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どうも、魔法使い(仮)です!  作者: 道路公団松崎
本編
16/21

世界の断片②

【あらすじ】

ニーズヘッグとタイマンするお話。

 ニーズヘッグの炎でトヨタ―さんがこの世から退場し私はピンチを迎えていた。

 相手は北欧神話に出てくるユグドラシルの根に巣ぐった伝説のドラゴンである。

 漆黒の鱗は太陽の下でも混沌の闇をその場所に落としているかのようだった。


 杖を強く握りしめニーズヘッグと睨み合った状態になった時気づいた。

 私の左上の方にニーズヘッグのアイコンが表示されている。

 

「これは……」


 トヨタ―さんが使った解析魔法の効果が持続していたのだ。

 ニーズヘッグのHPが緑色のゲージで表されている。

 私が殴って燃やしたダメージは爪の先程しか削れていなかった。


 ブレスに関しては奥津比売命オキツヒメがあれば凌げるので、ご褒美タイムだ。

 問題は敵の物理攻撃がどれほどのダメージになるかが問題だ。

 一番いい方法としては持久戦をしてダメージを削って行くのが理想だが、MPの少ない私にはそれができない。

 竈神は召喚しているとMPを喰い続ける。

 バフのスキルも持続時間は1~2秒なので攻撃時と回避時に一々発動しなければいけない。

 竈神が出せなくなればブレス攻撃がたちまち地獄に変わる。

 そして攻めるタイミングが激減する。


 だとすれば私が取れる手段は、短期戦だ。

 防御は回避に回しありったけの手数で攻めるしかない。

 MPが無くなる前にケリを付けるのが最善策。


「……私にやれるか」


 杖を持つ手が汗ばんでいるのが分かる。

 私は、意を賭して一歩踏み込んだ。

「身体加速(短)」


 ----------------ダッ

 地面を蹴り、一直線にニーズヘッグの眼前に飛び上がる。

「物理無効(短)、奥津日子神オキツヒコ頼んだよ!」


 杖がゴォゴォと激しく燃え上がる。

 そのまま燃える杖でニーズヘッグの顔面を横から殴打した。


 ----------------ボォオフッ!  

 黒い鱗に炎が移り相手の体勢はグラりと浮く。

 仰け反った体勢から体を素早く回し尻尾を私に打ち付けて来た。

「物理無効(短)!」


 尻尾を炎の杖で撃ち返す。

 図体はデカいのに体の動きが尋常じゃないくらい早い。

 

 私の体は一回目の攻撃を終え地面に着地する。

 それを見計らったのか地面スレスレで尻尾が横から鞭の様に飛んで来た。

 このドラゴンの攻撃は一撃でも喰らってはいけない。

 おそらく一発でも貰えば死ぬ。

「身体加速(短)」


 地面を蹴り再び上空へ移動する。

 尻尾の回転攻撃を終えて頭が戻って来た所を上から殴る。

「物理無効(短)」


 ----------------ガゴォンッ!

 頭を覆う黒い鱗に杖が当たると鈍く固い金属を叩いたような音が響く。

(一発じゃあダメだ……一回の攻撃の手数を多く!)


 ----------------ガゴガゴガゴガゴガゴガゴォンッ!

 六発の連撃が数秒の内にドラゴンの顔面に入る。

 奥津日子神オキツヒコの炎で撃ち込んだ黒い鱗の部分が熱を持ち赤々と変色している。


 二度目の攻撃ターンが終わり地面に着地した私にニーズヘッグは息を吸わずにブレスを吐いて来た。

奥津比売命オキツヒメ


 轟音が空気を激しく振動させ広範囲の地面を灼熱の炎が焼く。

 息を吸わずノーモーションでブレスなんて聞いた事がない。

 奥津比売命オキツヒメの炎の和合羽でブレスを無効にできたが冷や汗が頬をなぞっていた。

 怯みかける心を持ち堪えて自信に再度バフを掛ける。

「身体加速(短)」


 地面を蹴り顎下から全力でニーズヘッグを殴りつけた。

「物理無効(短)、奥津日子神オキツヒコ


 鈍い金属音がしニーズヘッグは足をフラつかせる。

(もっと早く打ち込むんだ!)


 立て直す隙さえ与えない程の速さで私の杖はドラゴンの頭を何度も殴打する。 

(まだ足りない、もっと早く!)


 自分の早さの限界までアクセルを踏み込んで連撃数を増やす。

奥津日子神オキツヒコもっと燃えろ。もっとだ……」


 鋼の杖が紅蓮のような色に染まりだす。

 連撃が次第に早くなり杖が当たる度に火柱を上げるようになる。

 何度も左右から殴られ殴打と火柱の激しい押収にニーズヘッグの体は左右に揺れだした。

 次第に頭から炎が黒い鱗の体に燃え移り体全体へ広がっていく。

 気づけばニーズヘッグは全身火だるまになっていた。


 左上のHPバーに目を向けると相手のHPは半分以下に削られて黄色くなっている。


 このドラゴンは、おそらくオンラインRPGでいうレイドボスだ。

 レイドボスとは通常4パーティーで倒すボスを20人~30人規模で行う。

 ボスのステータスは当たり前だがプレイヤーより圧倒的に高い。

 一対一では話にならない戦闘を人数と手数でフォローするのだ。

 これによってステータス差が埋められ撃破が可能となる。


 またレベルが低くても圧倒的なスキルを持っていれば高レベルのボスと渡り合えることもある。  

 1年前の遭遇した魔族戦がそうだ。

 おそらく敵の方が圧倒的にLVは格上だったはずだ。

 私が所持していた基本スキルでは致命傷さえ与えられなかった。


 今回は完全にスキルに介護されている戦闘運びだ……。

 LV差をスキルの高機能が埋めてくれているのが痛いほど分かる。


「くそぉ……」


 ---------------グォオオオオオオオン

「!」


 急にニーズヘッグが咆哮を上げる。

 空気が押され音圧が体を抜けていく。

 

「あれ……体が、動かない」


 咆哮の音圧を浴びたせいだろうか? 体が硬直し動かない。

 ニーズヘッグは羽ばたいて空に舞い上がる。

 上空でさらに激しい咆哮を上げる。


「……なんだ? あれ」


 何かが沢山空から降ってくるのが見える。

「……へび?」


 凄い数の蛇が空から降り注いで来たのだ。

「ま、マズイ。奥津比売命オキツヒメ何とかしてッ!」


 炎が体を包み防御姿勢に入る。

 上空に飛んでいるニーズヘッグは再度、咆哮を飛ばす。 

 ---------------グォオオオオオオオン

 音圧が体を抜け完全に動きが封じられている。絶対絶命である。


 私の体に蛇の雨が降り注いだ。

 体に纏った炎が攻撃して来る蛇を焼き払うセルフシールドの様な状態になっている。


 俗に言うHP半分以下からボスの行動が変わるというアレだろうか?

 攻撃方法がイヤラシ過ぎる。

(頼むから、動いて……体……)


 ニーズヘッグは大きく息を吸う。

 口の中に稲妻の様なモノがバチバチと迸っている。

(……え)


 一気に吸った息を吐きだした。

 -----------------バチバチバチバチバチィッ!

 雷のブレスが口から放たれた。

 吐き出された雷は割れて幾つもの無数の線になり空気抵抗で何度も角度を変えながら向かって来る。

 

 私の体にブレスが直撃する。

 電気が全身に走り一瞬息が出来なくなる。

 目の前が真っ暗になり立っているのか倒れているのかさえ分からなくなった。


 視界が戻りだすと私は直立した状態でまだその場に立っていた。

 体に纏った奥津比売命オキツヒメが襲って来る蛇を焼き続けているのが見える。

 上空には、さらに息を吸うニーズヘッグの姿が確認できた。

 私はかろうじて生きていたのだ。 

 自分のHPバーの残り残量は赤くなって点滅している。

 もぉ一発喰らえばおそらく死ぬ。 


 手足の稼働状況を無意識で確認している自分がいた。

(手足は……動く……)


 私は体勢を低くしバフを付与した。

「物理無効(短)、身体加速(短)」


 地面を勢いよく蹴りブレスを吐こうとしているニーズヘッグの場所まで高く飛んだ。

 顔の側面に辿り着いた私は杖を振り被った。


奥津日子神オキツヒコ、ハシャギなさい」


 -----------------ドガァアッ

 炎を纏った杖がニーズヘッグの横顔を殴打した。

 火柱が上がり殴打の衝撃で首が反り返る。

 空中でバランスを崩し大きな黒い鱗の巨体は地面に落ち地鳴りを上げた。

(次の攻撃の隙を作らせたら終わりだ)


 私はそのまま上空から一気にニーズヘッグの顔面向かって急降下する。

 ありったけの速度で、ありったけの火力で私はその頭に連撃を叩き込んだ。


 何発撃ったか分からない。

 ニーズヘッグを覆っていた黒い鱗が砕け飛んでいく。 

 足元には大量の蛇が奥津比売命オキツヒメを解いた私の体を這い噛んでいるのが分かる。

 毒のデバフを付与する蛇だ。私の残り少ないHPを削っていく。

 しかし、これで連撃の手を止めたら好機を逃してしまう。


「どちらが先に死ぬか……勝負だ!」


 私の顔は紅い目を輝かせながら鬼の様な形相に変わり笑っていた。

 命の駆け引きを心の底から楽しんでいるような気持ちになっていた。  

 これが私の本質なのだろうか?


「うぉおおおおおおおおッ!」


 連撃は手を休めずに続く。

 もはやニーズヘッグは攻撃の圧力で地面に這いつくばり動けない。

 MPが尽き竈神が消滅する。

 物理無効の効果も乗らなくなった火力は一気に落ちる。

 速さも通常の人間の速度に戻っている。


「うぉおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」


 それでも私は連撃を止めなかった。

 鈍い金属が弾かれる音がカンカンとフィールドに響き渡る。


 スキルの切れた生身の腕力で殴り続けた体が限界を迎えた。

 筋肉は疲労し腕が上がらなくなる。


 そして私の連撃は止まった。


 ニーズヘッグの体が光り出す。

 その光は弾けるようにニーズヘッグの体ごと消滅した。


「……」


 群がっていた蛇も本体の消滅と共に消えた。

 私は腰のバックから解毒薬を出し飲んだ。


--------------------------------------

HP 3

MP 0

--------------------------------------


「ギリギリ……だった……」


 もぉ少しでGOGOヘブンだった。

 気が抜けたからなのか、MPが底をついたからなのか眩暈が酷い。

 おそらく理由は両方だ。


 フィールドが真っ白に光って色が戻る。

「チカッ!」


 ジェイクの声がする。

 振り返ると私は元の場所に戻っていた。

 私の体をジェイクは強く抱きしめる。


「よかった! 生きてて良かった!」


 嬉しそう笑いながら私の背中をさすってくれている。


「ジェイク……ごめんなさい」

「ど、どうした?」

「私、依頼人……殺しちゃいました」

「……」

「これじゃあ、お金もらえません……うぇ~ん」


 私は抱きしめられたジェイクの胸の中で泣いた。


「僕、お金のため~? 酷いなぁ~」

「!」


 私は声のした方を見る。


「やっほー! 僕生きてるよー」

(なぜッ!)


 私は幽霊でも見ているのだろうか?

 目の前にトヨタ―さんがケロッとした顔で立っていた。


「な、な、なんで?!」

「俺も驚いたんだ。お前らが消えた後、スグにコイツが戻って来たんだよ」

「そういうこと! ちょっと憶測の話をしようか」


 トヨターさんは、地面に座って話をする体勢に入っている。

 私たちも地べたに座った。

 

「僕らが飛ばされる前に英語読んだかな?」

「はい。デバッキングルーム。コードと数字」

「そう。ゲームしたことある?」

「はい。RPGは自宅でよくしていました」

「じゃあ、デバックルームって名前は聞いた事あるよね?」


 デバッグルームとは、プレイヤーがキャラクターを自由に移動操作できる限定的空間のことで、開発者がバグがあるかどうかの確認する作業(=デバッグ作業)のために作ったフィールドのことである。

 デバッグルームと呼ばれるフィールドは、単なるフィールド移動のテストのほか戦闘テストなど非常にチェックがしやすい体制を整えている。

 例で挙げるなら貴重なアイテムや没アイテムを一気にMAX数所有したり好きなマップに飛ぶ。敵とエンカウントしない。障害物を無視して進める。ボスとバトルテストができるなどゲームを効率よくデバッグ調整するための機能が搭載されているのだ。

 しかしデバックルームはゲームを発売すると同時に入口は封鎖される。

 よくスーパーファミコンなどでバグを使ってデバックルームに入る裏ワザなどがあるが正規ルートでは絶対に入れない仕様となっている。


「つまり今のはデバックルーム。死んだらここに戻される。だから僕も生きている」

「あのドラゴンは?」

「アレは、憶測だけど没になったドラゴンか、どこかのフィールドにいるドラゴンだと思う」

「わけが、わかりません」

「だろうね。僕もここに戻るまでは信じられなかった。だからほら、死んでみる? って言ったんだ」


 デバックルームはゲームソフトに組み込まれている製作者の痕跡だ。

 この世界にデバックルームがあると言われても解釈に困る。


「分かりやすく言うなら、この世界は誰かが作ったのでは? という憶測さ」

「それは、神様が作ったんじゃないんですか? 神話にありますし」

「じゃあ、神様は誰が作ったの?」

「え」

「もし配置をし、この世界を監視している者がいたとしたら?」

「……」


 スケールがデカすぎる話だ。

 実際私たちはRPGの様にテレビの前から操作しているわけではない。

 感情があり人と同じように考え行動している。


「昔ほら、PCで流行ったゲームあったでしょ? 街を作るゲーム」

「ああっ。はい」

「アレはプレイヤーは外枠の視点だ。中にいる人間は勝手に動いている」

「……」

「もっとアナログに考えようか? 水槽の中に金魚を飼っているとしたら? 水槽を買って水を入れ水草を入れ、後は観察して餌をやるだけだ。中の金魚はちゃんと自分で物を考えている」


 この人が頭の中で考えている事が分かって来た。

 つまり、この世界は用意されたもので調整したりする人が居ると言う事だ。


「チカゲちゃんは、コペンハーゲン解釈を知っているかな?」

「あー。はい。オタクしてたので分かります。有名な話ですよね」

「そう。量子力学の解釈の一つだね。僕らの住んでいる世界はゲームの世界である。だね」


 トヨタ―さんが言っている話は私たちが住んでいた世界で論争になった面白い話の一つの事を言っている。 


 コペンハーゲン解釈というのは、デンマークの首都コペンハーゲンにあるボーア研究所から発信された量子力学の解釈の一つである。

 分子がどのようであるかを導き出すため物理学者は波と電子を使い実験をしていた。


 波を使った実験では。

 衝立に縦線状のスリットを一本入れて向こう側には紙を置き波を観測した。

 すると波はスリットを通り抜け回折という現象を起こす。

 回折とはスリットを抜ける際に、再度回り込み波が起こる事をいう。

 そして紙に辿り着いた波は1本の縦線状に痕をつけた。


 今度は縦線のスリットを二本入れて波を発生させる。

 二本のスリットの開いた衝立を通過した波は抜けて二本の波になり干渉し合う。

 そして紙に辿り着いた波の痕は複数の縦線だった。


 次は電子を使った実験である。

 同じように衝立に縦線状のスリットを一本入れて向こう側には紙を置いておく。

 そこに衝立の手前から電子の球体を何発も打ち込むと一本の縦線状の痕がついた。


 次は衝立に縦線を二本入れたものを立てかけ向こう側には紙をおく。

 そこに衝立の手前から電子の球体を何発も打ち込む。


 学者が予測していたのは2本の縦線だ。

 しかし結果は異なり複数の縦線ができた。

 電子の球体を使ったのに、波と同じ効果が出たのだ。


 当時の物理学者たちは考えた。

「球体の電子を沢山打ったから粒が集まって波みたいになったんだろうか?」


 今度は干渉し合わないように電子を一発ずつ丁寧に二本のスリットに向かって打った。

 その結果も波と同じ複数の縦線ができた。

 これは物理法則的には理解しがたい事だった。

 物理法則だとそこには二つの縦線ができるのが法則である。

 結果。電子は波であり、かつ粒である。という二つの矛盾する結論が出たのだ。


 粒であり波であるとかありえない! と当時の物理学者は思った。

 スリットから抜ける電子を観測して波になる瞬間を観測してやろう! とカメラを取り付け同じ実験をしたのだ。


 すると結果が変わった。

 二本のスリットを抜けた電子は、二本の縦線になったのだ。

 観測すると電子は波にならない。


 観測すれば電子球体として物理的な動きをし観測が外れると波の現象になってしまう事に物理学者は頭を捻ったという話だ。


 物理的実在論ではあり得ない現象でも量子的実在論なら説明ができる。

 例えばゲームシステムで説明すると、フィールドで動いているモンスターは私たちがフィールドに出ていないと動きを止めているが、私たちが観測していると動いている。

 それはシステム負荷をなくすため余分なシステムが作動していなかったり簡略化されているからだ。

 電子も観測されていなければシステム負荷を無くすため波になっているが観測されるとシステムが起動し法則性のある動きに変わっているのではないか? と言う話なのだ。


 もちろん物理学的実在論としては呑み込めない発想である。


 オンラインゲームに単語を当てはめると、光子プログラムはネットワーク上で波の様に減少を広め接続ポイントがオーバーロードしリブートした地点で粒子であるかのように再起動する。

 つまり私たちの物理現実と呼ばれている世界とは再起動を繰り返したものなのだと考えれば粒子波も崩壊も説明がつく。

 物理学的実在論というのはイワユル目の前にある物理世界が現実でありそれ単体で存在しているというのが論であるが、物理学的実在論では物理上の事実を扱えないことが多々あるのだ。

 しかし量子学的実在論では説明ができると言う。おかしな話になっている。


 この事から現実世界はゲームの世界だったのでは? という面白い発想を提唱した人がいて有名になったお話だ。


「チカゲちゃん。僕らの住んでた世界だって分からない事だらけだった。この世界でもそうだとは思わないかい? 電子波をコペンハーゲン解釈が説明したように、このデバックルームもそういう事の一つかもしれない。」

「でも、これが分かったとしてどうなるんですか?」

「ん? どうもならないよ」

「え」

「言っただろ? 僕一人で秘密裏に動いていると。だから世界をどうしたいだとかそういうのではない。それには興味がないんだ。僕はただ真理を知りたいだけだ」


 この人は完全に科学者である。それも大分ブッ飛んだ方のだ。


「だから、この世界の人にも知られたくないと言ったんですね?」

「そうだね。だって、こんな面白い事を無知な奴らが知ってしまったら。どんな私欲に使われるか心配だ」

「……なるほど」

「それに、ドングルは壊れてしまった」


 そう言って、私たちにUSBカードを見せる。


「どうやら、一回限りだったみたいだ。しかもこのドングルにはニーズヘッグのコードしか入ってなかった」


 トヨタ―さんは、ガックリ肩を落とす。


「おほぉん!」


 ジェイクは咳ばらいをして私たちに注目を促す。


「全然わからんのだが……」

「あははははは」

「ですよねぇ……」


 こうして一時私たちの調査は終わる事となった。

 私は軍事用ムックルの馬車の中でMP切れと疲労で死んだように寝ていた。


 トヨタ―さんはもぉ少し集落に滞在するとだけ言い私たちと別れた。

 ジェイクはずっと頭を傾げたままだった。

 もちろん今回の件はどこにも漏らさない事が前提で報酬をもらった。


 トヨタ―さんが言う様にもし、この世界に観測者がいるのだとしたら何故私はこのシンクレアという水槽に入れられたのだろうか?

 私が考えたのはそんな他愛もない事だけだった。


 まるで世界の断片を見たかのようなそんな1日だったのであった。

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