第2話 転校生
一学期も来週いっぱいですぐに夏休み。一学期の期末試験も終えてクラスはだらけたムードがいっぱいである。
そんな中で俺一人だけ緊張に包まれている。
なんと言っても朝出かける時に靴ひもは切れるわ、黒猫は横切るわ、暴走したトラックに引かれそうになるわと縁起でもないことばかりが起こっている。
特に最後のは危なかった。もうちょっとで異世界に転移させられちまうところだったぜ。
じっちゃんが言っていたな。真の護身に到達すれば危機に近づくことすらできないとか。
後で知ったけど、これって格闘マンガからの盗作じゃないか? じっちゃんもあれ読んでたのかな?
どうやら今日出かけると、おっかない奴と出くわすらしい。
俺もどうやら達人の域に達してきてるようだ。
それなら家に引きこもってればいいんだろうけど、ダメなんだよな。どのような敵とも戦うというのが心影玄武流武術の本髄だから逃げるわけにはいかないらしい。
それよりも何よりも、そんな予感にワクワクしてしまってる俺がいるんだ。
朝のチャイムが鳴ってクラスメートたちは席についている。
廊下を通って近づいてくるこの大きなオーラはいったいなんなんだ?
俺がドキドキしながら席で座って待っていると、クラス担任の松野先生に続いて入ってきたのが金髪の女性。
平均よりやや小柄な感じの少女で、ハッキリ言ってとんでもない美少女!
だが問題はそんなことじゃない。
なんだ、この美少女から溢れ出すオーラは。
このオーラが戦闘力に比例しているのだとしたら、俺なんて比べ物にならないくらいの戦闘力があるはず。
だいたい、体からオーラが溢れ出すような人間なんて今までそう何人も見た覚えがない。
いやハッキリ言って、じっちゃんと先日、対戦したアイリーンの二人しか思い当たらない。
その二人でさえ、この美少女のオーラと比べたら、太陽と夜空の星くらいの輝きの差がある。
俺がこの美少女のオーラに圧倒されている間、クラスは別の意味でざわついていた。
そりゃまぁ、これだけの美少女、しかも金髪の外人さんが転校生として現れれば普通にときめいてしまうのは一般の男子高校生として当たり前だろう。
俺だって、このオーラさえ感じなければクラスの皆と同じ反応したと思う。
「はい、静かに!
転校生を紹介しますよ。アメリカから転校してきたフランチェスカ・リーさんです」
松野先生が美少女を紹介する。アメリカからの転校生なのか。
アメリカといえば、先日のアイリーンもアメリカのはず。短期間に続けてアメリカからのとんでもない実力者が二人続けて来るとか……
これが偶然だったら大笑いだ。何らかの関係があると考えた方が自然だろうな。
そう言えば、アイリーンと、このフランチェスカはなんとなく顔立ちが似ている気がする。
ただ、アイリーンは豊満なバストをしていたが、フランチェスカの方は少々胸のあたりが寂しい気がしないでもない……
そんな失礼なことを考えていたら、フランチェスカと目が合ってしまった。
もしや、こちらの考えてることとか読まれたりしてないよな。
もしそうだとしたら……これは殺されるな……
「フランチェスカ・リーです。よろしくお願いします」
フランチェスカは流暢な日本語で挨拶した。正確に言えばネイティブな日本人の喋り方とは少し違和感があるが、よく聞かないとわからない程度の差だ。
リーってのが名字だとすると中国系?
金髪だし見た感じは欧米人なんだが、そう思ってよく見るとアジア系の血が混ざってるかもしれないなって感じにも思える。
まぁアメリカ人なんて人種のるつぼなんだから、いろいろな人種の血が混ざっててもまったく不自然じゃないだろうな。
それにしても変な時期の転校生だよな。すぐに夏休みっていうこんな時期に転校生なんて。
それに今日は金曜日、明日から海の日を含めた三連休っていうタイミングで。
「それでは、リーさんは空いているあちらの席へ」
そう言って松野先生は俺の方を指差す。その指さした先には俺の隣の席が。
あれ? この机っていつのまに置かれてたんだ?
ちなみに、俺の席は窓際の一番うしろ、なんか学園モノのマンガとかでは主人公っていつもこの席だよな。
「リーさんはまだ教科書が届いてないから、それまで多賀島くんが見せてあげてね」
転校生が来た時のお約束のパターンだな。俺がそのお約束にはまって、しかもその相手がこのフランチェスカだとは……怖いよ……
フランチェスカは足早に俺の隣の席に座った。
「多賀島くん、よろしくね」
そう言ってにっこり微笑んだのだった。こえぇぇぇぇ!
フランチェスカは机を移動して俺の机にくっつける。
そして本人も椅子を俺の横にぴったりとくっつけてくる。
えっ、近くない?
なんかいい匂いがするんだけど。
「多賀島くん、お話があります。夕方にお家の方に行かせてもらいますね」
澄んだよく通る声で、しかし小さく俺だけに聞こえるようにそう言って、にっこり微笑むのだった。
じっちゃん。
俺もうすぐ、じっちゃんのもとに行くことになるかもしれない……