3章11話:夜はこれから
感想ください
木葉視点のお話です
「いいな。そこの黒猫ちゃんとの組み合わせも良かったけど、竜人の美姫との掛け合いはやっぱり良い!あたしの目に狂いはなかった!見ていて尊みが止まらないよ、あぁ……尊い」
「こいつこんなキャラだったの……?ねぇ」
「こんなキャラだから今やっと準備できてるのよね。ある意味助かったわ」
黒猫ちゃんって迷路のことかな?言い得て妙な気がする。なんかずっと腕離してくれないけど、理由を聞こうとしたらパシっと跳ね除けられるし、かと言って離れようとしたらスススと寄ってくる……猫だ……にゃんこだ。
「誰か!絵師を呼んできてくれ!この2人のやり取りを記録したいんだ!」
「かしこまりやしたぁ!」
「へへぇ!俺ぁ、フルガウド様もセットでみてぇです!」
「俺が描きましょう!」
「いや、私がその服の下の諸々まで想像して完璧に描いてご覧にいれましょう!」
「「「「「頼んだ!!!!」」」」」
いや、それは怖いです……。
…
………
………………
前回のあらすじ:エレノアは百合大好き人間 (俯瞰型)だった。以上。
「これは酷い」
あんまりなあらすじに、私は苦笑いを抑えられなかった。こんな尊い関係の子が敵なはずがない!と、私たちは取り敢えず解放されることとなった。この結果はロゼが出てきたからだと信じたい。本当に信じたい。
「いーの?一応ルーチェは私のこと魔王だと疑ってるみたいだけど」
「ああ、君が魔王だろうが魔王じゃなかろうが、君が悪い奴じゃないのはわかる。君は、虐殺なんてしないだろう?」
「さあ?そこまで私のこと信用できるの?」
「竜人族は高貴なる一族だ。16年前の王都内戦では最後まで誇りを持って散って、その生き様を国中に響かせた。そんな竜人の姫が君をそこまで慕っているんだ。あたしも、他の奴ももう何も言えないって」
エレノアがニカっといい笑顔を返してくる。そんなにいい笑顔で言われると私も嫌味の一つが言えなくなってしまう。最近人に対して嫌味を言ったり煽ったりするのが当たり前のようになってきてるのは元々私の性格が悪かったことに起因してると思う。
話が逸れた。今私たちはエレノアの部隊とともにヴェニスの街で買い物をしている。それは勿論、マスカーニ湖の攻略用だった。
「マスカーニ湖、正式にはマスカーニ地底湖。地上の湖、そして洞窟から侵入できる地底湖もある。2つは繋がってるんだよ。多分、迷宮っていうのは地底湖のことを言ってるんじゃないかな?地底湖の方は正直魔獣が出るからビンゴだと思う」
「エレノアが知らないってことは、まぁ後はルーチェくらいしか知らないよねぇ。取り敢えず行ってみる価値はあるか。【人魚の涙】のストックも増やさなきゃ」
いつぞやに水路を通って行った時のアイテム。最大7分間無呼吸で水中移動可能なアイテム。あの時は散々な目にあった……。
「で?ロゼの事黙っててくれてるのにはなんか訳でも?」
「あぁ、バレたかい?」
「マスカーニ湖はともかく、こっちのは完全に私たちの弱みだしね」
「ああ、あたしが少し頼みたいことがあるんだ」
「あー、戦う前にもそんなこと言ってたね?言っとっけど不可能なことはやめてよ?」
「多分大丈夫だと思うね。詳しいことは迷宮攻略後にお願いするとするよ」
「一応引き分けみたいなとこあるし、エレノアだから引き受けてもいいんだけどさ……」
「いいや、もし負い目を感じているのなら、君たちがイチャイチャしてるところをいっぱいみせてくれ!そうすればあたしの心は癒される」
「んー、なんでこんなキャラだったのに気付かなかったんだろう」
私が呟くと、ハノーファーが横槍を入れてきた。そうだそうだ、エレノアにツッコんでやれ。
「わたくしも微笑ましい気分でございます」
お前もかーい!ムムムという視線をおくるが、それすら意に介さずこちらに微笑んだ。イケメンだ。
まあ何はともあれエレノア、ハノーファー、そして他数十人が攻略に付き合ってくれるらしい。エレノア行くところに俺たちあり!と意気込んでいたし、おそらくロゼ絡みだろう。だって、
「あ、貴方が……フルガウド様だったのですね……」
とロゼの前で膝をつき、涙を流す男……ちょっと前にゴンドラで私たちを運んでくれたお兄さんがいた。どうやら烽のメンバーだったらしい。あの頃から嫌な予感はしてたんだよマジで……。
「ゴンドラのお兄さん、頭を上げて」
「ゴンっていいます!へへっ、覚えやすいでしょう?」
「あ〜……うん。そっかぁゴンさん。えっとねぇ〜お父さんのお話聞かせてくれてありがとう〜」
「勿体なきお言葉!現人神でおわせるロゼ姫様から感謝していただけるなど!」
と、ギルド会館でやり取りをしていた。流石に外でやったら面倒ごとになるからぶっ飛ばす。名前も覚えてやる必要はないな、うん。まさかルーチェが狐だからってごんぎつ○関連だっていう安易な発想に至りたくない。
…
………
……………
マスカーニ湖攻略では金にならない。結果としてマスカーニ湖周辺の魔獣を狩るというクエストを受注し、請け負うことになった。本格的に今後商人の真似事をしなくてはならないかもしれない。何せ人魚の涙は高いのだ。
「片っ端から受けたわね……結構な金額になりそうじゃないかしら?」
「ロゼも強化されたし、烽メンバーの強さも知りたいし潰しながら行こっか。割とこの辺の魔獣には手こずらされてるらしいし」
必要な分の回復薬ポーションと魔力回復ポーション。一応薬草、救急アイテム、布や日用品についてもかなり買い揃えることにした。
「こののんの作る下着はふわっふわだもんね〜。可愛いし、これ絶対売れると思うんよ!お、めーちゃん今日は青だね〜」
そう言って迷路の黒のドレスをめくり上げた。周囲を歩いていた街の男たちがチラチラとこちらをみて、おぉー!と歓声を上げている。
「な、ロゼ!!貴方ぁあああ!!」
「迷路には青と黒しか渡してないし、ほぼ二択だよね。私と寝てる時は大体黒だから……」
「木葉もなんでバラすのよ!?なんでバラすの!?」
「ロゼにはピンクしかあげてないし」
「こののん!?なんでバラすの!?」
今度は迷路がロゼのフレアスカートをめくろうと襲いかかっていたので止めさせてもらった。これで勢い余ってフードを取ってしまい、街中にロゼの正体がばれたりしたら困る。
「一応妊婦用の服とかも作ったほうがいいのかなぁ」
「へ……?木葉?どういう意味……?まさか……に、に、ににににににににににににににににににに、にん、しん……?」
「ぎゃあああああああああああああああ〜!!それは死ぬんよ、死ぬんよ〜!!めーちゃん!いつの間に孕ませたんよ〜!?」
「あ、貴方こそいつの間に木葉を孕ませたのよ!?」
「いや2人とも落ち着いて……なんの話してんの……」
なんか2人が発狂し始めた。エレノアは遠くから微笑ましそうにみているが、状況的には全然微笑ましくない……。なんか頂上決戦みたいな雰囲気になってたので止めよう。
「いや、可能性の話。だって私……ほら、迷路ともロゼとも……きす、してるし……」
「………………………………」
「………………………………」
勇気を出して、というか恥ずかしいけど言う。こういうのって大事なことだしね。ほら、性に関しては先に色々考えないとって保健の先生が保健体育の授業で言ってた。
「……これは」
「うん。早急に教えてあげなきゃいけない気がするんよ」
「木葉の純粋さは、私達には毒だわ。闇木葉になったのだから、もうこの際私たちの知る世界まで堕ちてきてもらいましょう」
「抜け駆けはさせないんよ〜?」
「えぇ、堕ちるときは3人一緒よ」
なんだか物凄く馬鹿にされている気がする。多分何かしら間違えたのだろう。私にはよくわからない。似たようなことがゴブリン戦の時にもあったが、私だけ仲間外れにするのは良くないと思う。
「む、私を除け者にすんな」
と、迷路の袖を引っ張る。すると迷路は、
「よ、よし。そうよね。みんなで幸せになるべきよね」
と、なんか勝手に納得していた。ロゼもロゼで、
「ごくり、覚悟を決める時なんよ。こののんがえちえち過ぎるのが悪いんよ」
と目をキラキラさせながら頷いていた。私は、というと
「……んん?もういいや、よくわかんないし。取り敢えず買うもの買ったし、今日は泊まって明日に備えよ」
としか言えなかった。やっぱりなんか隠してる気がする……。
さて、お気づきだろうか?
実はヴェニスに来てからまだ2日目なんだよ。1日目はエレノアと激闘。客間で泊まって2日目は教会とバーに行って、そのまま街歩きしてルーチェのとこへ。で、今買い物。
と言うわけで客間へ!と思ってたのだが、
「ここがあたしの家だよ!」
何故かエレノアの家に招待されてしまった。この街は北リタリー公国の首都であり、上流階級も多々住んでいるため都市内の区分けがされている。エレノアの家はその中間地点に建っている一軒家だった。
「元貴族でね、アタシ。なけなしの財産とこの家をもらえたのさ。御馳走するよ、君たちはゆっくり休んでて!」
私たちの部屋は一部屋で、ベッドは三つ置かれている。どうやら他の部屋は掃除していなかったらしいので仕方がない。というかこんなに良いところで寝れること自体が久しぶりなので本当に嬉しい。奥羽のベッドもそこそこ良いものではあるが、移動してる感が凄いので落ち着かないのだ。
「お〜!リヒテンのホテル以来だね。ベッドがふっかふかだよぅ」
ベッドにダイブする木葉。色んな人と話したから流石に疲れた。特にルーチェとのやり取りは気を使ったなぁ。
「色々危なかったけど良かったんよ〜。ようやくここまでこれたって感じ〜」
「普通ーに私が魔王だってバレると思ってたからね。ていうか私の正体知ってもロゼも迷路も変な目でみてきたりしなかったよね?あれって結構凄いことだったんだなぁって」
エレノアやギルドのメンバーを見ていると、やっぱり恐れられて然りの存在なのだと実感する。
「まぁ木葉は木葉だし、別に気にはしなかったわね」
「ん〜、この子が僕たちを害するとは思えないんよ〜って感じ〜」
「2代目魔王は虫も殺せないような雰囲気の持ち主だったってルーチェは言ってたし、雰囲気だけで判断しちゃっていいの?」
結構真剣に言ってるのだが、2人とも呆れたような顔で私を見ていた。
「そういうこと言う時点で貴方は私たちを傷つけたりはしないわよ。私たちを傷付けよう、なんて思わないでしょう?」
「それはもちろん、絶対!」
「じゃあ大丈夫なんよ〜。僕たちはこののんを信じてるから」
「私も、信じてる」
2人は自信たっぷりにそう言った。杞憂だった、私も、そして2人もお互いがお互いを支えてきた。そしてこれからも。やっぱり私は、彼女たちが好きなのだ。
「よし、今日の夜がいいんよ」
「えぇ、そうね、」
なんか隠してるのはともかくな。
エレノアの作ったご飯は非常に美味しかった。なんというか、すっごいイタリアンだった。日本で食べられるイタリアン料理ではない、味付けも随分あっさりとしている。有り体に言えば塩が足りない、がそれでも香辛料がよく効いていてまた違った意味で楽しむことができた。
「ピザ、パスタ、カプレーゼ、うーん久しぶりに食べた気がするあの味」
「お母さんは作ってくれなかったもんね!」
「すくな、その喋り方マジでやめて……」
浴場から出て白いタオルで髪を拭く。用意されていた寝巻き……はなんかフリフリのドレスのような寝巻きだったので、上からパーカーを羽織らせて貰った。エレノアの趣味がわからない……。
「あれ、何してんの?」
「ああ、ちょうどいいところに……ってあたしの渡した寝巻きは?」
「下に着てるよ?もしかしてエレノアって見た目に寄らずこういうの着るのが好きなの?」
ピラッと、パーカーの下を見せる。着るのは初めてかもしれない。なんか寒いので上は着させてもらう。
「い、いや、君に似合うかなぁと思って渡したんだが……これは確かに理性が飛びそうだ」
「……?ところでちょうど良いところにって言ってたけどなんかあったの?」
「ああ、君で風呂は最後だろう?あんまりに長風呂してるもんだから2人にワインでも、と振る舞ってたんだよ」
「おい、未成年飲酒、ダメ絶対」
すくなとまったり話してたからだいぶ長くなってしまったのは認める。が、いくらなんでもワインはやめて欲しかった。
因みに最近お風呂ではよくすくなとお話をしている。自分で言うのもなんだが、すくなは段々昔の私のようになっていっている。もしかしたら昔の私の性格は本来のすくなの性格なのかもしれない、と思うと不思議な感じだけど、やっぱりあの性格はなんかムカつくのでそっちもやめて欲しい。
「で、これか……」
私の目線の先には、
「こにょは〜いっぱい飲んでるわよう……」
「こののん〜!なんかふわふわ気持ちいいんだぜぃ〜」
「もう私の本名隠す気ないだろ」
迷路とロゼが仲良さそうに身を寄せ合って、酔っ払っていた。なんだ君ら仲良いんじゃん。
「あはは……あたしは相変わらずヒカリと呼ばせてもらうよ。事情があって本名を隠しているのはわかったからね」
「そっか、その優しさをせめてこの2人にも向けてあげて欲しかったよ。ほらお水」
「このは〜、ありがとう」
「あー、いいからいいからその服装でスリスリするのやめて刺激強い……」
迷路のパジャマは青と水色のドレスのような寝巻きだった。私のは白、そしてロゼのは桃色だ。つまりパンツの色だ。なんでエレノアが知ってる?と思ったが夕方の買い物で大声を出していたことを思い出した。
「どうだ?君も一杯」
「……頂こう」
確かに度数が高い。しかし魔王能力なのか知らないが、中々に私は酒に強かった。エレノアはさっきから結構飲んでいたので流石に酔いが回ってきている。
「神聖パルシア王国、では15歳からお酒が飲めるからね。ヒカリはどこ出身なんだい?」
「ニホン……って言ってもわからないよね。まぁ、遙か東にある島国だよ」
「へぇ!連邦の東、オスマニア、アフシャール、天竺、インダスチナ、大華の帝国よりさらに東かな!?そうなると、南新羅、いや、島国なら桜花幕府……そうか……そんな遠いところから」
「ん、なんか勘違いしてる気が……」
この世界の情勢を全く知らないからなんとも言えないが、取り敢えず桜花幕府とやらについて教えてもらった。曰く極東のちっぽけな島:桜花島で鎖国しているが、海軍だけは世界有数の大国なのでブルテーン連合王国、そして大華と呼ばれる地域の巨大帝国とのみ貿易をしているらしい。多分日本にあたる地域だろう。
その間にもエレノアと私はグビグビ飲み続けた。私はやっぱり強いっぽい。が、流石にあったかくなってきている。
「エレノアはどこ出身?」
ワインを傾けながら尋ねる。ちょっとキザっぽくて気に入ってる。
「あたしは、王都の出身だよ。ま、私は家出した身だけどね。うーん、だいぶ酔ってきたな。そろそろお開きにしようか。先に彼女たちを潰してしまったからね、運ぶよ」
「助かる。私は迷路を運ぶから、エレノアはロゼをお願い」
「了解、おぉ、軽いね」
「んぁぁ〜歩けるんよ〜」
「歩けてないし……ほら、いくよ……」
迷路をお姫様だっこし、ロゼはフラフラと付いてきた。部屋のベッドに迷路を寝かせると、エレノアがポンポンと頭を撫でてくる。
「うん、やっぱり妹みたいだ。おやすみ、きっといい夢が見られるよ」
「ん、ありがと。おやすみエレノア」
酔ってるからだろうか、なんだか自分が素直だ。エレノアは、なんだかお姉ちゃんみたいだった。優しかったお姉ちゃん。自分の中ではまだ、お姉ちゃんのあの事故はトラウマである。
「それじゃ、良い夜を。ふふふ」
なんか笑いながらエレノアはドアを閉めた。なんだろう、ただ酔ってるだけな気もするが……なんかニヤニヤしていた。あれはそう、「尊い!」とか言い出す時の顔だ。
「寝よ、眠い」
酔ってるので怠い。考えるのをやめてベッドにダイブする。が横で寝ていた2人に腕を掴まれてしまった。
「ふへへ、こーののん〜」
「逃さないわよ、このは」
ん?あれ?視界が、クラクラと……今時になって酔いが回ったか?なんかロゼと迷路が邪悪な笑みを浮かべている気が……。
「あ、あにょ……ふはりとも……?はれ?ろれつが……」
「夜はまだまだ長いんだぜ〜?」
「えぇ、そうよふふふ」
……………………………………何が、始まるんでしょうか?
あら〜
因みに、
オスマニア→トルコ
アフシャール→イラン
天竺→インド
インダスチナ→インドシナ
大華→中国
南新羅→朝鮮
桜花幕府→日本
です。




