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3章8話:銅月級vs銅月級

感想ください。

「あたしと、勝負してくれないか?」


 そう、エレノアは言った。


「勝負?」

「そう、勝負。銅月級とは何度かバトったけど、流石にこんな小さな銅月級は初めてなんだ。ヒカリの実力が知りたい」

「なんでそんな……」

「もし勝ったら、ヒカリのその迷宮攻略を、国憂騎士団として手伝ってあげてもいいさ」


(アホなのか?いや、でも正直銅月級の力は欲しい)


 国憂騎士団とまではいかずとも、エレノアの力を借りれば次の魔女の宝箱攻略の成功度が上がるだろう。


「エレノアが勝ったら?」

「ちょっとあたしのお願いを聞いて欲しいんだ。一つだけ」

「胡散臭……」

「でも、やる価値はあるだろう?」


 妙に自信満々だ。銅月級なわけだし、多分強いんだろう。木葉も少し興味が湧いてきた。

 木葉は根っからの魔王で、根っからの戦闘狂なのだ。なんてったって、日本刀を一度振るってみたかったなんて理由で瑪瑙を使いこなせているのだから。


「ふふ、いいよ。私も、私たち以外の銅月級がどんなものか少し知りたかったんだ」

「よし決まりだ。案内するよ、地下闘技場へ」


 わぁ、やばそうな響き。



…………


………………………


 地下闘技場への案内がてら、エレノアは烽について話してくれた。その成り立ちから、目的についても全て。

 迂闊すぎない?とは思う。でも彼女なりに木葉たちを敵じゃないと判断したのだろうし、当然木葉も王都政府に烽の情報を売るメリットもないので敵対する必要もない。


「始まりは53年前、北バルカーン戦争っていう戦争中に興った:国を憂う会と書いて"国憂会"が発足したことに起因してる。初代会長は"神の威光"とまで呼ばれた信心深き銀月級冒険者:コーネリア・フィレンツォ。そしてその相方だった亜人族の中でも上位種である狐人族(こじんぞく)の姫:ルーチェ様」


 ギルド会館の通路を通り、暗い地下へと続く階段を降りていく。迷宮の如く入り組んでいるみたいで、あちこちに扉が設置されていた。


「コーネリアさんは神聖王国が戦争ばかりしていることを嘆いていた。そしてそんな神聖王国の行く末を案じ、将来有望な若き冒険者たちを集めて王都で大規模なデモを行った」


 銀月級。

 53年前とはいえ、そんなにポンポンいていい階級じゃない筈である。となればやはり相当優秀な冒険者だったのだろう。


「そのデモ以降も、コーネリアさんは国家に対して様々な訴えをしていくようになった。デモも成功してるし、本当に国民のことを思って生活改善や税率の引き下げのための活動も行った。で、まぁ……結果としては、コーネリアさんは"やりすぎた"」

「……もしかして、異端審問官?」

「当たりだ。コーネリアさんも、ルーチェ様も異端審問官を憎んでた。亜人族のルーチェ様は特に同族を殺しまくる異端審問官なんて大嫌いだったろうし、コーネリアさんのお母さんが異端認定で殺されてたからね。そして、コーネリアさんも異端認定を受けて異端審問官に捕らえられた。筆頭異端審問官を2人くらい道連れにはしたらしいけど」

「ラッカ級を2人道連れとか化け物かよ……」

「コーネリアさんがいなくなって、さらに反発した冒険者も一斉に異端認定された。ルーチェ様はその時に神聖王国から逃れて北リタリーに辿り着き、そこで勢力の回復を画策して出来たのが(とぶひ)だ。ここまで逃げる道中の合図として、煙を焚いていたからこの名前らしいね」


(……日本で7世紀に白村江の戦いで負けた後、天智天皇が唐・新羅といった外敵から本土を守るために設置した狼煙をあげる設備が"(とぶひ)"だったはず。誰が名付けたのか気になるところだね)


「さ、ついたよ。ここが地下闘技場さ」


 エレノアが扉を開けると、中から熱気が押し寄せる。扉の奥にはバトルフィールドと思われる壇があり、地下一帯には防御術式が張り巡らされ、その奥には観客席まである。天井は遥か遠いが、ちゃんと上にも防御術式が張り巡らされている。

 鏡ばりのような防御術式だが、透明度が高いため奥の観客がよく見える。現に今も大勢の冒険者たちが揃っていた。


(よく見ればさっきギルド会館にいた人たちがちらほら見えるね)


「ぶっ殺せー!!エレノアぁ!格の違いを見せてやれぇ!!」

「顔はやめとけよー!せっかく可愛い顔してんだからー」

「なぁに、身体さえよけりゃ俺が買い取ってやってもいいぜー!!」

「私も"ピー!!"のための"ピー"が欲しかったのよ〜!!身体は残しといて〜!」


 凄い量のピー音が入った。これで18禁引っ掛かったらこの女のせいである。というか闘技場に酒瓶が散乱しまくってるなど非常に民度が低く、木葉は思わず顔をしかめた。


「死ぬほど不愉快だ。殺していい?」

「まあまぁ、悪気はな……あるかな……うん。でも殺すのだけは勘弁して欲しいな。あぁみえて国憂騎士団の勇敢な騎士たちだ」

「余計最悪だよ。結局ラクルゼーロとかにいた飲兵衛どもとなんも変わんないじゃん……肝臓を憂う会の臓憂騎士団にでも改名したら?」

「ははっ、手厳しいね。さ、あがってよ。あたしの力、みせてあげるよ」


 挑発的な笑みを浮かべるエレノア。それを見て木葉も獰猛な笑みを浮かべる。

 思えばダッタン人の踊りには良いようにやられまくったのだ。その憂さ晴らしがしたい。それに、国憂騎士団を良いように扱える権利はあまりに魅力的だと思う。


「怪我させたらごめんね」

「そっちこそ」


 壇上にあがる。エレノアは所定の位置に着くと、グローブをはめ、構えのポーズをとる。


(素手……?どゆこと?)


「いいの?なんも持たなくて?」

「あぁ、いいのさ。存分にかかってきたまえ」

「ふぅん」


 木葉も壇上に登ると、まずはスキル鬼姫で茨木童子を降して様子を見ることにする。瑪瑙を抜き、その刀身が会場の空気を切り裂いた。


「な、なんだあの剣……あんな形の見たことねぇぞ……」

「あのお面の女の子……マジでやばい香りがぷんぷんしてやがる……」

「うちのエレノア様なら負けねぇよ!たとえ、魔王が相手だったとしても負けねぇ!」

「にしてもあの禍々しい感じは、魔王って形容するのがあってっかもな!」

「あー、可愛い魔王だねぇ。違うとわかっててもさ」


(合ってるんだよなぁ……)


「黒いツノが生えたし……亜人族か?」

「お面の下を俺はみてねぇが、めっちゃ可愛いって噂だぜ?」

「さぁて、お手並拝見といこうかしらねぇ」


 観客席が思い思いの言葉を吐き、闘技場は熱気に包まれる。いつのまにかギルドのメンバーがもの凄い数下に降りてきたようだった。


「君のそれ……凄いね。"獣化"の一種なのかな?亜人族のようにはみえなかったけど」

「………………」

「ま、戦ってみればわかるか。まずはそっちからおいで」


 挑発するようにエレノアは手をクイクイと引いた。そんな挑発にわざわざ乗ってやる必要はないが、木葉は切っ先を水平にした構えに切り替えた。初撃で戦闘力を見極めてやるという意思表示だ。


「国憂騎士団長、銅月級エレノア」

「月光条約同盟、銅月級ヒカリ……いくよ、






_________《鬼火》」


 炎の柱が闘技場に立つ。圧倒的な火力で火の粉を散らしながら、その刀は……いや、木葉は一瞬でエレノアの元まで距離を詰めた。


(はやいッ!?)


「防いでね」


 ニタリと笑う木葉。そのまま水平に瑪瑙をエレノアに薙ごうとして、









 刃は通らなかった。代りに、


「な!?」

「通さないさ、勿論」


 グローブの手の甲で瑪瑙を防ぐ。しかも、防いだ箇所から火花が飛び散り始めた。


(このまま火力で押し切……まずい!!)


 炎がエレノアに叩きつけられる瞬間、危機を感じた木葉は咄嗟に防護スキル《障壁》を展開した。





「《爆砕(ばくさい)++》ッ!」





 瞬間、カッと辺りが光ったかと思うと、







 ドゴオオォオオオオオオオオオオオオ!!!






 盛大な爆発音が闘技場に響き渡った。




…………


……………………


「な、なんだ……どうなった!?」

「あの子がとんでもない火力でエレノアさんに切り掛かったんだよ……自殺行為だろ」

「なんてったってなぁ。エレノア様といえば、







あの爆破力だ」







「けほっ、けほっ……」

「良かった。爆砕(ばくさい)ごときで早く終わったら面白くないからね」


 エレノアが近づいてくる。対して木葉は障壁で抑えたものの、その爆風に吹き飛ばされて闘技場の壁まで飛ばされてしまった。全身が軋んで痛い、と腕をさする。なんとか瑪瑙を杖代わりに立ち上がることができた。


「……気づくのが遅かったら普通に死んでたよ」


(私の火力を利用して爆発させた?しかも向こうは爆発の影響を受けてない。爆発による風力、その飛沫物、火力の影響を受けないスキルと併発されてるのか?)


 エレノアは何も言わずに再び戦闘の構えをとる。だがその顔はどこか余裕そうだ、挑発的な態度は未だに崩れない。圧倒的自信、それに見合った圧倒的戦力。


(銅月級は伊達じゃないな)


 今度はエレノアが突っ込んでくる、そして腹を狙って拳を突いてきた。これを防……。


「がぁっ!!」

「ふふ」


 瑪瑙で防いだ瞬間、刀身が爆発し衝撃で後ろに吹き飛ぶ。どうやら威力の調整はお手の物らしい。


「あたしの手袋【爆弾魔(ボマー)への復讐】は摩擦熱だけで爆発を起こせる最上級術具さ。あたしを倒すには遠距離から消耗戦を仕掛けるか不意打ちしか無理だよ。さぁ、どうする?」


 体勢を立て直すまもなく突っ込んでくるエレノアから、一時的にでも逃げる必要がある。そこで木葉は空中に逃げの一手をうつことにした。


「移動魔法:《ダッタン人の踊り》」


 魔法発動によって、空中に木葉しか踏めない透明な足場が出来上がる。遥か上まで続く階段を駆け上っていく木葉。初めて使うが上手く使えた、と安心する木葉。それを見て流石にエレノアは驚愕し、歯噛みする。


「空を……歩いている!?そんな馬鹿な……現存する魔法で、そんなものは存在しない」


 無論観客席も同様だ。


「馬鹿な!空中歩行は術具でさえ難しい!亜人族でなければ空も飛べないというのに!」

「失われた古代魔法、だろうな。500年前の魔王戦を最後に文献が消失したはず……それがなぜ……」

「何者だ、あいつ。ただの少女じゃあるまい!」


「《爆雷(ばくらい)》」


 エレノアが手を前に出し、掌から丸く黒い玉が出現する。エレノアは、そのままそれらを一斉に木葉へと投擲していく。


 ドォオオン!!!


 ドゴオオオォオォン!!!


 次々と空中で爆発していく爆弾。さらに爆発直後に赤い雷撃が木葉を捕らえようと迫ってきた。


「《斬鬼+》!!」


 空中を歩行しながら投擲された爆弾を切り落としていく。そしてその間に、思いついていたことを実行するため飛んでくる爆弾を直視した。


「ハァッ!!」


 瑪瑙の峰で爆弾を打ち返す。するとエレノアの前でタイミングよく爆弾が爆発した。が……その破片は一つもエレノアに届かない。まるでエレノアを避けていくかのように破片物も、爆風も消し飛んでいく。


(やっぱり……自らの爆弾攻撃に付随したダメージを強制防御する特殊スキルってとこか。そうなると近距離で撃ち合うのは不利……遠距離からも爆弾で相殺される……なら!)


「遠距離の鬼火なら!!《鬼火》!」

「へぇ……《爆塊(ばっかい)》!!」


 最大火力が瑪瑙から吹き出し、エレノアに襲いかかる。レスピーガ地下迷宮でローマの祭りを粉砕したありえないほどの火力……それをエレノアは、


「大量の……爆弾で!?」

「火力相殺だ。威力は……へぇ、それでもヒカリの方が大きいね」

「く……残りはその術具で防いだのか。グローブの爆発力と合わせれば遠距離攻撃への防御にも転用可能とか……使い勝手いいなぁ」


 ぼやきながらもやることは一緒だ。要はエレノアの爆発力を上回るほどの威力で押し切って仕舞えばいい。油断したところで腕を使い物にならなくしてやれば爆発しない。手のグローブで防がせなければいい!


「《燕火》!!飛びまくれ」

「火の玉?こんなチャチなもので」

「《鬼火》、(じゃく)!!」


 消費魔力を抑えた鬼火で燕火の火の玉を援護する。すると燕の如く飛び去っていった火の玉が、鬼火の火力で増幅して横一列に広がり、大規模な炎の陣がエレノアに襲いかかる。エレノアは再び《爆塊》で大量の小型爆弾を出現させ、火力を相殺しにかかる。


(熱い熱い!!なんでこんなに爆弾撃てるのこいつ!?)


 木葉は熱さで顔をしかめた。息が苦しい。目がチリチリする。当然観客席側も影響を受ける。


「あちいいぃいいい!!おいゴラァ、下っ端ぁ!氷魔法だしまくって冷やせぇ!!」

「承知ぃ!ああぁああああちいいいいい!」

「うぇぇえ……しぬぅ」


 観客席は暑さで阿鼻叫喚だったので、迷路が仕方なく、


「《氷結》!」


 高レベルの《氷結》を発動させて周囲を0度以下に下げた。今度は寒い……。


「め、めーちゃん……寒いんよ……しぬんよ……」

「そう?まだ暑いくらいなのだけど」

「めーちゃんの体温頭おかしいんよ〜……」


 涼しげな表情で言う迷路を、信じられないものを見る表情を向けるロゼ。そして、今度は観客席で火を焚き始める冒険者。忙しいないことだ。

 そんな冒険者たちを横目に、木葉は爆発の隙を利用して空中を移動し続ける。広範囲の小型爆弾である《爆塊(ばっかい)》で鬼火を防ぎつつも《爆雷》で木葉を捕らえようとするエレノアだったが、赤き光は木葉には全く届かない。


「ちょこまかと……《爆雷》、網も食らえ!!」

「ば、爆弾の網!?なんてやばい技!!《剣舞》、防いで!」


 丸い爆弾が網の合間合間に挟まったまま木葉を捕らえようとする。それらを全て浮かび上がった銀色の木葉がストックしていた剣たちが貫いていった。爆発していく周囲を抜けて、ひたすらに空中の足場を走る。

 もはやフィールドは煙まみれでどこに誰がいるのか分からなくなっていた。エレノアは全く見えていないが、木葉にとっては《熱探知》のスキルでエレノアがどこにいるのかは筒抜けである。


「な……これは……?くっ……どこにもいない!?足音すら……なっ!?」







「上だよ」







 銀のツインテールと、真っ黒なマント、そして真っ黒な翼が揺れる。スキル鬼姫で、吸血鬼を降霊させた木葉の姿だった。


「くっ!!《爆塊》!!」

「まだそんな放てるとか、どんな集中力持ってんだよ……でも!!」


 広範囲の爆撃を木葉の黒い翼が回避していく。80度の角度で木葉は急速降下し、エレノアまで迫っていく。そして、



「はぁあああああ!!!」

「やばっ……くっ!!!穿て!!《爆弾魔殺し》!」


 グローブに斬りかかる木葉の瑪瑙に、凄まじいパワーが溜まっていく。


(多分、最初に私を吹き飛ばしたやつ《爆砕(ばくさい)》の上位互換スキル……なら!!!)


「落ちろおぉおおおおお!!!」

「負けない、幻影魔法:《ローマの祭り》!!」


 《爆弾魔殺し》が炸裂する瞬間、エレノアの眼前から木葉が消えた。そして闘技場内を、今まで見たことないクラスの大爆発が襲った。



 どごォォォォオオオぉぉぉぉぉォォォォオオオンッ!!!



「木葉!!!」 



 迷路が思わず声をあげる。闘技場内も防御術式が揺れ、冒険者たちは混乱状態だった。


「な、なにをしておるのじゃ……あの馬鹿!!」


 いつのまにか闘技場にまで来ていたルーチェが手すりに捕まりなが、、目を大きく開いて震え出す。ロゼは静かにその成り行きをただ見ていた。


「ろ、ろぜ……」

「大丈夫。こののんは負けないよ」

「そう、ね」


 にっこりと笑うロゼ。迷路も次第に落ち着いていった。ただ静かに闘技場を見守る。






 そして、エレノアはというと……。






「や、り、すぎた……」






 闘技場の地面が抉れ、防御術式にヒビが入りまくっている状態を見て、放心していた。

 最上級術具【爆弾魔への復讐】に最大魔力を込め、吸血鬼木葉を迎え撃ったはいいが、《爆砕》のさらに上をゆく《爆弾魔殺し》という大技:塵も残さない爆発力を、真っ向から木葉に浴びせてしまった。


(熱くなって……やりすぎた?あたしらしくない!!何してんだあんな小さな女の子に!?おい、嘘だろ!!)


 今までに放ったことないクラスの大爆撃を行ったため、周囲は爆風でよく見えない。後ろは防御術式なため、かろうじて足元と術式のひび割れが見えたくらいだった。


(相手がこの大勝負で大技を使って、相殺、アタシがギリギリ勝つくらいの計算で……あ、あぁ……)


「こんなつもりじゃ……ご、ごめ……」






















「終わってないよ」

「え……!?」


 煙が晴れた上空から、エレノアの目の前に木葉が降りてきた。そして、


「《血操解放》!」


 瑪瑙から振るわれた血が、エレノアの手元に落ちてくる。


「しまっ……」

「最後まで油断しちゃダメ」


 咄嗟に防ごうとするが木葉の方が早かった。木葉の血が刺のように突き出され、エレノアの手袋と腕の素肌とのギリギリのポイントに突き刺さる。しかも、その瞬間、エレノアの腕に術式展開が始まった。


「があああああああ!!!」

「チェックメイト……とはいかないか……」


 動きを封じられたエレノアに瑪瑙を突きつける木葉だったが……


「……………………ハァ……ハァ……伊達に銅月じゃないんでね」


 その周囲を《爆雷》で出現した爆弾が取り囲んでいた。


「これ、どっちが先にトドメさせると思う?」

「……あたし、と言いたいところだが、ちょっと自信ないな」

「ごめん、私も」


 ふふっと笑う木葉。お面越しでも伝わる木葉の笑う様子に、エレノアも思わず笑ってしまった。


「あははっ!やめだやめ。消耗戦なら自信あるけど、これはダメだ……あたしが負ける」

「引き分けだよ。引出しは結構あるけど、このポジションからエレノアより早く爆雷を撃破できない。となるとまたローマの祭りで自分の分身作って身代わりにするしかない。これでまた振り出しになっちゃう」

「あたしの《爆弾魔殺し》はその幻影魔法で逃げ切ったのか。完全に殺しちゃったと思ったよ……」

「はっ、死なないよ。私強いもん」

「……それ聞いて安心した。実はその爆雷、あたしのグローブから操作してる。よくわかんないけど……今、操れないんだ。回復魔法を使うのでワンクッションあるからどの道あたしの負けだ。ヒカリ、君は強いな」


 ハッタリだった?いや、そんなつもりじゃなさそうだ。


「いや爆雷を出したとこまではいいんだけど、今気づいた。発動できないや、手の感覚がない。至急手当てしたいから、戦闘継続は勘弁してくれないか?」

「ん、わかった。迷路!ちょっと来てもらっていいー?」








 それからめっちゃ無茶した木葉は迷路に、エレノアはルーチェにめっちゃ怒られた。


「馬鹿なの!?ねぇ、馬鹿なのかしら!?本当に死んだかと思ったわよ!」

「い、いたい、痛いほっぺつねらないで!ていうかとりあえず治療……」

「わかってるわよ……特殊スキル:《癒しの光》!」


 あれ、このスキル実は使うの初めてじゃない?とか思ってみる。実は迷路の回復魔法って結構優秀なのだ。


「お、おぉ……すごい。手の感覚が戻った」

「元々神経を避けて狙ったからね。多分私の血の中の成分がエレノアの術式発動を阻害したんだと思う。だから最後感覚がなくなった」


 流れ的には


 爆雷発動→血操解放で貫く→術式阻害で感覚停止。


 で、最後に指揮系統を失った爆雷だけ出現した、という感じだ。


(……迷路の血なら凍るし、私の血単体なら術式干渉か。ロゼの《ノイズキャンセル》と効果は似てるね)


 とかなんとか思案してたら、


「馬鹿者!!!」


 と、エレノアがルーチェに叱られていた。


「うぬが油断で負けたこともそうじゃが!うぬは勢い余ってこやつを殺そうとした!力の使い方を常に考えろとあれほど!」

「……う、すまない」

「すまないじゃないわーい!!あぁもう……本当にわかっておるのか?おい、そこのヒカリとやら……さっきああ言った手前本当に癪じゃが……うちのエレノアが迷惑かけた。すまぬ」


(……プライドが高い傲慢なやつだと思ってたが、部下のためなら謝れるんだ)


 て思ってたら側で執事ことハノーファーがウンウン頷いていた。保護者だ……。


「気にしてないよ。取り敢えず、上行かない?なんか客席がうるさいし」


 先ほどからずっとそうだが、客席の冒険者たちが木葉を指差してめっちゃ騒いでいた。


「エレノアさんを……破った……?」

「何か本当に魔族みたいな姿……」

「魔族じゃねぇのか?!」

「人間じゃねぇよあんな強さ……」





「……めんどくさ」


 上に上がってからが大変だと考えながら、取り敢えず木葉はエレノアの手を引っ張った。


「いこ?」

「あぁ、ありがとう。いい試合だった」

「うぅん、こっちこそ。どうぞよろしく、エレノア」

「なんか、戦友みたいな感じでいいね」


 エレノアが朗らかに笑う。木葉も少し微笑んだ。それをみてエレノアは顔を逸らす。


「?」

「いや……綺麗だなって思ってさ。君は紛れもなく人間さ。ほらほらお前たち!!この子は人間さ!!変に勘ぐるのはあたしが許さないぞー!!」


 客席に向かって叫ぶと、再び木葉に向き合った。どこかスッキリした顔をしている。


「ありがと……なんか」

「いやいや、こんな可愛い笑顔をする子が魔族なわけないさ。笑ってた方がいいよ?フードもお面も邪魔さ」

「ワケアリなんだよ、それが」

「そうか、残念だ」

「ふふ、口説くのが上手いね」


 木葉としては、ロゼ同様正面から本気でぶつかり合い、そして分かり合えた戦友のような感覚をエレノアに感じていた。エレノアも同様だろう。

 なんか仲良さそうな2人をみて、後ろの迷路とロゼはムーっ!という顔をしていてたのだが、木葉は気づかないままだった。

木葉の技

・《斬鬼(ざんき)+》→剣撃を飛ばして遠距離のものを切る攻撃魔法。《威力発動》と《回復阻害》のスキルを内包する。


・《燕火(えんか)》→燕くらいのサイズの火の玉を飛ばす魔法。弱小魔法に見えて火の粉を飛ばしながら進むためかなり良い目眩しとして使用可能。


・《剣舞(けんぶ)》→剣を生成し飛ばす魔法。ストックも可。


【鬼姫】(茨木童子)→全ステータスの上限解放。

・《鬼火》

→圧倒的攻撃力と火力。

【鬼姫】(吸血鬼)→ ある一定の条件を満たすと、自動回復のスキルを大幅に引き上げる。飛翔可能。

・《血相解放》

→使用者のダメージ分、血の量に反応してその攻撃力は増加する。血を媒介しとした魔術式を展開し、液体状の血液を様々な固形物へと変化させる。血液内には付与された術式は瑪瑙の玉鋼の成分と【斬鬼+++】のスキルが含まれており、切れ味は通常の瑪瑙の3倍となる。また、木葉の血を当てた部分の術式回路を一時的に阻害できる。



エレノアの技

・《爆砕(ばくさい)》→グローブ【爆弾魔への復讐】に触れた物を摩擦に応じて威力を変えて爆破できる。

・《爆雷(ばくらい)》→黒い球体を出現させ、赤い電撃を纏って対象に襲い掛かる。

・《爆塊(ばっかい)》→自身の防御として広範囲に小型爆弾を展開する術式。距離制限がある。

・《爆弾魔殺し》→グローブに触れたものを摩擦に応じてチリも残らぬほど爆破する。爆砕の上位互換。

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[良い点] てぇてぇ [一言] 新しいヒロインかな?
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