クレール教会②
【あらすじ】
ひょんな事からクレール教会のお仕事を受ける事になり、シスター・マルタを探しに行くのでした。
港町クレールの教会。
礼拝堂から奥に進んだ部屋に私たちは通されていた。
そこでマザー・クラレンスは仕事の詳細を話し出した。
「マルタってシスターを連れて帰ってきて欲しい」
「?」
私たちの依頼者であるコーターもマルタという名前の女性を探している。
彼がこの街に来た理由もマルタを探しての事だった。
しかしシスター・マルタと、コーターのマルタが同一人物かどうかは分からない。
「そいつは、どういう奴なんだ?」
「あぁ。気性の激しいチンピラの様なシスターだ」
「……」
(この教会は暴力的な奴しかいないのか……白目)
教えてもらった特徴は20歳でベリーショートの金髪。
顔の右頬には黒い刺青が入っている。
取得している職業は盗賊。
間違いなく穏やかではないシスターである。
「コーター。お前さんの探し人と一致するか?」
ジェイクが気を掛ける。
「彼女は29歳です。髪の色は金髪ですが」
「少し噛み合ってないな」
「それに乱暴な女性ではなく物静かな子だったので……」
おそらくシスター・マルタと探し人は同一人物ではない。
「婆さん。シスターの行く当てはあるのか?」
「ああ。コンプール大聖堂さ」
聖地コンプール。聖職者の街だ。
名のある聖人や神官を世に排出している。
コンプール大聖堂の権力は強く。噂では聖堂が政治に関与していると言う話も聞く。
ちなみにクレール教会は、教会であって教会ではない。
宗教的な教会組織とは縁もゆかりも無い別物である。
「なぜ、またそんな場所に?」
「大聖堂と交易交渉をしていたんだが。リスクの高い要求をされてね」
「なるほど、蹴ったのか?」
「あぁ、それから数日も経たない内に事件が起こった」
「……」
「うちの町の連中に、どっかの馬鹿が大麻を巻いたのさ」
大麻の生産は国が法律的に禁じている。売買も同様だ。
裏社会の人間でさえ生産する事も手に入れる事も極めて難しい状況となっている。
「調べていたら、背景にコンプールが見えた」
「なるほど」
「あそこの莫大な利益の半分は熱心な信者のチップだが、残りの半分は……」
「大麻か?」
完全にブラックな話だ。
「町の連中は労働力だ。それが使い物にならなくなったら町は回らなくなって機能を止める。お手上げさ」
私たちの世界でも、有名なアヘン戦争がある。
大麻で民衆がダメになり国が滅びかけたのだ。
クレール教会は大麻を流した人間を吊るし上げるために調べを進めていた。
シスター・マルタはその筆頭で動いていたらしい。
「詳細はそんな所だ」
「シスター・マルタの救出だけでいいのか?」
「あぁ。後はこっちでやるさ」
するとコーターが立ち上がる
「あの。良ければ僕を、この教会においてくれないでしょうか?」
「?」
「僕はこの町でマルタを探したいんです」
「好きにしな。ただ、置いとくからには仕事はしてもらうよ?」
「は、はい!」
あっちは話が付いたみたいだが、問題はこの仕事に参加するメンバーだ。
流石にアルベルトをブラックな仕事に巻き込むのは危険すぎる。
「チカ。今回の仕事は俺だけでやる。お前とアルベルトは留守番だ」
「ま、まってください。なんで私まで外すんですかっ」
「危険のランクが違う。これは闇の世界のお話だ」
ジェイクなりに私の事を気遣ってくれているのだろう。
「アル君は置いて行きます。私は行きます」
「チカ」
「私が頑固なの知っているでしょう?」
呆れた顔をして、ため息をつくジェイク。
「どうなっても知らんぞ」
「夫婦は二人三脚ですよ」
するとアルベルトが急に話に割って入る。
「スト―ップ!」
「!」
「なに勝手に二人で決めてるの?」
「何って、アル君を連れて行けるわけないでしょ?」
「ブラックなのも分かったし、危ないのも分かってるよ。ただ悪行は許せない」
真っすぐな目で私を見ている。
「危ないよ」
「冒険者は全部、自己責任でしょう?」
私はジェイクの方を見る。
「……教育係がコレだと、教え子も似るのかねぇ」
ジェイクは自分の頭を触りながら諦めた様子だった。
「ジェイク。ありがとう! 危険な真似は絶対しないから」
「ふん。好きにしろ!」
こうして聖地コンプールへ3人で乗り込む事になったのだ。
マザー・クラレンスは私たちに修道服を貸してくれた。
「ウチで動くんだ。制服だよ。絶対脱ぐんじゃないよ」
これが意味するところは、責任は全部クレール教会が引き受けると言う事だ。
後ろ盾があるのは心強い。
さっそく修道服を着て私たちは聖地コンプールへ出発した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
港町クレールの馬車屋で、聖地コンプール行の馬車に乗る。
ここからだと3,4時間くらいでコンプールには到着できるそうだ。
「ジェイク。どうして朝まで待たずに出発したの?」
「ん? こういうのは早い方がイイ」
シスター・マルタが監禁されている状況も想定しての事だった。
「こ、殺されてるって事は考えないの?」
「あぁ。捕まってたとしても殺せやしないさ。何故なら相手は、狂ったヤクザ教会の社員だ」
もし、シスター・マルタに手を掛けた場合。
口実を手に入れたクレール教会が正面から大聖堂に戦争をふっ仕掛けて来るのは明らかである。
それならば人質としてシスター・マルタを使う方が、クレール教会に優位な位置から交渉のカードが切れる。
「だから、急いでるのか……」
「原因が交易交渉の決裂なら、シスターはイイ交渉材料になる」
「すごいや……駆け引きってこんなに面白いのか……」
(え?)
頼むから、君だけは染まらないでくれマイ・エンジェル。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
夜も深くなった頃、私たちは聖地コンプールへ到着した。
街は静かに夜の眠りについて静けさが広がっている。
「オロロロ~ンッ」
「オロロロロロロ~ン」
そんな中、私とアルベルトはムックル酔いで吐いていた。
静けさの中に、オロロンな旋律が木霊すったのであった。
私たちは街の中心にあると言う大聖堂に行って見る事にした。
街に入り真っすぐ進んで行くと、東京ドーム規模の大きさの建物が立っている。
明かりは消えていて大聖堂入口も閉鎖している。
「で、でかい……ですね」
「あぁ。まずはどうするかだが」
「侵入して見ません?」
「……」
「……」
なぜ、みんな黙る?
「なんで、お前はいつもそうなんだ!」
「え」
「2年前もそうだ。要塞に策無く乗り込んだり、爆弾投げたり」
「それしか浮かばないんだから、しょうがないじゃないですか!」
「もっと穏便にやると言う事を知らんのか!」
------------カチャ
誰かが閉鎖している大聖堂に入った。
「……今の」
「あぁ、変だったな」
「もぉこの際、侵入しましょう」
「……」
「……」
大聖堂の入り口まで静かに駆け寄り扉を開けてみた。
「鍵が掛かってない」
不自然だった。
もし、さっき入った人が大聖堂の人間なら鍵を掛けるのではないだろうか?
私たちは人の気配に警戒しながら奥へ進んで行く。
礼拝堂を抜け大きな通路に出る。
通路を進んで行くと奥に光が漏れている部屋があった。
忍び足で光の漏れている部屋の方へ近づくと人の声が聞こえて来た。
「……連中、血相を変えて追って来ましたので」
「早いうちに気づかれたのだな」
「はい。あの町の情報網は侮れません」
「それで数日で戻ったと言うわけか?」
何の話をしているんだろう?
「まぁこれで、交渉を拒否したらどうなるか分かったであろう」
「はい。また再度、交渉を持ちかけようかと」
「私がクレールとパイプを持ったとなれば。枢機卿の覚えも良くなる」
「しかし、勝手に畑に手を出したのはマズかったのでは?」
これはタイムリーな話題だ。
「上に知られず、クレールに圧力を掛けられればいいのだ。今回だけさ」
「しかしアトス司祭……危険な橋は渡らぬ方が」
ジェイクが私とアルベルトの肩を叩いた。
「誰か来る。一度、引くぞ」
「!」
大きな通路の向こうから凄い速さでシスターが走ってくる。
私たちの存在を確認したシスターは走りながらダガーを抜いた。
「アル君、ジェイク。私の後ろに」
「頼んだ!」
私は鋼の杖を構え戦闘態勢に入る。
シスターは、大きくジャンプし空中から速度を上げて降下してくる。
(なんだ、このトリッキーな動きは)
ダガーの攻撃は凄まじく速く、一瞬のうちに三連撃を繰り出して来た。
その攻撃を杖で弾く。
---------カンカンカァアアン
(下手したら、私より早い……)
シスターは床に唾を吐いた。
「オイオイ、尼さん、挟み撃ちとは卑劣だなぁオイ」
何かボソッとシスターが呟いたのが聞こえたが聞き取れなかった。
すると床を蹴って、さっきより早い速度で正面に斬り込んで来た。
正面からだとリーチの長い杖の方が有利だ。
私は自信にバフを付与する。
「身体加速(短)」
下から杖を振り上げ、相手のダガーを持った小手裏を狙う。
杖を振り抜いたが相手に当たった感触が無い。
「!」
あの速度で突っ込んで来て、途中で軌道を変えていたのだ。
シスターは右へ攻撃を回避し移動していた。
その位置から私の脇腹目掛けてダガーを突いて来たのだ。
---------カァアアン
ギリギリ、杖でダガーを防げていた。
「よぉよぉ、クソ尼。おめぇ何者だよっ」
月明りで顔が見える。
サングラスをしたガラの悪いシスターだ。
口にピアスを空けていて頬に黒い刺青がある。
「おい! 外で騒がしいぞ!」
さっき覗いていた部屋から悪徳司祭と付き人が出て来た。
「やっべぇ~。ずらかろう」
そう言って、ガラの悪いシスターが私との戦闘を放棄して逃げ出す。
すると廊下の奥から沢山の警備兵が走って来たのだ。
「げっ!」
「チカ!とりあえず撤退だ! 走れ!」
全力で大聖堂の廊下を走った。
ガラの悪いシスターの横に並ぶ。
「なんで、オメェらまで逃げてんだよ?!」
「な、なんでって、侵入者だからですよぉおおお」
「はぁ?」
思いのほか敵の足が速い。このままでは追い付かれそうだ。
「ジェイク、アル君。私が殿をします」
「お、お姉ちゃん」
「早く行って下さい」
こういう時は、私が残るのがいい。何故なら乱戦は得意中の得意だ。
広い礼拝堂まで抜けた私は足を止め振り返る。
「さぁ、戦争を始めましょう」
鋼の杖を、ゴルフの弾を打つ様に構え自信にバフを付与する。
「物理無効(短)」
追って来た警備兵目掛けて礼拝堂の長椅子を打った。
「ファイヤーボールです!」
------------ドガァアアアン
警備兵には当たらなかったものの大聖堂内のオブジェが破壊される。
「おいおい……何がファイヤーボールだ、似非シスター」
横にはガラの悪いシスターが立っていた。
てっきりジェイクたちと逃げたのかと思っていた。
「マルタだ。お前は?」
「マルタ? クレール教会のですか?」
「はぁ? なんで知ってんだ?」
「マザー・クラレンスから、マルタさんを連れ帰れって」
「あ、やべぇ。連絡入れてなかったからなぁ~」
シスター・マルタは捕まっていなかったのだ。
「チカゲです」
がっちりと二人で握手する。ここからは共同戦線である。
「そうか、ならとりあえず衛兵を何とかすっか」
シスター・マルタは魔法弾を取り出しピンを抜いて投げた。
魔法弾は警備兵の足元に転がった。
しかし、それが何なのか分かっていない様子だ。
「お~い。それ、エクスプロージョンだからなぁ~」
----------ドガァアアアアアアン
礼拝堂の壁に穴が開いた。滅茶苦茶である。
「ひゅ~」
奥から悪徳司祭と付き人が出て来た。
「神聖な礼拝堂を汚すとは。嘆かわしい事だ」
「では、私めが」
「頼んだぞマフゥ」
マフゥと呼ばれる男がこちらに歩いて来る。
フードを被りマントをしている。鼻は尖っており不気味な顔をしている。
悪い魔法使い役として出て来そうな容姿である。
「お前ら……聞いていたな?」
「!」
マフゥの周りに円形の魔法陣が発動した。
そして前方にもう一つの魔法陣が現れる。
「おい、チカゲ。こりゃ召喚魔法だぜ」
「え」
召喚魔法は、この世界に来て初めて見る。
マフゥの前の魔法陣から何かがゆっくり這い出て来た。
「……なんだありゃ」
「驚いたかね? ベヒモスだよ」
このベヒモスは高位召喚に属している。一人の召喚士では呼び出せない。
召喚にも種類がある。単身で召喚する方法、複数で召喚する方法がある。
中でも高位の召喚になると大量の召喚士と時間、そしてアイテムが必要となる。
ベヒモスは悪魔に属する魔物で、角が生え牛の様な様相をしていた。
「貴様らに、この魔物の力とくと……」
------------ガァアアアアアン
ベヒモスの右頬に私の鋼の杖が、めり込んでいた。
「……」
「……」
「……」
-----------ドシャーン
ベヒモスの巨大な体は地面に倒れた。
礼拝堂が一瞬、静まり返ったのである。
「なんだ、あの鈍器使いは」
(魔法使いだ……白目)
シスター・マルタは私の肩を抱き寄せた。
「お前、やるじゃねーか」
「あははは」
空笑いが止まらない。
普通こういう物語の主人公なら、カッコ良く魔法を使って倒す所だろう。
撲殺とか花が無さすぎる。
倒れていたベヒモスが立ち上がる。
息の根は止められなかった。
私たちの方を見たベヒモスは大きく口を開け炎を吐き出して来た。
「!」
シスター・マルタが私の前に出た。
「ブレス・レジスト」
周囲を風の膜が覆う。ブレスが私たちを直撃した。
ダメージは無く風の膜がブレスを防いでくれている。
ブレス系の防御魔法だ。
「チカゲ、ちょっと行って来るなっ!」
「え?」
シスター・マルタは弾丸の様なスピードでベヒモスの懐に飛び込んだ。
ベヒモスはマルタの速さに対応できていない。
マルタのダガーが心臓部分に突き刺さる。
「っ、固てぇ……」
ダガーはベヒモスの体に刺さりきっていなかった。
肉体の守備力が高いのだ。
ベヒモスは腕を振り下ろしマルタを叩きつけようとした。
「あぶねぇ!」
ベヒモスの体を蹴り攻撃を回避してマルタが戻ってくる。
「ただいま」
「おかえり」
「私の攻撃力じゃ無理だな。お前、前衛だろう? イケるか?」
(後衛だ……白目)
「私が補助するから」
「やってみます」
私は鋼の杖を構えた。
「身体加速(短)」
バフを付与し、ベヒモスの頭上に飛ぶ。
するとベヒモスが私の方を向いた。
私の速さくらいでは感知されるようだ。
ベヒモスは飛んでいる私にパンチを打ってくる。
「ヘビー・グラント」
シスター・マルタがベヒモスにデバフを付与した。
重さを付与する魔法だ。ベヒモスの腕にデバフが乗る。
動きが一瞬鈍くなった隙を、私は突いた。
「物理無効(短)」
--------ガァン
ベヒモスの頭に鋼の杖が撃ち込まれる。
鈍い音が礼拝堂に響き渡った。
-------ウォオオオオオオオオ
ベヒモスが咆哮を上げもがいている。
ダメージは与えている様だが倒すまでには至っていない。
「おい、マフゥ! ベヒモスは大丈夫なのか!」
「おそらく、あの女……プラチナ・クラスなのでは?」
「なんだと?!」
「大丈夫です。ベヒモスが撲殺された例はありません」
この世界ではベヒモスと、まともに戦えるのはゴールドクラス以上の冒険者だ。
ゴールドであればパーティー戦でやっと何とかできるレベルの魔物である。
私の冒険者ランクはブロンズと最下位。
「保険を掛けておきましょう」
マフゥは詠唱を始め、召喚陣が床に現れる。
ベヒモスの横に、もう一体ベヒモスが出現したのだ。
「おい、ちょっと待てよ」
「こ…これは、ちょっとキツイですね」
私たちは二体同時にベヒモスを相手にしないといけない状況になっていた。
新しく出て来たベヒモスが突進してくる。
「ひっ」
私とマルタは左右飛び突進の攻撃を回避する。
上空で体勢を変え壁を蹴って、ベヒモスの延髄を鋼の杖で殴打した。
------------ウォオオオオオオオオ
ダメージを負いベヒモスが腕を振り回す。
私はその腕に当たらないようにジャンプし避けた。
その後ろからもぉ一体のベヒモスが私目掛けて殴りつけてくる。
「やばい!」
「ヘビー・グランド」
マルタがベヒモスの腕に重りのデバフを付与する。
しかし、速度は弱まらずベヒモスの拳が私を直撃した。
「物理無効(短)」
拳が当たる咄嗟にスキルを使い直撃ダメージは免れたが、振り抜いた拳の威力で私は吹き飛ばされた。
バランスを崩し床に打ち付けられながら転がる。
「おい! 大丈夫か!」
マルタが駆け寄ってくる。
「はい。何とか」
「始めの方のベヒモスには、もぉ私のデバフが乗らない」
「ですね」
「おそらく、あの手の魔物は耐性が付くんだろう」
ゲームの世界でよくあるシステムだ。
高位の魔物やモンスターになると、一度はデバフが入るが二度目は耐性が付いて効きにくくなる。
ベヒモスもその類だろう。
「立てるか?」
「だいじょうぶです」
「次で決めないと長期戦は不利だ」
「はい」
二匹のベヒモスが走って向かって来る。
同時に相手すると二匹の連携が煩わしいので分断する事にした。
私は右側に回り込み、マルタが左に移動する。
一体のベヒモスは私に殴りかかってくる。
体勢を低くして紙一重で攻撃をかわす。
「身体加速(短)、物理無効(短)」
自信にバフを付与し、鋼の杖で足払いをした。
体勢を崩したベヒモスは地面に倒れ込む。
「物理無効(短)」
鋼の杖をベヒモスの頭に打ち込んだ。
-------ウォオオオオオオオ
◇◆
シスター・マルタは追って来たもぉ一体のベヒモスに薬袋を投げる。
薬袋はベヒモスの顔に当たると粉の様なモノが出て舞った。
目つぶしの薬袋である。
人間がこれをくらうと涙が出て目が開けられなくなる。
これは催涙スプレーのような効果があるアイテムである。
ベヒモスは効いているのか苦しそうな声を上げて仰け反る。
「はぁ~レアアイテムなんだけどなぁ……」
マルタは大きな針の様なモノをアイテムバックから出した。
「身体超加速」
「クリティカルガジェット」
「命中率向上」
クラウチングスタートの様な体勢から地面を蹴るとマルタの姿が一瞬消える。
遅れて音が爆音を上げた。
戦闘機が音速を超えた時に出るソニックブームの様な音が響いたのだ。
マルタは持っていた針の様なモノで、ベヒモスの心臓を突き刺していた。
ベヒモスは声を上げる事無く倒れ光になって消えた。
手に持っていた針も同様にパリンッと音を立てて砕ける。
それを見たマルタはガックリ肩を落としたのだった。
マルタがベヒモスを倒し終わって私の方に視線を向けた時、私は丁度ベヒモスの一撃を交わし頭に一発入れていた所だった。
地面にベヒモスは倒れているが討伐はできていない。
これはまた起き上がる危険性を感じたので倒れたベヒモスにダメージを与える事にした。
「物理無効(短)」
-----------ガスン
-----------グォオオオオオオ
「物理無効(短)」
-----------ガスン
-----------グォオオオオオオ
「物理無効(短)」
-----------ガスン
-----------グォオオオオオオ
「ち、ちかげ……(白目)」
この魔物。どれだけHPがあるのだろうか。
こんなに全力で頭を殴打しているのに倒せない……。
「お姉ちゃん! 心配で戻って……ひっ」
私がいつまでも合流しないので、アルベルトとジェイクが戻って来たのだ。
「チカ! だいじょ……」
皆が私を見て黙り込む。
「お、お姉ちゃん、なにやってんの」
「ベヒモスを倒そうと」
ベヒモスは舌を出して転がっている。
床には血が溜池のように広がり、返り血を浴びながら殴打していた。
「……」
「……」
「……」
(なんで、皆ドン引きしてんの?……白目)
私のベヒモスは光になって消えていない。
倒せば消えるはずなのだ。
「物理無効(短)」
-----------ガスン
「もぉいい! もぉいいから!」
「コイツ、舌出ちゃってるから!」
「白目ムイてるから!」
全員に全力で止められた。
悪徳司祭とマフゥは青ざめている。
「な、なんて奴らだ」
「マフゥ……ベヒモス撲殺されてるじゃないか」
「……」
警備兵は魔物に恐れていなくなっている。
アルベルトがスタスタと司祭の所に歩いて行く。
「ねぇ、おじさんがクレールの件の首謀者だよね?」
「……」
「話きいちゃったんだよねっ」
アルベルトが天使の様な笑顔で司祭を見ている。
エンジェル・スマイルである。
「僕らと一緒にクレールまで行こっか?」
「アル君。コイツ連れて行ってどうするの?」
「話の流れでは、ここのお偉いさんとは関係ない様だし。
お偉いさんの大事なお薬に無断で手も付けてるみたいだし。
聖堂の意思でやった事ではなさそうなんだよね。
だから、この人をクレール教会が使えるカードにするんだよ。
そう言う事でしょ? ジェイク」
「なるほど。イイ考えだ」
(イイ考えだ。じゃないッ!)
私の可愛いマイ・エンジェルの羽が黒くなってゆく。
そんな育ち方を私は望んではいない!
シスター・マルタが司祭に近づいて行く。
「そーゆーことだぜ、司祭さんよぉ」
「ま、まて! お前は一体何なんだ」
「クレール教会のシスターだ、馬鹿野郎」
マルタの拳が司祭の顔面に入る。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
司祭を拉致し港町クレールに戻る事にした。
私たちが司祭を捕まえた時にはマフゥの姿は無く消えてしまっていた。
夜が明けかけた頃、私たちは港町クレールの教会へ到着する。
「たっだいまぁ~。クラレンス」
「なんだ、生きてたのかい?」
「私が下手コクわきゃねーだろ?」
--------ガタン
部屋にいたコーターが血相を変えた。
「ま、マルタ!」
「あぁん? ってアレ? コーターじゃねーか!」
どういうことだろう? ちょっと状況を理解できない。
コーターが言っていた特徴とシスター・マルタは真逆である。
「なんで、刺青入れてるんだよ!」
「はぁ? ファッションだ! ファッション!」
「こ、言葉遣いだって乱暴になって!」
「人間は成長するんだよ!」
「それに、20歳ってなんだよ! 君は29だろ! サバ読んだのか?」
「て、てめぇえッ! なにゲロってんだッ!」
こちらの件も無事解決である。
コーターは幼い頃からマルタの事が好きだったそうだ。
ある日マルタは冒険者になると村を出て、そのまま帰って来なかった。
何年経っても帰って来ないマルタを心配したコーターは、マルタを探す目的で村を出た。
国中探し回り、クレールにいるという情報掴んで今回の一件と言うわけだ。
マザー・クラレンスはアルベルトの顔を両方の手で触る。
「ぼく。イイ判断をしたねぇ」
そう言って、目線を司祭の方に向ける。
「もし、将来職に困ったらウチにおいで。悪い様にはしないよ?」
「はい! ありがとうございます」
お礼を言う所ではない。
この婆ちゃんは、さりげに闇に引っ張ろうとしてるのだから。
「坊や、お手柄だったじゃないか」
「ふん。今回の手柄は、嫁とアルベルトだ。俺は何もしてねぇ」
「はっはっ。後はコチラで上手くやっておく。報酬は受け取っとくれね」
「ああ」
港町クレールでの当初の目的である魔法弾の調達は完了した。
帰りの馬車に乗る頃には、すっかり朝を迎えていた。
馬車に揺られながらクレール教会からの報酬袋を開けた時には驚いた。
金貨が500枚も入っていたのだ。
「うそ、でしょ……」
「お、お姉ちゃん。僕こんなお金見たことないよ」
もちろん3人で山分けである。
こうして、私たち一行は馬車に揺られながらクレムストックに帰るのであった。
【読者様へ】
新参者の小説を読んで頂いて有難う御座います。
読者登録して頂いている方や評価して頂いた方。心より感謝致します。
まだまだ、未熟ですが楽しんで頂けるような小説を書いて行こうと思いますので
どうぞ宜しくお願い致します。
心から有難う御座います。
by道路公団松崎




