第4話 プロポーズ
なんか柔らかい感触、それにいい匂いがする……
俺が気がつくと、見慣れた天井があった。
「よかった、気がついたね」
そして目の前にフランチェスカの顔……どうやら俺は道場で倒れて、そのままフランチェスカに膝枕してもらっていたようだ。
「どのくらい気絶してた?」
「十分くらいよ。他の部屋に運んで布団にとも思ってたけど、知らない家をうろつきまわるのもなんですし……
呼吸も安定してたからすぐに目を覚ますかなって。
大丈夫そうかな?」
俺は起き上がって体の異常を確認してみる。正拳突きを食らった胸のところは綺麗にアザができているが、骨にも異常はなさそうだ。たぶん内臓も大丈夫だろう。
「丈夫なだけが取り柄のようだ。問題はなさそうだな」
「多賀島くんなら大丈夫だろうなって思ったけど、人間相手に全力の一撃なんて使ったことないから、正直ちょっとドキドキだったの。
死ぬことはないなって思ってたけど、あんなまともに受けるとは思ってなかったよ、無茶して」
「まぁあんなの食らう機会とか、一生でもそうはないだろうから、しっかり味合わないともったいないじゃんか」
「格闘バカはこれだから……それで、お話があってきたんだけど、ここでするのがいいのかな?」
「道場破りってわけじゃなかったのか?」
「違うわよ、学校でも『お話がある』ってちゃんと言ったと思うんだけど……」
「そうだっけ」
そういうことなら、道場は礼を失するな。
応接間へフランチェスカを案内した。
「お茶入れてくるから、ここで待っててくれ」
「ごめんなさい、わたし茶道は不心得で……」
「いやいやいや、茶道とか俺もできないから、普通にウェルカムドリンクだと思ってくれ」
やはり日本文化を理解はしているようだが、ちょっと過度の期待がありすぎるようだな。
俺がお茶の用意をして部屋に戻ると、フランチェスカは座布団の上にきちんと正座して待っていた。
「今日はお願いがあって、ここに参りました」
俺がお茶を出すと、フランチェスカは口をつけた後、そう切り出した。
「わかった、何でも言ってくれ。道場の看板が欲しければ持っていって構わないし、俺の首が欲しければかっ切って言ってくれ」
立ち会いで完敗を喫した以上、生殺与奪はすべてフランチェスカのものだ。
「看板も首も欲しくないです。それよりももっと大事なものが欲しいので、わたしの話を聞いてください」
フランチェスカの長い話が始まった。俺はフランチェスカの真剣な目を見つめながら、一言も逃さないように話に聞き入った。
「わたしは間違いなく世界最強の存在です」
その言葉を聞いて俺はちょっと安心した。実はフランチェスカより強い奴が世界中にゾロゾロいるとか聞かされたら絶望する以外にないじゃないか。
「わたしの血族のみに生まれながらに伝わっている能力ですが、実際に拳をあ合わせることで対戦相手の能力を知ることができます。
ちなみに、多賀島くんは世界で四番目だと思います。先日まで四番目だと思っていたアイリーンより強いようですし、今日実際に多賀島くんと拳を合わせることでその実力は確信できました」
やはり、アイリーンとは何らかの関係があるのか。それにしても四番目ってことは、俺とフランチェスカの間にまだ二人、強い奴がいるってことか、世界は広いな。
「わたしの一族の話をさせていただきますね。
わたしの一族は古代中国に発祥した女系の一族です。代々、女性しか生まれないため長女が当主となり、強き男性をある時は婿に、それができない時は子種だけをもらって家系を繋いで来ました。
女の子しか産めないというのも医学的に解明できていないのですが、同じく解明できていないことの一つに長女だけが両親の強さを正確に受け継いでいくということがあります。
その結果、代を重ねる毎に最強の血族となってきています。長女だけが強さを正確にと申しましたが、次女以降もある程度強さを受け継いでいますのである程度強いですよ。
ちなみに、先程話に出ましたアイリーンは母の妹でわたしから見れば叔母にあたります」
フランチェスカの一族には、アイリーンに及ばないまでも世界的に見たら十分に強い者たちがゾロゾロいるんだろうな。
そして今の話から推測するに、二番目に強いのはフランチェスカのお母さんとかになるんだろうか?
「先日、わたしが母を超え予定通りではありますが、次期当主になることが決定しました」
やはり、二番目ってのはフランチェスカのお母さんってことで正解のようだな。
となると三番目は誰だ?
「当主になるためには二つの条件があります。
一つは婿になるのにふさわしい男性を見つけることです。できる限り強い男性であることが望ましいのですが、一族総出で探してみても一族に勝てるだけの人物が見つかりません。
それが先日やっとのことで、アイリーンが多賀島くんのことを見つけてくれました。
これも実際に拳を合わせることでわかったことですが、多賀島くんならこれからの鍛錬次第で世界で二番目まで上り詰めることができると思います」
二番目ってそれはどう鍛錬してもフランチェスカには勝てないってことだよな……
まぁ確かにあれだけの高みを見せつけられると、どうあがいても届くって気がしないのもまた事実か。
ただ、この話の流れはそういうことなんだよな、俺がフランチェスカの相手にっていう……
「どうか、わたしの婿となっていただけませんか。
それがダメなら子種だけでも……」
フランチェスカは、真っ赤な顔で俺にそう言ったのである。