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第3話 立ち会い

 その日の授業はもうボロボロだった。

 隣からのオーラが俺の肌を焦がすような感覚に襲われるし、何気ない仕草の一つ一つが美しくてドキリとさせられるし、夕方のことを考えるとどうなるか恐ろしくてたまらないし、とにかくなんかいい匂いがするし……

 俺の精神力はもう底をついた感じだ。


 授業の合間ごとに男女関係なく人が集まってきて、フランチェスカを中心とした輪ができる。

 もう一瞬の間にクラスの話題の中心となっている。

 それどころか、廊下から遠巻きに他のクラスの連中も覗いてる始末。

 もう学園のプリンセスといった感じになっている。生まれながらに持っている女王の風格ってやつかな?


 それにしても、皆はフランチェスカから溢れ出すオーラにはまったく無反応なんだな。

 フェロモンの方は俺を含む全員が感じているようだが……

 このオーラさえなければ、俺も気楽にこの輪の中に加わっていられるんだけどなぁ。

 あ、一応席の関係上、物理的には輪の中にいるぞ。あくまで精神的な話だ。


 ただ、近くでフランチェスカの会話を聞いてるだけでだんだん惹かれていってしまうのはなんだろう。

 なんか怪しげな魔術でも使ってるんじゃないだろうな。




 なんだかとても長い一日が終わり、心影玄武流武術の正装に着替えて、道場でフランチェスカの来るのを待つ。

 そういえば、夕方ってだけで正確な訪問時間を聞いてなかったな。

 まぁいいや。いつでも戦えるようにウォームアップしておくことにする。

 武道家としては常在戦場、ウォームアップとか不要で常に戦える状態にあることが望ましいのは当然。

 だからと言って、ウォームアップした状態とそうでない状態では、出せる力が違うこともまた事実である。

 明らかに格上と思われる相手と戦うにあたって、できる限りのことはやっておきたい。

 たとえ瞬殺されるにせよ、俺の最大限の力を出してからでないと、死んでも死にきれないであろう。


 いい感じに体が温まった頃に玄関のチャイムが鳴った。

 道場の方に来るのかと思えば、家の方か。

 そういえば家に行くって言ってたっけ?


「お邪魔します」

 俺が迎えに行くと、フランチェスカはちゃんと玄関で靴を脱いで家に上がってきた。ちゃんと日本家屋の常識も持ってるようだ。

 制服のままだけど、このまま道場に通していいんだよな?


「こちらは道場のようですが?」

 フランチェスカは道場の前で小首をかしげている。

 あれ? 何か間違ったか?


「そうですね、格闘家なんですから、まずはお話の前に肉体言語で話し合ったほうがいいのかもしれませんね」

 フランチェスカは持っていた荷物を道場の隅に置くと、そのまま道場の中央に足を進めた。

「いつでも、よろしくってよ」

 そう言うと、にっこりと微笑むのであった。


 いきなりフランチェスカの放つオーラが倍増した。これまで感じていた溢れ出すまでのオーラもあれで思いっきり抑えていたようだ。

 今のこのオーラもフランチェスカの最大である保証もない。いったいどれだけの化け物なんだよ。


 俺は覚悟を決めてフランチェスカへ攻撃を開始した。

 先制の蹴りをフランチェスカの喉元に食らわす。華麗に避けるだろうと予想していたんだが、フランチェスカは片腕で俺の蹴りを受けた。

 その後、予想された反撃が来なかったため、俺は次々に蹴りや突きを繰り出す。そのすべてをフランチェスカはかわさずに受け続ける。


 どうやら俺のすべての攻撃を受け切るつもりだな。

 俺は打撃中心の攻撃から切り替え、フランチェスカと組み合った。だが、俺からの攻撃はすべていなされていく。どうやら合気も心得ているようだ。

 俺のすべての攻撃をフランチェスカは受けきった。ダメージらしいダメージがはいって感じはまったくない。


「そろそろ、こちらから行かせてもらいますね」

 フランチェスカはそう言うと、にっこり微笑むと、制服のスカートをひるがえして俺から離れた。

 次の瞬間、フランチェスカの蹴りが俺の喉元に。そのスピードに俺はまったく反応できなかった。

 フランチェスカのつま先は俺の喉元に一瞬触れ、そのままそこで静止した。

 次いで俺の鳩尾みぞおちめがけて突きが、この突きも指先が俺の胸に触れた瞬間に止まる。


 その後、俺が先程攻撃した手順を正確になぞって次々と攻撃が繰り出される。

 予測されたとおりの攻撃が正確に繰り出されるのに、俺は何一つ対処できない。すべての攻撃がピタリと俺の急所に触れた瞬間に止まっていく。


 次いでフランチェスカは俺と組み合ったかと思うと、すぐに俺は体勢を崩された。そして、また起こされては投げられる。

 次々に技が繰り出され、俺はその度に倒されていく。


 急に懐かしい感覚に襲われた。

 俺が幼い頃にじっちゃんにこうやって何度も倒されたものだ。

 でも、その攻撃の一つ一つが俺を傷つけないように優しいんだ。何度倒されても俺はまったく痛みも感じない。

 数々の関節技も俺を傷つけないように優しく極められていく。

 愛されている……そう感じさせるような優しさにあふれた攻撃がずっと続いていった。


 フランチェスカの攻撃が終わったようだ。

 俺は道場の真ん中に大の字に倒れている。

 勝てないことは最初からわかっていた。でも、まさかここまでの差とはな。

 ここまで完全にやられると、もう悔しいとかそういう感情は湧いてこないものなんだということが理解できた。


「なぁ、最後に本気の一撃ってのを見せてくれないか?」

 俺は起き上がって、フランチェスカにそう頼んだ。このまま終わったのでは俺の心にくすぶる何かを抑えきれない。

「でも、そんなことしたら……」

 最初、フランチェスカは悲しげに首を振ったが、ふと思い直したように、

「いいでしょう。あなたならきっと死なないでしょう」

 フランチェスカは俺の胸に触れてにっこり笑った。

「ここに正拳突きを撃ちます。全力で防御してくださいね」


 俺も自殺したいわけじゃないから、最高の防御で対応させてもらう。

 三戦サンチンの構え。琉球空手から伝わったとされる型で心影玄武流武術にも取り入れられている。

 呼吸法のコントロールであらゆる攻撃に耐えると言われているが、フランチェスカの本気の攻撃に耐えうるとは思ってはいない。

 あとは覚悟だ。攻撃を受ける時の覚悟を誤らなければどんな攻撃でも死の一歩手前で踏みとどまれるはずだ。

 覚悟を誤ったら? 当然死ぬだろうな。


 フランチェスカが構える。先程までのオーラよりもう一段階上がったオーラがフランチェスカを包んだ。

 美しいな、こんなフランチェスカの全力の攻撃を受けて死ぬのなら、それはそれで悪い人生でもないな。


 俺は全身全霊を込めてフランチェスカの一撃を受けた。

 そのまま威力を逃して吹っ飛ばされてしまえば、もう少し楽なんだが、そんなもったいないことができるもんか。


 受けきったぞ。

 俺は満足感に包まれて、そのまま崩れ落ちた。

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