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2話:南の魔王

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 南の魔王と呼ばれる存在がいる。

 魔族の地であるリタリーは、数十もの王による群雄割拠状態が起こっていたが、中央部は南の魔王が治める魔導国が覇権国家となっていた。文字通りの化け物たちを統括し、時折人々を拐っては消し去ってしまう。メルカトル大陸には5つの魔族群雄地点があるが、そのうちの一つとしてリタリーの魔導国が挙げられるレベルだ。

 そんな魔導国の南の魔王:レーゼはチート級の化け物と噂だった。


「が、ぁぁ……」

「ふむ、こんなものか」


 ついさっき、魔導国に家族を連れ去られたと言って入り込んできた銅月級の冒険者1人と紫月8人、そして翠月級18人、下級冒険者23名の52名:レイド2つ分の冒険者ギルドの死体を踏みつぶしながら、レーゼは呟いた。

 ビサの街の市長の他、その近辺の数名を救いに来たビサの街ギルドだろう。銅月級がいたのは驚きだったが、残念ながらレーゼの敵ではない。まさに瞬殺という勢いで殺され、他のものは、


「いやだ、やだああああああ」

「はははははははははははははは」

「うぇ、ぉおえあぁお」


 無数の蟲が蠢く大牢で狂ったように泣き叫んでいた。彼らは優秀な冒険者だったのだろうが、ああなってしまえば関係ない。男も女も関係なく、陵辱され続けて心を壊されてそして、パリスパレスの都へと送られる。そういう契約なのだ。


「レーゼさまぁ、冒険者と街の住民の調教が殆ど完了しましたわぁ。半分は保存食に、半分はさっさと王都に送ってしまいましょう?」

「ああチロルか、そうだな。忌々しいがそういう契約だ。我々が3代目の魔王を擁立し、覇を唱えるまでの辛抱だ。俺の能力は魔導国の外では制限されてしまう。人間どもを皆殺しにできるほどの余力が残らないだろうからな」

「あぁ!流石レーゼ様でございますわ!ちゃんと、後のことも考えている!我らの尊き主人さまぁ!」


 吸血鬼の女:チロルが恍惚とした表情でレーゼを褒め称える。レーゼの側近には頭のおかしい魔族しかいない。


「ニベ、ラドー、シャマルの側近3名ただいま帰還しました。ラスペチアの街から大量の人間の拉致を完了。中には満月教会の聖女と呼ばれた女も混じっています。3代目魔王護送の際の魔力にかなり利用できるかと」

「わかった。他のやつは蟲にでも食わせておくといい」

「はっ!」

「ふふふ、俺の部下はやはり優秀だな。聴くところではジャニコロ卿は魔王を担ぎ上げるのに失敗したようだが、俺は違う。人柱を集め、この魔法陣さえ完成させれば魔王を直接ここに呼び出すことができる。この秘術で、他のものを出し抜ける!」

「流石はレーゼ様です!ここにいる一同、みなレーゼ様について参ります!」

「ふはは、よかろう。それでは最終フェイズに入る。俺の手で、魔法陣を完成させる。大陸の覇権は魔族が握るのだ。ふははははははは!!」


 レーゼのありふれた高笑いが南の魔王城に響き渡る。それを側近たちは恍惚の眼差しで見ていた。



………


…………………


 所変わってラスペチアの街では、襲撃を受けているのにも関わらずとある2人が漫才を繰り広げていた。


「いや、絶対嘘ですよね……?」

「本当だとも。私がカデンツァ・シルフォルフィルさ。さぁ、存分に愛を……って、流石に巫山戯ている場合じゃないね」

「い、意外です……というか今更真面目キャラブられても若干不愉快です……」

「私としてもキャラブレの危機は避けたかったんだけどね、状況が状況だ。筆頭司祭をぶち殺したとはいえ、根本的な問題は魔族の侵攻にある。兎も角ここは危険だ。一旦市議会堂に行こう。ケネンドルフ閣下、閣下の部下は……」


 王都から派遣された上級主幹はケネンドルフというらしい。ケネンドルフはなんてことない少しお金持ちそうなおじさんに見えるが、上級主幹ということは神聖王国の軍事において司令部の中枢に食い込むほどの位である。ガタガタ震えていたが、さぞやり手なことなのだろう多分おそらくきっと。


「全員死んでしまっただろうね……。昔から私に良く尽くしてくれた部下だった」


 カデンツァの問いかけに、ケネンドルフは首を横に振って言った。


「お悔やみ申し上げます。ですが、少なくとも閣下は生きておいでです。私の部下が護衛しますので、フィンと共に市議会堂へ」

「待ってください!私、森のせせらぎに戻ってもいいですか!?みんなが心配なんです!メラ、メラが……」

「ふむ。それじゃあ私がフィンを護衛しよう。閣下にはコード、ヨヅル。君たちがついていってくれるかい?」


 カデンツァが合図すると路地の方から2人の男が歩いてきた。2人とも中々の美丈夫だ。


「ではカデンツァ、市議会堂で合流しましょう。僕たちも途中の魔族を討ちながら向かいます」


 コードと呼ばれた男性は、美女と間違うほどの美青年で真っ白の髪とアメジストの如き紫の瞳を持っていた。とても神秘的な雰囲気を出している。


「てめーも死ぬんじゃねーぞ変態!ってまぁ、美少女の前で死ぬタマじゃねぇだろうけどさ」


 ヨヅルと呼ばれたもう1人の青年はまだ幼さが残る顔立ちだったが、東の国風の顔と黒髪よりもまず褐色で健康的なところが特徴的だった。


「よし、頼んだよ」






「あの方達は……?」

「私の忠実なシモベたちだね。というのはジョークで、私の冒険者チームの優秀なメンバーだから心配は要らない。それより街の方が心配だ。この街には駐屯兵はないのかい?」

「え、えぇ。少数の戦闘系ギルドと、少し先に国境警備隊がいるのですが……」

「ふむ……最前線だというのに何とも防衛能力が欠如している。やはり王都政府は北リタリー公国を餌場として利用しているのか」


 街の方に戻る途中家屋が尽く破壊され、抵抗した人々の抵抗痕……つまり血痕や人間そのものが残っていた。フィンベルは思わず口を押さえて嘔吐しそうになる。

 それでもなんとか押さえながら森のせせらぎへと向かった。魔族が襲ってきたりもしたがその度にカデンツァが一撃で八つ裂きにしていた。






「……………………う、そ」





 森のせせらぎの中は滅茶苦茶にされ、その奥の方まで血痕が続いていた。


「おばさん!!おばさん!!返事してください!」


 フィンベルは必死に呼びかけるが返事はない。返事がないのを確認すると、カデンツァは澱みない足取りで奥へと進んでいく。


「______ッ!?これは、なかなか……」

「あ!!おばさん!そんな!」


 店の奥の階段下に、血塗れで横たわっている女性がいた。店主のおばさんだった。肩からざくりと爪で引き裂かれたらしく、今にも命の灯火が消えてしまいそうなほど乱れた呼吸をしていた。


「これは……もう……」


 カデンツァが諦め気味に目を伏せるが、フィンベルは諦めなかった。自前の杖を取り出し、詠唱を始める。


「満月様、傷ついた民をお救いください。満月の光、癒しの光をかのものにお恵みください。私にこの者を癒す力をお与えください。


 《恩恵の波動》!」

「な……!?」


 フィンベルが詠唱を終えると、店主のおばさんの半径約2メートル以内に魔法陣が形成されていく。緑色の魔術式が張り巡らされていき、店内を明るく照らしていった。


(霊脈から湧き出る魔力を増大させて、蘇生の力に変換しているのか。いや、しかしこの魔法は……回復魔法というより蘇生魔法に近い。何者なんだこの子。それに、この術式……どこかで見たような……)


 カデンツァは暫くその様子を眺めていたが、近くの棚にあった包帯や消毒液を取りだした。


「フィン、これは使うかい?」

「ありがとうございます。あと、お湯を沸かしてもらえますか?」

「お安い御用さ。それで、治りそうかい?」

「……五分五分です。魔力が……足りないかも……」


 苦しそうに呼吸するフィンベル。それを見てカデンツァは魔力ポーションを取り出した。


「飲ませて、もらえませんか?手が離せなくて」

「勿論だとも」


 目を閉じて口を開けるフィンベル。苦しそうな表情、汗が張り付いた栗色の髪の毛。なんだかとても扇情的だな、と感じてカデンツァは思わずゴクリと唾を飲んだ。


(え、えろっ!エッロ!!エッッッッ!!この子本当にエロいな……うん。エロい。エロスの塊)

「なんか失礼なこと考えている気がするんですけど本当にやばいんで飲ませてもらっていいですか!?」

「あ、ああ。すまない。ほら……」

「ん……んっく……んっく」


 さらに扇情的な声を出しながらフィンベルは魔力ポーションを飲み干した。カデンツァは心臓の鼓動が止まらなかった。何この娘エロっ……と。



…………


…………………


「う、うぅ……」

「おばさん!しっかりしてください!」

「あ、あれ……ここは……」


 目が覚めたようだった。


「ふぃ、フィンベル!?無事だったのかい!!ていうかアタシは確か魔族にザクッと……」

「良かったッ!!おばさん!!本当によかった……」


 泣きながら店主のおばさんに抱きつくフィンベル。店主のおばさんはそれを見てフィンベルの頭を撫でた。


 その時のフィンベルの笑顔があまりに可愛くて、カデンツァは思わず見惚れてしまう。純粋で、太陽のような笑顔だった。





 けれども、その次の会話で彼女の顔から笑顔が消える。


「あんただけでも無事でよかった……本当によかった……」

「おばさん……メラは……?」

「それが、メラは……魔族に連れて行かれてしまったんだよ……」

「な!?」












 ラスペチアの街で起こった魔族による襲撃事件で1000近い魔族が侵攻し、総勢966名が拉致。123名が死亡。2147名が重軽傷という大惨事だった。更にはラスペチアより南にある国境警備詰所の騎士たちが軒並み拉致されており、また周辺の村々もほぼ全滅状態だった。その死者は合計で300名にも及ぶとの報告が入っている。

 カデンツァが虚な目をしたフィンベルやそれに付き添う店主と共に市議会堂へと向かうと、そこはラスペチア市民たちで溢れかえっていた。とは言え生き残ったのは上の年代ばかりで、彼らは子供の名前を呼びながら泣き喚くものが多数だ。


(子供や若者を狙った拉致……ね。特に女性かな。これは本格的に王都に送ってる説が濃厚になってきたな)


 カデンツァには、これまでに数多くの村での拉致騒動の報告が入ってきているが、どれも似たようなケースが多かった。ここまで大規模なものは流石に初めてみたが。


「カデンツァ!遅かったじゃん!何してたんだよ」


 褐色の若者が駆け寄ってくる。ヨヅルと呼ばれていたカデンツァの仲間だ。


「おや夜弦(よづる)。すまないね少し手間取っていた。で、状況はどんな感じかな?」

「ま、一言で言えば最悪だな。あの襲撃から3時間くらい経ってるが、周辺の村々からの避難民が続々とこの村に集まってる。食料も物資も何もかもが足りねぇ。家に帰そうにもまだ魔族がいるかもしれねぇって怯えてる。しかも応戦した戦闘ギルドは壊滅、国境警備隊はほぼ全員拉致されたときたもんだ」

「戦える人員がゼロということだね。ははは、流石に笑えないな」

「笑ってんじゃねぇか……」

「呆れ笑いだよそれくらい許してくれ。まさか国境沿いの街なのに防衛能力がザル以下とは思わなんだ。しかも途中の死体を見てきたところ翠月以上が殆ど居ない。北リタリー公国軍部や南方パルシア司令部への援軍要請は?」

「出したけど……公国の方は直ぐに援軍寄越すってよ。南方司令部はいつも通り王都政府へ報告するって時間稼ぎしてらぁ」

「いつも通りのクズ対応で草も生えないね」


 神聖王国直轄軍や軍管区は辺境の地に軍隊を派遣しないのは御約束だ。大抵は軍管区内の下っ端……つまりここでいう北リタリー公国に押し付ける。生憎とカデンツァは公国には何にも期待していない。


「北リタリー公国にはマトモな直轄軍と冒険者がいない。いやまぁ正式にはいるっちゃいるけど私たちの味方にはなってくれないだろうね。そもそも、人質奪還の為に動いてくれるとは思わないな。精々復興の手伝いとかしかしてくれないだろうね。自力でなんとかするしかない」

「そんな!!」


 カデンツァの話を聞いていたのか、フィンベルが突然立ち上がった。


「メラ……メラはどうなるんですか?なんで、国家は……王様は私たちを助けてくれないのですか?」


 ふらふらと歩き出す。焦点の合わない目には涙が溜まっていた。


「私の……せいです……私がこんな力を持ってるから……きっと私と間違ってメラは連れて行かれたんです……。私が……私のせいで……」

「君の、力?」


 カデンツァが思わず聞き返す。


「私は……満月教会の神官として生まれたんです。でも私も私の母も異端の力を持っているっていわれて、異端審問官から逃げてきたんです。そんな時……とある方が私を救ってくれたんです」


 フィンベルは涙いっぱいにカデンツァを見た。その表情に、カデンツァは見覚えがあった。リヒテン市の西の山で、ある親子を助けたことがあった。








(異端審問官に追われ、今にもトドメを刺されそうになっていた親子。美人だからとつい助けた女の側には、小さな女の子が付いていた。あの時の少女が、丁度こんな表情で私を……)







「……あの時の、少女が君か?フィン」

「……小さかったので、顔は覚えていません。何しろ10年も前のことだったですし、カデンツァさんはフードをかぶってました。その頃はカデンツァさんだって12〜13歳頃でしょうし……」


 異端審問官を八つ裂きにした結果として傷ついた私の腕に、蘇生魔法にも等しいほどの回復魔法をかけた少女。そうだ、あの時のことは鮮明に覚えているとカデンツァは思った。



「その回復魔法、そして恐らくもっと他に取得しているであろう魔法を狙って、異端審問官も魔族も君を狙っていた。そういうことか」

「………………………………」

「だから、君のせいだと?」

「………………………………は、い」


 俯くフィンベル。地面に涙が滴り落ちた。

 フィンベルだってわかっていた、相手は魔導国だ。一切の理不尽がまかり通るような魔族の国家。人間や亜人とは一線を画するほどの強大な国家、魔王。今まで攻め込んでこなかったことが不思議なくらいの、化け物。フィンベルがとある特殊な魔法を取得していることを考えれば、また、満月教会の重要な出自であることを考えれば魔族からも狙われることは自明の理だったのに。


(私のせいで……メラが……)


 その様子を見て思案するカデンツァ。夜弦(よづる)がカデンツァを引っ張る。


「おいおい、変なこと考えてねぇよな?相手は魔導国だぞ?しかも王都と繋がってるんだ。下手なことやったら王都からも睨まれちまう」


 小声でもフィンベルに聞こえてしまったのか、フィンベルの表情は更に暗くなる。零れ落ちる涙は止まらず、思わず泣き崩れそうになったその時、








 サラッと、フィンベルの頬を綺麗な白い手が撫でた。


「え……」


 涙目のまま顔を上げると、カデンツァが微笑んでいた。


「フィン、君は笑ってたり怒っていたりしたほうが可愛い。君に涙は似合わない」


 気障ったらしくカデンツァはそういうとハンカチを取り出してフィンベルの涙を拭った。そして、決意したように振り向くと夜弦に向かってこう言った。











「魔導国を攻め滅ぼそう」











「………………」

「………………」

「………………」

「はぁぁああああああぁああああああ!?!?」

「わわっ、夜弦大声を出すのはやめたまえ。フィンが驚いているだろう」

「いや私も叫びたいくらいなんですけど……」


 さも当然のようにフィンの両肩に手を置くカデンツァ。そして大声をあげる夜弦。人から離れていたとは言え、遠巻きに街の人々がこちらを見ていた。


「いや、おま、おまおまおま!何言ってんの!?」

「いやだから、魔導国を滅ぼそう。南の魔王以下魔族のゴミどもを私たちで焼却処分してやろうじゃないかはっはっは」

「はっはっはじゃねぇ!!魔導国は王都と繋がってるんだぞ!?それ以前に5000近い魔族が巣食うメルカトル大陸5大魔族生息地だ。しかも相手は時すら止めると噂の南の魔王!勝てるわけ……」

「おいおい、私を誰だと思っている?」


 驚いてる市議会室から出てきたケネンドルフ上級主幹やラスペチア市長、街の人々の前で高らかに言う。


「銀月級冒険者:天撃のカデンツァだ。英雄なんて糞食らえと思っていたが考えがそこそこ変わった」

「へっ!?きゃあっ!」


 カデンツァはフィンベルを抱き寄せて言った。


「私は、彼女が望む英雄になってあげたい。彼女に私の本物の英雄譚を見せてあげたい」

「な……?」

「そしてあわよくば惚れてもらいたい。お嫁にしたい、ペロペロしたい、まじで」

「おい変態。私欲、私欲」

「美少女が泣いているんだ。私が涙を拭ってあげないで誰が拭ってあげるんだい?」


 呆れる夜弦やケネンドルフ。フィンベルも発言には呆れていたが、彼女の目にはカデンツァがとても美しく、それでいてカッコよく映った。10年前、彼女を助けてくれた英雄の姿がそこには確かにあった。


「本当に……?」

「ん?」

「本当に、助けてくれるの、ですか?」


 縋るような目で、掠れる声でフィンベルは言った。色んな陰謀が絡んでいて、沢山の思惑が絡んでいて、たくさんの敵を相手にすると分かっている筈なのに……と。けれどもカデンツァは迷わず即答した。


「勿論。君には笑っていて欲しいんだ。泣いている姿も可愛いけれど、笑顔はもっと可愛い。私は君の笑顔がみたい」

「_____ッ!?」

「大体、君のせいなんかじゃないさ。どの道この平和ボケした街にはいつか攻めてきていただろう。まぁ、丁度いい機会だ。いい感じに全滅して頂こう」

「いやいや、簡単に言うなよ……仮にも魔王って言われるくらいの奴だぞ?どうやって……」

「そんなことは後で考えるさ。まずは準備だ

 よはっはっは!愉悦だね!」

「愉悦だねじゃねー!!!何美少女に抱きつかれてご満悦な顔してるんだよ!戦力が足りないってことを……」


 怒りながらツッコむ夜弦に、カデンツァが微笑む。邪悪な笑みだった。


「【ハイランド連隊】がもうすぐ到着する」

「な!?」


 ザワッ、と空気が変わる。


「私、夜弦、ハイランドとその連隊。コード、フィン。バランスがとても良い。加えて優秀な隠匿スキル持ちのケネンドルフ閣下もいる。勝てると思わないかい?」


 フィンとしては全然馴染みのない名前が沢山出てきていたが、夜弦の表情が見る見るうちに唖然としたものに変わっていく。


「……いつ着くんだよ」

「あと1時間後かな。ま、魔導国領に近づくって言うから念のため近場に来ておくように命令してたんだけどね」

「人使い荒れー」

「念には念を、だよ。魔族の襲撃があったからこっちまで呼び寄せといた。急ぐようには伝えて」

「もう着いてますぞ」


 フィンベルが振り向くと、ラスペチア市議会堂の入り口に、完全武装した男たちが立っていた。先頭には真っ白い髭が顔を覆っている老人がいる。フィンベルがどこがで見覚えがあったような……と思っていると、


「は、アコーディオ・ハイランド!?銀月級の!?」

「精霊王ハイランド……!?」


 フィンベルでも聞いたことがある。精霊王アコーディオ・ハイランドは、国内3人目の銀月級冒険者だ。それが、何故?


「戦力も充分揃った。王都政府にはまぁ、国民が拐われたから奪還しましたとでも説明しておこう。王都にとっては最悪レベルの嫌がらせになるだろうが、フィンベルの為だ。私の知ったことではない」

「へっ!?へ?」


 フィンベルの手をとり、歩き出すカデンツァ。


「さあ、君の妹を取り返しに行こう。そしてついでにこの街を、いや君を傷つけた魔導国を滅ぼしに行くとしよう」


 そんな風にさらっと言って微笑むカデンツァを見て、フィンベルは自分の体温が上がってくのが分かった。紛れもなくずっと憧れてきた英雄の姿がそこにあり、フィンベルの手を取っている。迷うことなんてない。




「はい!」




 決意を胸に、フィンベルはカデンツァの手を握り返した。

かるーく【登場人物紹介】

○カデンツァ・シルフォルフィル→トロイメライと名乗ってた変態。美人が大好きの残念美女だが、銀月級の冒険者。天撃の鉾のリーダー。黒と白に髪の色が別れている。

○フィンベル→栗色の髪をおさげにした女の子。ツッコミ属性。

夜弦(よづる)→黒髪褐色の若人。口が悪い。

○アコーディオ・ハイランド→銀月級冒険者。白い髭が顔を覆っているお爺さん。

○コード→白の髪と紫の瞳を持つ美青年。

○ケネンドルフ上級主幹→王都からきた小太りの上級主幹。

○レーゼ→南の魔王。

○チロル→レーゼの部下の吸血鬼女。

○メイフェアー・ドルトムーン→筆頭異端審問官。カデンツァに殺された。

○メラ→フィンベルの妹みたいな存在。

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