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2.5章4話:王国の闇

あと数話で三章入りますぅ

 時は5時間前、白鷹語李が捕縛されたあたりに遡る。


 千年に渡る絶対王政を敷く神聖パルシア王国の首都:パリスパレスの中央に位置する豪華絢爛のバジリス王宮。広大な敷地にそびえ立つ巨大な王城の更に奥深く、最深部に現国王:エルクドレール8世の次女:第二王女レイラ・フォン・エルクドレールの個室は存在する。姉であるマリアージュ・フォン・エルクドレールの部屋とはまた離れているが、一応近くにある。

 そんなレイラ姫の部屋に深夜、ノックの音がなった。


「どうぞ」


 レイラの可愛らしい声。入ってきたのは長身のメイドだったが、それは本来のメイドではない。


「殿下、始まりました」


 冷涼な声でそう伝えるメイドはレイラ姫の座るテーブルにお菓子を置いていく。やけに多い量に疑問は感じたが、レイラ姫が変わっていることはもう周知の事実なので考えることをやめた。


「そう。ありがとうですわ。貴方ももう戻ってよろしくてよ?それから、鍵は掛けて外の術式も元に戻しておいてくださいまし」

「畏まりました殿下。それでは失礼いたします」


 部屋から出るとき、メイドは何か部屋の中に違和感を感じたが、静かに歩みを進めていく。そして、部屋から出るときには


(あれ、私、今何か考えていたかしら?)


 綺麗さっぱりその違和感を忘れていた。








「Merveilleux(すばらしい)!あのメイド意外と優秀だね。さすがはレイラ姫、部下は私と同じように自分で選出してるわけだね」


 部屋の中、レイラしかいないはずの部屋の中に、数名の人物が出現する。そのうちの一人の女性がレイラに話しかけるが、レイラは特に驚く様子もなく、ティーカップを口に運ぶ。


「えぇ、アレもわたくしの密偵ですので。優秀すぎて貴方達の気配に気づいてしまうので、部屋から出るたびに記憶消去の術式を施さなければならないのが欠点ですが……彼女はきっと拷問されても貴方達の情報は売りませんよ」

「へぇ、姫の元にちゃんとそういう人物がいるのは良いことだね。でもま、私たちのことは話していないんだろう?そういう人物は見つからないのかい?」

「……恐らく今夜、一人わたくしの元に優秀な者を味方につけられます。彼には、全部話します」

「恋だね」

「ちがっ!!違いますっ!!」


 無表情でコーヒーを飲む女性。

 見目はかなり童顔の幼顔で、青い瞳を持つ。しかしその美しい長髪は半分が真っ白もう半分は真っ黒と別れ、八重歯が特徴的だ。体型もよく、紺色の司令官のような軍服からもわかる膨よかな胸は平均的な身長に合った丁度良いプロポーションを魅せる材料となっている。

 一度見ればきっと忘れないであろう美女、なんならまだ少女に見えるほど若々しい女性は無表情で淡々と話を続ける。


「レイラ姫が恋とは……ははは、成長したねぇ、私もここまで育てた甲斐あって涙が止まらないよ」

「無表情で言わないでくださいまし!絶対おもってないですわよね!?ですわよね!?」

「Un tel idiot(そんな馬鹿な)。私は確かに君の幸せを祝福しようと、ぷぷっ、しているよぷぷっ」

「無表情で笑ってふりをしないでくださいまし……あとよく分からない言葉を使わないでくまさい……そういうの似合わないですわよ、カデンツァ」


 やっと女性が皮肉げに口元を歪める。こんな超大国の姫君をこんな雑な扱いするのはこの国でもこの美女くらいであろう。そして彼女は、この国では物凄い有名人である。と、言っても名前だけだが……。


「世界有数の銀月級冒険者、金月にも届き得るほどの英雄:【天撃卿:カデンツァ・シルフォルフィル】が、こんな残念な人物だなんて、世間様には公表できませんわ……」


 そう……これが……この残念なのが、度々作中に名前だけ出てた化け物冒険者、シルフォルフィル家の令嬢:カデンツァ・シルフォルフィルなのだが……見ての通り本当に残念な性格である。顔が美しいのが尚タチ悪い。


「何を言っているんだい?私はただの、美少女を性的に舐め回したいだけのお姉さんだよ。そんな勇敢な人物は最初からこの世に存在しないのさ」

「それまさかわたくしもその対象に入ってないですわよね?」

「入ってるさ」

「ですわよぇ……流石に王女に手は……は!?」

「さぁレイラ姫、ベッドに行こう。重要な会議は、まぁ軽く運動してからだよ。こう見えて私は今とても君に欲情しているんだ、ははは」

「ちょ!?真顔でなんでそんなこと言えるんですの貴方!?本当に思ってます!?」


 残念ていうか変態だ。英雄色を好む……って奴なのだろうか?


「貴方……どっちかと言うと『受け』みたいな顔してますのに、なんでそんなガツガツタイプなんですの……それで喋らなければ庇護欲マシマシの美人なのに……」

「よく言われるよ。でも残念、私は年中猿のように美少女に欲情する美女だよ」

「自分で言ってて恥ずかしくないんですの……?」


 ここに来て強烈なのが出てきてしまったが、話は本筋に戻さなくてはならない。


「はぁ……。天撃の鉾のみなさんには、わたくしと一緒に地下牢まで来ていただきます。その後の作戦もわたくしの指示通りに」

「わ、わかりました!」

「D'accord(了解)。今回はやりすぎないように気をつけるさ」

「本当ですよ?南の魔導国でつい最近派手にやらかしやがりました貴方は、今回地味〜!に動き回ってもらいますからね?」


 先日木葉によるダッタン人の踊り攻略と同時期に、南の魔族の国家:魔導国でカデンツァが色々やらかしてきたのだが、それについては後ほどストーリーがあるから読んでいただくとして……。


「天撃の鉾のメンバー全員で、隠密的に今回の作戦を行います。タイムリミットは明日の昼までですが、そこらへんの準備は抜かりないですわよね?」

「無論。姫さまの仰せのままに」

「大方の準備は整いましたよ。カデンツァ無しで動くのは久々で、色々思い知らされました」

「居ないなら居ないで割と困るんだよなこの変態……」


 部屋の壁にもたれかかって待機していた天撃の鉾の男性組が応える。1人は真っ白な髭が顔全体を覆っている大男の老人。1人は白銀の髪と紫の瞳を持つ美青年。そしてもう1人は黒髪の少し肌が焼けた20歳くらいの青年だった。いずれも天撃の鉾のメンバーである。


「なんだか貶されている気がするのだけど、まぁいいだろう。流石に魔導国ではハッチャケ過ぎたし、今回はレイラ姫に一任しようじゃないか」

「いっつもそうして貰えると助かるのですけど……」

「私は動かないと死んでしまうタチなのだよ……ふむ、やはりベッドで少し運動してから」

「は、恥ずかしいので慎んでくださいまし!」


 下ネタ多めです……。



………


……………….…


〜地下牢にて〜


「この国で、今何が起こってるか。その真実を知っている人間は、この国家の中枢にいる人物しか知りません。わたくしも、カデンツァに調べてもらわなければ気づかなかったでしょう」

「何が起こっているか……ですか?」

「昨日、わたくしは貴方に尋ねましたね。あのルートを辿らせた理由」


 そうだ。確か昨日の夕方に、彼女は言った。そして、俺の回答を30点だとも言った。


「あの時貴方が答えた王国の闇は、ある意味この世界の闇でもあります。この大陸では人間の命はとても軽い。王国はさらにそれを南の大陸にも向けていますから、そこに住む人々の命はさらに軽い。王国の闇は、そこを深く掘り下げたところにある」

「……」

「この国には属領クロアーチャ地方・属領サルビア地方といったバルカーン半島各地や属領オストリア・ブダレスト、属領ダート、属領北リタリー、南方大陸らへんから大量の奴隷が日々王都に送られてきます。ですがその奴隷に混じって、大量の子供や女性も紛れ込んでいます。彼女たちは、3日後には王都から消えている。何故だかわかりますか?」

「……………………じ、人身売買……ですか?」


 考えられる限りで最悪のパターンを答えたつもりだったが、返答は予想を上回った。悪い意味で。


「いいえ、贄ですわ」

「に、え……」

「神が好むとされている女子供を、王国は意図的に各地から拉致し、なんらかの儀式のために人柱として利用している。昨今の女性や子供の失踪事件は魔族のもありますが、9割方王都へと運び込まれています」

「な!?それは……なんの、ために」

「わかりませんわ。でも、調べたところでは彼女らはマクスカティス大寺院近くの国営施設に、奴隷たちは国営の地下施設へと移されています。それが毎日のように行われている。溢れかえってないということは、彼女たちは消失していることになる。


………まるで、何かに飲み込まれたかのように消えていく。


だからこの国の王都には貧民層や奴隷がそれほど多くない。意図的に国が王都に残る人間を操作しているから、ある程度は奴隷が残っているけれど、明らかに王都内に運び込まれている数と一致していないのですわ」

「それで、作り物のような都市、と言ったんですね」


 神聖王国が、奴隷や拉致した女性・子供をなんらかの企みに利用して消失させている。それも、満月教会フォルトナ派総本山のマクスカティス大寺院の近くへと移送している。つまり、彼女らを生贄としてなんらかの宗教的に儀式に利用している……と、レイラ様は考えているのか。


「国家と巨大宗教が大きく絡んだ前代未聞級の陰謀ですわ。今回殺害されたコモロー上級主幹は、国営の地下施設の守護兵団の指揮者でもある。なにかを知ってしまって、殺害された可能性もあります。そしてその殺害の罪を貴方に被せ、勇者へ楯突く貴方を同時に葬ろうとした」


 神聖王国にとっても、勇者は必要な筈だ。きっとそれは、魔王を倒すためだけじゃない。なにかの役割が期待されている。


「……敵は魔王だけじゃなくて、俺らの後ろにいる神聖王国、か」

「伊邪那岐機関の設置も、他国に戦争をふっかけて回っているのも、全ては神聖王国に贄を集めるためですわ。恐らくこれから、筆頭司祭たちを使って大規模な神聖王国国内外の敵の殲滅が本格的に行われます。現在逃亡中の五華氏族:ロゼ・フルガウドやヴィラフィリア兄妹、(とぶひ)といった叛逆側が殲滅される前に、わたくしたちは動かなくてはなりません」


 レイラ様の目が険しくなる。ゆっくりと手をこちらに伸ばしてるレイラ様は俺を強く見つめた。


「戦力が必要です。勇者パーティー、七将軍、伊邪那岐機関および教会の異端審問官らに対抗するのに、わたくしには戦力が足りない。対抗できるだけの戦力を集めて神聖王国を、わたくしの父を打倒する。それがわたくしの目的ですわ。ですから、




協力、してください白鷹語李。貴方の力が必要ですわ」


 率直に、レイラ様は言った。盲目の、けれども力強い瞳で自らの父である王を倒すと宣言した彼女は、この薄暗い地下牢の中でも輝いて見えていた。その眩しさが俺が昔からずっと好きな女の子、櫛引木葉に重なって見える。

 こんな時彼女ならなんていうだろうか?いや、今選択するのは彼女じゃない。




 俺だ。




「俺が……貴方の剣となり、盾となります。貴方の傍にいる、貴方を守るとあの時約束しましたから」


 彼女の手を取って、微笑んでみる。うまく笑えているだろうか?木葉は、俺の笑顔は下手だと言った。けれど今本気で守りたい存在が目の前にいて、その人にまで下手くそな笑顔は見せたくなかったから。


 だから、目の前のお姫様が微笑んだ時、俺は心の底から嬉しかった。



「ありがとう、ガタリ」



 その時の笑顔は、俺が今まで見てきたどの女の子の微笑みより、可愛らしいものだったから。



……


………………


「いつまで見つめあって手を繋いでいるのかな?」


 後ろの女性の言葉でハッとなり、慌てて手を離す。なんだかレイラ様は不機嫌そうだった。


「カデンツァ……貴方……」

「君の恋路を応援したいのは山々だけれど」

「わああああああ!!わぁ!!わあああ!!なななななななな!!何を言っているのですか!!違います違います!!」

「ん?恋路を……」

「わあああああああああ!!」


 女性が何か言うたびに大声を出して掻き消そうとするレイラ様。何を言っていたのかわからないが、彼女がとても愛らしいので良しとしよう。


「コホン……あまり長居できる状況じゃないのでね。空間術式でなんとかしているけど、そろそろ計画について話さないと見張りが来てしまうかもしれない」

「そ、そうですわね。ふぅ、ハァ。よし、落ち着きましたわ。ガタリ、取り敢えず貴方はこのまま地下牢にいてもらいます」

「え、あ、はい。えっと、それで俺はどうなるんでしょう……?地下牢を脱出するんですか……?」


 でもそれだと追っ手がいるし、天撃の鉾として表立って活動できない。レイラ様のお側にいることだって……。


「いえ、逃げてもどの道見つかります。十月祭に遅れをとったとはいえ、王国の騎士は優秀ですわ」

「で、ではどうやって……」

「ですから、ガタリには予定通り、死刑を執行されてもらいます」




 ……は?




「え、え、は?え……?ん?聞き間違いですか……?」


 え、今執行て……執行て、言ったよな?


「はい、ですからガタリ。貴方には、








予定通り死んでもらいますわ♡」








 間も無く、夜が開けようとしていた。

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