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第1話 挑戦者

 俺は多賀島和也たがしまかずや、ごく普通の高校一年生として過ごしている。


 俺が普通でない点は、心影玄武流武術しんえいげんぶりゅうぶじゅつの伝承者であるということくらいであろう。

 心影玄武流武術は室町時代から伝わる一子相伝の武術で、剣術・柔術などあらゆる武術を総合したものであるが、世間に弟子を取っていないため誰も知ってるものはいないであろう。


 親父が伝承者となるのを嫌がったため、俺は小さい頃からじっちゃんに厳しい修行をやらされてたものだ。

 きっと素質もあったんだろうな、厳しい修行のおかげでありえないくらいに強くなってしまった感じだ。

 中二の頃にはじっちゃんにも勝てるようになって、心影玄武流武術を継承することになった。

 たぶんだけど、俺が日本で最強だと思うぞ。世界でとなると未知の強豪とかがいるかもしれないが、この平和ボケした日本でそんなのがいるとは思えないからな。

 格闘技とかの動画を見てもどうしてこの程度の奴らがチャンピオンを名乗ってるのが信じられないレベルだ。

 そんなじっちゃんも俺が伝承者となったことに安心したのか、昨年大往生してしまったため、俺はじっちゃんの家で一人暮らしをしている。


 ちなみに両親ともに健在だ。ただ海外へ二人揃って長期出張中ってだけ。

 数年は帰って来れないらしい。まぁ小さい頃からじっちゃんと暮らしてきて、両親とは時々会うだけだったから、たいして気にはならないな。

 料理とかもじっちゃんにばっちり鍛えられてるから、一人暮らしでもまったく問題はない。

 ただ、じっちゃんの家は広すぎて掃除が行き届いてないのは仕方ないだろう。使う部屋は綺麗にしてあるから問題ないはずだ。

 近所に母の妹である叔母夫婦が住んでいて、そちらが名目上の保護者って感じだ。いい感じに放置してくれてるから俺としては気楽でいい。


 俺の通う私立若宮学園高校は目立たない高校と言える。

 ほぼ全員が大学に進学する高校だが、超難関大学に進むような生徒は稀であり、スポーツの方でも全国大会まで進めるような部は存在しない。

 この高校を選んだ理由は単にじっちゃんの家から近いからってだけ。

 俺の学力なら受験勉強しなくても合格できるってのも理由の一つか。

 中学までは特に勉強しなくても、学校の授業を聞いていれば普通に理解できる程度には頭はいい。

 ただ、真剣にテストを受けても一流の進学校に合格できるほどの実力はなかったから威張れたものではない。


 スポーツの方ははっきり言って万能。

 真面目にやるとオリンピックの強化選手とかに選ばれてしまうから、いろいろ手を抜かせてもらってる。

 そういう目立ったことはしないってのが、我が家の代々の家訓である。

 ってことで、学校では中学の頃からずっと、スポーツが少し得意で勉強はそこそこの目立たない男の子って感じで通ってるわけだ。


 学校では強さは隠してるけど、道場の方ではそうはいかない。

 弟子とかはいないから普段は問題ないんだけど、じっちゃんが生きてた頃からもそうだけど、半年に一度くらいは道場破りみたいなのがやってくるんだ。

 世間ではまったくの無名と言うものの心影玄武流武術は知る人ぞ知るってやつらしく、あらゆるジャンルの格闘技から挑戦者が現れるのだ。

 どのような敵とも戦うというのが心影玄武流武術の本髄であるので、この時ばかりは俺も力を見せないといけない。

 とはいうものの、いまだ俺が全力を出す機会とかはなかったんだが。


 ただ、その日は別だった。

 あらかじめ、手紙で挑戦の希望を知らせてくるというこの世界でも珍しく丁寧な相手を俺は待ち受けていた。

 手紙の主は、アイリーンというアメリカの女性。

 MCMAP(海兵隊マーシャルアーツプログラム)でブラックベルトの持ち主らしい。対戦では素手でなんでもありのルールを希望とのことだ。

 ちなみに手紙は日本語だった。英語で書かれてたら、ちょっと困ったことになったと思う。


「タノモー」

 やってきたのは二十代の女性、美人だ。カーキ色のティーシャツに海兵隊の人がよく身につけている感じのズボンをはいている。

「ヨロシクオネガイシマス」

 たどたどしい感じではあるが日本語が話せるようなので一安心。さっそく対戦となったんだが、正直女性経験のない俺にはこの豊満な胸をしたアイリーンと平常心で組み合えるのかがやや不安があるな。


 そんな感じでやや気楽に立ち会うことにしたんだが、アイリーンが構えた瞬間、俺の油断はすべて消え去った。

 あー、この女性は油断して戦ったら痛い目に遭うやつだ。

 俺が本気を出せるのは、じっちゃんと戦った時以来だな。楽しみだ。


 アイリーンは想定通り強敵であった。

 MCMAPも俺の心影玄武流武術同様に総合的な格闘術。空手、柔道、カンフーなどのあらゆる技で攻撃してくる。

 アイリーンの繰り出す技の一つ一つの切れのいいことと言ったら嬉しくなってくるくらいだ。

 いやぁ世界は広いね。俺同様にまったく無名の女性がこんな素晴らしい技を使ってくるなんて。


 だが、俺の方があらゆる面で少しばかり上だったようだ。アイリーンの攻撃をすべて受けきった後、反撃に移らせてもらった。

 アイリーンも俺の攻撃を懸命に受けていたが、俺は連続攻撃を決めた。

「マイリマシタ」

 アイリーンは深く一礼をして今日の対戦は終わりとなった。


 俺としては別に下心とかはないんだが少しアイリーンと語り合いたかった。でも、アイリーンはそのまま立ち去っていった。


「ヤットミツケタ」

 謎の言葉を残して。

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