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3話:人間様を舐めるなよ

感想ください

 魔導国領は当然のように魔族がウヨウヨ跋扈している。要するに人間の逆バージョンなのだから至極当然ではある。というわけで、余計な戦闘を避けるために必要なのが、ケネンドルフ上級主幹の隠匿スキルだった。隠匿スキルを駆使して敵と遭遇せずにフィロンツィに到着することに成功する。


「さて、と。ここまでは余裕だね。あれがフィロンツィ城。元々は古代リタリー王国の城があった場所だね」


 魔導国の都:フィロンツィは一見普通の街だ。だが暮らしているのは魔族、そして魔獣らが街の周囲を守護しておりその侵入は容易ではない。王都のムール・ド・シャトーのような城壁はないものの、街に入るには4つの門のどれかを通らねばならず、他は高い壁を登っていくしかない。普通に考えれば壁をなんらかの方法で登るのが一番よい侵入方法な気はする。

 しかし、カデンツァはカデンツァである……常識なんぞ持っていない。


「わぁお、だっさい城なんて作っているよ最高だねはっはっは。どうせ地下が本命の住処なんだから先ずはド派手に城を破壊しよう」

「は!?いや、城に人質居るかも知んないじゃん!てかなんで地下にいるだなんて……」


 食ってかかる褐色の若人:夜弦に、白髪紫眼の美青年:コードが答える。


「いえ、熱の集まりと霊脈の魔力集結量を見るに、主力は地下ですね。念のため上も確認しますか?」

「いいや、君の『竜の眼』は疑わないさ。流石は竜人族だね」

「りゅ、竜人族って……フルガウドの一族の!?」

「あの〜……私一応上級主幹……」

「ケネンドルフ閣下、言ったら殺しますよ?」

「ふぁ、ふぁい……」


 ケネンドルフが上に報告することはこれでない。上よりカデンツァの方が怖いことは彼がよく知っている。そもそもラスペチア市に行く途中で偶々カデンツァを誘えたのはケネンドルフとカデンツァが旧知の中だったからである。


「おっさんなんか弱味でも握られてんのか?」

「ヨヅルくん……私の妻はおっかなくてね……そしてシルフォルフィル卿と仲良しなんだよ……」

「あぁ、弱味握られ放題ってことね……」

「ま、ともかく。そうだねフィン。コードは竜人族の生き残りさ。だから彼の能力は信用できる」

「お褒めに預かり光栄ですよ」


 コードの眼の能力はここではまだ説明できないが、そのうちの一つが霊脈の可視化である。魔力集結が手に取るようにわかるのだ。


「で、でもいきなり城を壊すってどうやって……」

「そこでハイランド連隊の出番だ。あ、派手に壊していいよ?」

「「「「応」」」」

「へ?」


 フィンベルが間抜けな声を出す。というのも、後ろに控えていた完全武装の騎士たちが取り出したのは、


「た、大砲?」

「精霊魔法:《国譲り》!」


 髭で顔が埋め尽くされた仙人のようなお爺さん:アコーディオ・ハイランドが大きな槌を手に持ち、魔法を発動させる。それと同時にハイランド連隊の騎士たち15人が一斉に大砲を構えた。


「私も行こう。デカイ花火を打ち上げて開幕と行こうじゃないか」


 カデンツァは先ほど異端審問官を斬り殺した大鎌を取り出す。よく見たら、フィンベルはその大鎌に見覚えがあった。


「あ、【天津殺(あまつころ)シ】!?パルシア王が使用してたという有名な術具!?な、なんで?」

「おや、知ってたのかい?」

「知ってるも何も!!魔槍と呼ばれた火雷槌(ホノイカヅチ)と並ぶ神話級の武器ですよ!?私が知らないわけ……」

「いや、まぁ普通の人は知らない筈なんだけどな。俺も知らんかったし……コードも知らんかったし」

「へ?」

「結構偉い人じゃないと知らないっていうし……これはフィンベルちゃんの出自が……」

「わ、わああああ!!私をなんか闇深キャラを見る目で見るのやめてください!!」


 闇深キャラ、いいぞ〜。


「ま、解放できてないからせいぜい秘宝級止まりのシロモノさ。さて、じゃあ、行くとするか」

「ふぅううぅん!!」


 アコーディオはその槌を大きく振り下ろし、地面に叩きつけた。それと同時に、ハイランド連隊は大砲を城に向かってぶっ放す。


 戦争が始まった。



…………


…………………


「連れて参りました」

「ご苦労」


 南の魔王の謁見の間に少女が連れてこられる。フィンベルの妹分:メラだった。


「こ、こは……?」

「こんにちは満月教会の神官さん。俺は魔導国国王レーゼ。さて、早速だが魂魄術式と、それに必要な魔力を提供」

「え、と?満月教会……?」

「ん?」

「それ、多分フィンお姉ちゃん……」

「………………………………………………」

「………………………………………………」

「マジ?」

「まじまじ」

「おい、チロル。シャマルを呼べ。キッツイお仕置きを……」

「あぁん!レーゼさまぁ!わたくしにもそのお仕置きを〜!!」

「いやいいから、シャマルを……」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!


「な、何事!?」

「む、地震か?」


 大きな揺れが地下宮殿に響いた直後、



 ドゴオオォオオオオオオオオオオオオ!!!



 爆音が響き、外から何かが崩れる音がした。


 ドゴオオォオオオオオオオオオオオオ!!

 ドゴオオォオオオオオオオオオ!!


 次々と起こる爆発音。


「何事だ!」

「申し上げます我が君」

「シャマルか、そういえばさっきの小娘は……」

「今はそれどころではありません。フィロンツィ城が砲撃されております。また、城下は大地震により混乱している模様」

「な、何を……馬鹿な」


 レーゼが移動魔法で宙に浮かび、地下宮殿から出るとそこには、


「なっ!?」


 フィロンツィ城に黒い斬撃が襲いかかっている最中であった。


 ガラガラガラッ!


 崩れていく城。そしてフィロンツィ城下に火の手が上がる。


「ふむ、襲撃か。1日に何度も来るとは馬鹿な冒険者共め。だが俺の城を壊したことは死んで償ってもらうぞ。まあ、その前に地下宮殿の奥まで来れるかどうかは見ものだな。ふはははははは!!!」



…………


………………………


「魔剣スキル:《(そら)落トシ》!!」


 カデンツァが天津殺シを振るうと、溜まりに溜まった真っ黒なエネルギーが一気に放出された。斬撃はそのまま街を蹂躙しフィロンツィ城を破壊していく。


「はっはっは!!愉悦だね!魔族どもの象徴を粉々に破壊してやったよ。さて、城下にこのまま砲撃を続けて突入しよう。人権?そんなもの、人間様を拐って殺してた時点であいつらにはないのさ、悪確定だよ。愉悦だね!」

「ちょおおおお!!おろしてください!!」


 お姫様抱っこでフィンベルを運ぶカデンツァ。それに続くのはコード、夜弦、アコーディオ、ハイランド連隊だ。因みにケネンドルフは置いてけぼりである。寂しい。


「門を突破する。夜弦頼むよ!」

「りょーかい!ほらほらどけどけぇ!!」


 夜弦が取り出したのは、なんと……テニスラケット。


「おらぁ!!」

「えぇ!?」


 夜弦のテニスラケットから無数のテニスボールが放たれる。それらは凄まじい精度で城門へと向かって行き、城門の設備を爆破・破壊していった。ガラガラと音を立てて崩れる城門。中には魔族も居ただろうが、夜弦に躊躇はなかった。


「やらなきゃ俺が死ぬんだ、もう吹っ切れた!」

「吹っ切れすぎでは!?」


 フィンベルの叫びは虚しく空へ消えていくが。アコーディオ・ハイランドと呼ばれる銀月級のお爺さんが、カデンツァの方に手を置く。


「さて、シルフォルフィル卿。準備が整いましたぞ。ワシの全体攻撃力、夜弦の一点突破力、コード殿の遊撃能力、そちらのお嬢さんの蘇生回復魔法、連隊の破壊力……そして貴殿のカリスマと圧倒的戦闘力。これがあれば怖いものなどありませんな」

「ああ勿論だとも。門は開いた。皆殺しにしてやろうじゃないか!」


 フィンベルを抱えたまま再び走り出すカデンツァ。魔族の軍隊がその道を阻もうとするが彼らには通じない。


「全て蹴散らしてくれ、夜弦」

「合点承知ぃ!」


 レベルの高い魔族も多いのだろうが、それを物ともせず襲いかかる連中を全てテニスボールで跳ね除けていく。それでも残った敵は、アコーディオ・ハイランドとそのハイランド連隊が次々と刈り取っていった。


「ぎぃああああ!!」

「死ね、ゴミどもが」


 僅か15人の連隊だが、そのタグカラーはどれも紫月。一人一人が近衛騎士団長:レガート・フォルベッサに匹敵する。


「先に行け、シルフォルフィル卿」

「恩に着るよハイランド連隊諸君。馬鹿みたいに強い奴がそっちに行かないよう努力する」


 レベル50以上の魔族・魔獣さえもカデンツァが一撃で斬り殺していく。カデンツァのレベルは55。正直22歳のカデンツァがレベル55というのはあり得ないのだが、それを除いてもここまで圧倒できる訳がない。その秘密はきっと、神話級術具:天津殺シにある。


「さて、何人ヤッたかは知らないが、存外楽に着いたね。フィロンツィ城」

「ハイランドの地震と最初の砲撃でかなりの魔族が死んだとは思うけどな。あの爺さんの部隊マジで化け物だろ……」

「お陰で楽に来れたがここからが本番さ。さて、城は崩してやったしどうやって地下に潜るかだが……」


 動き出す地面と、現れる地下宮殿への入り口を見てカデンツァはニヤリと笑う。


「どうやら向こうから招待してくれるらしいね。来る途中にブチ殺してやった幹部の首でもお土産に持っていってやろうではないか」

「物騒です……」

「フィン、どうだい?私はかっこいいだろう?」

「まぁ……カッコ良かったですけど」

「ふふん!やったよ!夜弦!フィンが私に惚れてくれたよ!」

「惚れてません!!」

「あんま調子乗らないようにカデンツァに対しては冷たくしといた方がいいぜ?フィンベルちゃん」

「夜弦さんの意見、有り難く受け取っておきます」

「ふむ。納得いかんな」

「いいからカデンツァ、てめぇは目の前の宮殿をどうするかに頭悩ませとけ」


 地下への階段を下っていく。どうやらここから何十層もの迷路が広がっているようだ。


「ようこそ、冒険者よ」


 頭上からアナウンスが響く。尊大な物言いだった。


「おや、どうやら大ボスが出てきたようだね。君が南の魔王かな?」

「いかにも。名をレーゼと言う。さて、貴殿らにはこれから、我々の元にたどり着くまでに数々の死の試練を味わってもらう。先の銅月の冒険者レイドはここで尸を晒していった。貴殿らがそうならないことを祈って……」





「嫌だね」





「…………………………………………は?」


 即答するカデンツァ。思わずレーゼは声が漏れ出る。


「そんなみみっちいことはしていられない。早急に出てきてもらうとしよう。




《天落トシ》!!」


 カデンツァが天津殺シを地面に向けて振るう。すると凄まじいエネルギーが膨張していき、フィールドが破壊されていく。


「コード、《重力結界》と《霊脈探査》を!」

「かしこまりました……フィロンツィ地下地脈ライブラリー123・1245・52の地点、複数の魔力反応確認。1人、ありえない量の魔力を保有しているものがいますね。恐らくこれが、南の魔王です」

「了解。落ちるよ、フィン、私に捕まって」

「え、え、え?きゃあああああああ!!!」


 次々と崩れていく地下宮殿。本来なら無数の道があるダンジョンがこの先に広がり、様々な仕掛けと強敵がカデンツァを阻む予定だったのだろうし、先に入った冒険者もきっとそれらに敗れていったのだろうが……。


「そんな時間はないのだよ。全部壊してしまおうじゃないか」


 緑色の光を放つ球体がカデンツァ、フィンベル、コード、夜弦を包み、ゆっくりと降下していく。重力結界と言って、重力の流れを無視してゆっくりと降下していく移動型の結界である。結界自体の能力は高くなく、物理的な瓦礫のみを弾く結界となっている。とはいえ上級魔法であることに変わりはない。


「捕捉しました。向かいましょう」


 重力結界は移動していく。崩れゆく瓦礫は、結界を通して全て緑色に映る。フィンベルはそれを眺めて、美しいとまで感じた。



………


…………………


「さて、ご機嫌ようレーゼ君。どうやら捕虜を生かしておいてくれていたみたいで、感謝感激だよあっはっは」


 流石にここまで《天落トシ》の影響はなかったらしく、途中カデンツァは強引にダンジョンを破壊して進んでいった。チートだと思う。

 地下奥深く、恐らく王の間のようなところだろう。巨大な椅子と巨大なシャンデリア、天井。禍々しいステンドグラス。そして並ぶ魔王の配下。椅子の前にはこちらを睨みつける南の魔王の姿。顔は人間のようだが、肌は真っ青でツノが生えている。大きな黒の王冠を被っており、まぁ魔王なんだろうなぁという印象を、フィンベルは抱いた。


「貴様……よくもやってくれたな。本当に人間か?ダンジョンを破壊できるほどの力を貴様のような小娘が出来るとは到底思えない」

「もっと頑丈に作ったらどうかな?待機していた君の部下も、城下にいた君の部下も皆殺しにしてしまったよ。あぁ、これお土産」


 持ってきていたのであろう魔族の首をレーゼの足元に放り投げる。それを見た配下たちは憎悪に満ちた目でカデンツァを睨んだ。


「レーゼ様、こやつ殺していいですかぁ?」

「いえ我が君、わたくしにやらせてください」

「まぁ待て落ち着けチロル、シャマル。身の程知らずの冒険者に、俺直々に死を下してやろうではないか」

「なんと!?レーゼ様直々に死を下していただけるなど、なんと恐れ多い!この者も涙しながら喜ぶでしょう!」

「わたくしも死ぬときはレーゼ様に殺してほしいですわ〜!!」

「何言ってんだコイツら……」


 メガネをした魔物:シャマルと吸血鬼女:チロルが恍惚とした表情で語っているが、夜弦にはそれが果てしなく気持ち悪いものに見えたらしい。


「遺言は終わったかな?君を殺した後は君の部下にも後を追わせてあげるから安心したまえ」


 空気も読まずにカデンツァはえげつないことを言い出す。これじゃあどっちが悪役かわからないですねぇ……。


「ふん、一瞬だ。一瞬で殺してやろう」

「へぇ、それはどういう」

「出ましたわ!レーゼ様の一瞬殺し!この宣言を聞いた冒険者は、どれだけ強かろうと一撃でレーゼ様によって葬られる。この無礼な小娘をさっさと八つ裂きにしてくださいレーゼ様!」

「外野うるっさいな。なんでもいいからやりたまえよ」

「ふむ、泣き叫んでもどう遅いぞ、愚かな娘よ。





《時の砂漠》!!」


 レーゼが禍々しい黒い杖を地に突きつけると、途端に空間が歪んでいく。黒いオーラが溢れ出て、フィールドを作り替えていった。魔力放出量が尋常ではないのだ。


「これは……へぇ。固有結界かな。確かに通常空間から切り離されたここで死んだら、一瞬で死んだように見えるかもしれないね」


 空間が切り替わると、そこは砂漠だった。木葉がダッタン人の踊りと戦った場所のような感じである。


「俺の固有結界:時の砂漠ではな、確実に貴様を殺すことができる。何か言い残すことはあるか?」

「はは、面白いな。やれるものならやってみたまえよ、魔王の真似事をする雑魚にできるのなら……」











 その瞬間、世界が、静止した。











……………


…………………………


 時間停止。それがレーゼの力だ。とはいえ固有結界内のみでの時間停止能力で、その使用魔力は凄まじい量であるが、止めた以上その時間制限はない。無敵の能力だった。勝てるものなどおらず、今まで何百という強者を屠ってきた。

 愚かだ、とレーゼは思った。目の前で固まっている自信満々の小娘。武器すら出せず、魔法すら使えず、無力にただ止まっている。次の瞬間には四肢をもがれ、俺に頭を掴まれながら蟲たちの牢屋に打ち込まれて泣き叫びながら死んでいくのだ。


(ああ、たまらなくそれが見たい。そうやって俺を散々罵倒したこの女が、部下を殺していった女が、自信満々で恐らく腕が立つのであろうこの女が、これからただただ奪われる側として死んでいく惨めな姿を、早く俺に晒せ。ああ見たい。見たい。見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい)


「さらばだ、愚か者」


 レーゼは剣を取ると、カデンツァの腹にその切っ先を向けた。そして、













「それが油断というものだよ、三流くん」


 剣を握る、レーゼの腕が砂漠の砂の中に落ちた。


「え……?」


 千切れた腕からは真っ黒な液体がドボドボと垂れていく。何が起こったかわからないレーゼは腕を一目してから、前を見た。




 そこには、大きな鎌を携えて悪魔のような笑みで微笑むカデンツァがいた。




「な、な、何故……」




 声が掠れる。身体中が熱い。壮絶な痛みが、レーゼの中を駆け巡る。


「があ、がああああああああああ!!!」

「痛いかい?こう言うのはあまり柄ではないが、君に殺された人間たちの痛みと恐怖はそれの何万倍もあっただろうさ」


 膝をついて、腕を抑える。レーゼはこの圧倒的な能力で敵をねじ伏せてきた。迫りくる強者を、人間魔族問わずに殺害してきた。木葉と同じで、直接的な痛みを伴う攻撃なんて受けたことがなかった。

 だが、目の前に死神が現れたのだ。そして初めて恐怖する。自分にも勝てない相手が存在するという事実を思い知る。


「気づいてないとは思うけど、君のこの魔法はそれを上回る同一魔法を使用すれば簡単にかき消せる。さっきまでの静止は演技だよ、立っているときにフラフラしないように&笑わないようにするのがとても大変だったな」

「はぁ、はぁ……ど、同一の、魔法……?」

「固有結界魔法だよ。天津殺シの持つ最大の魔剣スキル。ほら、周りを見たまえ。







砂漠なんてどこにもないだろう?」

「な!?」


 あたりは、ただただ黒の世界。黒い人影がゆらゆらと蠢き、地面は割れ、真っ赤な炎が辺りを覆っている。まるで、まるで、


「じ、ごく?」

「大量殺戮してきた君にはお似合いの末路だろう?ここはあくまで地獄への入り口に過ぎない。門はそちらだ、お帰り願おうか」


 カデンツァの指差す方に、禍々しい黒の扉があった。


「固有結界魔法に時間遅延の魔法を上乗せして、結界の変化を遅くしたのさ。君の時間停止は自分の結界内でしか使えない。時を止めると言う能力は前から聞いていたから、対策は完璧だよ」

「や、だ……」

「君の部下のことなら心配しないでくれ、直接ではないが地獄に送り届けてあげよう」

「あ、だ……」

「だから安心して地獄に……」

「いやだあああああああああああああ!!!」


 レーゼは杖を持ち、ありったけの上級魔法を放とうとする。しかし、どう遅かった。








「人間様を舐めるなよ、南の魔王」








 天津殺シの真っ赤な刃がレーゼの体を両断し、その体からは真っ黒な液体が飛び散った。その瞬間、結界が解ける。残ったのは、レーゼの死体を踏みつけるカデンツァだけだった。



「な、レーゼ……さま……?」

「カデンツァさん!!」


 フィンベルとチロルがそれぞれカデンツァとレーゼに駆け寄る。


「あぁ、フィン……ごめん、少し疲れた」

「って、大丈夫ですか!?今魔力を……」

「とりま膝枕してくれ……」


 フィンベルに倒れかかったカデンツァはそのまま彼女の胸に顔を埋める。フィンベルは赤面しながらもカデンツァを受け止めた。


「……変態」

「なんとでも言ってくれ、私は疲れた。魔力ポーション飲んでフィンの膝で寝たい」

「……脱出してからにしてくださいね」

「言質は取ったよ。さぁ、帰ろう」


 カデンツァがフィンベルに支えられながら立ち上がる。固有結界使用後なのでもう魔力が枯渇していた。


「レーゼ様ァ!レーゼ様!」

「我が君!しっかりしてください!」


 レーゼの亡骸を前に泣き叫ぶ彼の配下たち。そんな彼らをみて、カデンツァはコードに言った。


「殺しといてくれ」

「な……」

「畏まりました」


 驚愕するフィンベルと、黙って従うコード。コードは淀みない足取りでレーゼの前の2人、シャマルとチロルの前に立ち、



 抜剣して首を撥ねた。



「ひっ!!」

「ハイランド連隊も到着したみたいだ。そこで閉じ込められてる人質を解放してフィロンツィから撤退しよう。もうここに用はない」

「え、えぇ」

「ハイランド、後は皆殺しにしてくれ。禍根は残すな」

「承知」


 いつのまにか地下宮殿に到着していたハイランドとその連隊が地下に溜まっていた、主人を失った魔族を次々と討伐していく。

 圧倒的な勝利だった。

あと1話で終わります。次はやっと三章。久しぶりに木葉を描ける〜♪

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