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3章7話:エレノアとルーチェ

感想などください

 水都:ヴェニス。神聖パルシア王国の属国、北リタリー公国の首都であり、街の大部分を神聖パルシアの商工会やギルドが権力掌握しているためにリヒテン同様の自由貿易都市として一定の独立を保っている都である。

 リタリー半島の大半の土地は神聖王国が統治しており、ヴェニスもまた南パルシア軍管区ミラン第62駐屯兵団によって睨まれている。それもそのはず、ヴェニスは王都政府に反抗的な冒険者集団:(とぶひ)の本拠地となっている。

 ヴェニスの(とぶひ)、イスパニラの防人(さきもり)と称されるほどに神聖王国を悩ませる冒険者集団の本拠地と化したヴェニスだったが、自由貿易港ということで神聖王国きっての裕福な港湾都市である。


「ほ、ひゅふふほほはんはよ」

「蟹食べながら話さないでもらえるかしら……」


 港湾都市ゆえに魚介が美味い!ので木葉は早速市場で蟹を頬張っていた。蟹をそのまま贅沢に頂けるなんて素晴らしすぎる、と、リヒテンのクエスト依頼で稼いだ金をジャブジャブ蟹に費やしていた。


「幸せだ……」

「昔の木葉みたいな顔するわね」

「蟹だもん、しかたない」

「まあ、仕方ないわよね蟹だもの」

「めーちゃんの理解力がすごいんよ〜」


 一応旧フルガウド領に近いということで、ロゼは【認識齟齬のローブ】を使用していた。ここでフルガウド家の娘とバレると、最悪そのまま反政府軍の頭に据えかねられない。現状でそれはほぼ自殺行為であることはロゼも重々承知しているため、今回はずっとローブを被る羽目になるだろう。

 そうでなくても他の五華氏族と違い、フルガウド家の人気は高い。軍神として名高い先代フルガウド当主は各地の家臣団に慕われており、神聖王国にとってもそれら全てを罰すると軍隊が消滅してしまうので16年前の内乱でフルガウド所縁の高官たちは処罰されなかった。結果フルガウド家及び竜人族は神聖王国に対して不満を持つ国民たちにとってある種"来たる日に来る救世主"らしい。と、旧フルガウド領のミランの酒場で小耳に挟んだ。ますますロゼは神聖王国にとって一番排除したい人間だということがわかる。


「歩く爆弾よね……よく2年間担ぎ出されずに生き延びてきたわよ」

「ロゼが頭良くなかったらソッコーで担ぎ出されてソッコーで殺されてたよね……。良かったよその前に接触できて」

「ミランで聞いた話を気にしてるん〜?あんなの酔っ払いの戯言なんよ〜」


 と朗らかに笑うロゼ。全然気にしてなさそうである。

 さて、市場に来たのはこれがメインだが、もう一つ買わなければならないものがある。それは、


「髪の染色だよね。ちょっと普段から銀髪は目立つ……」


 そう、実は木葉もフード(普通のだが)をかぶっている。流石に赤眼はともかく銀髪はなにかと目立つので、せめて短期間でも茶髪に戻したいのである。


「とはいえ、高度な染色魔法を扱える人なんているのかしら」


 市販の染色液では何度やっても髪が染まらない。魔王の髪はなんか魔力でも纏っているんだろうか。


「それも探しつつ移動しましょう。マスカーニ地底湖への行き道もそうだけど、戦力が欲しいわ」

「あー、やっぱこの3人じゃ限界あるかな……?」

「魔女がどんな性質を持ってるかによるわよね。まずはこの街のギルド会館に行きましょう。面倒ごとは避けたいから、なるべく(とぶひ)のメンバーには関わらないように」


 まぁ安定の初手ギルド会館。道中の移動は木葉のリクエストでちょっと贅沢をすることにしました。要するに、ゴンドラです。


「おぉ、これが千葉ディスティニアランドの宣伝でよく見るゴンドラ……の本物バージョン」

「でぃ、でぃす、なんて?」

「私の元の国にあるテーマパークだよ。行ったことないけど」

「嬢ちゃんたち、ギルド会館まででいいかい?」


 船乗りの兄ちゃんがゴンドラ乗り場に来た木葉たちを船に乗せて船を漕ぎ始める。かっこええ。


「嬢ちゃんたち、どっから来たんだ?」

「ラクルゼーロの方から。こう見えて冒険者なんだよ」

「へぇ、それはそれは。でもよぉ、この街は危険だぜ?魔導国が滅んで、魔族国家が神聖王国に宣戦布告しようとしてる。北リタリーはその最前線になっちまう。それだけじゃなく(とぶひ)を滅ぼそうとヴェニスに伊邪那岐機関を派遣するなんて噂もあるんだ」


(伊邪那岐機関……?あぁ、ガタリ君が言ってたっけ。バジリス王宮に異端審問官の精鋭による軍隊が設置されたって)


「ま、せいぜい烽に間違われないように頑張るわ。貴方は王都政府を支持しているの?」

「まっさか。俺はな、おい、ここだけの話だぞ?俺は"竜使い"フルガウド家の治めてた街で商売してたんだよ。だから根っからのフルガウド家信者さ。神聖王国全体じゃまだフルガウド家は熱狂的な支持を持ってる。魔王が復活したっていうのに、神聖王国は戦争ばっかやってらぁ。それを救えるのは、フルガウドと竜人族しかねぇ!ってヴェニスの連中は思ってるよ」

「へぇ〜。すごい人だったんだねぇ〜フルガウド家の前当主様って〜」


 ロゼは父親が亡くなってから生まれているから、実際には父親を知らない。知っているのは"軍神"と呼ばれており、家臣団に慕われていたことだけ。多分、色々知りたいんだろうなと木葉は察した。と同時に、木葉たちの情報不足も察した。これは、ギルド会館で色々話を聞かなくてはならないかもしれない。

 よく考えたら木葉は世界情勢をまるで知らない。魔王が復活したのに、今まで行った街はわりかし平和だった。魔王復活なんて実は誰も気にしてないんじゃね?と思うレベルである。


「まぁなぁ。ここだけの話、五華氏族は兎も角フルガウド家を嫌ってる奴なんて今の政府と熱狂的なフォルトナ信者だけだぜ?マジで色んな街を戦災から救った英雄様なんだからな」

「へ〜英雄様、か〜……」

「嬢ちゃんはまだ生まれてねぇだろうから実感湧かねえだろうけどなぁ。ははは。そういや当主様の娘:ロゼ・フルガウド様がリヒテンで見つかったってな。ちょうど嬢ちゃんくらいの歳だぜ?ったく可哀想だよなぁ……」


 船乗りの兄ちゃんはペラペラと喋りまくる。ロゼはそれを神妙な顔で聞いている。というかこんなに反政府的なこと喋りまくって大丈夫か?とは思うが、まぁこれがヴェニスの気風なんだろう。


「カリヌス、ノルマン、ストロボルグ、ハザールド、レゼン、ハーガ、カームビル、ホールニスバーグ、フェナン……ここ数年で王都政府によってぶっ潰された街だ。もうこの16年間怯えっぱなしなんだよ、みんな。ただでさえ魔王復活で魔族が活発になってるのによぉ。だから、英雄の誕生を待ってんのさっと……ほら、着いたぞ嬢ちゃんたち」

「うん、ありがとうなんよ。絶対……僕がなんとかするから」

「ん?なんか言ったか、嬢ちゃん?」

「うぅん。これ代金です〜」


 ロゼが代金を払って船から降りると木葉たちも続く。目の前には巨大なギルド会館が建っていた。


「にしても、本当に街と水路が融合してるのね。お堀にもなんかいるし……」

「あ、それ気づいたんよ〜。多分無害のお魚なんだろうけど……結構大型だよねぇ〜」


 中世ヨーロッパの街並みがそのまま保存されたような景観、そして幾重にも張り巡らされた水路。この街を攻撃するには確実に海軍が必要だと思う。要するに港の出口を押さえて仕舞えばいいのだから。ん?これフラグか?ああ?


「とりあえず、銅月級なのを利用しまくって情報を聞き出そう。あと地図も欲しいし」



………


………………


「おや?見ない顔だ。ここは冒険者ギルドのギルド会館だよ?」


 入って早々女性に話しかけられる。中々に美人だったので、木葉は思わず立ち止まりそうになったが、めんどいから無視しようと決めた。


「おいおいおい、無視しなくても良いじゃないか。ていうかフード、とったら?」


 目の前の女性、恐らく20代の半ばくらいだろうか?くすんだ金色の髪を短く切りそろえ、パッツンにしているボーイッシュな女性。なんか自称サバサバしてそう……。ホットパンツと薄着の服を着ているので多分見たまんまサバサバなのか、まぁ知らんが。

 しかしこの女性、何やら大物なのか知らないがギルド会館の人々がこっちを注目していた。ていうかまあいつものように酒場が併設されててここは何の施設だとツッコミたくなる。そんな感情を抑えて木葉はいつものように魔王名"月の光"から取った偽名を使用する。


「……冒険者ヒカリ。で、何の用?」

「おっと冒険者か、ごめんごめん!いやぁ、ここのギルド会館の冒険者は大体顔見知りだからさ。外からの流れものも、入城審査で大体わかっちゃうからね」

「あー」


 実は木葉たち、ヴェニスに入る際に奥羽で直接港に着水したため、入城審査はぶっ飛ばしたのである。つまり違法侵入である……。そら不審に思われ……いやまて何でこいつがそれを知ってる?と木葉は一瞬で警戒態勢に入った。


「いや、事情は聞かないよ?ここはそういう集団さ。君も知ってるだろう?ヴェニスが(とぶひ)の本拠地ってことを」

「……関係ない。私は知りたいことがあってここに来た。そこを退いてくれるかな」


 木葉を面白そうに眺める女性。そんな女性の女性の後ろから、1人の鎧を着た大男が近づいてくる。何やら少し怒っているようだった。


「おいてめぇ、大人が話しかけてんだからそれに黙って従うのがここでの餓鬼のルール……がぁああ!?」

「さわるな下郎」


 木葉が大男を睨む。すると大男は硬直したように立ち止まった。木葉はさらに魔王付随の非表示スキル:威圧感を発動させ、周りの空気を一気に重くさせる。15歳の少女が出せる筈のないほどの圧倒的な威圧に周囲の冒険者たちや目の前の大男が目を見開いて動揺した。


「ここのギルド管理者、誰?ヴェニスは確か一つのギルドが会館を占拠してるって聞いたけど」


 威圧感を解いて場は一気に軽くなったので、硬直していた冒険者たちがその場に座り込んだり、震えている。魔王の付随非表示スキルは要するに木葉が魔王として元から持ってる能力であり、タグのスキルには反映されないらしい。

 しかしそれでもなお、目の前の女性は怯まずに木葉を眺めていた。長身だからなんか見下されてる感がして木葉は少し腹が立ってきたが特に何も言わないことにした。


「ふぅん。そうだな、あたしが悪かった!あたしはエレノア。このギルド会館を管理するヴェニスのギルド:国憂騎士団(こくゆうきしだん)の団長、階級は銅月級だよ」


 自信満々のイケメン顔で言ってくるエレノア。あまりのピカピカオーラに、受付嬢たちがきゃーきゃー言い始めた。木葉はジト目になりながらそちらを見る。エレノアはよくわからないが受付嬢たちに投げキッスするなどのファンサをしていた。


(団長だけど……ギルド管理者ではない、か。そもそも1つのギルドが全ての商工会を管理してる体制がよくわからない。ほぼこいつらがヴェニスを実効支配してると言っても過言じゃないじゃん。しかも、銅月級か)


 銅月級は国内に木葉と迷路を合わせて30人しかいないはず……と、警戒心を露わにしつつも木葉は改めて自己紹介をする。


「冒険者ヒカリ、チーム名は月光条約同盟……銅月級」


 木葉の自己紹介を聞いて、ギルド会館内が騒がしくなる。エレノアもこれには流石に驚いたらしく、「えっ?」と思わず声が漏れ出るくらいには動揺していた。


「お、おい……あんな子が銅月ってまじかよ……」

「つかあの青目の女の子も銅月やん……後ろのフードの子ですら翠月って……」

「王都の連盟本部やロンディニオンの連盟本部は頭おかしいのか……?」

「お姉さまとお呼びしたい……」

「お顔を見たい……もうちょい下、もうちょい下ぁ!」


 木葉はゴミを見る目をした。


「……ナニコレ」

「あはは、すまない。君は面白いね。まさか、こんな時に銅月が……それもこんな子供が来るとは思わなかったからさあ」

「こんな時?まぁいいや。ギルド管理者にお目通りしたいから通してくれない?」

「条件がある。君たちの目的が知りたい、流石に私たちに危害を加えるような人にはマスターは会わせられない」


 エレノアはそう言って腕を組む。長身の金髪イケメン美人が腕を組むとなんというかイケメンオーラが凄すぎてその辺の女の子ならクラッときてしまいそうだなぁとか思ってみる。


「マスカーニ地底湖、そこにあるって言われてる迷宮を攻略したい。そのための戦力も正直欲しい。その2つが目的。これでいい?」

「マスカーニ地底湖……あんなとこに迷宮なんかあったかな?いや地図はあるんだけど、本当にただの湖だよ?」

「え、まじ……?」

「大真面目だよ。うーんあったかなぁ……いや、取り敢えずギルマスに話きこっか。奥へどうぞ」

「は?いいの?」

「警戒はしてるが、君たちとお近づきになりたいんだよ。ようこそヴェニスへ」


 なんかあんまりにもすんなりしていて、ちょっと怖い。絶対なんか企んでるんだろうが、ヴェニスの状況どころか国内情勢も世界情勢を知らない木葉としては付いてった方が得策だと判断した。


「ところで、国憂騎士団は仮の姿……このギルドのこと君たちは知らないよね?」


 広いギルド会館を歩き、階段を登って四階の部屋まで進む途中エレノアがなんか不吉なことを言い始めた。そしてその瞬間、木葉は理解する。

 この街は烽と呼ばれる冒険者の拠点となっている。反政府組織だから隠れて暮らしているとかなんとか思っていたのだが、もしかして……。





(とぶひ)。それが国憂騎士団の正式名称さ。ようこそ、反王都政府軍の最前線へ」





(あー…………これ…………やったわ)


 大はずれくじだ。王都政府に反抗的な冒険者達、と聞いていたがまさか巨大都市を支配するギルドがそのまま(とぶひ)だとは思わなかった。そしてこれは多分、


(反乱サイドへのお誘い……かな)


 これでますます素性がバレる訳にはいかなくなった。



…………


…………………


「大儀。そやつらが?」

「えぇ。お連れいたしました、ルーチェ様」


 ギルド会館の4階、最奥の部屋はギルド管理者の部屋となっていた。そこには……幼女がいた。そばにはメイドと執事。執事に至っては帯剣している。


「我はルーチェ。我を知るものは我のことを"東の聖女"と呼ぶ。うぬらが、銅月の冒険者か?」


 深緑色の髪を果てしなく伸ばした少女は椅子に足を組んで座っていた。そして少女の頭からは、狐のような耳が生えていた。


(今度は狐娘か……)


 リヒテンでは兎の亜人と戦い、味方には竜の亜人がいる。で、狐耳幼女との邂逅……つくづく亜人族というのはこの世の中にいっぱいいるのだと再確認した。


「それで、うぬは何者じゃ?」


 狐耳なのに深緑色の髪をした少女は狐目っぽい鋭い眼光で木葉を睨む。木葉はあまり正面から顔を見られたくなかったが、このままではラチが開かないのでフードを取ることにした。



「なっ!?」

「お、おいおい……」



 パーカーのフードを取るとそこからは麗しき銀色の髪を持つ美少女が姿を表す。この世の者とは思えないような異様な雰囲気を出し、その赤い瞳には思わず吸い込まれそうになる魅惑の瞳。圧倒的な孤高、圧倒的な強者。15の少女から出るはずもない威圧感。


「これで満足?」


 ルーチェとエレノアはあまりに神秘的な存在に口をパクパクとさせた。木葉から見たらルーチェの方が珍しいのだが。


「この2人は私の……まぁ付き人だとでも思ってよ。それで、やっと話せるのかな?」

「無礼な態度じゃ。うぬは、王か何かを気取っておるのか?」


 木葉の傲岸な態度にルーチェは思わず眉を潜ませる。そして持っていた棒を木葉に向けた。


「跪け」


 木葉の体がドっと重くなる。


(重力系統の攻撃魔法?!でもこの程度なら……魔王化する必要はない)


「《障壁》」


 詠唱し、魔法攻撃を撃破する。途端に身体が軽くなった。


「我の加重術式を破った!?」

「ねぇ、やめてよ。そっちも人格者なら、それらしい対応をして欲しいな。じゃないと普通に斬る羽目になるんだ」


 威圧感でルーチェに圧力をかける。だがエレノア同様、ルーチェもそれを耐えて見せた。深緑髪の狐幼女は木葉に警戒心を露わにしつつ、棒をしまった。


「よろしい。うぬ、烽に入らぬか?」

「……は?」

「うぬの力は強い。烽に是非とも欲しい戦力じゃ。悪いようにはせんよ。我と共に来い」


 相変わらず上から目線だった。本来ならその辺の連中はここでルーチェに跪き、恐れ慄き入る以外の選択肢を持たない。しかし木葉は違う。明確な意思とそれに伴う力がある。


「お断りだ。入るメリットがない、王都政府はゴミ屑だと思うけど……私が介入する必要ないし」

「な、なんじゃと!?」


(何驚いてんだこの狐)


 どうやら木葉が断ると思ってなかったらしい。いやいやそんな馬鹿な。断るよ、当たり前じゃんと心の中で言う。


「うぬは、王都政府がどれだけ非道なことをしてるかわかるか?どれだけ亜人を迫害し、どれだけ人間を拉致し、戦争で人々を苦しめ、どれだけ無実の人間が殺されてきたか、罪に問われてきたか知らんのか!?」


 ルーチェが義憤に駆られて椅子から立ち上がる。言ってることは正しい。ルーチェはきっと、今まで誰かに断られたことは少ないのだろう。そしてきっと、最後には圧力で屈服させてきたから実質的に成功率は100%だ。性格が悪いとかではなく、今までがそういう風になってきたからそれが当たり前だったのだ。

 でもそれは……押しつけだ。


「知らないわけじゃないけど、だからお前に加担して勝率が変わるとでも?悪いけど全く信用できない」

「うぬらは……何のために烽に接触してきたのじゃ。うぬらは我と共に来るべき戦力じゃ!!」


 それに関しては木葉が知らなかったのがアレだが……だとしても、


「私とお前じゃ多分合わない。君主が2人に増えるだけだよ、諦めて」


 この国の反政府組織の最前線が見れてよかったとは思う。こんな高慢な人間がトップなら木葉のようになるか、暗君となるかの二択だ。この分じゃこいつらの未来は暗い。


「煩い煩い煩い!!!出ていくがよい!!我の前に姿を見せるな!!!」


 ルーチェは怒り、木葉たちに部屋から出ていくように告げた。エレノアと執事が出てきて、木葉たちに外に出るように促す。


「はぁ……バイバイ、色んな意味で」


 木葉はそのままエレノアと室外に出ていった。



………


………………


「なんだろ、似たような系統のダッタン人の踊りが割と理知的だったから、ちょっと意外だったよ」

「ああ、そういえばあいつもそんな感じだったわね」


 まず思い出したのはあの羊狂いの幼女だった。若干キャラ被っててなんというか頂けない話である。


 部屋から出て、すぐエレノアは平謝りしてきた。


「ごめん!ほんっとに、ごめん!ギルマス今ちょっとイライラしてて、それでああなっちゃったんだと思う!」

「いや、まぁいい。貴方も大変だね」

「ああ見えて本来はいいお方なんだ。ヴェニスの統治はあの方がいないと成り立たないし、ヴェニスの民はルーチェ様をとてもよく慕っている」

「うわまじか……」

「お詫びと言ってはなんだけど、ギルド会館の図書室に行こう。多分マスカーニ湖の詳細な地図とかはあるはずだよ」


 なんかやけに優しくしてくれる。最初からそんな感じしてたけど。


「あたしのことはエレノアって呼んでくれ。ギルマスの非礼を改めて詫びるよ。ヒカリ、すまなかった」


 エレノアが謝罪したのを見て、執事も頭を下げる。


「主人の非礼を詫びます。私のことは、ハノーファーとお呼びください」


 随分若めの執事だ。あとなんか美青年だ。黒髪黒目と、どちらかと言えば日本人っぽいが顔立ちが異世界人だと思う。


「取り敢えず……聞きたいことも結構あるから図書室いこっか」









 図書室は恐らくギルドの秘密文書とかもあるので、エレノアが率先して本を取ってきてくれた。高身長なので高いところに手が届いて便利だと思う。羨ましいと素直に木葉は思った。


「あった。マスカーニ湖。正式名称はマスカーニ地底湖。あんまり人が行かないんだね」

「大陸1深い湖だし、この近隣は強い魔獣が潜んでたりするから誰も行かないんだよなあ。ほんと、こんなとこに何しにいくんだい?」


 エレノアの言う通り、迷宮があるなんてどこにも書いていない。だが、ダッタン人の踊りが嘘を吐くとも思えなかった。


「詳細な地図はあるけど、やっぱりどっかに迷宮があるわけでもなさそうだし……でも近くに魔獣いるんだっけ?魔女の宝箱である証拠になるんだよねそれ」

「取り敢えず行ってみる?一応街から出てすぐ帰って来れそうな位置にあるし」

「いやでも一回出たら不法入城バレるんだよなぁ……」


 まあ対した罪にはならないだろうが、後々厄介な気がする。


「ふむ、それならあたしがなんとかしてあげるよ!」

「え、いや、いいの?」

「ああ。その代わり……」

「ん?」










「あたしと勝負してくれないか?」



 あぁ、やっぱりめんどくさい人だった……と木葉はジト目でエレノアを見つめた。

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― 新着の感想 ―
エレノアは仲間かパーティーの一員になる予感
[一言] 新キャラってなんかいいよね(何言ってんだ自分)
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