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こんげーむ!  作者: 我楽太一
第一章 狐の礼
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4 狐の礼④

「来るなら連絡してくれよ」


「まあまあ、いいじゃない」


 息子の文句を、母・美与みよはそう笑って流した。


 与人は呆れたように続ける。


「俺が出かけてたら、どうするつもりだったんだよ」


「その時はその時よ」


「適当だなぁ」


 美与の言い草に、与人はますます顔を顰めた。


 しかし、だからといって、わざわざ東京まで出てきた母親を追い返すような真似はしなかった。


「……まぁ、いいや。上がりなよ」


 与人はそう言って、彼女を部屋に請じ入れる。


 そんな与人の後ろをついて歩きながら、美与は内心でほくそ笑んでいた。


(ふふふふ、完璧に騙されてますね)


 作戦の順調な滑り出しを、美与は――美与に化けたコンはそう喜ぶ。


 狐なりにプライバシーという概念は理解しているつもりである。与人についてコンが調べたのは、お礼をするのに最低限必要な名前と現住所くらいのものだった。だから、与人の母親については、何も知らないに等しい。


 だが、初日に部屋に上げられた時に、コンは与人の両親とおぼしき二人の写真を見ていた。それで、母親に化けて訪ねるという、今回の作戦を思いついたのである。


 手紙を読んでもう帰ったと思ったのか、身内が相手だから油断しているのか。それとも、これまで食材にばかり化けていたせいなのか。幸いなことに、さすがの与人も作戦に気づいた素振りは全くない。


 だから、コンは「今日こそは」と意気込むのだった。


(さぁ、たっぷりお礼をさせていただきますよ)


 そう思った矢先に、与人がこちらを振り返る。


「もしかして、喉の調子悪い?」


「え?」


「いや、声がいつもと何か違うから」


 いくらなんでも写真からでは声は知りようがない。そこで仕方なく見た目から落ち着いた風ではないかと推測してみたのだが、やはりそう上手くはいかなかったようだ。


 苦し紛れに、コンは何とか言い訳をひねり出す。


「う、うん。ちょっと風邪っぽくて」


「…………」


 黙り込む与人。我ながら強引過ぎたかもしれない。


 しかし、与人は結局、「何でそんな時に来るかな」とぼやくだけだった。


 そうして居間まで案内されると、与人は座るよう促したあとで尋ねてくる。


「お茶でいい?」


「うん」


 頷いたあとで、コンは考え直す。正体がバレずにホッとしている場合ではない。


「私が淹れようか?」


「風邪っぽいんでしょ? 座ってなよ」


 そう説き伏せるように言って、与人は台所に向かった。


(やっぱり、与人様は優しいですね……)


 お茶を待ちながら、コンは改めてそう思う。お礼を遠慮する理由も、言動から考える限りこちらに気を遣っているからだろう。


 そして、そんな与人だからこそ、コンは尚更きちんとお礼をしたいと思うのだった。


「どうぞ」


「ありがとう」


 そういう具合にやりとりをして、与人からお茶を受け取ったものの、コンはなかなか口をつけようとしなかった。


(……普通のお茶、ですよね?)


 正体に気づかれていないか、再び不安になってくる。人間を化かしているつもりが、狐の方が化かされていた、というのはよくある話だ。このお茶も一見ただのお茶のようだが、実際には何か別の物である可能性が――


「飲まないの?」


「飲む、飲む」


 与人に急かされて、コンは慌てて口をつける。こうなれば、もう破れかぶれだ。


 一口飲むと、口の中に液体の味が広がる。その味は――ただのお茶だった。やはり、まだバレていないようだ。


 だが、お茶で一息つく間もなく、与人は質問してくる。


「で、何の用?」


「何の用って、ちょっと顔を見に来ただけよ」


 この手の質問は、コンも事前に予想していた。だから、お礼ができる方向に、自然に話を進めていくことにする。


「元気だった?」


「ああ、元気だよ」


「ご飯ちゃんと食べてる?」


「食べてる食べてる」


「掃除は?」


「してるって」


 家事を手伝いたかったのだが、どれも言下に否定されてしまった。表面的には親子の再会なのだから、もう少し甘えてくれてもいいと思うのだが。


 そこで、コンは質問を変えた。


「何か困ってることはない?」


「別にないよ」


 与人は苦笑しながら答える。もしかして、親相手にも遠慮しているのだろうか。


 しかし、そういうわけでもないらしい。与人は続けて言った。


「ああ、一つだけあった」


 一体、何だろうか。自分に解決できることならいいのだが。コンは逸る気持ちを抑えて尋ねる。


「何?」


「最近……っていうか、今もなんだけど」


 そう前置きしてから、与人は言った。


「化け狐にしつこくつきまとわれてるんだよ」


 思いがけない返答に、コンは思わずお茶を噴き出していた。

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