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3章4話:竜人の里

感想ください!

 竜人の里。1000年前、パルシア王の5人の騎士の1人であるコナタ・フルガウドが東パルシア、リヒテンを制圧した際に作られた竜と人間の友好の証としての里。数多の竜を操り、当時大陸を支配していた魔族たちを尽く撃破したコナタは、この地を治めた龍神:ラグナロクと契約を交わした。

 ラグナロクはコナタと契約し、2人は交わった。何を契約したかは定かではないが、結果として1000年間フルガウド家は繁栄し神聖王国は竜によって守られる軍事大国と化した。人々は竜の血を受け継ぎ、そして……竜の姫が生まれた。




 桃色の髪をした天才児を見て竜たちは確信した。




 コナタ・フルガウドの再来だと。





……………


………………………


「村の中に騎士団詰所があるけれど、多分入り口だけだね〜。懐かしいんよ〜」


 感傷に浸っているはずなのだが、どうも緊張感がない。これが伝説の英雄の子孫……らしい。


「さて、どうしようか。何かないかな」

「ううんこののん。でもね、僕こののんたちがいなかったら、そのままここでの過去を振り返らないままだったと思うの。だからそれだけでも凄い価値があるし、前進できたんよ」


 ロゼが言った。何かを決意したように。


「やっぱり僕は、神聖王国と戦うよ。レイラ姫の話を聞いて改めて決心した。あんな理不尽なことを許しちゃいけないんよ。この国の王家の血を継ぐものとして、僕には成し遂げなきゃいけないことがある」

「………うん」

「だからね、こののん。一つお願いがあるんだ。ううん。お願いしたいことがあります、3代目魔王:月の光様」

「!?」


 ロゼの雰囲気が変わった。ずっと、こうしようと思っていたのだと思う。いつかは答えを出さなくてはならない筈の問いに、ロゼは明確に答えを出したがっていた。


「来て欲しいところがあるの」









 竜人の里には見たことあるものがたくさんあった。朱塗りの鳥居だ。至る所に朱塗りの鳥居が設置されており、緑生茂る森によく映えた。人が住まなくなったことから、まさに聖域と呼ぶには相応しい景観となっている。幾千もの鳥居が立ち並ぶその先に進むと、巨大な滝が見えた。


「鳥居……やっぱりコナタ・フルガウドは」

「知ってるの?これ」


 迷路がツンツンと鳥居に触れる。遠目からだったが、入り口にも巨大な鳥居が設置されていた。それによく見ていなかったが、ロゼが解いていた結界は、なんだかしめ縄の形に見えた。恐らくそれらがロゼが前に言っていた大結界の一部だったのだろう。


「私の世界の建築物だよ。多分だけど、コナタと私は……同郷だと思う」


 コナタは恐らく日本人だ。それはもう疑いようのない事実だと思う。





「フルガウドの血を示さん。恐れ多くも我の血肉を竜の神に奉らん」





 鳥居が途切れた滝の前の祠、そこでロゼが立ち止まり、小指にナイフで切り傷をいれた。血がポタポタと滴り落ちる。


「いたっ」

「ちょ、ロゼ……見して」

「い、いや……」

「ああもう!別に一貫してキャラ作んなくていいから、ほら」


 狼狽るロゼの手を掴んで、小指を口に運ぶ。


「ちょ、ちょぉおおおぉ!?こののん!?はううあっ」

「あー、もう台無しよ……」

「変にカッコつけて放置するよりさっさと手当てした方がマシだよ。ほら、絆創膏はるよ」


 木葉自作の絆創膏を貼る。あ、回復魔法で良かったやん。


「ごめん、迷路。回復魔法お願い」

「はぁ。回復魔法:《冬の唄》」


 ロゼの指の傷がたちまち塞がる。なんか悔しいのでなんもないけどそこに絆創膏を貼っといた。


「う……ごめんなんよ……」

「はぁ……似合わないよロゼ。凛々しいロゼ可愛かったけどさ」

「うーん、じゃあ普通でいくんよ〜」


 ロゼが血を垂らした地面が動き、地下へ続く階段が現れる。凄いギミックだなぁ。ロゼが率先して降りていくので、2人も後に続く。


「ここは元々火雷槌(ほのいかづち)を保管していた場所なんよ〜。竜人の姫、竜神の巫女、フルガウドの後継者……それに該当するものが入れるところ。2年前の村長さんは僕の叔父だったから、ここに入って僕に火雷槌を託してくれた」


 どこまで降ったかわからないが、坑道のようになっている地下にも鳥居が設置されていた。暫く歩いていくと、開けた場所が見えて来る。そこには、





「祭壇……?」




 神社等で見るような錦の幟に御簾、畳の部屋……金色の装飾……周囲には無数の蝋燭の灯り、部屋の中には禍々しいお札の数々と鈴。そして中央には満月のような鏡が置かれていた。


「これ……は」

「こののんは見たことがなかったかな?満月教会の信仰対象は満月様。フォルトナ派の場合はフォルトナ様。神聖王国はもうフォルトナ様を信仰する人の方が多いから、フォルトナ像を拝むけれど、古くからの歴史ある家々は伝統を重じて満月様の方を拝むんよ。そして、その信仰対象が鏡」

「鏡を、満月様に見立てているのか」


 よく見るとここは外だった。上には草木が生い茂り、風の音がする。恐らく里からも隔絶された空間。ある種神域のようなものなのだろう。

 部屋の四隅には大きな柱が建てられており、そこには無数の札が貼り付けられていた。


御柱(おんばしら)っていうんよ。コナタ・フルガウドを竜人の里から出さないための最強の結界」

「コナタを?結界は外敵の侵入を防ぐためのものじゃ……?」

「それが、龍神ラグナロクとの契約なんよ」


 御柱に、鳥居、しめ縄、そして神鏡……確定だ。


「今なら、僕も同調できる気がする……」

「……?」

「こののん、僕が暴走しないように見てて。僕が、試練を乗り越えられるように」

「……よくわからないけれど、見てる。ロゼが何かを成し遂げようと思ったなら、それを応援するよ」

「ありがとうなんよ」


 ロゼは、祭壇に向かって手を合わせた。その瞬間……ロゼに何かが降りてきたように見えた。一瞬だったけれど、確実に何かが入っていった。


「ぁ、ぁああぁ、ぁあああああああああああああああああああ」


 頭を抑えるロゼ。そして、変化が訪れる。


「ロゼ……?」


 ロゼの桃色の瞳が、まるで竜の目のように鋭く変化する。尾骶骨らへんからは大きな尻尾が生えてきた。鋼鉄のような鱗に覆われた巨大な尻尾。さらに、桃色の翼がロゼの服を食い破って出現する。


「い、あぁ、あぁああぁ……いああああああああああああああああああああああ!!!」

「ロゼ!!!」


 木葉は思わず叫んだ。すると、ロゼの咆哮が少し止んだ。相変わらず苦しそうにして、段々と変化しているがだいぶ落ち着いている。


「い、がぃ……いがあぁ、あぁいたい……あああああううくああああああああああ」


 ロゼの右腕が大きく変化していく。華奢な真っ白の腕はまるで桜が咲いたかのように広がり、桜色の透明な爪が象られていく。ロゼの顔を見ると、竜の牙のような尖った歯が見えていた。


「これは……なに……?」

「恐らく、竜化ね。竜人族は竜の力を使える一族、その中でも半竜は竜の一部の特徴を出現させることができるからさらに強力な人間になる。ある意味では亜人だものね。



 でもロゼはその上を行こうとしている」

「う、え?」


 迷路は少し苦々しい表情のまま続けた。


「半竜の覚醒は15歳以上。覚醒時は竜の力を一つ授かることができる。けれど、ロゼの血には竜だけじゃなく『龍神』がいる。『竜』は翼竜等のその辺の獣もいるけれど、龍は神のドラゴンよ?それも、そのドラゴンの中で最も位の高いラグナロクの血を持ってる。つまり」

「竜人族が引き出せる竜の力の中で、もっとも強い力を持ってる……ってこと?」

「それを引き出した結果、ロゼの父親は軍神と呼ばれるまでの強さを得た。でもロゼは多分父親より強い……さっきまでの時点で悪魔契約の恩恵まで受けてたのよ?さらにそこに竜の契約まで行ったら、モノホンの化物になるわ」

「そ、それじゃ……ロゼ!!ロゼ!!」


(暴走したら私ですら止められるかどうかわからない!ロゼが……ロゼが龍神に支配されてしまう!)


「そんな!ロゼぇえぇええええーー!!!」








   






「終わったんよ〜!!進化成功なんよ〜!!」




 ……………………………………………………は?




 いや、一応解説しとくと、木葉はロゼの竜との同調をなんとか緩和しようとロゼに近づいたのだ。なのに何故か次の瞬間には変化が収まった。で……これだ。


「ふおぉおお!!尻尾も爪も翼も生えただけじゃなくて、目と鼻と口まで進化したんよ〜!!」

「あ、あの……ロゼ?」

「こののん!見て見て〜、僕めっちゃ覚醒したんよ〜!!ほら!!」


 《龍神の魔眼》《竜化》《操竜》《魔力上限解放》を獲得しました。

 シリアスになりそうな展開を全てクラッシュしていったロゼのステータスプレートには次々と覚醒の結果が記載されていく。


「……それ、目立つわね」

「そうなんよ〜!」


 バサバサっと羽を動かして喜ぶロゼ。あ、なんか浮いてる。


「あ、でもしまうことも出来るんよ。ほら」


 ロゼが指を鳴らすと、ロゼに出ていた竜の特徴が全て消えた。元どおりのロゼに戻る。うん……なんていうか……。


「こののん〜!僕強くなった、あべしっ!」

「紛らわし!!心配したじゃん!!」


 ロゼの頭に強いデコピンを入れる。勢いよくロゼは後ろに飛んで行った。


「ひ〜ん、痛いんよ〜」

「うんまぁそうか……パワーアップイベントが全部シリアスとは限らないのか……?で、これどういう状況?」

「竜人族は15歳になると一体の竜と契約&同調してその力を獲れるって儀式があるから、どうせなら強い竜にしようと思って祭壇で龍神:ラグナロクと契約しようとしたんよ。


 結果はこの通り〜!ラグナロクかどうかはわかんないけど、なんか強い竜と契約できたんよ〜」

「それでいいのか……」


 パワーアップイベントがこんなにアッサリと終わってしまった。なんかそれなりに葛藤とか色々あるもんだと、というか葛藤してきた木葉にとっては凄く複雑な気持ちだった。


「半竜だったから、外見の竜化も起こったけど意外と隠せるから良いとこ取りなんよ〜」

「竜としての血も濃かったからそうなったのか。にしても本当に半竜だったんだね……全く実感わかなかったよ」

「あ、まってこののん。なんか頭の中から語りかけてきてる。こ、こいつ……直接脳内に……!?」

「あれ、なんか私の方にもきてるよ?」


 脳内にというか、これはもしかして祭壇からでは?


「……せい」


「お?なんか聞こえた」

「僕も聞こえたんよ〜」

「何故か私も聞こえるんだけど……」




「自重せい!!!」




 そう叫んで飛び出してきたのは……幽霊……?おじいさんの幽霊が祭壇に浮遊して腕を組んでいた。


「フルガウドの娘、しかもコナタ様の再来とまで呼ばれた天才児が来たからどんな奴かと思えば……ほんとにコナタ様みたいなのが来おったな……」


 目の前のおじい様が頭を抱えていらしました。若い頃はめっちゃイケメンだったであろう面影を残してるダンディーなおじいちゃん。なんとなく執事っぽい感じもする。


「わ〜、爺やみたいなのが来た〜。爺やって呼ぼ〜」

「誰が爺やじゃ!ワシはリグニン!コナタ様と神龍陛下の第一の家来ぞ!」

「わ〜い、僕にも執事が出来たんよ〜」

「聞けー!」

「うるせー……」

「なんか変なのが来たわね」


 ロゼが能天気に執事、執事、羊〜と踊っていた。なんかダッタン人の踊りの声が聞こえた気がしたが多分気のせいだろう。






「ふむ、取り乱してすまなかった。ワシは1000年前、神龍陛下……ラグナロク様とコナタ・フルガウド様の元で竜族の統括をしておったものじゃ。リグニン様と呼べ」

「リグ爺〜。じゃあ1000年も生きてるんだ〜」

「リグ、爺じゃと!?なんと不敬な!やはりパルシアとかいう人間の王の血が入ったせいで子孫がこんなのになってしもうたのかぁ……」

「いぇーい!こんなのなんだぜ〜」

「話が進まないから進めていい?んで、リグ爺がロゼの契約相手ってことで良いのかな?」

「ふむ、不本意ながらそうなるな魔族の王よ。しかし……コナタ様の子孫と魔族の王が親友とは。つくづく歴史とは因果なものじゃ……」


 何やら感傷に浸っているが死ぬほどどうでもいいので先に進める。


「この莫大な魔力量、緻密な魔力操作、竜を惹きつけるスキル、火雷槌。そして桃色の髪と瞳……何よりラグナロク様とコナタ様の血が入っておる……。完璧すぎる……コナタ様を失って以来長年ワシが求めてきた最高の君主……の筈が………」

「いぇーい!!最高の君主なんだぜ〜!!」

「どこに向かってピースしてるのかしら?」

「私たちにはロゼの見えてる世界がわからないんだ」


 いかにロゼが特殊かがよくわかる。太古の龍神の血を引き継ぐ竜人族の姫君で、尚且つコナタと外見が酷似しており加えて稀代の天才児。で、この性格だ。もう数年もすれば傾国の美姫ともなり得る竜の姫なだけに、リグ爺は色々諦められないらしい……。


「てか、1000年間ここにいるならロゼが竜人の里にいた時から知ってたんじゃないの?」

「ワシはずっと眠っていたのじゃ。その時々にラグナロク様との契約を求めてやってくるフルガウドの連中がいたが、そうでもしなきゃワシは人間と関わらん」

「寝すぎだろ……」

「ワシは200年前まで各地を旅しておったしな。寧ろもう100年寝かせて欲しいくらいじゃよ」

「で?お前はロゼのパワーアップにちゃんと協力してくれるんだろうね?」


 最初っから脅して協力させる気満々の木葉は瑪瑙に手を掛ける。流石に実力差はわかっているらしくリグ爺は少し慌てた。


「ま、待て待て待て。わかった。少し不満はあるが竜人の姫がワシの力を取り込んだことに変わりはない。協力しよう」

「よろしい。つかラグナロクと契約しようとした筈がなんでお前になってんの?詐欺?殺すよ?」

「だあああ!物騒じゃな貴様!ラグナロク様は竜人の里にはおらぬしそもそももうおらぬ!1000年前にコナタ様と共に天に召されたのじゃ!だからコナタ様の娘、カナタ様はパルシア王が保護したんじゃろうがあ!ぎゃああああ、刀を近づけるでない!」


 瑪瑙を首に突きつけられ慌てるリグ爺。幽霊、というかロゼに力を持ってかれたから精神体のようなやつなのだろう。それなら木葉には斬ることができる。


「詳しく話せ。いちいちロゼに不満だのこんなのだの、私の癇に触るようなことを今後も繰り返したら精神体だろうが一瞬で消滅させてやるからそのつもりで」

「あー、それでちょっとキレてたのね……」

「ちょっと理不尽なんよ〜……でも嬉しいんよ〜」

竜人族は壊滅しましたのである意味1000年前の振り出しに戻った感覚なのでしょうリグ爺的には。


コナタ・フルガウドとロゼ・フルガウドは外見は本当に酷似していますが、中身はまるで逆なのでリグ爺が混乱するのも無理はないです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まだシリアスはいらない(゜ー゜)(。_。)ウンウン [気になる点] 木場が言葉遣いが急に変わった気がして気になりました。 [一言] てぇてぇ
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