3章1話:全然変わってないね
ようやく三章『叛逆の歌劇を少年少女は奏で歌う』スタートです!!この章では木葉たちとクラスメイトが段々と出会っていきます。
ていうか久しぶりに木葉が出ます!!やったね!
感想ください!
前回までのあらすじを軽く述べようと思う。2つ目の魔女の宝箱であるボロディン砂漠を攻略し、次の目的地である水都:ヴェニスを目指す中、クラーカという街で白鷹語李の死刑と最上笹乃たちの王都脱出を知る。そしてそのままレイラ姫とカタリナと名乗る少女との会食に続くのであった。
半年前の更新の出来事ですね。作者は屑ですね。
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レイラ姫。神聖パルシア王国現国王:エルクドレール8世の12歳の娘。つまり王女殿下。木葉が会ったのは一度だけ、最初の国王謁見の時だけだ。
(あんまし覚えてないんだよなぁ)
正直全然覚えていない。あの時は魔王になった時の違和感で頭がいっぱいだったから無理もないとは思う。
とまあそんなレイラ姫はススッと予約していたレストランに入るので木葉たちも続く。どんどん奥に進んでいき、一番奥の個室部屋に入ることになった。完全にVIP待遇である。あまりの豪華さに、入り口から若干躊躇していた木葉は卒倒しそうになった。
(めっちゃ高そう……私たち今そんなにお金あったかな……確認した方がいいよね)
「勿論わたくしの奢りですわよ」
「それは良かった。いやそれはそれで気絶しそう、まじで?」
「えぇ、大マジですわ。わたくし、お金は結構あるんですのよ」
(一度言ってみたい台詞だ)
席に着くと早速ウェイターが果実水を持ってくる。前菜のサラダが並び、テーブルが彩られていく。
「どうぞ、クシビキさん。フルガウドさん。もう1人の方のお名前はご存知ないのですが……」
「迷路よ」
「ではメイロ様。これでやっとお話ができますわね。わたくしはレイラ。レイラ・フォーベルン・エルクドレール。こちらは侍女のカタリナですわ」
「自己紹介はいい。ひょうへんは……もごもご」
食い意地貼ってごめんなさい。でも木葉は食事に目がないんです……貧乏性なので。
「木葉……台無しよ……」
「こののん……」
「ごめん、ちょっと食べてからでいい?」
そう言って運ばれてきたメインディッシュも粛々と食べ終わり、喉に葡萄ジュースを流し込んだ。因みにメインディッシュは鴨ロースだった。蟹のスープもあったので木葉的には大満足である。
「うん、美味しかった。当分蟹不足に悩まされることはなさそうだね」
「悩まされていたことを今知ったわ」
「ヴェニス着いたらいっぱい食べられるね〜こののん」
「で、こちらの話を進めてもよろしくて……?」
「うん、ごめんね。それで、私に何の用事かな?」
「先ずは……」
と、レイラが言い始める前に、カタリナという少女が切り出した。
「君は……本当に櫛引木葉なのか?」
「言いたい事が分からない。カタリナさんとは会った事がないはずだよ?」
「______ッ!あぁ……その表情……やっぱり……」
「何を納得したのかは知らないけれど、まずは本題から聞くよ」
そうして木葉はレイラに視線を移した。
「なんで私に接触したの?魔王だと知ってるんでしょ?」
場合によっては口封じすることも辞さない構えだ。正直知られたところでデメリットは少ないが、相手が悪い。神聖パルシア王国の第二王女様に知られた以上、新聖王国の上層部にも知られている可能性がある。そう木葉は警戒していたのだが……。
「先ず知って欲しいのは、貴方が魔王だということはここにいるわたくししか知りません。なんなら、カタリナはまだ知りませんでした」
「……ねぇマジか」
「そこはごめんなさいですわ。勿論お父様に言ったりなどしていません。そして、わたくしは貴方と敵対するつもりは毛頭ありませんわ」
目の前の少女は盲目であるが、こちらを真っ直ぐに見てきた。恐らく、何か特別な能力があるのだろう。多分、おそらくめいびー。
「へぇ。まあ、いいや。如何にも、私が3代目魔王:月の光だよ。本名は櫛引木葉。呼び方は好きにしてよ、どーでもいいからさ」
「吹っ切れましたわね」
「全部知ってるなら隠す必要もないしね。それで、色々話してくれるのかな?」
「えぇ、先ずは新聖王国が何をしようとして、わたくしたちが何を目指しているのかから、お話しいたしますわ」
レイラ姫の話はとてもわかりやすかった。とてもじゃないが12歳の少女だなんて思えないほどに、彼女は大人びた話し方をする。
そんな彼女の話は要約するとこうだ。
新聖パルシア王国は500年前、つまり初代魔王誕生時らへんから満月教会と癒着し、他国に侵略を繰り返して領土を拡大してきた。
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今までは教会の上層部とか、色んなところが押さえていたが、エルクドレール8世が国王となって16年前の内乱で五華氏族を滅ぼしてからは更に教会と協力して他国 (主に南方大陸やバルカーン半島、海洋都市国家群など)に侵略していった。
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その中で、占領地から奴隷や女子供を拉致して王都に送り込んでいた。しかも彼らは王都に入り、綺麗に消失している。そんなことを500年も前から繰り返し、16年前からは更に激しくなった。
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レイラ姫は彼らはなんらかの宗教的儀式の生贄にされたと考え、これ以上の横暴を止めるべく父:エルクドレール8世を倒そうとしている。
「で、それを邪魔しないで欲しいと」
「えぇ、そうですわ」
「私が新聖王国の国王を支援する訳がなくない?」
「どちらかと言えばそれより、何か騒ぎを起こして無闇にこちらの兵力を削いで欲しくないというのが本音ですわね。過去2回の魔王出現では、多くの人々と多くの冒険者が亡くなっていますわ。魔王による侵略は寧ろ国の混乱に乗じて人々の拉致を加速させかねない」
本当に、12歳とは思えないほどよく考えているなあと思っていると、ロゼがとても神妙な顔で考え込んでいた。ロゼは新聖王国のことをとてもよく考えているからこそ、この話に何か思い当たる節があるのかもしれない。
「ま、もっと本音を言えば新聖王国をひっくり返すのを手伝って欲しいですわ」
「ちょ、レイラ様!?」
「ふぅん。大きく出たね。私が貴方のために動くとでも?」
「いいえ。でも、そちらのフルガウド様の為、なら?」
「………………」
この子、どこまで優秀なんだ?交渉力が抜群だ。結構めんどくさい相手と話しているのだな、と木葉は思う。
「ロゼが新聖王国を打倒するのと、私達が一緒に旅をしてるのは別だよ。でも私のロゼが新聖王国に傷付けられようものなら、ちゃんと魔王らしくしてあげるよ」
「こ、こののん!?わ、わた、わたわたわたぁ!?」
「……それ、同意義じゃなくて?」
「さぁ?どの道今はまだ新聖王国とコトを構える気はないね。そこは期待に応えられなくて申し訳ないかな」
「律儀ですのね」
「元から魔王って訳じゃないし。それに、いい話も聞けた。今後どうするかはこっちの問題だけど、ま、一考しとく。それで、話は終わりかな?」
木葉は無表情で言う。だって早く進みたい。蟹食べたい。スープじゃなくて生のやつ。カニカマも勿論許さん。地元の祭りの屋台で蟹炙りだと言って購入した500円の串焼きがカニカマだった時の失望感は今も忘れられないのだ。
(アレは思わずキレて素が出そうになったなあ。流石に友達が一緒だったから出さなかったけど、『すくな』が出そうになってた気がする、うん)
「ええ。ある程度は知っていましたが、やはりわたくしたちにとって害のあるお方ではない事がわかりましたわ。非常に理知的で常識的、魔王とは一体なんなのだと疑いたくなるくらい普通のお方です。ああ、これはプレゼントなのですが、ラッカの記憶を操作しておきました。貴方の姿が照合されて割り出されることはありませんわよ?」
「……有り難く受け取っとく。じゃあついでにもう一ついい?
その子の正体について、教えて」
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白鷹語李ことカタリナは当初、信じられなかった。目の前の少女は、明るく笑う快活な美少女で、だけど彼女の本性を知っているからこそ、目の前の少女が確実に櫛引木葉であることもわかる。
髪の毛は麗しき白銀に染まり、瞳は真っ赤に、その雰囲気も殺気立っており、どこか近寄り難い。近づきやすくとっつき易い少女が、さらに神々しく禍々しくなったことで一層彼女の神秘度は増したと言っていい。もう自分たちとは違う世界の存在、神か何かと言った超常的な存在になったと言われても過言ではない。
(拝んじゃいそうなくらいの美人だ……)
でも魔王らしい恐怖というものは無く、ただただ目の前の相手に畏怖を与える存在感。彼女の変貌を驚くと共に、ようやく彼女が本音で自分たちと接してくれるということの喜びも湧き上がってくる。
「俺は……カタリナ……いや、白鷹語李だ。久しぶりだな、木葉」
(やっと俺たちは、対等に互いを知れるのだ)
「…………………………………は?」
「と、いう訳ですわ」
「いや全然わかんない。この女の子が語李くんって、まぁ……異世界だから仕方ないのかな……いやいやいやいや」
レイラ姫の説明に目に見えて動揺している木葉。それを見てカタリナは頬が緩んだ。なんだ、全然変わってないなと。
「む、何笑ってんの語李くん……いや、カタリナちゃん」
「やめろ……ちゃん付けは本当にやめろ……」
「どうせ全然変わってないな、ふふっとか思ったんでしょ。なんかムカつくから一生カタリナちゃんって呼んでやる」
「大人びて見えて変なとこで子供っぽいところ小学校の時から何も変わってないな!」
「カタリナちゃんも、なんか全体的にムカつく言い回ししてくるの小学校の時から何も変わってないよね」
「そんな風に思ってたのかお前!ていうかカタリナちゃんって呼ぶな!」
「でもカタリナちゃん、なんか取り繕うのやめたね。今の方がいいと思う」
ここに来て初めて、木葉は少し微笑んだ。いつも天真爛漫に笑う木葉の、本来の笑みだった。その笑みを引き出せたのが嬉しくて、色々言いたかったことが引っ込んだ。
「……木葉もな。今の方がよっぽど良い。無理して明るく振る舞うの、やめたんだろ?」
「そうならざるを得ない状況だったからだけど、それなりに楽だよ。なんか良いね、こういうのさ」
「本当の意味でちゃんと木葉を知れて良かった、これでちゃんと友達だな」
「……友達じゃないし」
「そこは乗れよ……」
「ふふっ」
「はははっ」
「めーちゃん、なんか良い雰囲気なんだけど……」
「くっ……変なところからライバルが出てきて面倒くさいわ」
「わたくし完全に置いてけぼりなのですが」
古くからの友人のように笑う2人を見て、他3人はなんか微妙な感じで見ていた。それでも、
(なんか羨ましいんよ〜昔からの友達って)
「友達じゃないし」
「友達だ!」
「なんで僕の心の声聞こえてるのかな〜?」
やっと合流しましたね!




