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4話:ヴェニスへ

カデンツァの章完結です。次から三章。

感想ください

「良かったのですか?魔導国を滅ぼさなくて」


 ケネンドルフ上級主幹と合流してラスペチアの市議会堂に到着したカデンツァに、コードが話しかける。かなり疲れていたカデンツァはフィンベルに寄りかかりながら、笑って答えた。


「どの道、南の魔王とその側近を葬ったのだから国としては終わったよ。あとはその辺の魔族国家が魔導国を切り取るだろう」


 カデンツァたちはフィロンツィ城で暴れたが、フィロンツィの街で魔族を滅ぼす真似はしなかった。単純にめんどくさかっただけらしいけど。


「リタリー半島は魔族の国家で溢れてる。魔導国はその権力を失い、人間側に報復するだけの戦力も残されていない。ま、もし敵討ちとして魔族国家連合がやってきたら、その時は言い逃れもできないから神聖王国がなんとかするだろうさ」

「適当ですね……」

「テキトーではないよフィン。それに、今回の目的は人質奪還と先制防衛だけではないのさ」

「……?」

「王都政府への嫌がらせも兼ねてる。だから本来なら魔導国首脳部と地下宮殿を破壊した時点で目的は達成したよ」









 カデンツァの言う通り、その後魔導国はリタリーの魔族国家によって分割され、それらを巡って魔族は再び争いを始めた。北リタリー公国はラスペチアとビサの街に軍隊を派遣することになり、神聖王国も周辺ギルドの有力冒険者を派遣した。

 因みにフィンベルは、というと、カデンツァについて行くことになった。今日はラスペチア出立の日である。


「フィンお姉ちゃん、元気でね」

「メラも、もう魔族に捕まらないように今度はちゃんと隠れるんだよ?」

「いつでも帰っておいでね、フィンベル」

「おばさんも、お元気で」


 ハイランド連隊とアコーディオ・ハイランドは南部パルシアのクエストに出かけていたので、出立はカデンツァ、コード、夜弦、フィンの4人だった。


「ま、仕方ないよな。満月教会の巫女だからって理由でまたいつ魔族国家に拐われるともわかったもんじゃねぇし。てか今まで拐われなかったのが不思議なくらいだし……」

「私たちと共に来るのが一番良いだろうからね。何より私がフィンに一緒に来て欲しかった」

「む、むぅ」

「ようこそ【天撃の鉾】へ。歓迎するよフィン。早速王都に帰って私のパトロンに紹介しようじゃないか」

「パトロン?」

「王宮の最深部に、私のパトロンがいるのだよ。君より小さな女の子だが、仲良くなれるはずさ」

「ま、まさか……」

「そうそのまさ……」

「カデンツァさんの被害者……」

「……………………」

「幼い女の子にまで手を出すなんて……」

「あ、あの〜フィン?」

「気安く呼ばないでください犯罪者……失望しました」

「フィン!?違う!誤解だ!愛しているのは君だけだ!いや、まぁあの子も好きだけど……」

「も、もう知りません!やっぱり最低です!一瞬でもカッコいいなんて思った私を殴りたいです!」

「そ、そんな……フィンー!!」


 つかつかと歩いて行くフィンベルをカデンツァが涙目になりながら追いかける。コードと夜弦は顔を見合わせて笑った。


「カデンツァのあんな姿、初めてみましたよ。面白いですね、フィンベルは」

「フィンちゃんがカデンツァの抑止力になってくれるとありがてぇ……レイラ姫は割と弄られキャラだし」

「何はともあれ、一先ずは王都に戻るのが先決ですね。王都がどうやらきな臭いことになっているようです」

「……また一波乱ありそうだな」



…………


……………………


「と、いうことがあったんですよ」

「へぇ……いや、長くない?」


 フィンベル、もといフィンと語李もといカタリナは王都6番街ギルド会館にある、天撃の鉾のギルドハウスでお茶を嗜んでいた。話の内容はフィンがどのようにして天撃の鉾に入ったかということである。

 話は王都での笹乃脱走騒動、そしてナワテ・デクレッシェンド筆頭司祭がロイヤルネイビーを撃退して数日後にまで飛ぶ。


「だから私はカタリナさんより少しだけ先輩なんです。よろしくお願いしますね、カタリナさん!」

「あ、うん……よろしくね、フィン」

「カタリナさん、すらっとしててカッコいいです!」

「ありがとう……(まぁ俺の身体じゃないけど……)」


 ガチャリとドアが空いた。そこにはカデンツァがパンを抱えて立っていた。


「カデンツァさん!えと……何かありました……?」

「……ま、ご飯にしようじゃないか。話は食べながら、さ」


 含みを持つ笑みを浮かべてカデンツァは食材を広げ始めた。今日は、王都政府が正式にカデンツァを召喚して尋問があった日である。

 スープと肉を取り分けるフィン。カデンツァは皿を受け取ると、骨付き肉にかぶりつく。


「ふむ。ふむ。やはり買うなら高級品に限るな」

「む、また贅沢しましたねカデンツァさん!あれほど節約しろと!」

「まぁまぁ、偶には高いのもいいじゃないか。それで、今日のことだったね。心配いらないさ、さっき片付いたよ」

「片付いた?」

「ああ、私の方に(みそぎ)の4番隊:暗殺部隊が来たよ」

「は?」「え?」


 (みそぎ)というと、前にリヒテンでロゼを監視しようとし、シャネルを拉致して、あと迷路に凍りつけにされた連中のことである。国王:エルクドレール8世の直轄諜報部隊、というのが正式なのだが、4番隊と呼ばれるエリート達は暗殺部隊としての機能も兼ね備えていた。


「4番隊って!!超エリートの暗殺部隊じゃないですか!!無事なんですか!?ていうかなんで生きてるんですか!!」

「え、そんなやばいのか……?」

「カタリナは知らないだろうけど、一応お国が抱える最高の暗殺者集団さ。16年前の内乱でも大いに活躍したらしいね。ま、正当防衛を名分にして皆殺しにしてやったよ」

「わぁお……」


 一言でさらっと凄いこと言ったな。


「今頃王都政府がもみ消しにかかってるとは思うが、まさか王宮に召喚された帰りに暗殺されかけるとは。余程プッツンだったんだろうね、魔導国の件」

「それで、王都政府はなんと?」

「一応こっちも正当防衛と、あとは私を襲ったことに対する報復という形で押し通したよ。筆頭異端審問官殺しの方は結構危なかったけど」

「……?」

「ほら、伊邪那岐機関(いざなぎきかん)が出来ただろう?あれは本来、ノルヴァード・ギャレクを大司教としてその下に13人の筆頭司祭がいてその下に多くの兵をつけるはずだったが……」


 カデンツァがその候補者だったメイフェアー・ドルトムーンを殺害した。だから王宮の謁見部屋には治療中のラッカを除いて12人の異端審問官しかいなかった。まぁつまり2章38話の透明の間でのゴタゴタの後の謁見までの期間に魔導国騒ぎがあった訳だ。


「お陰で早速1人減った状態でスタートした訳だ可哀想に。私も別に狙ってやった訳じゃないのにね」

「それで、どうなったのですか?」

「王都政府の戦争に一つだけ参加してやることで合意したよ。一応私は神聖王国の主幹相当官な訳だし、仕方ないといえば仕方ない。これ以上逆らうと私たちが潰される。反乱を起こすにはまだまだ協力者が足りない」


 それでも破格だ。余程王都政府はカデンツァが怖いらしい。今のところカデンツァを正式に討つための大義名分もない。捏造でもしようものなら(みそぎ)4番隊の二の舞になると、カデンツァが深く忠告したのも大きい。


「でもそれって……私たちの味方になりそうな勢力を潰すための戦争に加担するってことじゃ……」

「……それは後々考えるさ。レイラ姫も特に疑われることはなかった。一先ずは色々落ち着いたね。カタリナは明日には出発だったかな?」

「ああ、レイラ様と共に魔王に会ってくる。緊張してるさ」

「頼んだよ。正直魔王の手も借りたいくらいに神聖王国は手強くなっている。昨日の話は聞いたかい?」

「昨日?なんかあったんですか?」

「カレイスとダンケルンに上陸した連合王国のロイヤルネイビーを、異端審問官が1人で薙ぎ払ったらしい。奴らも、本気を出してきてる」


 完全勝利に湧いた王都政府はこのことを大々的に公表した。たった1日前のことであるにも関わらずだ。


「私も私で頑張ってみるさ。さて、今日のデザートを食べようじゃないか。エクレア、エクレア〜」

「わあああー!!これ老舗ル・シエルの銘菓:ホイップエクレア!?なんでこんな高いもの……」

「2人が天撃の鉾に入ってからまだお祝いをしていなかったからね。時期にコードやハイランド、連隊のメンバーも来る。今日はパーティーだよ」

「い、いいんですか?俺も」

「カタリナ、君ももう天撃の鉾のメンバーさ。そんな男口調じゃなくて、その可愛い見た目にあった可愛い言葉遣いにしたまえよ」

「いやそれは関係ないです……」

「教育が足りてないみたいだねぇ」

「ひいっ!?」

「わ、私も、カタリナさんのこと教育(・・)したい……」

「じゃ、2人が来るまで私とフィンベルでカタリナの着せ替えパーティーをしていようじゃないか、あっはっは」

「いやいやいやいや!!フィン!?待って!」

「問答無用!!」

「きゃああああああああああ!!!」












 天撃の鉾メンバーが楽しくお喋りしている間、王宮では黒い話し合いが始まっていた。多分もう忘れてると思うが、神聖パルシア王国は4人の宰相、1人の総統、7人の大将軍という制度が取られている。そのうち3人の宰相と数人の将軍や官僚らが集まっていた。


「……魔導国が倒された。リタリー半島は今後魔族の内乱で手一杯だろう。今回の生贄供給が途絶えただけでなく、今後の生贄供給が完全に途絶えたことになる。禊の4番隊も全滅したし、本当に余計なことをしてくれたなあの小娘」


 3宰相の1人、ケバケバしい金色の衣装に身を包んだ男:フロイト宰相が、切り出す。1章11話と2.5章2話でチラッと出てきたから戻るといいと思う、ん、なんだこの天の声。


「もう少し、あと少しなのじゃろう?ならば後回しにしていたことをさっさと進めてしまおうではないか」


 3宰相のまとめ役であるスピノザが言う。こちらも1章11話参照。


「占領した各地からの奴隷や女子(おなご)を献上させる法である程度は賄えているが、一気に供給したい。リルヴィーツェ帝国、東方共同体、もしくは……(とぶひ)の本拠地のヴェニスや自由を許してきたリヒテンなんかを潰すのはどうだ?」

「フロイト殿、リヒテンは不味いのう。最近復興中の可哀想な街じゃ。お主の搾り取ってる植民地とはわけが違う」

「フォッフォッフォ、これは失礼しましたなスピノザ閣下。ではやはり外敵ですかな?」

「いや、まずは……





ヴェニスじゃ」



…………


………………………


「うぅ……短い……」

「はわ、はわわわわ!!可愛いです!赤面カタリナさんとっても可愛いです!!」

「何この羞恥プレイ……」


 カタリナのピンク色のミニスカドレス衣装に、思わず感動してしまうフィン。カタリナ的には結構きつい、はずい。マジではずい。


「おや、カタリナが可愛らしくなってますね。ああカデンツァ、こちら頼まれてたオリーブです」

「コード、遅かったじゃないか。一通りカタリナの着せ替えをやっていたんだ。いやあ、おっぱいが大きいとなんでも映えるなあ」

「ちょ、何触ってるんですか!」

「ほれほれ〜良いではないか良いではないか〜」

「ん〜〜〜〜///////」

「カタリナさん……とてもえっちです……」

「フィンベルが止めないのは珍しいですね」


 コードはそういうと、部屋に魔法で飾り付けをしていく。流石イケメン、何事にも動じない。


「ふふん、カタリナを私の手でメス堕ちさせる日も遠くないね」

「ぜぇ、ぜぇ……もう、ムリ……」

「お待たせしましたわみなさん……ってカタリナ!?」

「皆さん待たせましたな。おや、これは」


 ハイランド連隊のみなさんや、レイラ姫も到着した。どうやら今日もレイラ姫はお部屋を抜け出してきたらしい。


「な、なんかカタリナがエッチなことになってますわ……む!カデンツァ貴方ですわね!?」

「なんで盲目なのにそこは見えるんだろう……」

「なんとなくですわ!!」

「あっはっは、すまない。彼女に女の子の悦びを教えてあげていたんだ」

「マトモな言い訳くらいはしてください!!!カタリナは渡しませんわ!」

「ではレイラ姫が教えてあげては如何かな?」

「わ、わたくしが……////////



む、無理ですわ!!!」

「うーんいい反応をするなぁ」


 赤面してうずくまるレイラ姫を見てカデンツァは笑う。隣ではフィンもまたくすくすと笑っていた。


「さてさて、皆さん揃ったことですし、そろそろはじめませんか?」

「そうだねコード。ではグラスを持ってくれ。ああレイラ姫、君はカタリナに支えてもらうといい。では、乾杯!!」

「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」



 夜の宴が始まる。楽しい宴の裏で、王国の闇が動き出そうとしていることは、彼らはまだ知らない。








「ヴェニスには、七将軍:モンテスキュー・ロックベルト。そして、カデンツァ・シルフォルフィル卿に行ってもらうとするかのう。運が良ければそちらの方に向かったとされるロゼ・フルガウドも発見できるやもしれん。




さて、戦争準備じゃ」


 王国の闇を率いるものたちは、会議室で笑ってそう言った。

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