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どうも、魔法使い(仮)です!  作者: 道路公団松崎
本編
17/21

シカタナイの方程式①

【あらすじ】

前兆でございます。

 クレムストックの街。東商業地区の武器屋に私はいた。

 先日のニーズヘッグ戦で消耗した武器をスミスさんの所に持って行っていたのだ。


「……お前さん」

「はい」


 スミスは鋼の杖を目の前にして腕を組んでいた。


「どうしたら、こうなる……」

「あはははは」


 鋼の杖はベコベコに折れ曲がり杖の原型を留めていなかった。


「この杖には、ワシらドワーフの細工の技が施してある。スキルを使っても壊れないように強化の刻印を刻んでいる。お前は一体どんな戦闘をしたんじゃ?」


 後衛の魔法使いがタイマンでニーズヘッグと殴り合ったなんて絶対に言えない。


「固いドラゴンと……ちょっと、戦いまして……」

「……」


 スミスは店の奥に入り新しい杖を持ってくる。

 この世界で魔力を練るツールの杖は打撃武器ではない。

 基本、杖は木や石で作られ鉄や鋼では製作されない。

 

 私が持っているこの鋼の杖は、スミスの趣味で作った売り物ではない杖だった。

 魔法使いは魔力アストラルを魔法学の公式を用いて非物理作用を起こす力に変換している。

 魔力アストラルを魔法学式で変換する際に木や石が変換速度を増幅してくれるのだ。

 しかし鋼や鉄は魔法学式での変換速度を鈍くしてしまう。

 ゆえに、魔力が鉄や鋼を嫌うという言葉が生まれたのだ。


「少し時間をくれ。それまでこれを使っておきなさい」


 そう言って鉄の杖を渡される。


「強度は鋼に劣るが繋ぎにはなるだろう」

「ありがとうございます」


 私は会釈をしスミスの武器屋を出た。

 


 自宅がある南の丘まで歩いて帰る事にした。

 ボーッと考え事をしながら帰路を歩く。

 強度刻印された硬鋼でさえ曲がる……。

 変換ツールの杖を鈍器として扱っている私にも問題がある。

 そんな事を考えながらローブのポケットに手を突っ込んで空を見上げた。

 もはや行き詰まりである。


 ----------------ゴロッ

 何かがポケットの中に入っている事に気が付く。

 手に触れたのはゴツゴツしたものだ。

 それをポケットから取り出してみた。


「……なにこれ」


 アルミ缶程度の大きさの黒い石が入っていたのだ。

 いつから入っていたのか分からない。

 

 -----------------ガラガラガラガラ

 後ろから荷馬車の音が聞こえる。

 私は体を道の外側へ移動した。

 すると聞きなれた声で私を呼ぶ声が聞こえた。


「あれー? チカゲちゃん?」


 荷馬車の主はトヨタ―さんだった。


「帰りかい? 乗っていく?」

「はい! お願いします」 


 馬車の横に乗せてもらい丘の下の集落を荷馬車はゆっくりと走る。

 トヨタ―さんはクレムストックの街の役所に仕事で行っていたようだ。


「その持ってるの、なに?」

「あぁ。ポケットに入ってて」

「イタズラ?」

「いつから入ってたのか分からないんですよ」

「ちょっといい?」


 黒い石をトヨタ―さんは手に取り鑑定スキルを唱える。


「エキスパート・オピニオン」


-----------------------------------

 ・ニーズヘッグ 

 光を飲む漆黒の闇。死者を喰らう竜の魂と呼ばれている石。

-----------------------------------


「……いつ手に入れたか分かっちゃったね」

「こういうのってポケットに入ってるモノなんですか?」

「いや……普通RPGだとアイテムボックスとかに入るよね」

「アイテムボックス無いから、そっとポケットに入ったんですかね?」

「う~ん」


 おそらくニーズヘッグ戦で入手した物だと仮定できる。


「普通ゲームでデバックルームに入ったとして、ドロップアイテムとかありえますか?」

「有ったり無かったりだね。そういえばチカゲちゃんレベルは?」

「え?」

「確認した? 経験値入ってた?」


 あれからステータス画面を全く開いてなかった。

 ニーズヘッグ戦の後、急激な魔力消費で立てなくなりポーションを飲んでベットでグロッキーだったのだ。

 体が持ち直してからは家事をしていたので気が回っていなかった。

 私はすぐさまステータス画面を開く。


----------------------------

 チカゲ

 Lv60

 職業 魔法使い(仮)


 HP  600

 MP  300

 

 力  200

 速  220

 物防 140

 魔力 200

 魔防 100


 スキル 竈神、物理無効(短)、身体加速(短)

----------------------------


「魔法使い、かっこ仮?」

(そこ、食い付いちゃいます?)


 レベルが14も上がっている。

 ステータスはその人の得意な能力が伸びるという。

 このステータスだと完全に前衛高速アタッカー型だ。

 火力とスピードはあるが、物理防御と魔法防御が低い。


「ユニークなステータスだね」

(そう言うしかないよね……白目)


 

 LV40になってからはモンスターと戦闘しても中々レベルが上がらない状態が続いていた。

 敵のLVや経験値が自分より低かったのだろう。

 その辺りはRPGゲームと同じようなシステムなのだなと思っていた。

 ニーズヘッグはLV90だったので大量の経験値が入ったのだろう。


「経験値もドロップアイテムもあるわけか」

「はい」

「この石はちゃんと自宅に保管しておくんだよ? もしかしたらニーズヘッグって竜はこの世界にいない竜かもしれない。と言う事は、この石も本来存在しない石かもしれない」

「そ、そっか……」


 あくまで推測の話だが私が戦った場所はデバックルーム。

 この世界の正規ルートではないという仮定での話だ。

 今はまだトヨタ―さんの説は、あらゆる可能性の一つに過ぎない。

 

「そうだ、これ見てもらえませんか?」

「どれだい?」

「この物理無効というスキルなんですが」

「うん。面白いスキルだね」


 私は物理無効(短)というスキル情報量の薄さに困っていた。

 説明には物理法則と原則を無効にする事ができるという事しか書かれていない。


「これがどうしたのかな?」

「はい。ランクの高いモンスターにはあまり効果を出していない気がするんです」

「うむ」


 例えば物理無効を使い地面などを撃つと地面の硬度や抵抗、重さが緩和され床をエグル事ができる。

 ランクの高いモンスター戦では敵はダメージを受けるが地面の様にエグレない。

 文面通りの法則なら高ランクのモンスターもこれを使えば弾け飛ぶはずである。


「もしかしたら相手のステータス値で無効化数が足し算、引き算されているのかもしれないね。完全無効ではないんだよ、きっと」

「ニーズヘッグの尻尾攻撃。このスキルで弾いて防いだのは?」

「つまりそれは相手の運動エネルギーをリセットしてるのかもしれない」


 魔法なども物理無効を使用して受けた時と、未使用で受けた時では効果が違った。

 魔族戦の時、物理攻撃を杖で弾けたのは敵の運動エネルギーを無効化していたと言う事だ。

 しかしそれは、ダメージを与えるまでに繋がらなかった。


「完全にチートスキルではないわけですね」

「そうだね。もし一撃でどんな敵にも物理的な無効化が通用すれば、それは無敵スキルだ。しかしこれは違う。おそらく敵のステータスや所有スキルによって物理無効のパーセンテージが削られると考えると一連の効果の辻褄が合う。あと敵へのダメージには直結しないが運動エネルギーなどの法則は高レベルのものでも関係無しに無効化できるみたいだね」

「……なるほど」

「チカゲちゃんがレベル差のあるニーズヘッグを倒せたのは、それを埋める戦闘技術があったからだろうね。モンスターを一人で狩るゲームあったでしょ? あれもプレイ技術だし。きっとそんな感じなんじゃないかな?」


 私たちが話込んでいるうちに荷馬車は集落に到着した。

 荷馬車を降りトヨタ―さんにお辞儀をする。

 トヨタ―さんはニコニコしながら手を上げている。


「あー。チカゲちゃん。言い忘れてたけど」

「はい」

「スキルうんぬんより、LV60の方がこの世界では希少だから。あはははは」


 そう言いながらトヨタ―さんの馬車は走って行った。


 スキルや武器の事で頭がいっぱいになっていて考えが回らなかった。

 この世界のLV60に到達している人間はおそらくいない。

 ゴールドクラスの冒険者でLV30前後。

 プラチナクラスの冒険者でLV40前後。

 ブラッククラスの冒険者でLV50なのだ。


 ブラッククラスの冒険者は伝説と言われており世界に数人しかいないそうだ。

 私のレベルはニーズヘッグ戦でこの世界の最高水準を突破していた。

 目立たないように魔法使いをしていた私の冒険者ランクはブロンズクラスだ。

 

(これから、もっと穏便に行動しよう……平穏な生活が一番なのだ)


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 丘の上の自宅に戻ると、アルベルトとジェイクが接近戦の訓練をしていた。

 アルベルトは魔法使いなのに動きがいい。 

 まるでそいういう訓練をしてきたような太刀筋に見える。


 邪魔にならないように家の前のベンチに腰かけ二人の訓練を眺めていた。


「よし、いったん休憩だ」

「ありがとう、ジェイク」

「二人とも、凄いね」

「おう、チカ。武器はどうだった?」

「お手上げです」

「そうか……やはりそうだろうな」


 二人がベンチの方に向かって来る。


「あのさぁ、ジェイクとお姉ちゃんって接近戦どっちが強いの?」

「そりゃ、嫁だ。俺はコイツに勝てない」

「ええっ」

「こいつは、実家が暗殺術を教えてるからな」

(間違ってはいないが、表現が適切ではない……白目)


 私の実家は古武術の道場だ。

 戦国時代からずっと戦で生き残るための術を代々伝承して来た武家の一族なのだ。


「お姉ちゃん。一戦いいかな?」

(マジか……)

「俺は疲れた。チカ相手してやってくれ」


 そう言ってジェイクは私に木刀を手渡す。


「アル君。私はスキルは使わない。そっちは何でも有でいいよ」

「わかった」


 ベンチを立って木刀を納刀した状態の様にして左の腰に当てる。

 アルベルトの獲物はダガーの形をした木刀だ。

 リーチの短い物は扱うのが難しい。

 長い獲物に比べて短い物はより深く相手に入り込まなければいけない。


 私は足を曲げ腰を低く落とした。

 居合の構えを取り、相手の動きをうかがう。


「じゃあ、いくよお姉ちゃん」

「いいよ。アル君」


 アルベルトの先制攻撃が始まる。

 右、左と足をリズムよくステップさせ間合いを詰めてきた。

 ダガーを逆手に構え刺突武器の様に使ってきのだ。


 アルベルトは私の左に入り込んで心臓を突く動きをして入り身する。

 間合いの詰め方が早くて上手い。

 心臓に向かって突いてきたダガーを私は居合抜きで打ち上げた。


 ------------------カァンッ

 アルベルトの手からダガーが弾かれる。

 手を離れたダガーは宙を回転しながら地面に落ちた。


「……ま、まいった」


 私は抜いた木刀を再び腰に納刀する動きをする。

 刀を抜いたら収めるという習慣がここでも残っている。


「アル君。魔法使いなのに凄いよ」

「それ、お姉ちゃんが言う?」

「あはははっ」


 私は木刀をジェイクに返す。


「なかなか、筋がいいだろう? アルベルトは」

「びっくりしました。続けてればもっと強くなりますよ」

「だとよ。アルベルト」


 アルベルトは頬を真っ赤にして照れている。

 なんて可愛いんだろうか……。


「アル君。夕食食べて行ってね」

「うん。ありがとうお姉ちゃん」


 私は夕飯の準備をするために家の中に入った。


「お姉ちゃんは生身であの強さだよね? 戦闘になればそれにスキルが加わるんだよね?」

「あぁ。俺も昔ヘマして魅了された時。容赦なく嫁に叩きのめされたからな」

「……ひっ」

「ただ、嫁が戦闘で一番苦手なのは、お前みたいなタイプだよアルベルト」

「えっ?」

「アイツは、接近戦は得意だが遠距離戦が苦手だ。だから間合いを詰めようとするのさ。間合いが詰められなきゃアイツの技が生きないからな」


 アルベルトとジェイクは日が暮れるまで戦闘訓練をしていた。

 夕食ができて声をかけるまで日が落ちた事さえ気づかないほどだった。

 二人が家の中に入ってくる。


「二人とも、お疲れ様」

「ジェイク。お姉ちゃん。今日ここに泊ってもいい?」

「あぁ、俺は別に構わんが。チカ」

「いいけど、家の人には言わなくていいの?」

「うん。もぉ、そのつもりで来た。あははは」

「じゃあ、お風呂入っておいで」


 アルベルトとジェイクをお風呂に入れ二人の脱いだ服を洗濯する。

 風呂場からはキャッキャと二人のはしゃぎ声がしている。

 まるで、私たちに子供ができた様に賑やかである。

 客用にと買ってあったパジャマを着たアルベルトがお風呂から出てくる。

 丈が大人サイズだったため、少しダボダボな着こなしだ。それがまた可愛い。


「さっぱりしたー」

「ほら、椅子にすわって。ご飯にしよう」

「うん!」


 テーブルには麦ごはんと焼き魚、筑前煮やみそ汁という日本食を並べた。

 洋食な食文化のこの世界では日本食は珍しい。  

 アルベルトは料理を不思議そうに見ていた。


「それね。私の故郷の料理なの」

「味の想像がつかないよ」

「食べてみて」

「うん!」


 フォークとナイフを使って料理を口に運ぶ。


「!」

「どう?」

「すっごぉいオイシイ」

「よかった」


 この地域には醤油や味噌が存在しないので原料を集めて作った自家製である。

 アルベルトは日本食を気に入ってくれたようで勢いよく食べている。 

 一番苦労したのは、かつお節だ。

 カツオという魚がいるのかいないのか分からなかった。

 なので色んな魚を食べて近い物を見つけ作ったのである。

 仕事をしていない時は、いつもこんな事に時間を使っているのだ。


「お姉ちゃん。これ、料理店だせるじゃん!」

「それは、ダメだ!」

「どうして?」

「俺のが無くなる」

「……ぷっ」

「ばか、二人して笑うな!」


 きっと私たちに子供ができたら家はこんな感じなのだろう。

 夫婦二人でのんびり生活しているのも良いが、こういうのも悪くはない。 

 ご飯が終わり私もお風呂を済ませた。

 書斎の客用ベットにシーツを引いて、アルベルトの寝床を作る。

 

「お姉ちゃん」

「?」


 アルベルトは少しうつむいて元気のない顔をしている。


「どうしたの?」

「……」


 うつむいたまま、一言も喋らなくなってしまった。

 ベットに座り私の座っているシーツの横側をポンポンと叩きニコッと笑う。


「おいで。ここ」

「……」


 アルベルトは私の横に座る。


「何かあったの? 今日泊まるって言った理由もそれだよね?」

「……うん」


 アルベルトは熟練の冒険者も驚くくらい頭が切れシッカリしている。

 大人の私でも驚くことがあるくらい腹も座っている。

 だが、そうは言ってもまだ16歳の子供だ。


「ぼく……」

「うん」

「お見合いする事になったんだ……」

「……は?」


 お見合いとは、結婚を希望する男女が第三者の仲介によって対面する慣習であり世界各国にある習慣である。Byウィキペディアより。


「まてまてまて! アル君、貴族?」

「えっ? そうだよ」

(知らんかった……白目)

「僕は、ソテリキャリっていう貴族だよ」

(この名前どこかで……あッ!)


 剣の名門ソテリキャリ家だ。

 一年前、魔族戦で一緒に戦ったミリアと同じ血族である。


「ミリアの所の?」

「えっ。姉を知っているの?」

(姉弟かよッ……白目)


 これまで一緒に仕事してきたのにも関わらず気づかなかった。

 そう言えば初めの自己紹介の時にアルベルト・ソテリキャリと名乗っていた。

 不覚にもそこに全くピンと来なかったのである。


「僕はソテリキャリの長男なのに剣の適正が出なかったんだ」

「……」

「だから、剣才のあった姉がソテリキャリの家督を継ぐことになったんだ」


 ソテリキャリが仕える主君は法力国家であるランス法国の法王アガタ10世だ。

 この国の教会が持つ権力はどの国よりも強い。

 そんな法力国家に仕えるソテリキャリ家は法力国家の剣、法国の剣、神聖剣とまで言われている法国の守護家なのだ。


 剣の名門に生まれながら剣が使えないのは、さほど問題ではない。

 致命的だったのは法力国家の剣と謳われながら、その長男が魔法に適性を示した事が一番の問題だった。 


 この世界では、教会と魔法協会が何千年にも渡って対立をしてきたのだ。

 アストラルと言う力を魔力と解釈する魔法協会と法力と解釈する教会が理念の違いで争ってきた歴史がある。

 その対立は大きくなり過去に理念戦争という国を巻き込んだ戦争が勃発した事もあった。 


 法国の剣と謳われる名家の長男が、魔法適正を出したのはソテリキャリとしても体裁の悪い事だった。


「魔法適正が出た僕は、父親の命令で留学する事になったんだ」

「それで、クレムストックなんだね」


 クレムストック魔導王国は、過去最大の精力を誇った魔導国家だった。

 勇者マッチィの時代には、クレムストック魔導帝国として描かれている。

 その当時の主君だったケラルォス3世は三属性を操る大魔法使いだったらしい。

 その名残がありクレムストックでは魔法協会の力が強く魔法研究がどの国より発達している。


「お陰で、僕は魔法をより念密に勉強できたんだけどね」

「アル君が、接近戦上手いの納得した」

「適性が出るまでは、剣の稽古をさせられていたから」

「お見合い、イヤ?」

「道具に使われるのは、まっぴらだ……」


 私も転生前に同じ理由で実家を飛び出している。

 こちらの方が複雑だが、気持ちは分かってあげる事ができる。


「よし。分かった! 私が付いて行く」

「え」

「実家に一度帰るんでしょう? 私が付いて行くから」

「お姉ちゃん……」

「自分の気持ちシッカリ伝えて、ダメなら蹴ってやれ!」

「……うん。ありがとう」


 涙ぐんでいるアル君の頭をワシワシと撫でる。


「元気出せ。アル君には、私もジェイクも付いてるんだから」


こうして、私はジェイクを勝手に巻き込んでアルベルトの実家に乗り込む事になるのであった。

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