少なく平な形の屋根の建物が多い。

 そして街の中にそびえ立つ巨大な城は圧巻である。丘の地形を利用して作られているからか、まるでジオラマ台の上に作られたお城の様に威風堂々とした姿が際立って映えている。


「で、でかい……」

「街全体を掘りが囲んでいるだろう?戦の時には街全体が要塞になる」

「なんか、いい匂いがしませんか?」

「あぁ、これはお香だな」


 街から吹いて来る風にお香を焚いた香りが混じっている。神殿ではお香を使うらしく街の各所にある教会や神殿で毎日焚かれているらしい。

 旅の商人からランスの街の噂話を聞いた事があるが、皆口を揃えて良い匂いのする街だと言う意味がよく理解できた。


「それにしても、教会と神殿の数多いですね」

「法力国家は宗教色が強い街だからな」


 首都を中心に石畳で舗装された街道が東西南北と伸びている。これを見ても国力がどれほどの物なのか一目瞭然である。別の街道には商会や旅人の乗る馬車が行き交っていて物流なども盛んに行われている様だ。


「おい、アレ何かオカシクないか?」

「?」


 別の街道を凄い勢いで走っている馬車を見つける。その馬車の横にピッタリともぉ一代馬車が隣り合わせでくっ付いている。

 

「お客さん、時々ああいうのあるんですよ。多分盗賊か何かじゃないかと……」

「それにしても、街周辺であんな派手にやるものか?」

「ジェイク、行きましょう。ほっとけないです!」

「……言うと思ったぜ」

「アル君、ここで少し待って……あれ?」


 アルベルトが馬車の中に居ない。


「ジェイク。アル君……いません……」

「チカ、あそこだ」


 ジェイクの指さす方に目をやると襲われている馬車に見たこともないスピードでアルベルトが向かっている。

 地面を蹴ってジェット機の様に直進しているのだ。

 私たちのが使う身体加速のスキルとは少し違う。走って移動すると言うより地面を蹴って真っすぐ飛んでいるというものに近い。

 地面を一蹴りすると長距離、地面に足を付けていない。足が地に着くとまた一蹴りして直進している。


「……なんですか、あれ?」

「……わからん。わからんが、アイツ益々変なスキルをコジらせてやがる」


 アルベルトが襲われている馬車に辿り着いた時には、もぉ一台の馬車は街とは逆側に逃げて行く所だった。馬車の中にはメイド服を着た少女が蹲っていた。


「何があったか説明できる?」


 メイドの少女は涙ぐんで震えながらアルベルトの言葉に応える。


「お願い……です。お嬢様が……攫われて……助けて……」

「あの馬車?」

「……はい」


 私とジェイクが一足遅れてアルベルトの元へ到着した。


「アル君。状況を!」

「お姉ちゃん、あの馬車止めれる?魔法は遠すぎて射程外なんだ」

「良く分からんけど、任せて!」


 この場所から逃げて行く馬車まで150メートルくらいの距離がある。


「よしよし。物理無効(短)」


 私は得意気に槍投げの選手の様なポージングを取る。しかし持っているのは槍ではなく鉄の杖である。そのまま勢いよく逃げていく馬車に向かって投げてみた。


「うぉおおおおりやああああああ!」


 斜め上に投げられた鉄の杖は、ゆるやかな曲線を描きながら落ちて行く。

 

「……」


 ----------------ガシャーン!

 馬車のテントの中心に真っすぐ鉄の杖が落ちて貫いた。

 荷台の床を貫通し地面に突き刺さったのか、その鉄の杖に馬車が引っ掛かり横転し大破した。


「ストラーイクッ!」


 私はご機嫌にガッツポーズを決めた。


「おじょーーーさまーーーーッ!」


 メイドが青ざめて叫んでいる。


「お姉ちゃん。あの馬車に人質が……」

(それ、早よ言って!白目)


 急いで私たちは大破した馬車へ駆けつける。

 メイドが走って馬車へ駆け寄り探していると大破した馬車の瓦礫から数名が這い出して来た。


「お嬢様ッ!」


 その中にドレスを着た女性がいるのを見つける。

 山賊風の格好をした男に掴まれている。

 そして顔や服が泥まみれになっている。

 後者は私のせいで確定である。


「なんて野郎だッ!人質取ってるのに俺たち諸共殺しに掛かりやがった!」

「あ、悪魔の様な奴だ!」

「ほんとに人間か?!」

(ほんと、すみません……白目)


 人攫いに悪魔と言われる心中はとても複雑である。

 山賊風の男たちは剣を抜き人質を囲んだ陣形を展開する。

 体勢を整え直し陣形を組むのが早い。この連中は実戦慣れしている奴らだ。

 

「チカ。杖は瓦礫の中だろう?」


 ジェイクが私に日本刀を渡して来た。最近の私のポリシーだがコレを使いたくはなかった。魔法使いがコレを使ったら何故か負けな気がするからだ。

 私は渋々、刀を抜いて構えた。 


「アル君」

「サポートは任せて。良い気晴らしになる」

「じゃあ、突っ込むね!身体加速(短)」


 私は自信にバフを付与し、地面を蹴る。

 高速で陣形の左側に移動し切り込みに掛かった。

 刀の刃を峰打ちに持ち替え同時に2人を斬り倒す。


「なんだ、この女剣士は?!」


 やはり、この人攫い達は実戦慣れしている。私の動きに対応は出来てないものの感知するのが普通より早い。

 陣形の中心にいる人質を掴んでいる男に斬り込もうとすると人質を盾代わりに私の方へ向けてきた。


「グリーンバインド」


 後方からアルベルトの魔法が支援する。

 植物のツルが人攫い達の手足に絡まり完全に身動きができない状態になっている。

 アルベルトは私の初手の攻撃で敵の出方を見て的確に補助魔法を使っている。

 ギルドの初仕事でシドロモドロだったアルベルトが懐かしく思える。

 そのまま私は敵を全て切り倒したのだった。


「お嬢様!ご無事でよかった!お怪我は?」

「はい。多少は痛みますが、問題ありません」

「俺は回復魔法が使える。見せて見ろ」

「有難う御座います」


 隅っこで私は何度も謝罪の意を込めてペコペコとお辞儀する。


「で、この連中はなんだ?」

「おそらくグランベルンの魔法協会派が差し向けたのではないかと……」

「グランベルン……」


 グランベルンというのはクレムストック魔導王国の南にある島国で数千年前、魔王を倒した勇者マッチィの出身国だ。騎士道の国と言われておりシンクレア最強と謳われているヴァ―ジス伯率いる至天騎士団が国を守っている。


 グランベルンとランスは元々魔王征伐のおりの戦友国である。さらに勇者とソテリキャリが親友の間柄という事もあり国同士は何千年もの間同盟を破った事がない。

 しかしグランベルンとクレムストックの関係はあまり良いものではない。それが勇者マッチィの死因にある。

 数千年前、クレムストック魔導帝国を収めていたケラルォス3世は世界統治のため各国へ侵略の手を伸ばしていたが拡大し広くなっていく領土に目が届かなくなった統治は圧制へと変わり民衆を苦しめていた。

 その圧制から民衆を救おうと立ち上がったのが魔王征伐後グランベルンの騎士団長になっていた勇者である。

 グランベルン王国は、ランス法国とその東にあるヴェルマール諸公連合と西南にあるグレートグリテンバルツ連邦国の4国で手を結びクレムストック魔導帝国に攻め入った。そして見事ケラルォス3世を征伐し帝国の圧制から民衆を解放したのだった。

 しかし、その代償として勇者マッチィという英雄をその戦争で失った。以降グランベルンとクレムストックとの間には数千年経った今でも平和協定を結んでいるにもかかわらず一歩踏み出せない関係に位置している。


 時代が流れた現在。グランベルン王国にはクレムストック魔導王国と親交を深めようとする魔法協会派の政治家とランス法国と親交が深い教会派で覇権争いが起きているそうなのだ。

 ここでも理念戦争の残り火は国々各所で政治に影響する程の力を持って小さな火花を散らしている。これが現在の世界情勢である。


 しかし、どうして南の国の政治家からこの女性が狙われるのかが分からない。

 私はその疑問を率直にぶつけた。


「なぜグランベルンの魔法協会派が貴女を?」

「申し遅れました。私はグランベルン王家に仕える貴族でファリス・アルグランス・マグナカタシアと言います。今回の私のランス入国がランスとグランベルンの絆を更に強くすると魔法協会派が踏んで煙たがったのでしょう」


 これは裏のヤヤコシイ世界の匂いがする。

 今回はアルベルトの事でこの国に来ているので面倒事には極力足を突っ込まない様に深入りせずに話を終わらせることにした。


「ご苦労お察し致します。とりあえず私たちがランスの入り口まで護衛しますので」

「感謝致します」


 私のせいで土ホコリにまみれたボロボロの公女様と襲って来た人攫い達を一緒に街まで運ぶ。

 街の門で衛兵に賊を引き渡し私たちはファリス公女と分かれた。

 

 この街の宿屋を探し大通りを歩く。


「入国前から変な事に巻き込まれてしまいましたね」

「ふん。俺たちはどうも変な事件に絡まれる体質だ」

(ホントそれな……白目)


 静かに寡黙になっているアルベルトに気を掛け目線を配る。

 黙り込んだまま無表情で一向に元気が無い。

 じーっと様子を伺いながら歩いているとアルベルトが口を開く。


「ジェイク。お姉ちゃん。会いたい恩師がいるんだ。ここで一旦別行動でいいかな?」

「あぁ。構わんが、お前一人で突っ走るなよ?いいな?」

「うん。分かってる。ありがとう!」


 アルベルトは、そのまま私達と一度別れ街へ消えて行った。

 向かった先は街の貴族区域にある屋敷だった。

 屋敷のドアをノックすると中から歳を取ったメイドが出てくる。


「はい、どちら様で……あ、アルベルト様!」

「メル婆、久しぶりだ。帰国したので先生を呼んでくれないか?」

「あぁ……なんとご立派になられて……」


 メイドは涙ぐんで屋敷の中に走って入って行く。

「旦那様ぁ!旦那様ぁ!アルベルト様です!ご帰国なさいました!」


 メイドに手を引っ張られて白髪と白髭を蓄えた老人の男性が息を切らせて走り戻って来た。

 その老人の男性は身なりはスーツを着ており非常に上品な佇まいをしている。


「アル様ぁああああ!」

「ウォルト先生ッ!」


 アルベルトがウォルトに抱き付き、それをウォルトは強く抱しめ返す。

 

「何と言う……ご立派に……」

「ウォルト先生、僕沢山勉強したよ。家名を汚す事のないくらい沢山勉強したよ」

「顔を見れば分かります。良い留学だったのですね……」

「はい!」

「ここではなんですので、庭へ行きましょう」


 お互い涙ぐみながら再会を喜んだのだった。

 屋敷の中に入りロビーを抜けると色とりどりの花が咲き乱れた庭園があった。その中心には丸い白色のテーブルと椅子があり二人はそこに腰かける。


「ウォルト先生が僕の教育係になって、より広い視野と視点でモノを考えられる力を付ける事ができた。本当に感謝している」

「参謀として腕を振るえる様に私くしめが手塩にかけた御方です」

「……今生では、法王の右腕としての役目は叶いそうにないんだよ」

「……」

「今回、お父様が見合いを持ちかけて来た。おそらく僕はランスから他国へ遠ざけられるだろう」


 アルベルトの手がズボンの布地を強く握り絞めているのをウォルトは静かに見つめている。


「そして、この見合い話を僕は蹴る積りで帰国した。それはソテリキャリ家でいる事さえできない事を意味する。僕は何物でも無くなる」

「アル様……誰が法王の参謀と言いましたか?」

「?」

「私が言ったのは参謀の頭脳として腕を振るえるようにと言ったのです」

「……」

「頭脳に爵位はいりません。何故の見聞でしょうか?何ゆえの知識でしょうか?己の価値とは階位で決まるものではありません。自身のお好きな様になさいませ。小さな枠に囚われなさるな。私はそのように教育したはずです」

「ウォルト先生……」


 ズボンの布地を握りしめる力が緩まる。


「広い視野でモノを考えられる様になったのではないのですか?」 

「……はい」

「自身のいるべき場所は自身で見極め、お決めなさいませ」


 -----------------カチャカチャン

 メイドのメルが紅茶を二人に差し出す。話を割らない様に頃合いを見て運んで来てくれたのだろう。頭の中にウォルトの言葉を沁み込ませるだけの時間をカップを置く間が埋めてくれる。


「アルベルト様。湯を沸かしていますので紅茶を飲んだらシャワーへ。身なりを整えてご実家に行かれますように」

「メル婆、ありがとう」


 メイドのメルはシワシワの笑顔でアルベルトに応え返す。

 アルベルトは言われた通りシャワ―を借り数人のメイドから貴族の服を着せ整えてもらう。その貴族服は深く青い生地に金の装飾で飾られた清々しい正装である。肩からは黒いショートマントを羽織り裏地は鮮やかな真紅だ。


 衣装を整え直したアルベルトが先ほどいた庭園に戻ると女性が後姿で花を眺めながら佇んでいる。

 ウォルトとメイドのメルは居ない。

 元居た席に掛けようとすると、その女性が口を開いた。


「人は何故、知りたいと思うのでしょうか?」


 アルベルトの足が止まった。

 幼少の頃からウォルトとこういう言葉遊びをしていたのを思い出していた。

 それは言葉で遊ぶことで考える力を養わせるというウォルトの教育の知恵だった。

 迷わず後姿の女性に答を返す。

 

「それは、知る意味を知りたいからなのでは?」

「ふふ……面白い方」

「……先生のお客人は貴女みたいな人が多い」

「そのお言葉そっくりそのまま、お返ししますわ」

「あははっ……おっしゃる通りです」

「では、なぜ人は時間や法律や規則などをこじ付けたがるのでしょう?」


 アルベルトは指を組んで膝の上に置き自分の考えを口にする。


「人は時を管理するために時間と言う概念を作った。時間を法則という枠に収め理解しようとした。人は人を統治するために法律や規則を作った。それに外れる者を悪とし反れぬ者を善とする事で人が作った物差しで人を計り管理しようとした。それに共通するのは、管理するため。そして目に見える形で理解するため」

「では、なぜ人は物事の心理に辿り着き、彼岸の先に到達した人すら人の物差しに従うのでしょうか?」

「例外もあるはず。何故なら心と言う個人の物差しである価値観が介入するからです」

「士官学校のテストの様に答案用紙には答えがあって、人の選択肢にも答えがあるとするのならば?」

「名案です。できれば僕も人生の答案用紙が欲しい」

「ふふっ……」


 ドレスを着た女性は後ろ姿のまま、手の甲を口元に近づけ楽しそうに笑う。

 続けてアルベルトが言葉遊びを重ねる。


「例えばキャベツ畑の芋虫の話を知っていますか?」

「その話は初めてです」

「キャベツ畑にいる芋虫たちは話をしていました。芋虫の長老は言いました。このキャベツ畑にいれば一生不自由なくキャベツを食べて暮らせる。それが今まで芋虫がしてきた規則だと、ここに居る事が一番の幸せなのだと主張しました。しかしもう一人の若い芋虫は言いました。キャベツ畑の外に出れば食料に困る事があるかもしれないが、もしかしたら新しい世界で新しい発見ができるかもしれない。それは幸せな事だと主張しました。芋虫達は考えました。どちらが正解なのか?どちらが自分にとって幸せなのか?」


 ドレスの女性は少し考え答が導き出せない事を悟ると素直に言葉を切り返してくる。


「どちらが、幸せなのですか?」

「どちらでもなく、どちらでもあるです」

「まるで美しい哲学の方程式ですね」

「はい。有るものに従うだけなら魔導機械と同じですが人には心があって個々の価値観がある。どちらが幸せかは、その人の価値観で決まるという哲学の話です」

「貴方は、どちらを選ぶ芋虫なのかしら?」


 アルベルト吹っ切れたような、そんな笑顔を浮かべていた。


「僕は後者です」

「まぁ、飢えて死んでしまうかもしれませんよ?」

「はい」

「それでも、自分で広い世界を見たいと……?」

「僕は、自分の価値観に素直でありたい。先ほど、そう思えるようになりました」

「……」


 -------------ガチャ

 屋敷のロビーから庭園に入るドアの音が聞こえる。ウォルトが庭に戻って来たのだ。


「これは、お待たせしました公女殿下」

「待ってはおりません。楽しい言葉遊びをしておりました」


 そう言って庭の花を見ていた女性が振り返りアルベルトと初めて目を合わせた。

 セミロングの肩まである透き通るような金髪の髪が庭園に吹く微風で静かに揺れている。

 エメラルドグリーンの瞳はまるで宝石の様にキラキラと輝いていて美しい。

 体には純白と白銀であしらわれたドレスを着てまるで天使の様な女性だった。


「二度目ですね。アルベルト公子」

「ファリス公女殿下?!」


 アルベルトは驚いて勢いよく立ち上がり椅子を倒してしまう。


「お二人は既に面識があるのですか?」

「ええ。先ほど賊に攫われかけたのをアルベルト公子が助けて下さいました」

「なんと……」


 ファリスはアルベルトに歩み寄り手を両手で握った。


「お次は、どの様なお話で楽しませてくれるのかしら?」

「……」


 アルベルトの顔がまるでリンゴの様に真っ赤になっている。


「アル様は如何ですか?ファリス公女」

「流石ウォルト様の教え子。2歳も年下なんて思えないですわ。」

「それは光栄に御座います」


 ファリスの瞳は反れる事無く真っすぐにアルベルトを見ている。

 

「私くし、アルベルト様と婚姻したいです」

「公女殿下、いけません!今回のランスへ来た公務の目的をお忘れですか?」

「……」

「いけません。殿下!」


 ファリスは少し考えた様な表情をした後、再度笑みを浮かべる。


「心より規則を取らなければならない事も世の中にはありますものね。これはシカタナイ事なのですよね?」


 アルベルトの手をそっと離し数秒見つめ合ってからファリスは庭園を退席した。

 ファリスが庭園を出た後アルベルトは腰が抜けた様に崩れる。

 顔は耳まで赤く染め上げ心臓が張り裂けそうなほど脈打っていたのであった。


「……な、なんなんだ、このデバフは……(白目)」

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