2.5章6話:最上笹乃の決断
笹乃視点のお話です。
部屋の中はもう必要なものは何も残っていない。全て鞄に詰めた。足りない分はアイテムボックスへ。少し寂しさも募る反面、もうここにはいたくないという思いが強かった。
「真室さんも、こんな気持ちだったのでしょうか」
呟けどその答えは帰ってこない。私はもう決めたのだ。沢山泣いて、沢山自分を責めて、悔やんで、そして決めた。
「王都を出る!?」
「ちょ、笹ちゃん先生本気!?だってそれってつまり、逃げるってこと!?」
生徒たちは各々に戸惑った反応をするが、決意は固かった。
「はい。これ以上、私の生徒たちを危険な場所に置いておきたくはありません。私は白鷹くんも、木葉ちゃんも救えなかった。責めて責めて責めて……そして、貴方達だけでも守り通さなきゃって、そう決めたんです」
普段いじられてばかりの私だけど、こう真剣に話すとみんな聞いてくれた。船方くんを含めて、全員を連れて行くつもりだった。私は生徒を信じているから。けれど、
「おいおいおい、最上先生よぉ?俺たちにはゴダール山を攻略するっつー役目があるわけよ?それをほっぽって逃げんのはねーわ」
「それな?てかこれ王様に言った方がよくね?」
「いや言ったら殺されちゃうかもだし……止めなきゃでしょ?」
「つか攻略に参加してない役立たずの先生に言われたくねーわ」
「それな〜!荒野がいればなんとかなるし」
私は黙って全て聴いていた。クラスの大半、いやほぼ全員が船方くんを崇拝するかのように狂っていた。尾花花蓮さんに至ってはもうあの頃の面影はない。黒髪ロングの清楚なお嬢様な尾花さんはおそらく無理やり染めさせられた金髪へと変わり、死んだような顔で首には首輪が嵌められていた。
私は、みんながこんなになるまで何をしていた?王国に幽閉されたようにほぼ王宮から出られないとはいえ、魔女の宝箱攻略に行けないとはいえ、それでも少しでも生徒の力になってあげるべきだったのだ。私は、それを怠った。唯一の大人だったのに、その義務を放棄してしまった。だってこんなにみんなが変わってしまったことに、気づいていなかった。
私は……本当に最低だ。
「政府に言うのは、自由です。私の話を聞いて賛同してくれる人は、あとで宿舎の裏口に来てください。来なかった方は、絶対戻ってきて助けます」
「はぁ?求めてな」
「私は先生です。みんなを助ける義務がある。木葉ちゃん、白鷹くんに続く犠牲を出したくない。いや、出させない」
「逃げんのはいーのかよ?俺ら生徒を守んなくてさ〜?」
「私には引きずってでも連れて行くための力がない。だから、力を借りて戻ってきます。貴方達は、それまでどうか、死なないで」
これが今の私の限界。真室さんとあの時逃げていれば、何かが変わってたのかな。なんて、思わせる時間はくれない。だから私は、私に出来る範囲でやることをやるだけ!
…
………
…………………
「尾花さん」
「あ、笹ちゃん先生……」
女子トイレで、尾花さんに話しかける。彼女にはいつも遊佐蜜流さんと高畠三草さんが張り付いているためなかなか1人になる機会がなかった。
尾花さんは、下着のようなキャミソール一枚でいた。とても寒そうだから、コートをあげる。
「あり、がとうございます……」
「えぇ。懐かしいですね、春の少し寒い日に、私がコートを貸したの。覚えていますか?」
「は、はい……まだ、とってあり、ます」
「なかなか返してもらう機会、なかったですものね。時々木葉ちゃんが着てたのは面白かったです」
「ふふっ、木葉ちゃん、私の家から勝手に持ってちゃって……懐かしいなぁ」
少しだけ尾花さんは笑った。その笑顔を見たのはいつぶりだろうか?その笑顔を守るために、本題を切り出す。
「逃げましょう。尾花さん」
「へ……?」
キョトンとした顔で尾花さんは答えた。
「に、げる?」
「貴方は今、多分自分では決められない立場にいる。だから、わたしが無理矢理にでも連れ出します。いつもなら合意を取ってからですけど、尾花さん貴方は別です」
「わ、わた、私は……無理……逃げたら、お仕置きされる……や、やああぁ!やだ!」
「落ち着いて!」
尾花さんを抱きとめる。そして、落ち着くまで背中をさすり続けた。
「私が絶対に連れ出す。だから!」
「ちが、違うの!先生!私は……木葉ちゃん……」
「え……?」
「私は、残らなきゃ、なの。木葉ちゃんを探す。ゴダール山の攻略はもうじき終わる。どんなことをしてでも、船方に従ってでも、こんな姿になっても、私は木葉ちゃんを探すためなら生きていれる。だから、ダメなの」
……かっこいいと、思った。彼女は本気で信じている、木葉ちゃんが生きていると。そして、彼女は探したいと言った。きっともう生徒達の中にはそんなこととっくに忘れている子達も多いのに。
「先生、逃げて。真室さんの後を追って、彼女もきっと木葉ちゃんを探してる。先生はこの狂気に飲まれちゃダメ。私はこっちから、先生と真室さんは外から木葉ちゃんを探して!木葉ちゃんはきっと生きてる、私にはわかるの!」
尾花さんは本気だ。
本気の信念を持っている。
「いいんですか……?貴方は、だって……」
「私は死ねない。木葉ちゃんを見つけるまでは絶対に。だから、行ってください先生」
彼女は折れてなんかいない。そしてきっと折れない。彼女は全く弱くなかった。
「……私、みくびってました。尾花さん、後のことはお願い、できますか?」
彼女は大丈夫。きっと、真室さんも私をそう思ったのだろうけど、私は弱かったから。それに、王国にとって私は必要のない存在。私は暗殺されるわけにはいかない、生きて生徒達を守らなくてはならない。
「勿論、絶対皆で生きて帰りましょう、先生」
「よかったんですか?花蓮、連れて行かなくて」
「彼女は脅されてるからとかではなく、彼女なりの考えがありますから。しかし……」
集まった生徒を眺める。
天童零児くん、鮭川樹咲さん、鶴岡千鳥さん、梢さん、梢さんと仲のいい米沢瓶子さん、朝日さん、上山くん、大江くん。
「8人、ですか」
37人のクラス、真室さんと木葉ちゃんは行方不明。白鷹くんは死亡し、残りは34人。そのうちの26人はここにとどまる……ということになる。
「私を含めて9人ですね。付いてきてください」
真室さんが使っていた抜け穴を使って、王宮の外に出る。時間帯は夜で今夜は月もない。逃げ出すには絶好の機会だった。
それも見越してあの少女は私に逃げるように促したんだろうか?というかあの子は一体誰だったのだろう?なんだかどこかで見たことがある気がするのだけど……でも青メッシュが入ってて青目、しかも右腕のない美少女なんて一度見たら忘れないはずだし……。
なんて考えていると、急に前の方が明るくなってきていた。そこには、
「え…………………………?」
抜け穴の先、照明魔法に照らされて、王都四番街へと繋がる筈の通路には、
100、200を優に超える騎士団が待ち構えていた。
「なっ!?」
「囲め!!」
「「「「「応」」」」」
屈強な騎士たち、胸に満月の飾りを付けた騎士団が私たちを取り囲んだ。
「さて、ミス最上。これはいったいどう言うことですかな?満月教会の剣である勇者、その師であらせられる貴方がまさか教会・王家に弓を引くなど、あってはならぬことなのですが?」
脅し文句だが、私はもうそんなものに屈していられない。予想外の事態に震える足を叩き、なんとか震えを止めて声を出す。
「通して……ください。私は、生徒を守らなくてはなりません」
「そうですか……捕えろ」
騎士たちが剣を抜き、一斉にこちらに向かってくる。各々魔法を放って抵抗したものの、次々と捕らえられて組み伏せられていく生徒たち。私は結局、何も……出来なかった……。
ドゴォオオォォォォォォォォオオォォォォオオオン!!!
「なっ!?」
組み伏せてきた騎士の手が緩められた。遠くで爆発音が聞こえる。それも、連続した爆発音。それと同時に視界がパッと明るくなった。
「何事だ!」
「師団長!魔族の!魔族の攻撃です!王都12番街エリアにて王都に潜伏していた魔族が地区管理当局に攻撃を開始!当局の騎士団と国立天文台の魔導師が応戦しています!ですが、その規模が……」
「くそっ!取り敢えずこいつらを連れて行け!」
迷っている暇はなかった。
「みなさん!走って!!」
私の合図と同時に、生徒たちは動揺していた騎士たちの手をすり抜けて一直線に走り始めた。
「くっ!待て!」
「オラァ!」
「天童くん!?」
天童零児くんや鶴岡千鳥さんが騎士たちに攻撃を仕掛け始めた。何を!?
「先に行ってくれ笹ちゃん先生!!俺らも後からいく!それに、
やっぱり花蓮を置いてはいけない!」
「な!?花蓮さんは自分から残ったんですよ!?なんで今更!」
「脅されてたに決まってる!俺たちで助け出すんだ!だから行ってくれ!!」
「僕たちも後から行きます!なので、お願い笹ちゃん先生」
立ち止まっている暇はなかった。先生失格かもしれない。けれど、今逃げている生徒たちを捕まえさせるわけにはいかない……。
「絶対、絶対合流しますよ!」
そう言って走り出す。後ろで閃光弾のようなものが光り、地表がめくれるような音がした。恐らく鶴岡さんの魔法と天童くんの武闘家スキルだろう。
「はぁ!はぁ!笹ちゃん先生!どこまで行こう!!ここどこ!?」
「わかりません!でも走らなきゃ……」
後ろから騎士たちが追いかけてくる音がする。かちゃかちゃと鎧の音が段々と近づいていた。
しかし王都の3番街は思っていた以上に入り組んでいて、自分たちがどこに進んでいるのかがわからない。暗い街頭は心許なく、道ゆく人は見向きもしない。生徒たちの息切れ声のペースが早くなっていくのに、一向に道は見えてこない。
このままじゃ……。
追いつかれ……。
「こっちよ」
「え?」
突如伸びてきた手に引っ張られ、私は橋の下へと引きずり落ちた。
「え、ちょ、ちょちょちょ!」
「うっさい」
橋の下にはパリスパレスに流れるセラーヌ川が流れていて、落下に伴って水面への距離は段々と近くなっていった。
「む、無理無理無理無理無理!!!いやあああああああああああああああああ!!!」
思わず目を瞑る。
しかし激突の瞬間は訪れない。気づけば私は、河原で寝転んでいた。しかも、周りには生徒たちも倒れていた。もちろん鶴岡さんと天童くんを除く6名の生徒だった。
「な、なにが……」
「時間ないからキビキビ動いて。置いてくわよ」
サッと振り返ると、黒いローブの人物が立っており冷たい声でそう言った。この声、もしかして。
「昼間の……異端審問官の子……?」
「さっきぶりね。小さい教師さん」
紺色のローブの少女、月光に照らされて青のメッシュが煌びやかに見える。フードの中からは、可愛らしいツインテールが覗き見えていた。相変わらず左目と頭に巻かれた包帯が痛々しく、右腕もない少女……あの時処刑場で私を救ってくれた女の子に間違いなかった。
「でもなんの計画性もなしに王都脱出とか、割と向こう見ずなのね。普通に考えたら王都内で騎士団に捕まるわよ?」
「……その前に貴方は捕まえないのですか?」
異端審問官、それも伊邪那岐機関の筆頭司祭といえば満月教会でも最上位の地位の人間だ。そんな彼女は、私たちに危害を加える気はないのだろうか?そう思って警戒したが、少女はため息をついて髪を指に巻きつけて弄り始めた。
「あたしは別に。異端審問官は異端認定された奴をしょっぴくだけで、異端認定される前の奴はどうもしない。ま、明日には異端認定されてるんじゃない?どうでもいいけど」
目の前の少女は13〜14歳くらいにみえるが、持っている貫禄はそれを遥かに超えていた。声も年の割に大人びている。なんだか自分より年上の人間と話している気分になってきた。
「取り敢えず、船で降るわよ。乗って」
セラーヌ川の川岸に小型の船がくくり付けられていた。生徒たちは怪しんでいたが、王都の外に出るあてもなかった私は乗ることを決意した。
…
………
………………
バジリス宮殿を囲む巨大な壁を隠し通路で抜けると、広大な王都の一角に出る。24にも渡る地区を過ぎると、王都を守護する大城壁:【ムール・ド・シャトー】の東門に辿り着く。とはいえパリスパレスは余りに広く、馬車もしくはセラーヌ川を船で移動するという物流ルートが王都内では一般的だった。
船頭には異端審問官の少女が立ち、船を動かしていた。腕を動かしているわけではないのに、船は不思議と早い速度で航行できていた。そんな少女を眺めていると、鮭川樹咲さんが私に耳打ちしてきた。
「先生、あの娘信用して大丈夫なの?筆頭異端審問官ってことは、王国中枢を担う高官の1人だよ……?」
「鮭川さんの心配は最もですが、なんとなくあの娘は大丈夫……そんな気がします。勘ですけどね」
「あ、それより笹ちゃん先生。検問は、どうするの?」
「……まだ考えてませんが、強行突破も一手だと思います。そこからは、私に任せてください」
「やっと異世界で旅ができるんだなぁ!殆ど王都の王宮にしかいれなかったし、ゴダール山も道中の景色にゃ飽きてきたしなぁ」
王国が見せてくれなかった外の世界。きっと、私が想像している以上にこの世界は残虐だと思う。けれど、ここにとどまるわけにはいかない。何が待ち構えていたとしても、私は……。
ものすごいスピードで王都の街を駆けていく。王都の夜景をみて、東京の夜景を想起してしまう。全く似ていないけど、煌びやかさでいえば同じ雰囲気だ。
「娼館多いねー」
「新宿みたいな感じかな、ここ」
次々と過ぎていく街の灯り、王都の闇と対比されるかの如き景色は途絶えることなく続く。
それでも船は進み、やがて巨大な城壁が前方に見えてきた。100年前、2代目魔王:亡き王女のためのパヴァーヌが扇動した魔族侵攻が起こった際、王都への侵攻を完全に防ぎきった一因であるムール・ド・シャトーはこの100年を経て無敵の壁へと変貌していた。城壁の上には無数の砲台と8つの騎士団詰所、【国立天文台】と呼ばれる宮廷魔導師の集団の防衛拠点もここにあると言われている。
「検問……」
「え!?」
目の前の水路には検問が貼られていた。13番街の水門前だ。他の船なども止められて一隻ずつ検査されていた。
「ど、どうしましょう!わ、私たちここで降り……」
「静かに。そこに積んである箱に入って」
振り向かずにそう言う少女に従って、箱の中に入る。何やら藁の匂いがするが、贅沢など言っていられない。箱の隙間から様子を伺うことにした。
「検問所です。こちらの荷物をどちらまで?身分証の提示と荷物の開示を……」
「伊邪那岐機関、筆頭異端審問官:デクレッシェンド筆頭司祭。ローブ見たらわかるでしょ?道を開けてもらえる?」
「こ、これは、とんだご無礼を!失礼致しました。どうぞ」
「何事なの?」
「ハッ!第2番街詰所からの要請で、犯罪者が逃走したので王都中に検問を貼ることとなっております!異端審問官殿の出動命令は出ておりません!」
「……そ。じゃあね」
権力すごい。まさかのNO検問。
「出ていいわよ」
「た、助かりました」
「箱の中って意外と心地いいな」
「検問はあと3箇所あるから、その度に隠れて」
少女は大人びた声色でそう言った。
「……どうして」
「?」
「どうして助けてくれるのですか?」
「…………………」
処刑場の時からずっと疑問に思っていた。彼女からしたら、私たちなどどうなろうが知ったことではないだろう。それなのに……。
「境遇が似てるから……かしらね」
「へ?」
「なんでもない。理由なんてどうでもいい、あんた達は助かったことだけ喜んでいればいい。目的に至るための道にいちいち論理を求めるのは愚かよ。っと、そろそろかしら」
ドォォォォォォォオオオン!!!
遠くの方で爆発音が鳴った。先程、魔族が王都内で暴れているという情報を聞いたがこれは本当だったのだろうか?まぁそんなことよりも一番心配なのは千鳥さんと天童くんなのですが……。
「間違っても途中の2人を回収しに行こうなんて考えないことね。あんたらが明日の処刑対象になってる、なんてことになったらあたしのやったことが無駄になる」
冷たい口調で言うが、彼女が優しいことは知っている。不思議だが、敵意がない可愛い女の子。いい機会だし思いきって更に色々と聞いてみることにした。
「貴方、名前は?」
「もう会わないだろうし、聞いてどうするの?」
「会うと思います、絶対」
「……断言するのね。面白い、やっぱりこの世界の人間より日本人の方が遥かに話してて楽」
「な!?に、日本人……て、貴方本当に何を!?」
「どうでもいい。それより今、一騒ぎ……どころじゃないか。ま、ちょっとヤバいことが起こってるからその隙に北門から逃げた方がいいわよ?どうせ目障りなあいつらはそこで待機してるだろうし……そっからは当てがあるのか知らないけど」
「街道を東に。そのまま【東都:ストラスヴール】を迂回して【リルヴィーツェ帝国】を目指そうと思ってます」
七将軍ミランダ・カスカティスが統治する東都:ストラスヴールを迂回して東に進むと、王国と敵対する大国:リルヴィーツェ帝国に友好的な都市国家:ミュンヘルンがある。そこを仲介して帝国に入るルートでそのまま帝都:ベルントを目指そうと初めから決めていた。とにかく神聖パルシア王国から逃げるならブルテーン連合王国かリルヴィーツェ帝国だろうと。
「へえ、一応考えてたのね。じゃ、今言ったルートで逃げるのがいいわね。頑張りなさいよ」
少女が少し笑う。そして、笑った顔がとても可愛らしくて、やはりどこかでみたことがある気がすると感じる。すると、私の視線に気づいたのか少女はフードを深くかぶり直した。それと同時に船が止まる。
「……何?ほら、ついたわよ24番街。ここをあとは北に進み続ければ、北門に着く。今誰かさんのせいで魔族が大暴れしてて国立天文台も騎士団もそっちに裂かれてるし、忌々しい誰かさんたちが手引きしてくれるでしょうから北門からさっさと逃げなさい」
「で、でも……」
「あたしのことを気にしている場合?さ、行きなさい」
「は、はい!この恩は忘れません。えっと……」
名前が分からずになんて言えば悩んでいた私に、彼女は言った。
「なわて。アタシのことはそう呼んで。じゃ、また生きて会えたら会いましょう」
「わかりました、ふふっ、なわてちゃん」
「……なわてちゃん……ね」
「え、ええぇ!?だ、ダメでした?」
小ちゃくて可愛いからちゃん付けでいいかなぁって……。って思ってたら舌打ちをしてそっぽ向いてしまった。
「チッ。いいから、早く行きなさい。どうせアンタの教え子がちくってるだろうし?早くしないと追っ手がくるわよ」
「えぇ、また会いましょう!なわてちゃん!」
筆頭異端審問官。
一方的な善悪の価値観を持って人々を苦しめる悪人の集団というイメージでしたが、少なくとも彼女のことは信用できる気がします。少し歩いて後ろを振り返ると、既になわてちゃんの姿はありませんでしたが。
私は、もしかしたら甘いのかもしれませんね。それでも、彼女が悪人のようにはどうしても見えなかった。でもそれなら尚更、何故あんな小さな女の子が伊邪那岐機関の筆頭異端審問官というとても高い位に付いているのか……ますます疑問に思ったけど今はそれを考えている時間がない。取り敢えずは彼女が言っていた王都の城壁の北門へ向かうことにしよう。




