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どうも、魔法使い(仮)です!  作者: 道路公団松崎
本編
10/21

クレール教会①

【あらすじ】

ジェイクの使う魔法弾が無くなってしまったので、港町クレールへ買い付けに行くお話。


 クレムストックの街。

 冒険者ギルドの受付で、私はヤザワさんから本日の報酬の受け取りをしていた。


「なんでも期待以上だったらしくってさっ。少し報酬は弾む形になってるわっ」

「おお。ありがとうございます」

「ところでアルベルト君。大分慣れてきたみたいじゃないっ」

「はい。飲み込み早くって、メキメキ成長しています」


 最近では仕事があると3人で行動する事が多い。

 新米冒険者は本来、色々なパーティーを回って勉強していく。

 しかしアルベルトは他のパーティーには参加せずに私達とばかり組んでいるのだ。 

 おそらく気に入ってもらえたのだろう。

 

 世間話をしているとジェイクがやってくる。


「チカ……弾切れになった」

「え?」

「まっ。昼間から、下ネタっ?」

「ちっ、ちがう! 俺はちゃんとしてるよな! チカ!」

(ヤメロッ……白目)


 なんで、お前は人を巻き込んで火傷しようとするんだ。


「ま、魔法弾の話だッ!」

「あ~らっ。玉違いねっ」

(帰りたいッ……白目)


 ヤザワさんが書類を私たちに差し出す。


「弾調達なら、あのスラムよねっ?」

「仕事か?」

「人を安全に運んでほしいのよっ。教会まで片道分。小遣い稼ぎにはなるでしょっ?」

「かまわないが。チカ、いいか?」

「だいじょうぶ。お金大事です」


 こうして急遽、魔法弾の買い付けと、ボディーガードをしながら港町クレールへ行く事になった。

 港町クレールはクレムストックの街から遥か西の突き当りだ。

 

 依頼人とはクレムストックの馬車屋の前で落ち合う事となった。

 馬車屋というのは、お金を払えば街から街へ運送してくれるバスの様なものだ。

 馬車屋の前には、何台もの馬車が並んでいる。

 一度に多くの客に対応できるようになっている。

 各町には馬車屋があるので、帰りもお金を払えば運んでもらえるのだ。


 私とジェイク、アルベルトは先に合流して馬車屋の前で依頼人を待つ。


「お姉ちゃん! 海見れるんだよねっ」

「アル君、海見るの初めて?」

「うんっ。凄い楽しみだよ」


 そう言ってアルベルトは無邪気にハシャイでいる。

 マイ・エンジェルの笑顔に癒されるのである。

 

「あの、チカゲさんたちですか?」


 ひょろっとした男が声を掛けて来た。

 分厚いレンズの眼鏡を掛けていて、栗毛の長髪。

 髪はだらしなくボサボサで長い毛を後ろで縛っている。

 

「えっと、依頼主さん?」

「はい。コーターといいます。宜しくお願いします」


 コーターは私達にペコペコ頭を下げて挨拶をする。

 礼儀が正しく腰が低い。

 どことなく頼りない感じが雰囲気から出ている。


「それじゃあ。揃った事ですし、行きましょうか」


 馬車屋に声をかけ馬車を出してもらう。 

 この世界の馬車は少し変わっている。それは馬車を引いている生き物が違うのだ。

 一般的に連想するのは馬だが、この世界では鳥だ。

 ダチョウの様な生き物でムックルという。

 このムックルのスピードが、とにかく早いのだ。

 私は初めて馬車に乗った時……吐いた。


「うわっ。お姉ちゃん! 動き出したよ」


 そう。初めは極めてゆっくりなのだ。

「すごいっ。どんどん早くなっていくっ」

 

 徐々にムックルのエンジンがかかってくると……。

「…えっ」


 死ぬほど馬車は揺れる。

「……」


 ムックルはある程度走ると休憩をする習性を持っている。

 乗っていた客は、その時一緒に馬車から降りて……吐く。

「オロロロロ~ン……」


 アルベルト君。ようこそムックル馬車へ。

 私はアルベルトの背中をさする。


「だいじょうぶ?」

「へ、へいk……オロロロロ~ン」


 ジェイクは周りの景色を見ながら地面から顔を覗かせいている岩に腰かけている。


「この足並みだと、夕方にはクレールに着きそうだな」

「あ、あの。クレールは、そんな危険な町なんですか?」


 不安そうにコーターがジェイクに話しかける。


「……アンタ行くのは初めてなのか?」

「はい」

「なぜ、俺達まで付けてクレールへ行く?」

「ひ、人を探しているんです。その人がクレールの町に行ったと噂で聞いて」


 私たちが受けた依頼は町の教会まで安全にコーターを運ぶことだ。

 それも片道だけなので帰りは関係ない。

 

「なるほど、だから教会か」

「はい。教会があの街を仕切っていると聞いたので」

「……」


 アルベルトがヨロヨロしながら話に加わってくる。


「何で危険なの?」

「あの町は掃き溜めさ。訳ありの奴らが住み着いた町がクレールだ」

「でも、貿易してるんだよね?」

「あそこの教会が上手くやってるのさ」


 港町クレールはもう一つの呼び名がある。犯罪者の町だ。

 正気の人間は住めない町だとも言われている。


 本来、犯罪者の町があれば国や騎士団が動き殲滅しに掛かる。

 しかしクレールだけは例外なのだ。その仕掛けがクレール教会である。

 

 この教会は、自他国関係なく軍事貿易をしている。

 主に軍事武器やマジックアイテムなどを扱っているのだ。

 クレムストック王国も、クレール教会の顧客の一人なのである。

 つまり交易を切られると隣国との軍事力に差が付くので手が出せない。

 

 訳ありの人間にとっては国から身を守る場所としては最高の町だ。

 しかし町から出れば、訳ありの人間は国から処罰される。

 国としても犯罪者を集めて町に封じておけるので都合がいい。 

 犯罪者も国が手を出せないので都合がいい。

 クレール教会の存在で各方面との均衡を保っている。それが、この街のカラクリである。


「だ、だいじょうぶなの?」

「俺たちと一緒にいれば平気さ。ただハグれない様にしろよ?」

「う、うん」


 休憩が終わり、またムックル馬車は走り出す。

 クレムストックを出て結構な時間が流れた。

 日も落ち掛けた頃、目の前に広い海が現れる。

 

 太陽が海に落ちかけ空と海が強いオレンジ色に染め上げられている。

 空を見上げるとオレンジからミッドナイトブルーへグラデーションしていて美しい。

 色が落ちきった上の空には一番星がチカチカと瞬き出していた。


 そんな刻限を迎えた頃、港町クレールへ到着した。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 クレール教会は、町を一望できる崖の上にあった。

 馬車を教会の前に止めてもらい、私たちは教会へ入った。

 明かりの点いていない暗くなった礼拝堂に、物悲しく夕日のオレンジが窓から差し込んでいる。

 礼拝堂に並べられている椅子の隅っこには、シスターが座っていた。


「もぉ、今日は閉店だよ。帰りな」


 葉巻をフーッとふかしてまた口に咥える。

 右目には刀傷があり視力を失っている白眼。左目は深い青色をしている。

 この修道服を着たシワシワの老人がマザー・クラレンス。

 この教会とクレールの街を牛耳っている親玉である。 


「……おや。久しい顔だね。坊や」

「元気してたか? 婆さん」

 

 34歳のジェイクを坊やと呼ぶのは、このお婆ちゃんくらいだ。


「嫁さんも一緒かい」

「おひさしぶりです。クラレンス」

「あぁ……。見ないうちに人の顔になったねぇサウザンド」


 前に訪れた時に名前の意味を聞かれた。

 その時に千の景色と書くのだとマザー・クラレンスに答えてたのだ。

 それからと言うものザウザンドと呼ばれるようになった。

 千だからサウザンド……。

 特に深い意味はないのだろう。きっと。


「で、坊やは何しに来た?」

「弾がきれたんだ。分けて欲しい」

「そうかい」


 マザー・クラレンスは手を二回パンパンと叩く。

 すると奥から誰かが出て来た。


「え」

「……」


 2年前、西シムベリンの山奥の教会で戦闘した、鋼の魔法を使う神父だ。

 綺麗な姿勢を崩さず背筋が常に伸びている。銀髪オールバック・メガネ。

 

「ロクス。大事なお客様だ。商品をお見せしろ」

「はい」


 ロクスはジェイクに商品リストが書いてある紙を手渡す。


「お前いつから、転職したんだ?」

「聖職者は常に神に雇用して頂いているのだよ? リーパー」

「リーパーってのは止めろ。俺はもぉ軍の人間じゃねぇ」

「なんだ、坊やたち知り合いかい?」

「……あぁ。腐れ縁だ」


 マザー・クラレンスは、コーターの方を見る。 


「で、そちらさんは?」


 あらかじめの事情をマザー・クラレンスに説明するコーター。


「人探しかい。この街にソイツが来たのなら、住んでいるか死んでいるかだ」

「こちらにくれば、町全体を知っていると聞きまして」

「生憎、町の人間一人一人の顔なんて覚えちゃいないよ」

「……」


 コーターはガックリと肩を落としてしまう。

 葉巻をふかしながらマザー・クラレンスは少し考えて言葉を乗せる。


「その知人とやらは何て名前なんだい?」

「マルタという女性です」

「マルタ?」

「はい。同じ故郷の幼馴染でして」

「マルタって名前はウチの若いのにも同じのがいるが……」


 マザー・クラレンスによれば。

 マルタというのは、この教会のシスターらしい。

 半年くらい前に現れて腕がイイので教会で雇ったらしい。

 しかし数日前から姿が見えなくなったというのだ。


 -----------カシャーン!

 急に窓ガラスが割れた。

 私たちが後ろを振り返るとチンピラの男達2、30人が教会の前に立っている。

 

「オイ! クソ教会! 俺たち商会はワザワザ取引しに来たのに門前払いとはどいうことだッ!」

「ワザワザ海を越えてコッチまで来たんだぞ!」

「小さい町の教会風情が、調子にのるなよッ!」


 この教会ではこういう揉め事は、たまに起こるらしい。

 騒動を起こすのは、大抵この街を知らない商会の者と相場は決まっているのだ。

 この街を知ってる商人は、絶対このような事はしない。


 いきり立った男たちの怒鳴り声が響く。


「書面に書かれた商品今すぐ持って来い!」

「さもねぇーと。痛い目にあうぜ、神父さんよぉ」


 外の男たちは武装している。

 おそらく、手荒い手段で商談を成立させようとしているのだろう。

 マザー・クラレンスは、飽きれた顔をして溜め息を漏らした。

 

「ロクス」

「はい」


 ロクスは綺麗な姿勢で教会の出口を出て、お辞儀をした。

「お帰りは、アチラです」

「……」


 チンピラたちの時が止まる。

 案の定、怒り狂ったチンピラたちは武器を取ってロクスに攻撃を仕掛けて来た。

 チンピラの後衛にいる魔法使いらしき奴らが呪文を唱えている。

 空気がピリピリし魔力の匂いが充満した。

 

「マグナグレネード」


 炎の塊がロクス目掛けて飛んでゆく。

 ロクスは、それを軽やかにかわす。

 ----------ドガァアアアン

 

 炎の塊が教会の壁に直撃したのだ。

 当たった瞬間爆発し壁が吹き飛んだ。教会の木材部分に熱が移り燃えだす。 

「……」

「……」


 マザー・クラレンスが出てくる。


「ロクス。教会(みせ)を潰す気かい?」

「す、すみません……」

「あの、小便臭いガキ共を(しつけ)て来な」

「承知しました」


 ロクスは腕を振り上げ詠唱する。

 ポンコツ魔法使いの私にも分かるほど詠唱の速度が早い。

「神の裁きだ……ミスリル・クイース」


 空の遥か上から魔力振動を感じる。それはどんどん地上に近づいて来る。

 

「な、なんだ?」

「おい、なんか落ちてくるぞ?」


 チンピラの騒ぎ声が悲鳴に変わっていく。

 空から落ちて来たのは、バカでかい一本の剣だった。

 そのまま剣はチンピラたちの固まっている場所に落ち地面に刺さった。

 ------------ドオオオオオオン

 酷い地鳴りが崖の上の教会を襲う。

 礼拝堂の中はパラパラと崩れた壁の破片が落ちてきている。


 黒縁の眼鏡をグイグイと人差し指で直しながら、ロクスは言葉を吐き捨てた。 

「天誅だ、クソ虫ども」


 ほとんどのチンピラたちは腰が抜けて動けない状態になっている。

 落ちてきた剣は薄く光り消えた。

 教会前の地面には亀裂が入り穴が開いている。

 

 まだ気力の折れていないチンピラが立ち上がった。

 スキルだろうか? 凄い速度でマザー・クラレンスに切りかかって来た。

「このクソ聖職者共がッ!」

 

 チンピラの男はマザー・クラレンスの前で不自然に止まる。

「な、なんだ……こりゃ?」


 男の体には無数の糸が絡まっていた。

 それは炭素鋼で作られた金属線で、私たちの世界で言うピアノ線。

 鉄線より硬く頑丈な鋼の糸の事だ。

 マザー・クラレンスは葉巻を吹かせ、チンピラを覗き込み見つめて微笑む。

 男は瞬き一つできず冷やせが滴っている。


「神様にお祈りはしたかい?」

「は?」


 マザー・クラレンスが指をクイッと曲げた瞬間チンピラの男はバラバラになった。


「ロクス、片づけときな」

「はい」


 この街を知ってる商人や商会は、クレール教会とは絶対に揉めない。

 その理由の一つとして、この教会の聖職者たちは頭のネジが外れているからである。

 手を出して痛い目を見るのは必ず相手の方なのだ。  

 個人的には未来永劫、敵に回りたくない相手だと思っている。


 騒ぎが落ち着きだして、ふと気づいた。アルフレッドだ。

 やけに静かなので、心配になり目を向ける。

「……」


 放心状態である。口をポカーンと開けて時間が止まっている。

 16歳の少年に、この教会は刺激が強すぎたのだろう。

 私はアルベルトの両肩に手を乗せて無言で移動させた。


 マザー・クラレンスは振り返り私たちを見て言った。

「坊や。仕事を引き受けて欲しい。報酬は教会が支払う」

「?」


 辺りは完全に真っ暗になり夜が来ていた。

 私たちは、マザー・クラレンスの話を聞く事にしたのであった。

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