3章13話:カヴァレリア・ルスティカーナ攻略戦〜前編〜
カヴァレリア・ルスティカーナは有名なオペラ、歌劇ですね。その詳細は次回本編で出てきますが、恋愛のドロドロした話です。
様々なソロパートは、聞いているだけで心洗われます。
「うん、可愛いわね。でも元の色より少し暗くないかしら?」
「いっそ黒に染めたいくらいだよ?にしても凄いね、高級染色液でも染まらなかったのに……」
ルーチェが作った染色液を大量に買い込み、ストックしておく。色はダークブラウン、元が明るい茶髪なので原型は残っている。瞳は赤いままだが、これくらいなら目立たない。昔の私はポニーテールをつくっていたが、今は下ろしているので、セミロングくらいの髪型に落ち着いた。雰囲気も相まって、私のことをいきなり櫛引木葉だと見抜くのは難しいだろう。
「ま、染色液の節約はしなきゃだけどね……」
翌日早朝、私と迷路とロゼ、そしてエレノアは一緒にヴェニスの街の関を通過した。エレノアのお陰で不法入国もバレなかったのでその点はすごく助かる。
マスカーニ湖はヴェニスの郊外、街から出てすぐ目の前にある。だが地底湖に行くにはさらに洞窟を目指さなくてはならない。勿論そこも近い、が、魔獣が出るので誰も近寄らない。
「お、早いね」
「おはようございます、ヒカリ様。ハノーファー以下国憂騎士団、先に待機しておりました。周辺の魔獣は片付けております。さぁ、行きましょう」
と、イケメン執事ハノーファーの腕には魔獣の真っ黒な体液が付いていた。手刀が武器らしい、かっこよ。
集まった人数は26人。なるほど、これで"レイド戦"とやらが正式に機能するわけだ。レイド戦はローマの祭りの時にも2人で挑んでいるが、イマイチ実態がわからない。
「あれ、知らないのか?じゃあ!ハノーファー解説よろしく!」
「かしこまりましたエレノア様。レイド戦とは、26人以内で大掛かりな迷宮ボス攻略に挑む戦闘形式でございます。レイドエリアと呼ばれるフィールドでは、26人を超えての侵入が不可能でございます。また、丁度26人揃えますとフィールドボーナスで一定期間の魔力量が向上いたします。勿論1人で挑んでも問題はありませんが、人数は多いに越したことはありません」
ま、レスピーガ地下迷宮の場合はローマの祭りの放水量が26人という大人数に応じて増えていく上、人数が多いと安定して足場を作れなくなるから一概に人数が多ければ良いわけじゃないらしいけど、多分アレは特殊な事例なんだろう。ダッタン人の踊りに関しては向こうが招待してきたからレイド戦もクソもない。
また、リヒテンのクルクス洞窟はレイド戦の良い例だ。3人で挑むことをどう考えても想定されていない、3体のボスの集結というギミック。よく3人で倒せたなぁとは思う。クープランの墓が作ったものでなければ上手く仕掛けが作動せずにボスがなんの躊躇いもなく突っ込んできていただろうし。
「国憂騎士団の中でも彼らは精兵です。勿論わたくしもエレノア様も強者を自負しておりますので、必ずお役に立ちますよ」
「ま、準備は万端!あたしたちなら勝てるさ!」
と言う言葉の通り、道中の魔獣の末路は悲惨なものだった。
「これ私たちが受けた依頼なのに殆どエレノアたちの手柄になっちゃってない?」
「わー、地面が汚いんよ〜」
エレノアら国憂騎士団は見事な連携で洞窟内に巣食っていた大型蜘蛛の魔獣をいともたやすく撃破。続いて、水路に住み着いていた黒鰐と呼ばれるでっかいワニを爆雷で引きずり出して総攻撃を仕掛けて討伐してしまった。
この黒鰐はヴェニスに続く水路に出没しては商船を襲っていたので、恐らくコイツの肉はヴェニスに送られて大パーティーが開かれることだろう。100日すら待てなかったせっかちな鰐だ。
「私たち要らないんじゃないだろうか?」
ってくらい洞窟内は順調だった。ずーっと水路に沿って洞窟を進んでいく。途中道具等を使わないと通れないような細い道や、崖があるので鉤縄を使って丁寧に登り降りを繰り返していく。
「迷路、手、ほら」
「ん。ったく、何回登り降りすれば良いのよ……もう蝙蝠は見飽きたわ」
「毒耐性のポーション持ってきて良かったよ。コイツらガッツリ毒もってるし」
それから数時間進むと、奥に漸く見えてきた。これが、
「着いたよ、マスカーニ地底湖。どうだい?なんもないだろ?」
エレノアの言う通り、ただの地底湖だった。地上のマスカーニ湖の水がチョチョロと流れ込み、こうして地底湖としての形を保っているらしい。大きさとしては中々に広いが、光が入ってこないため大層暗く、不気味だ。持ってきたカンテラの灯りだけが頼りである。
「さてと、どうしたもんかな……」
「奥羽を使って水中を調べるのはどう〜?」
「え、まって、方舟のスキルってそんなこともできるの?」
初耳である。が、ロゼはダッタン人の紅玉を湖に向かって突き出す。すると、巨大な船……船……あれ?
「せ、潜水艦だ……」
「モードチェンジが可能なんよ〜」
水中用、水上用、そして飛行用全てを兼ね備えているらしい。これが魔王討伐の一体なんの役に立つんだ……とは思っていたが水中での戦闘で必須アイテムだったのか。
「水の中を船で進むだって?!凄いな、こんなものまで有しているんだ、君たちは」
「ここを攻略すればある程度エレノアたちも強い魔法が手に入るよ?全員ってわけじゃなさそうだけど」
方舟スキルはロゼオンリーだった。相性とかがあるんだろうけれど、私にはイマイチわからない。
…
………
………………
「ん〜敵いなさそうだね〜」
四方の監視システムを動員しても全く見つからない。というかこの地底湖を攻略するには"方舟"のスキルは必須である。つまりボロディン砂漠の攻略必須なわけだ。偶然とは言え先に攻略して本当に良かった……。
「これ、水の中を泳いでるのかい?あたしには想像もできないけど、凄い技術が使われてるんだなぁ」
「空も飛べるよ。人を運んで一瞬でテレポートも出来ちゃう、なんという優れもの……羊狂いの癖に滅茶苦茶役に立ったなぁこれ」
「そう、か……」
エレノアの歯切れが悪いが何か思案しているようだった。今度は空旅でも頼む!とかだったら全然オッケーなんだけどな。
「あれ?なんか見えるくない?」
迷路を呼んで確認してもらう。前方になんだかモヤモヤとした宮殿のような建物が見え始めた。
「随分潜ったけれど、こんなところに建物って」
「怪しいわね。地底湖からは出てるだろうし、恐らく本来のマスカーニ湖と合流してるわ。その上で人工的な建築物となると……」
「クープランの墓が作ったんだろうね。じゃああれが」
「さしずめ、マスカーニ湖底神殿とでもいうべきかしら?この潜水艦じゃどこまで入れるかわからないわよ?」
「入れるところまで入ったら、人魚の涙を使って探索だね」
長い間湖に沈み続けていたためか、随分と藻みたいなのが生えているがそれでも立派な神殿であったことが窺える。500年前の建築物なのだから、ここまで残ってるのは歴史的価値としても相当なものだろう。
「よし、突入しよう」
奥羽で神殿の入り口に突入する。このまま進めると思っていたのも束の間、
「え?」
水が、途切れていた。当然奥羽が進めるスペースはここまでである。
「水を隔絶してる?」
奥羽から降りて神殿の入り口へと向かうと、透明な幕が貼られていることに気付いた。手を伸ばしてみると、
「うぉわっ!」
凄い!水だ。淡水だ。冷たくて気持ちいい。
「神殿内は水を隔離しているのね。一体どうなっているのかしら?」
「あの骸骨の出鱈目パワーだから考えるのも馬鹿馬鹿しいよ。進もう」
外から見た神殿は然程大きくなかったので予想はしていたが、恐らく一本道になっている。あまりに地形が特殊すぎるが故に今まで1度も冒険者が来たことがないのだろう。人為的に破壊されたと思われる部分が一切ない。
「あたしたちが、最初の冒険者ってことだな」
「くうう、燃えるねえ!」
「これはお宝も期待できちゃうなあ」
フロンティア精神に燃える国憂騎士団のメンバーたち。そんな甘いところじゃないんだよなぁ。
ボロディン砂漠の砂漠宮殿は羊狂いの許可が無いと入れない、マスカーニ湖底神殿はは地形的にボロディン砂漠攻略がほぼ必須。レスピーガ地下迷宮はそう考えると楽だけど、レイド戦での攻略は難関。クラスのみんなが攻略中のゴダール山は魔女が非常に強大な上に100層までの突破が必須。そう考えると魔女の宝箱って割と鬼畜ゲーな気がする。しかも手に入る魔法は魔王殺しにそこまで役に立たないと考えると、
「いや、逆か?」
順番が定められてる?方舟がないとここには行けないし、魔笛を使わないと馬等の消耗の激しい動物を使っての移動を強いられる砂漠地帯。魔笛がないとボロディン砂漠は攻略できないし、方舟がないとマスカーニ湖底神殿は攻略できない。
つまり、全ての魔女の宝箱攻略こそ、魔王討伐に必須……か。そういえばダッタン人の踊りも似たようなことを言っていた気がする。
「本来は魔宮全てを潰して霊脈の流れを正常にし、人間が本来の力を取り戻したところで魔王と決戦……というのが正しい流れだったんだろうが。誤算は初代勇者が魔女の宝箱一つを崩壊させ、宝石が一つだったにもかかわらずクープランの墓を打ち破ってしまったことだな。お陰で魔王様が死んだにもかかわらず、妾たちは無駄に生き残ることになってしまった」
だったかな?霊脈の重要地点を抑えた魔女の宝箱を攻略することで霊脈の流れを正常にし、その結果勇者は本来使えるはずの莫大な魔力を使用できる。逆にいえば全てを攻略しない限り霊脈は確実にどこかで止まって循環しないから、魔力が手に入らない。
そして全部を攻略するための過程を記した証こそが"魔女の宝石"だとすれば、
「私たちは、割と正しいルートで来てるってことか……」
難しく考えるのはやめよう。どうやら、
「ここ、だね」
ボスの部屋らしい。
…
…………
……………………
「________ッ!?」
扉を開いて早々、目の前にヤバいのがいることに気づく。国憂騎士団が身構え、各々武器を取り出し始める。
広い神殿のスペース、その階段を登った上に、1人の巨大な女がいた。髪は輝くようなブロンド、金色のティアラ、青い瞳、豊満なボディー。そして、
「全身が鱗、そして魚の尻尾……まるで人魚姫ね」
迷路がそう呟く通り、全長8メートルを越す女はその見た目だけなら人魚姫と呼ぶに相応しい姿をしていた。しかしながら、、、その顔は、骸骨。黒くぽっかりと空いた窪みから青い眼球がギャロギョロと動き回っているのがなんとも不気味だ。
「ぃあいぁいいああいおいぃあたたまたああああああああああまあたああああああああああああああたたあいいいい!!」
不気味な声を上げながら人魚姫、いや、カヴァレリア・ルスティカーナはこちらに身体を向けた。
「へぇ、いいね。斬り甲斐がありそう。刻んであげるよ、人魚姫。巨大な湖の泡にしてあげる」
私の言葉を聞いて国憂騎士団が一斉に動きだす。事前の作戦通りだ。先ずは遠距離攻撃方のメンバーが所定の位置に付き、中距離支援、そして近距離と続く。何が起こるかわからないから、最初は迷路や遠距離型メンバーが攻撃を仕掛けることになっていた。
「《雪牙》!」
「いくぞぉ!《爆破弓》ッ!」
迷路が魔法で作り上げた氷の牙が地面を凍らせながら人魚姫へと突き進む。また、上空からは遠距離型メンバーの弓のスキルが降り注いだ。
「ぎいいいいあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「直撃!!」
「防護型!次に来る攻撃に備えて!!」
指示を出すと、メンバーたちは障壁展開の準備を始める。やはり優秀な冒険者たちだ、連携の度合いが違うし何より早い。
「ああまああああまああたあたまあたああああああ!!」
咆哮しつつ、人魚姫は自らの身体に纏う鱗をバシュッ!と連続で飛ばしてくる。防護型メンバーはそれぞれに障壁をはりつつ、攻撃型メンバーを守護する。私は、ハノーファーがバディとなって障壁を張ってくれた。そして、
「行くよ!!!」
ハノーファーと共に突入する。ロゼとエレノアら中距離支援組はそれぞれ攻撃組の攻撃後に追加攻撃を行う予定だ。
だからまずは私から斬り込む!
「《斬鬼+》!!はぁああああッ!!」
人魚姫の尻尾を狙って振るう。剣撃が人魚姫の飛ばす鱗すら切り裂き、そのまま尻尾にダメージを与えた。黒い血が尻尾から噴き出す。
「当たった!?なんか弱くない?この魔女?」
「わたくしも参ります!《手鬼》!!」
鱗を避けつつハノーファーはその執事服のまま跳躍し、腹の部分に切り込みを入れる。
「ぎいいいいあああ!!!」
またヒット。おかしい。明らかに弱すぎる。防御力、攻撃力共に大した能力を持っていない。
「《爆塊》!!!」
「《感電》なんよ〜!!!」
エレノアの爆弾とロゼの雷撃もまた直撃。人魚姫は凄まじい悲鳴を上げながらバランスを崩して倒れていった。
どおォォォォオオオン!!!
「いける!このままいけるぞ俺たち!」
「このまま畳み込むぞ!」
冒険者たちが次々と人魚姫に斬りかかり、ダメージを与えていく。何かあるのかもしれないが、ダメージを与えるに越したことはない。それなら私も、
「スキル《鬼姫》!!来い!!《茨木童子》!!」
茨木童子を降霊させ、瑪瑙を構え直す。そして鬼火を!
「あ、れ……?」
身体が……動かない。いつの間に私は地面に倒れている?おかしい、おかしいおかしい!身体が痺れて動けない!?
「……ぁ、ぁぁ」
声が出せない!?これは、一体!?身体の感覚が消えていく中、人魚姫をみると彼女は巨大なハープを鳴らしていた。
「おい!なんかいきなりハープが出てきたぞ?」
「ハープごと壊しちまえ!《ボルトショット》!」
ま、って……だめ、これは、やばい……。叫ぼうとしても声が出ない。
「木葉!?」
「こののん!」
迷路とロゼが近づいてくるが、その途端に身体が動き出す。
否。
自分の意志ではない。
「め、いろ……」
何故か口から迷路の名が漏れる。すると迷路までもが固まり、そして、
「な、なななななななななな!!!この、このこのこのこのは!?なんであなたはそんなに美しいの!?」
「……………………………………ふぁ?」
「今すぐ、今すぐに私のものに、隅から隅まで私のものにしたい、調○したい……ああああああ!!!」
目をハートマークにしながら迷路が発狂し出す。これ吸血鬼の時のに似てるぅ……。
「え、ええええ……ろ、ろぜ……よくわからんけど、助け……」
ロゼの名前を呼んだ瞬間、ロゼも何故か固まり出した。これを見て私は、あ、やったわ……ってなった。ロゼはそのまま……
「こののん!!僕と子作りするよ〜!!!さあ、服を脱ぐんよ!!」
「な、なんでぇ………………」
このままでは私の貞○の危機……しかも私は動けない。これは、終わった……。お母さん、私は今日、女の子から1人の女になります……女の子の手によって……。
「ちょ、まてまてまてまて!2人とも何やってんだ!?いったん退避するぞ!」
あ、エレノア、助かる。そのままエレノアは私をお姫様抱っこで運ぼうとして、
「こののんを離すんよ、こののんは僕のなんよ」
「は?何を言ってるのかしら?木葉は私のものよ?ロゼ貴方調子に乗りすぎじゃないかしら?」
「めーちゃんこそ、正妻気取りが過ぎるんよ。今日ここで一昨日の決着をつけてやるんよ」
「はっ、また私が勝つわよ?」
「そもそも負けてないんよ!」
ちょ、待って……何してんのまじで……。う、そんなことより私なぜか全く動けない……。
私を抱えていたエレノアは神妙そうに考え込んでいたが、やがて納得したようにポンと手を叩いた。
「ハノーファー、きたまえ。ハープについて分析を頼む。私はこの子を運ぶ……やっぱあたしには術が掛からないな?」
「えぇ、恐らくですが、レベルが関連していますね。レベルが最も上位の【レイドマスター】にのみ、催眠をかける魔法かはたまた。少し調べて参ります!」
ハノーファーとエレノアが真面目に対応策を話し合ってくれている間、ロゼと迷路はなんか不毛な争いをしていた。
「僕の方がこののんを幸せにできるんよ〜!!」
「私は木葉を幸せにしなくちゃいけないの!だから身も心も私が幸せに……」
これは、やばい……。
感想などください。