3章3話:告白
ブクマ・感想等、よろしくお願いします!!
今日も大体山の中を進んでいくだけとなった。まあ虫と魔獣の多いこと多いこと。因みに魔獣は偶に食えたりするのでちゃっかり木葉達のご飯になっている。
この世界には人間族・魔族・亜人族という人型と、動物・魔獣という動物型がいる。同族食いやん、って思うやん?僕もそう思うにゃわん。
「こののん、昨日お風呂長かったね〜。何かあったの?」
「そー?星空見てたからかな」
「なんかロマンチックなこと言ってるわね」
「事実だもん。次から気をつける」
「本当よ……のぼせたんじゃって心配したんだから」
「じゃ、安全の為に一緒に入る?」
「ブッ!ゴホっ、ゴホっ……木葉貴方自覚なしにそういうことやめなさい……」
「……?私は別に構わないよ?狭いお風呂に大勢で入るの、ちょっと憧れてるんだ」
「………私が保たなそうだからまた今度にして頂戴」
と言って迷路は、壁に頭をゴンゴン打ちつけ始めた。素直になりなさい迷路、素直になるのよ!とロゼが心の声を演出しながら迷路の周りにをぐるぐる回って煽っていたので氷漬けにされていた。後でシャワールームで溶かしてあげようと木葉は決めた。
「早く溶かして欲しいんよ〜」
「今日は虫除けの香を沢山焚いて、野宿しよう。流石に山奥だね」
「こののん〜……聞いてる〜?」
「樽風呂沸かすからちょい待って」
湯船に浸かり、顔を沈める。ぶくぶくぶく、と水の中の世界が見える。
(すくな)
(すくな)
駄目、か?
(何?このは?)
_____ッ!?反応した!思わずお湯から顔を出す。
「どこ行ってたのさ」
不貞腐れた声で木葉が言う。
(すくなだってやることがあるんだよ)
「私の分身なのに?」
(一応個別の人格を保有しているからね。大分似通ってきてしまったけれども)
「私から更に人間らしい感情なくしたのがすくなだもんね。だから……」
(だからこのはに感情を返した。すくなとこのはは表裏一体。実はすくな、最近こないだまでのこのはに近づいているんだよ)
「うぇ〜……あの虫唾が走るほど能天気だった頃の私にぃ?」
木葉のお爺ちゃんが亡くなった日に生まれた、精神補助システムともいえるすくな。小4の時に木葉の姉が亡くなり、壊れかけた木葉に代わって辛いことを全部引き受けていたすくなは木葉からドス黒い感情を奪って、内包した。結果として木葉は心に溜め込んでいた闇を様々な感情と共に全て失い、『可愛げのない闇の木葉』は『ちょっとお馬鹿な光の木葉』へと変貌した。
今は逆だ。偽りに塗れた光の木葉にすくなが内包していた木葉の闇や感情が流れ込み、木葉は本来の木葉を取り戻した。つまりすくなは逆にちょっとお馬鹿な木葉の性格に変わりつつある。らしい?
【今】
(闇の感情)
すくな→→→→→→→→木葉=どっちも本来の姿
【小4〜ラッカ戦まで】
(闇の感情)
すくな←←←←←←←←木葉=すくなは?だが木葉は明るめ。
「知らんかった」
(実はすくなは元々明るい人格だったんだよ)
「ほー」
(超絶興味なさそうな声だね。すくなとこのはは表裏一体。だからね……)
「?」
(目をつぶって、湯船に入り、あの空間を思い浮かべてご覧)
「うん?」
ドボン。ブクブク。と、木葉は湯船に再び沈む。
よく、あの子と剣を交えた空間だ。草原と、辺りを覆い尽くす霧。いや、瑪瑙を回収した時に見た無数の鳥居と神社が見える。
そして目の前には女の子……明るいセミロングの茶髪を水色のリボンでポニーテールに結んでいる少女。
「わた、し?」
「うん!!そうだよ!!」
「!?」
少女が朗らかに笑う。いや、この子は恐らく、
「すくな……。凄いね、昔の私そのものだ」
「逆に、このはは会った時のすくなの姿にそっくりだからね!ま、あれはすくな本来の特徴をこのはの顔に当て嵌めた姿だったから当然だけど!」
「まるですくなが魔王かのような台詞だけど。あとその反応なんか本当に虫唾が走るからやめて……」
「そっか」
無表情に戻るすくな。つまりすくなは木葉の対極として存在しているということを言いたかったのだろう。
「すくなには私が壊れそうになったのを止めて貰った恩があるから、別に何しようが気にはしないよ」
「そう?すくなは、もしかしたらこのはに害があることをするかもしれないのに?」
「私がすくなを信じているからね。迷路やロゼと同じくらい、すくなは私にとって大事な存在なんだよ」
「……………………」
何故かすくなは押し黙った。その様子をとても珍しいなと感じる。正直すくなが何か言えないことをやろうとしてる、というかやってるんだろうが、それが今自分にとって悪い方向に行ってると言うわけではなさそうだと直感で判断した。
大体、今思えばレスピーガ地下迷宮やラクルゼーロのゴブリン戦ですくなは木葉に適切に成長を促してきた。異世界で生きていけるように木葉に合ったペースで成長させてくれていた。それについても恩義があるのだ。
「すくなにはこのはを守る義務があるからね。すくなはこのはの精神が壊れないようにし続ける。これまでも、これからも」
「……そだね。そう言うことにしとく。それはそうと私が呼んだらちゃんと出てきてよー?何やってるのかは不問にするからさ、せめてなんか会った時にいてくんないと」
「うん、それはごめん」
よくは知らないが木葉の精神が安定するように時々すくなが根回ししているのだろう。つまりすくながいないと色々やばいのである。
「……ん?なんか苦しくなってきた」
は
「ん?」
のは!
「このは!!!」
「あっ!!!」
湯船から出る。そこには泣きそうになりながら自分の名前を呼ぶ迷路がいた。
「心配したわよ!!凄い長く入ってるからどうしたのかしらと思ったら、湯船に頭まで浸かったまま出てこないんですもの!」
「あー……ごめん。心配かけた。ちょっと考え事してたんさ」
割と長く入っていたらしい。危うく溺死するところだったのではなかろうか。
その後は泣きそうになってた迷路の頭を撫でて慰めようとしたら木葉の裸を見て脳内が爆発し倒れた迷路を解放する羽目になったりした木葉だった。
…
……………
……………………
馬車の荷台に、保温性のある火鼠の衣というアイテムを使用した布の屋根をかぶせて、中に灯りを灯して寝る。簡素な寝所だが、野晒しの何万倍も良いはずだ。
「すぴ〜、すぴ〜」
「これで本当に眠ってるんだから驚きよね」
「どれだけくすぐっても起きないもんねー。生物としての可愛さの限界値突破してると思う」
「む……」
幸せそうな表情でロゼは眠っている。これでいてかなりの苦労人なのは知ってるから今の幸せそうなロゼを見てるとなんか不思議な気持ちになる。その幸せな表情を崩したら、そのまま自分たちの幸せが逃げてしまうような、そんな感覚。
「招き猫みたいよね」
「このもちもちほっぺ羨ましい」
みょーん、とほっぺを伸ばしてみる。あんまり表情は変わらず、熟睡していた。あとヨダレが垂れてきたので口を元に戻してあげることにする。
「迷路は眠れないの?」
迷路に向かい合って聞く。いつも思うが、迷路はとても儚げで、触れたら壊れてしまいそうな雰囲気が出ている。蒼く儚い輝きを持つ宝石、それが迷路に対する木葉の認識だ。
「心配事?」
「逆よ」
「へ?」
「私が心配なのは木葉。貴方よ。今日、お風呂の時何があったの?」
「……あー。ごめん、すくなと話してたんだ。隠してたわけじゃないんだけどね」
ゴブリン戦の一件以来、木葉に何かを吹き込んだのだと思っている迷路はすくなに対してどこか懐疑的だ。敵視しかけていると言っても過言ではない。
「すくな……ね。本当に大丈夫なの?」
「なんか企んでるとは思うんだけど……今んところ私に害のあることじゃなさそうだし、すくながいないとただでさえ魔王化して不安定な私の感情が崩壊しかねない……。私的にはそっちの方が怖いよ」
勿論本音だ。日々魔王化は進んでいるとは思うが、それで人間らしさが失われないのは一重にすくなの力が大きい気がする。
「んっ」
「……はへ?」
迷路が手を握ってくる。唐突な出来事に、木葉は思わずへんな声を出してしまう。はへって何や。迷路は何も言わずに木葉を見つめていた。
(え、何、何何何!!なんか恥ずかしいんだけど……。なんかいつもより大人しいというか……)
心臓の音が煩い。何を動揺しているのかも分からないまま、木葉はひたすらに迷路を見つめる。なんか顔が赤い。
「私はね、木葉が好きよ」
「ふぁ、ふぁい……?」
(え、え、え、え
はえぇええええええええええええ!?)
「ぁ……ぇと……うん。え、え?」
「木葉。私を頼って。私達は成り行きじゃなくて、そうなるべくして一緒にいる」
「…………………………………………うん」
レスピーガ地下迷宮で出会った時、迷路は木葉に会うためにここにきたと言っていた。そして木葉も、迷路には会わなくてはならないと何故か感じていた。
「すくなは、木葉には分からない思惑とかがあるかもしれないけれど、私なら木葉の為になんでも出来る。絶対に味方でいてあげられる」
「迷路……」
「だから、ね」
ふわりと、髪の毛が撫でられる。迷路の甘い匂いが、鼻腔をくすぐる。
氷のように冷たく、けれど柔らかい感触が唇に触れた。
「あんまり不安にさせないで、木葉。私がいる」
唇の感触を確かめながら、木葉は頷いた。安心感のある言葉なのに、その冷たい感触が木葉にえもしれぬ不安を感じさせた。触れたら壊れてしまう、ガラス細工のような女の子。それが失われてしまう未来が見えたようで、木葉にとってはそちらの方が何より怖くなった。
(なんで………………こんなに…………………)
ふふっと、微笑む迷路を見てその恐ろしさが増す。木葉にとって迷路はそこまで大事で、必要だった。だから、
「え?」
「……こうすれば、温かい」
木葉は迷路を抱きしめた。自分の温かさを、迷路にも与えられるように。そして、大切な宝石を手放したくないという思いを持って。
「大丈夫」
迷路はそう言うけれど、木葉は思う。迷路は、自分が本当に消えてしまいそうな声をしていることに気づいていないと。だからこそ、
(私は絶対に手放さない)
心にそう誓って。そのまま微睡に落ちていく。
…
………
………………
朝起きた時、迷路は思った。
「ヤっちまった……かしら……?」
はわ、はわわわわ……とガクブルしながら口を押さえる迷路。エロゲでよく見る丸目になっている。
布団の中には木葉、がっつり抱きついていた。まあ、服を着ているからそこは大丈夫だろうとかなんとか言い聞かせているが明らかに動揺している。
「んん……」
「こ、このは……?」
「あれ、おはよう…………………ぁー」
「なんで目をそらすのよ!!」
木葉は思い出した。昨日何気にキスしたことを思い出した。と同時に、昨日抱いていた恐怖感も思い出して、迷路に抱きつく。
「ふぇえええ!?な、なに、なに……?」
「昨日のこと、覚えてないの?」
「も、もしかして私本当に……」
(あーこれは覚えてないな)
……だとしたら昨日の迷路はなんだったのだろうか?迷路の顔を眺める。昨日の消えてしまいそうな儚さは鳴りを潜めているが、実際彼女の体温は果てしなく低い。心配されていたはずが、逆に今は迷路が心配だ。
「あれあれ〜、2人ともなんかあったん〜?」
「あ、ろ、ロゼ……いや、これは……その……」
「お、お?めーちゃん、とうとう……」
「ぎゃあー!違うの!違うのよ!」
ロゼはロゼでこれから竜人の里に行くわけだし、少し心配ではある。
(私いつの間に逆側の立場に)
「ここだよ、こののん」
ロゼは静かに言った。何の変哲もない洞窟が目の前にはある。
「……?なんか、凄い普通だね。いや確かにこんなとこに洞窟あるの!?って場所は通ってきたけどさ」
山奥のさらに奥、しかも獣道みたいな場所を通ると現れた洞窟。その入り口もバッチリ草木で囲われて一見どころか目を凝らしてもわからないかもしれない。
「竜人の里にはいくつか隠し通路があるんよ。正規の入り口は異端審問官に破壊されて今も村には王国の騎士団が入り口を見張ってるの。でも他の隠し通路は多分バレてないからここから行くよ〜」
木葉にはよく分からないが、ロゼが術式を唱え始めた。結界の解除でも行っているのだと思う。
洞窟は非常に長く、また非常に狭かった。ついでに物凄い数のトラップと結界が貼られていて、それをロゼが一つ一つ解除し、また貼っていく。
「ラッカはよくこんなとこ破壊できたよな」
「当時突破されたのは竜人の里の正規の入り口だったんだけど、正直ゴリ押しだったね〜。とんでもない火力の大技連発されて大結界は破壊された。実はそれまでに結構時間稼ぎは出来てたんよ、それでも残って戦おうとしたのがそもそもの間違いなんよね〜」
「ゴリ押し出来るくらい凄い力の奴がいたってことかしら?」
「多分ね〜。あれだけの大火力なら、多分味方にも相当な被害が出たはずだよ〜。だから……多分異端審問官の仕業かな。里に侵入してからはラッカの独壇場だったね……」
話をしていると、ようやく道が開けてきた。光が見える。
「ここが、竜人の里だよ」
ロゼが指差す先には森の中の街、と言うにふさわしい景色が広がっている。
五華氏族:竜使いのフルガウドを1000年間守護してきた聖域:竜人の里は、その肩書にふさわしいほど神秘的な里だった。
迷路とすくなについて掘り下げられていく三章。楽しみですね〜!




