第18章 秘薬
「どうかな?」
いや、どうかなって言われても……
「さっきの身体強化薬のおかげか、体がずいぶん軽いな。日本刀の切れ味もいいし、特に問題はなさそうかな」
「ケモノとか特に殺すことに忌避感はなさそうだね」
一応、前にじっちゃんに山でウサギやシカを殺して捌いたりすることも教えられてるから、普通の日本人よりは血を見るのには慣れてる方だとは思うぞ。
「んー特に血を見ることに忌避感とかないかな? これが人間型の敵とかだったら別かもしれないけどな」
「人間は斬れない?」
「いざ、そういう場に立ってみないとなんとも言えないかな。だが、たぶん……俺は普通に斬れちゃうんじゃないかって気がする」
無意味に人の命を奪おうなんて気はないけど、人命は地球より重いとか、そういうふうにはまったく思えないな。
「下の方の階層には亜人と言えるモンスターもいるらしいから……どうしてもダメそうなら言ってね。わたしがそこはなんとかするから」
「おいおい、フランチェスカにそういう荷を背負わせて自分だけいい子ちゃんぶるつもりはないぞ」
「ありがとう……でも、これはわたしの試練なんだから」
「フランチェスカの試練は俺の試練だよ。
ところで、倒したモンスターの死体はこのままなのか?」
あまりこういうことで言い合いたくもないから、さっさと話題は変えちまおう。
「んと、たしか30分くらい放置しておくと、ダンジョンが死体を吸収してしまうって聞いたよ。
それまでに解体しちゃえば肉とか皮とかも取れるみたい」
吸収とかされちゃうのか、便利なのかどうなのか?
だいたい、ここのダンジョンのモンスターたちは何をどう食べて生きているんだろう。いろいろと謎仕様だよな。
「肉とか取れるのか、でもオオカミの肉ってあまり美味しそうなイメージないな」
「たしか、イノシシみたいなのも出るから、そっちのほうがいいかもしれないね。まぁムリに肉とか取らなくてもいいけどさ」
「でも、弁当とか持ち込めないし、食事の度に戻るとかするのか?」
「それでもいいけど、こういうのもあるのよ」
フランチェスカがキスをすると、なにかドロドロした液体を口に流し込んできた。
おや、結構美味しいかも。
「なにこれ?」
「栄養ドリンク。これだけで活動可能よ」
なんか反則技を食らったような気分だ。
栄養ドリンクとか、ありかよ。
「そういえば、和也は食べ物は出せないの?」
え?
そういうのありなのか?
どうなんだろうと思って試してみたけどダメだった。俺の方はそれほどの反則技はできないようだ。
「案外、不便ね」
フランチェスカの方のスキルが反則なだけだと思うぞ。
最初の戦闘現場でフランチェスカとあれこれ話してたら、次のモンターが近づいてきたようだ。
先程と同様のオオカミだ。今度は一匹のようだ。
「ちょっと俺一人で戦ってみるから見ててくれ」
「がんばって!」
フランチェスカは傍観モードのようだ。
俺は日本刀を構えて、走ってくるオオカミを待ち構える。
オオカミは俺の目前で飛びかかり、俺の首筋を狙って噛み付こうとしているようだ。
俺はサイドステップでオオカミの攻撃を避けて、すれ違いざまにオオカミの後ろ足の付け根を切り裂く。
やや浅かったようで、傷を負わせることができたが、オオカミはそのまま倒れない。
手負いになったことで、オオカミの凶暴度は増したようだ。
そのまま反転し、オオカミは低い体勢から俺の首元めがけて飛びついてくる。
だが、俺はその攻撃を読んでいた。
オオカミの飛びついてくる方向に日本刀を合わせて、そのままオオカミの首を一刀両断にした。
オオカミ一匹相手なら無傷で倒すことはそれほど問題なくできそうだが、先程のフランチェスカのように素手で複数相手を一撃でってのはきついだろうな。
「お見事!」
フランチェスカが拍手してくれるけど、この程度じゃあな。
オオカミがドロップアイテムを落としたようだ。
「皮ズボンね。和也はけるかな?」
「お、いいね。はいてみる」
さっそく俺は皮ズボンを履いてみるけど、結構きつい。相当強引に引き上げてなんとか履けた。
こういうドロップの装備って、誰の体にも合うってイメージだけど、それほど上手くできてないか。
自由に伸び縮みとかしたら、それだけですごいマジックアイテムだよな。
「どう?」
「うーん、ムリに履いてみたけど、こすれてあそこが痛い」
「大丈夫?」
「なんとか……」
もう少し体に合いそうな装備が出たらすぐに履き替えよう。
「なぁ、どうしてオオカミが皮ズボン落とすんだ?」
「んー、どのモンスターが何を落とすって決まりはないみたい。弱いモンスターはあまりいいもの落とさないけど、すっごくランダムな感じよ」
そういうものなんだ……
いろいろ理不尽な気がするけど、そういうものだと思うしかないな。
「どうする? もっと狩りしてみる?」
「んー、だいたいイメージできたから、本格的な狩りは明日以降にしようか」
「うん、そうしましょ。じゃ戻る?」
「そうしよう」
「戻る時は、また青い石を出してね。
でも、その前に」
フランチェスカが俺にキスすると、すごく甘ったるい液体が注がれた。
「なんだ、これは?」
「うふ、とってもエッチな気持ちになれるお薬よ」
「んな……」
ここでフランチェスカから飲まされた薬って、ダンジョンを出ても有効なのか……
「さぁ、戻りましょう」
すでに、薬が効いてきたようだ。
俺たちはダンジョンを出ると、シャワー浴びる時間も惜しんでいっぱいした。




