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こんげーむ!  作者: 我楽太一
第四章 狐憑きに定跡なし
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7 狐憑きに定跡なし②

「――というわけだ」


「なるほど……」


 与人から説明を聞いた切子は、納得したような感心したような相槌を打つ。


 そして、そのあとで愉快そうに笑った。


「とんだ盤外戦術もあったものだね」


 しかし、与人は笑えなかった。胸に一抹の不安があったからである。


「俺の勝ちでいいんだよな?」


「もちろんだよ。結果は結果だからね」


 チョボイチでの勝負後に、与人のイカサマが発覚した時も、切子は「裏賭博にはイカサマがつきもの」「結果は結果」だと言って、自分の負けを覆そうとしなかった。だから、その信条に従って、今回も不戦勝を認めてくれるだろうとは思っていたが、それでも与人は彼女の返答に安堵していた。


 しかし、それで全ての不安が解消されたわけではない。


「でも、悪かったな。勝手にお前の姿を借りちゃって」


 自分の姿で好き勝手されたのだ。怒ったり、気味悪がったりするのではないか。与人はそう予想していたのだが、切子はまるで気にしていない様子だった。


「そのことなら構わないよ。君のことだから、悪質なことに使うとは思えないしね」


「今回のも十分悪質だったと思うんだが……」


 イカサマ将棋で200万も稼いだのだ。これが悪質でなければ何なのか。


 しかし、切子はそれ以上のことを想定しているようだった。


「そうかな? 使おうと思えば、もっと上手い使い方がいくらでもあるじゃないか」


「たとえば?」


「私のあられもない姿を変化で再現したものを撮影して、それを元に強請るとか」


「さすがにそこまで良心捨ててないから」


 与人は呆れ半分怒り半分でそう答えた。


 ただ金を稼ぐだけでいいのなら、裏賭博にこだわる必要はない。もっと楽な方法がいくらでもあるだろう。資産家に化けて私財を持ち出してもいいし、行員に化けて銀行の金を盗み出してもいい。ベンチャー企業の社長に化けて、投資家を相手に信用詐欺コンゲームを仕掛けるという手もある。


 ただ、善良な人間から金を巻き上げるようなやり方では、目的意識より罪の意識が勝ってしまう。あくまでも「違法な裏賭博に賭けられた金」という建前があるから、与人はイカサマを正当化できているのだ。


 それに、切子も切子である。より悪質な方法を思いつくのはともかく、よく平気で自身が被害者となる例を挙げられるものだ。危機感や恥じらいというものはないのだろうか。


 自分はそれほどまでに彼女に信用されているのか、それともただ度胸のない小心者だと見なされているのか……


 与人がそんなことを考えていると、その切子が言った。


「しかし、これならもう組内での勝負は十分かな」


 それはつまり、本格的に代打ちとしての仕事を任せてもらえるということだろう。


 与人は逸る気持ちを抑えられずに尋ねる。


「本当か?」


「ああ。吉田に将棋で勝ったんだから、皆も納得するだろう。ちょうど、君に任せようと思っていた仕事もあるしね」


 二言はないとばかりに、切子ははっきりとそう答えた。


 遅刻作戦が失敗に終わった時には、カンニングなど別の作戦に切り替えるつもりだった。その為、今日はコンを憑依させている。それで、与人は彼女に呼びかけていた。


『やったな、コン』


『はい!』


 コンは弾むような声でそう言った。


 それから、与人と切子が、


「ていうか、滅茶苦茶強かったけど、あの人何者なんだ?」


「……良心を捨ててないという君になら話してもいいか。あいつは元奨励会員だよ」


「元奨? 何級?」


「三段」


「三段って、それもうほぼプロだろ。どうりで……」


 などと雑談をしている最中のことだった。


『噂をすれば影』のことわざ通り、吉田が対局室にやってくる。


「あれっ、皆さんお早いお揃いで」


「遅い」


「へ?」


 呆気に取られた様子の吉田に、切子は容赦なく言い渡す。


「遅刻でお前の不戦敗だ」


「えっ……?」


 吉田が切子の言葉を理解するまでに少し間があった。


「ええっ!?」


 大声を上げてそう驚く吉田。まず腕時計や部屋の時計で時刻を確認したかと思うと、次にごく当たり前の主張を口にする。


「そんな、だって、予定を変更するって」


「言ってないぞ」


「いやいや」


 にべもない切子の返答に、吉田は困惑顔をした。


 すると、今度は確認するようにこちらを見てくる。


「急な用事が入ったって」


「言ってません」


「いやいやいや」


 与人がすっとぼけると、吉田はますます困惑していた。


 当然といえば当然なのだが、納得いかないらしい。吉田はなおも食い下がる。


「えっ、だって、俺本当に聞いたんですよ。もしかして、二人で組んで俺のことはめてません? やっぱり、お嬢は沢村君のこと好きなんでしょ?」


「ああ?」


「すみません。何でもないです。許してください」


 昨日切子に化けた時、与人は「殺すぞ」と口で脅したが、本物はあの程度で済ませないようだ。喉元にドスを突きつけられて、吉田は一転して語気を失っていた。


 しかし、しばらくして切子がドスを鞘に納めると、喉元過ぎれば何とやらで吉田は再び抗議を始める。


「でも、本当に俺の負けなんですか? 時間あるんだし、今から再開でいいじゃないですか。遅刻で終わりなんて、そんなの――」


「見苦しいですよ」


 部屋に入ってくるなり、その人物はそう言った。


 どこの学校だっただろうか。上はブレザー、下はスラックスという制服姿だった。


 身長は小柄。ただ、鍛えているのか、決して華奢なわけではない。


 顔立ちは、瞳が大きく、唇が薄く、中性的である。また髪はサラサラとしていて、短いのに風に揺れるようだった。その為、「美少年」という表現がよく似合う。


「誰だ?」


斎藤さいとうしのぶ


 与人の質問に、切子が答える。


「うちの裏賭博の稼ぎ頭(エース)だよ」

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