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3章2話:ゆりキャン!

すくなが出ます(嘘)覚えてますか?すくな。


三章ではようやくその辺が落ち着いてきたのですくななどについても言及していきます。

「わたくしたちはある程度外遊してからまた王都に戻りますわ。お会いできて光栄でしたわ、コノハ様」

「私も、色々知れて良かったよ。先生たちのこととか、王都で起こってることとか……勇者パーティーの現状とか、ね」


 その後カタリナが話したのは、勇者パーティー:船形荒野一派の横暴について、そして最上笹乃らが王都から脱出したこと。そして、


(鶴岡千鳥、天童零児が捕縛されたこと)








「先生たちには早く逃げてもらうのが大事だったから伝えなかったけど、千鳥と零児が捕まった。他の連中も、もう完全に洗脳されてるよ」

「……そっか。カタリナちゃんが死刑になったことも考えると、状況的には結構やばいね」

「……怒ってないのか?」

「何が?」

「俺も含め、クラスみんなで木葉を冷遇した。多分アレは、魔族に憎しみを植え付ける為の香が講義室や寝室に焚かれていたからなのかもしれない。王宮を出たら憎悪の感情は消えたって、船形も言っていたからな」

「あぁ、そう言えばそんな事も言ってたね」


 数ヶ月前に、船形荒野によって殺されかけた際に頭の中に憎悪の声が流れ込んでくると言っていた気がする。それを除いても船形荒野は木葉のことが嫌いだっただろうけれど。


「それでも、どんな理由であれ俺たちは君に冷たく当たった。いや、憎悪に関しては今もそうだが……。船形に至っては君を殺害しようとまでした。そんな俺たちに対して、木葉は何か感じたりは……」

「別に。もうあんま興味ないし。私に危害を加えてこない限りは復讐とか、そんな馬鹿げたことはしないかな」

「そ、そうか」

「というか寧ろ関わりたくない。私の目的は元の世界への帰還だから変にトラブるのが一番困る」

「………………………そうか」


 木葉の目は冷たいものだった。これは……和解なんて無理なのでは、と思わせるくらいには冷めた瞳をしている。


「カタリナちゃんの場合は、まぁいいや。今後もある程度は協力しないといけない状況からだろうし……お互い変に苦労してるしね」

「じゃあもし、先生たちに会ったらどうするんだ……?」

「……わかんない。会いたくないけど、もし会ったらその時は恨むのかもしれない。私にはもう、私の感情がよく分からないから」


 そうやって無表情で俯いた木葉をみて、カタリナはそれを寂しそうだと感じた。自分も、時々最上先生やクラスメイトたちとの日々を懐かしく思う時があるのだ。あれだけ迫害されたというのに、だ。


「……過去を取り戻せなんて言えない。俺たちは今を、精一杯に生きてる。決して比喩表現なんかじゃなく、死と隣合わせの異世界で生き抜いてる」

「………………うん」

「木葉が今を大事にしているのならば、今の本当の自分を取り戻した木葉がそうしたいのなら、それを優先すべきだ」

「意外だ。やっぱり変わったね、語李(・・)くん。てっきり和解してとか過去の精算をしてほしいとか言うのかと思った」

「昔の俺なら言うかもな。でも俺も、裏切られることの辛さを知ったから。そして、支えてくれる存在がいることの有り難さを知ったから」


 カタリナはレイラを見た。レイラもその気配に気づいたのか、コクリと頷く。側から見ても信頼し合っているように見えるこの2人を見て、彼も味方を得たのだと木葉は思う。


「木葉はこれから、船形や他のクラスメイト……もしかしたら千鳥や零児とも戦うかもしれない。


 だから、悔いのない選択をしてくれ。俺は、木葉の選択を受け入れるさ」



………


………………


「いい友達ね、木葉」

「友達じゃないし」


 プイっと顔を背けると迷路がクスっと笑った。

 遠ざかっていくレイラの馬車をぼんやりと眺める。王都に戻らない以上、もしくはリルヴィーツェ帝国に行かない以上、クラスメイトと会うのはまだまだ先だろう。と、謎のフラグを立てる木葉。うん、フラグだ、バッチリたってやがる。


「よし、小難しい話は今度にしよう。今は観光を楽しむことから始めよう」

「行きたいところでもあるのかしら?」

「うん、地図見て少し気になってたんだけどさ……ロゼ」

「ん〜?何かなこののん」







「この辺ってもしかして、竜人族の本拠地に近いんじゃないの?」






「________ッ!?な、なんで?」

「前にクープランの墓が残した本を読んだの。五華氏族フルガウド家の直接統治していたのは旧リヒテン連邦一帯と東パルシア……つまりこの一帯だ。竜人族の里もその地域にあるって」

「……うん、確かにここから近いけど……でもこののん」

「私は、行きたいな。暗闇さんがロゼのお母さんだったってことを知った今、ロゼはもう一度竜人の里に行けば何かが変わるかもしれない。戦力的にも、ロゼを守るものがなくなっちゃったわけだし」

「………………………………わかったんよ。僕も、もう逃げないんよ」


 こうして、竜人の里へ行くことが決まった。



…………


……………………


 行く途中の馬車は結構静かだ……ということもなく、普通に騒いでいた。ここんとこシリアス続きだったこともあり、木葉も心が疲れていたのだろう。何なら作者は疲れていたんです。


「すっかり秋だね。リタリー半島の方は四季が豊かっていうからさ、もしかしたら紅葉も観れるのかな?」

「紅葉、結構綺麗なんよ〜。なんならこれから行く竜人の里も紅葉狩りができるスポットがあって、実は竜人族はお得だったんよ〜」

「一応竜人族の聖地だものね。色々な特産品もあるらしいわ」

「特産品?」


 森の魔法少女パンとか思い出してちょっと頭痛が……。


「竜の鱗や、竜の牙なんかは少数しか取れない高価な品ね。既に亡くなった竜を竜人族の手で宗教的アクセサリーに変えるのよ」

「え、それオッケーなの……?」

「竜たちに生前に契約書を書かせるんよ〜。竜の血や灰は医療にも使われたりするから竜たちも大抵は快く受け入れてたんよ〜?」

「ドナーカード見たいな感じになってる……」

「近年は竜が神聖王国から消えたから医療崩壊も起こったわね」


 お陰でエデン・ノスヴェルのような薬剤師と懇意にする将軍が増え始め、医療が私物化されつつあるのがこのお国の現状である。早く潰れちまえこんな国!


「竜の鱗ね……欲しいなぁ」

「本物の竜ならここにいるんよ〜!」

「半竜、でしょうが」

「そう言えばそうだった。でもなんか半竜って感じまだ全然見てないよね」

「ていうか竜と人間って結婚できるの……?」

「竜だって人間の姿になれるんよ?そうやって人間の姿になった竜と人間が結ばれてきたのが竜人族なんよ〜。僕は始まりの五華氏族:コナタ・フルガウドの直系の子孫だから、その血はとっても濃いはずだよ〜」


 コナタ・フルガウド……?なんか日本人名っぽいのは気のせいだろうか?と木葉はなんか嫌な予感がしたがスルーすることにした。けどロゼが何かを察したのかにへらっと笑って話を続ける。


「こののんの名前と語感が似てるよね〜。パルシア王の5人の騎士の中では唯一の女性で、絶世の美女だったって話なんよ〜。桃色の美しい髪を持った騎士:コナタは初代パルシア王から魔槍:火雷槌(ほのいかづち)を貰い、東パルシアとリヒテン一帯を平定した。その後、龍神:ラグナロクと結ばれた……なんて噂があるけど真偽は不明かなぁ」


 なるほど、絶世の美女であったコナタの血を多く継いでいるからこそロゼはこんなに美しいのか……とか思ってしまう。というかラグナロクってあれだ、パルシアで使われてる銀貨に描かれてる龍だ。詳しくは2章3話参照。


「とても凛々しいお方だったらしいよ〜。それでいて美女だったから、初代パルシア王の愛人だったとも言われてるの〜」

「で、その凛々しい英雄様の直系子孫がこのぼけぼけおっぱいと言うわけね。どこで変な血が混じったのかしら」

「あはは〜。初代パルシア王はコナタをラグナロクだか、どっかの竜王だかに取られたのが相当辛かったらしいけど、その娘は丁重に保護して息子と結婚させたらしいんよ〜」

「へぇ、律儀だ」


 と感心したが、何か引っかかる。龍神?国王?あれ……?


「………………………………ん?ちょっと待ちなさい」


 迷路も何か引っ掛かったらしい。


「コナタと龍神が結婚して生まれた子が初代パルシア王の息子と結ばれたってことは……






 貴方、王位継承権まで持ってるんじゃないの……?」

「………………」


(あー……まじかぁ……)


「あれ〜知らなかったの?そうなんよ〜僕実は王様になれちゃうんよ〜」

「なれちゃうんよ〜!じゃないわよ!!神聖王国が躍起になって貴方を殺そうとした理由がやっと分かったわよ!龍神の血を引いていて、パルシア王の血も引いてたらなんなら現エルクドレール朝よりよっぽど王位に近いじゃない!」

「あいてっ!」


 迷路がぽかっとロゼを叩く。ロゼはわざとらしく「痛いんよ〜」とか言いながら頭をさすった。


「そもそも今まで五華氏族は王家と婚姻関係にあるから5家は全部王になる権利があるんよ〜?ま、分家とかから出すのが常だけど、時々フルガウドやオリバードからは出てるね〜。エルクドレール3世に関してはフルガウド家のお姫様と結婚してるから今の王家も実はフルガウド家の血が入ってるよ〜」

「さ、最悪よ……このメロンおっぱい一番狙われる対象だわ」

「いぇいいぇい、仲良くしようぜ〜」

「離れなさいおっぱい!」

「とうとうおっぱいだけになっちったよ〜」


 迷路とロゼが戯れあっている。にしてもロゼは龍神と初代国王と恐らく、恐らくだけど日本人の血も混じってるわけだ。正直時代が時代なら国王どころか現人神として全国民から祀られてるレベルだと思う。


「ま、もういいじゃん。ロゼもロゼで私たちに変に畏れれるのも嫌だろうし、私も魔王としてロゼに何か命令するわけでもないんだし」

「いやそれはそうなのだけど……なんか納得いかないわ。これ本当になんでもっと威厳あるキャラにならなかったのかしら……」

「ふひぃー!!ふひぃー!!」


 ロゼのほっぺをつねりながら迷路はこちらを見た。あのほっぺめっちゃモチモチに伸びてる……今度やってみよう、と木葉は決意した。


「んじゃアレね……軍人の間だとロゼは神格化されてそうね」

「僕のお父さんは『軍神』なんて呼ばれてたし、僕を軍神の娘として擁立して王都に攻め込みたい連中は山ほどいると思うんよ」

「ますます貴方を他の連中と接触させるわけには行かなくなったわ……」

「取り敢えず私のとお揃いのお面でも被っとく?」

「わーい、こののんのお面〜」

「それ相変わらず不気味なんだけど」

「そう?私結構気に入ってるんだけどな」


 黒い鬼のお面。かなりホラーちっくである。

 とまぁかなり話しているうちに夜になった。今夜はこの辺で野宿だろう。


「村がないとは思わなかったわ……」

「僕結界張ってくるね〜」

「じゃあ私は料理の準備するね」


 ロゼはナイフを取り出し、結界を張っていく。人除け、臭い消し、動物避け、魔力隠匿、状態異常避け、魔力察知……etcと多種多様な術式を展開できるロゼは毎度この役をやっている。勿論迷路も同様のことができるので手分けしてやっている。

 一方で木葉は料理の準備とあとは、


「樽風呂、作ってみました」


 『悪い子の無人島生活』という番組を見て木葉が作ってみたかったものだった。ワイン用の樽を活用したもので、馬車の荷台に取り付けられている。カーテンなども裁縫スキルで自作し、簡素シャワールームの完成だ。シャワーはないが。


「わ〜!凄いんよ〜!」

「基本は街の宿に泊まってたからね。よく考えたらちゃんと外で野宿するの初めてだな。地下迷宮は設備整ってたし」


 樽風呂の下面は特殊な金属が使用されており、ボイラーなどを木葉流に作ってそのまま熱でお湯を沸かしている。この辺は今まで倒した魔物のドロップアイテムから利用させてもらっている。周りには椅子や、洗面台のようなものも設置し、銅鏡まで置いてある。カーテンはA級魔物:火吹き大鷲の羽から作っている高級品だ。


(自家製に限るなこういうの)


 ジャンケンで勝った迷路が先に風呂に入っている間に木葉は今日の食事を作り始める。魚介出汁のスープと、高原野菜や羊肉を鍋いっぱいのチーズに入れて食べるチーズフォンデュが主菜だ。森の魔法少女パンは飽きたので北リタリー公国で流通している一般的な麦パンを主食にした。


「「「頂きます」」」


 この間にロゼは何かお祈りをするしと自由である。木のテーブルの上には多くの品が並んでいて豪華だ。


「美味しいんよ〜!!!!やばいんよ!!」

「流石、木葉の料理は絶品ね。職業:料理人と疑いたくなるレベルだわ」

「ははは」


(料理人でしたねはい)


 近くの川で食器を洗うと、その後木葉も風呂に入る。自分で作ったとはいえちょっと興奮している。これが悪い子の無人島生活でよく見た樽風呂……。


(おぉ、ちょっと感動……。ふわ、ふわああああ!!すげー……あったかー……)


 しかし露天風呂とか以外で外で風呂に入っているということの開放感がすごい。なんかクセになりそうな気持ち良さがある。


(む、いけない。これは露出変態女の発想だ。しかし、我ながら凄い髪の毛だよなあ……)


 白銀の髪の毛を手に取り、シャンプーを付けていく。こちらのシャンプーもリヒテンの温泉街で購入した一品だ。


(この色……変えられないかな。これはこれで好きだけど)


 割と茶髪が気に入っていた木葉的にはそこそこ違和感があるらしい。染色術式を使っても駄目だったから他の方法を考えねばなるまいが。




(星が、綺麗だ。なんか幸せだな)




 何故か夜空を見上げると、切なくなる。夢の中のあの子がくれた髪飾りの色が、いや、あの子の髪が夜空のように美しかったからだろうか。この旅を続けていれば、いつかは出会えるのだろうか。

 そんなことを考えながら、木葉は目を瞑って湯船の中に沈んだ。



 ぶくぶくぶく



(すくな……いる?)


 心の中で語りかける。外界の音を隔絶したお湯の中でなら、久しぶりにすくなと話せる気がした。


(すくな?)






 返事がない。




(あれ……?寝てる、とか?)




 その日は結局、すくなと話せないままだった。

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